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旅路で見つけた旅の目的

あなたはどんな時に旅に出ますか? そして、その旅路の果てに何を見つけますか? 大手出版社に勤めながクリエイティブ休暇を使って旅に出るも2年間の旅を敢行した長竹俊治さん。そんな思い切った行動の先に待っていたものは、旅そのものの価値の転換でした。

クリエイティブ休業を使って旅に出る

長竹俊治さんとお会いしたのは、神保町。古書店が軒を連ね、大きなビル群がひしめくこの街ではたらく彼は、小学館の編集者。今年で勤続24年目を迎えます。女性ファッション誌や児童学習雑誌などの雑誌の編集に携わり、現在は雑誌『小学一年生』の編集長代理として多忙な日々を送っています。子供のマーケットを読み解き、創刊90年を超える同誌の伝統的に培ってきた編集力を、いかにして今の世代に提供していくのか、毎日そんなことを考えているのだとか。

そんな長竹さんが旅に出る大きなきっかけをつくったのは、2011年の大震災後に起きた、とある現象でした。

「震災以降、東京で活躍していたクリエイターさんで地方を拠点に活躍される方が増え、その土地で面白い取り組みをされてるケースをよく耳にするようになりました。しかも、それが東京をしのぐものも感じることが多くなって…」

長竹さん自身も、そういった新しいライフスタイルに関する雑誌を社内で提案しつつ収益面などで叶わなかった経験があり、地方には強い関心を持っていた一人。その情熱が再び灯り始め、どうにかしてカタチにできないかと考え始めたときにふと思い出したのが会社のクリエイティブ休業という制度でした。仕事の糧となる新たな知見を得ることを目的とし、勤続5年以上であれば最長2年まで休暇をもらえるというこの制度。しかし全社で定員数名という狭き門でもあります。

偶然にも枠が1人空いていたタイミングで休暇を申請し、長竹さんは2015年8月に日本全国への旅に出発したのでした。

編集者ならではの雰囲気ある佇まいと落ち着いたトーンで、二年間の旅を振り返る長竹さん。

旅先で出会った数々の豊かさ

旅の目的は仕事や友人を介してご紹介いただいた各地の才ある人を訪ね歩くことになりました。

「地方や海外を拠点に活躍する方々の暮らし方、働き方には、従来の価値観では測れない、新たな時代の豊かさを感じました」

かつて、隠居・世捨て人などのネガティブな言葉で覆われていた“居を地方へ移すこと”のイメージ。それが、旅で出会った多く方々の活躍ぶりを見て、ポジティブなものへと逆転したと長竹さんは話します。

「また、ある地方誌で拝見したのですが、東京の通勤時間は平均50分から1時間。片やその地方の通勤時間は15分。これを平均的なサラリーマンの勤務年数で計算すると、東京とその地方で、1年分の差が出るらしいのです。つまり、東京はその地方より、一生のうち1年間も多く通勤時間に費やしているというわけです! しかもその通勤環境は、地方で車や自転車で音楽を聴きながら快適に…というのに対し、東京は身動きとれない満員電車…。“豊かに生きる”ってなんだろう?って、さらに考えさせられました」

順調に日本各地を巡り、様々な豊かさと出会った長竹さん。最初は1年だけのつもりだったクリエイティブ休暇も、旅する楽しさに夢中になったあまり、休暇期間をフル活用することへ方向転換。二年目は海外へもその足を伸ばします。結果、国内43都府県と国外34ヶ国を巡る旅は、2017年10月まで続きました。

国内のみならず、海外にも数々の豊かさがあったと話します。その全容は、ぜひWEB Magazine『Melike(未来区)』(http://melike.info )で。

『Me Like -未来区-』を立ち上げたわけ

長竹さんの1年間の旅。そこには編集者として、トライしてみたい目的がありました。それは、メディアを立ち上げ旅をしながら取材、編集、運営を自分で行うこと。

「SNSなどのテクノロジーが進化し、誰でもが自分でDIY的に広く情報を発信できる時代。既存のメディアの影響力を凌ぐ勢いのブロガーやインスタグラマーなどの方々もいらっしゃいます。そんな中、出版というメディアに携わる人間として、身をもって、その可能性を探りたいという思いがありました。それを最も関心の高い、地方や海外などの“新たな時代の豊かさ”をテーマに実現できたらと思ったんです。」

地方での豊かさを目の当たりにした反面、都心で生活する人にとっては、“実力のある特別な人でないとしごとを生み出すことができないのではないか”という不安が邪魔をして、一歩を踏み出すことができない人がまだまだ多いことも事実。

だからこそ「確かに旅先でお会いした方々は、それぞれの分野の第一線で活躍されていらっしゃる方ばかりです。だからこそ、東京に住むイチサラリーマンである私のような人間がお話を伺い、咀嚼して、サイトを見てくださる方に伝え、特別な人だけではなく、誰もが自然な選べる選択肢として新しいライフスタイルを提案をしていくことが僕の役目なのだと思いました」と、旅を経てことで自身の編集者としてあるべき姿を再認識した長竹さん。

その経験を復職後の仕事につなげていくかを模索中のようです。

復職後の仕事に、いかにMeLikeの旅の経験を活かすか日々奮闘中とのこと。

旅路の果てに見つけたもの

個人的に“旅の目的”について大きな価値観の転換があったと言う長竹さん。これまで東京などの都市部のカルチャーに関心が高かったが、日本や海外のローカルへの関心が高まり、帰国後も可能な限り、その足を各地へと向けているそうです。

「昔は、観光名所と言われるような場所を見てまわることだったり、その土地の名物を食べることだったり、自分にとって旅は都市生活での癒やしの場を求めていたように思います。でも今は少し違ってきていてその、地の息づく風習だったり、それに基づく人々の暮らし、そしてそれらが織りなす街の空気感を感じられることに旅の意義を見出すようになりました」

新しい場所はもちろんのこと、旅で出会った人を訪ねてもう一度その土地に行く。すると、現地の人たちは家族のように迎えてくれるだけでなく、さらに新しい人間関係も広げてくれてその地域がもっと好きになる。そんな循環こそが、旅の本質なのかもしれません。

最後に、これからのはたらき方の展望を教えてくれました。

「これからは様々な技術の進歩でより多様で豊かな働き方・暮らし方が実現できる世の中を実現できるはずだと思います。そんな可能性を国内外の各地で肌身で感じてきました。テクノロジーやモノのイノベーションは十分すぎるぐらい進んでいる今、どんな未来をどう描いていくか、何が幸せで何が豊かなのかという生きる本質に迫る、“意識のイノベーション”こそが重要なのだと思います。そのためにメディアが担う役割は重要だと思っていて、これからの自分の仕事に大きな意義を感じます」

そんな理想に息つく間もなく、多忙なしごとなため自分のデスクに帰っていった長竹さん。二年間の旅で得た確かな“豊かさ”を携えた人生の旅は、まだまだ始まったばかりです。

旅先で見た数々の風景。見たまま感じたままに、その風景を切り取っていたそう。 instagram : webmagazinemelike

ほころぶ笑顔が印象的な長竹さん。これこそが旅先に溶け込める秘訣なのかもしれません。

プロフィール

長竹俊治

小学館にて女性ファッション誌や児童学習雑誌の編集に携わり、現在は小学一年生編集部にて編集長代理を務める2015年から2年間、クリエイティブ休暇という制度を活用して日本ならびに世界を旅をしながら、”編集ひとり”という屋号でウェブメディア『Me Like -未来区-』を立ち上げ、運営している。

http://melike.info/
https://www.facebook.com/webmagazinemelike/