そばではたらく
通勤時間1030

副業はモノづくりの場づくり

“副業”という言葉を聞いてあなたは何を思いますか?本業とプライベートのスキマ時間を利用した小規模なはたらき方をイメージする人は少なくないでしょう。国立市に住む西川義信さんは、サラリーマンでありながら独自のバランスで本業と副業を両立しています。今回はそんな西川さんのはたらき方に迫ります。

多摩地域のモノづくり拠点を立川に

2018年の2月、立川に都内最大級のファブスペースTschool(ツクール)がオープンしました。建物の1階フロアは豊富な機材を備えた工房で、2階は24時間365日利用可能なコワーキングスペース。さらに、同施設を運営する株式会社まちづくり立川の経営相談スタッフによる起業支援も受けられるという、これまでになかったコンセプトが注目されています。

西川さんはTschoolの立ち上げから関わり、コンセプトを決めたり、制度設計・運用設計の構築をしたりと、さまざまな役割を担ってきました。

「以前から、多摩エリアでモノづくりをする人にとって拠点となる施設を立川につくりたいという思いがありました。そんな中この物件と出会い、建物を管理する岩下商事に話をしたところ、代表である岩下さんの考えとも合致してTschoolを立ち上げることになったんです」

立川駅南口から徒歩8分の場所にあるTschool。

1階の工房は3Dプリンターやレーザーカッター、塗装用エアーコンプレッサーなど、豊富な機材を完備。試作品の製作だけでなく、小ロット生産や塗装、梱包まで可能です。

公園で遊ぶ感覚でモノづくりができたら

西川さんはこれまでにも、自身が住む国立市にChika-ba(チカバ)、クミタテという2つのシェア工房を誕生させてきました。複数の小規模な施設を立ち上げた理由を、西川さんはこう語ります。

「Chika-baもクミタテも、みんなに真似して欲しくて始めたんですよ。『これくらいのサイズならあなたでもできるでしょ?』って。街中の人が自分の持っている工房を他の人にも解放したら、子どもが近所の公園で遊ぶのと同じような感覚で、誰でも気軽にモノづくりができるようになると思ったんです」

小さな工房が街のそこかしこにある…そんな多摩地域の未来像を描きつつ、それらを繋ぐハブとして立ち上げたのがTschoolだったというわけです。

場所にとらわれないはたらき方で本業と副業を両立

Chika-ba、クミタテ、Tschool。3つの施設を展開する西川さんですが、これが本業ではありません。サラリーマンとして、これまでに3回の転職を経験。防衛省認定の会社で軍事機器の設計や開発をしたり、臨床検査システムを販売する医療系の会社で企画や設計をしたりと、実にさまざまな経歴を持ちます。

西川さんが副業を始めたきっかけは、東京にしがわ大学(通称:にわ大)に参加したことでした。東京多摩地域の自然や街すべてをキャンパスに見立てて活動する東京にしがわ大学。さまざまな人が関わるこのコミュニティで、西川さんは2代目の学長を務めました。

「にわ大に参加した頃、ぼくは医療系のシステム開発をする企業ではたらいていました。職場はとても居心地が良く、ぼくも含め他の社員も勤続年数の長い人が多かったです。はたらきやすい半面、同じメンバーと同じシステムを開発し続ける環境は、自分自身の成長や可能性を止めているのではないかという危機感も抱いていました。根っからの飽きっぽい性格というのもあって、チャレンジングな精神は常にあるんです。そんな中、にわ大ではデザイナーや編集者など、これまでのしごとで関わったことのない業種の人とイベントを企画したり場所を作ったりしました。すべての体験が新鮮で、本業とはまったく違う面白さとやりがいを感じましたね」

2017年の2月にはIT事業と産業機械事業を行う会社に転職し、ビジネスプランの開発やプリセールス、コンサルティングなどを行いながら、現在3つの施設の運営や管理などを行う西川さん。本業と副業のはたらき方について聞いてみました。

「どのしごともロケーションに縛られず、パソコン1台あればできる内容がほとんどです。電車の移動中なども含め、すべての時間を無駄にすることなく、有意義に使うことができています。また、例えばChika-baは立ち上げから4年が経ち、今では完全に利用者さんだけで回してもらえるようになりました。Tschoolも最終的にはそうなることを目指しています。今はまだ制度や運用を決めているところなので、しばらくはTschoolに注力することになりそうです」

現在は週末もTschoolの運営に関することで作業をしているという西川さん。「寝る直前まで何かしらやっています。」と、多忙を極めています。

すべては“人が集まること”から始まる

にわ大での経験で、本業から離れた新しい取り組みを始めた西川さんですが、3つもの施設を立ち上げ、“場づくり”にこだわるのには理由がありました。

「どんなこともすべて“人が集まる”ことから始まると思うんです。人が集まるとそこに情報が集まり、お金が集まります。Chika-baは、利用者が地元の人たちを集めてワークショップを行ったり、小さいスペースですがかなり有意義に使われています。Tschoolは工房としても規模が大きいので、これまでは都心の工房に通っていた多摩地区の作家さんや企業が集まる新たな拠点になり、最終的には利用者にとって、Tschoolは『モノづくりの場であり、関わることで利益を生み出せる』…そんな場所になることを目指します」

そして西川さんは、こうした場所をつくるうえで大切にしていることがあるのだそう。

「新たな施設を企画する際、まずは必ずその場所のコンセプトを考えます。熟考したコンセプトを打ち出すことで、それに共鳴した人が集まり、利用者にとって快適な場所になります。施設を立ち上げた後も常にコンセプトは伝え続けますが、その場所の“文化”をつくるのは、ぼくではなく利用者自身。人と人との繋がりによってそこがどんな空間になっていくのか、いつも楽しみです」

Tschoolの工房で製作された革製品。立川で有名な“オニ公園”の滑り台がモチーフになっています。

誰かのためにつくった場所が気付けば自分の居場所に

人が集まることに無限の可能性を感じ、本業とのバランスを取りながらも場づくりを推し進める西川さん。それは“副業”と呼ぶことを躊躇してしまうほど、とても大きな意味のある取り組みでした。

最後に西川さんは、場づくりを通して気が付いた自分と地域との関わりについて語ってくれました。

「最初にChika-baを立ち上げてしばらくすると、周囲の人から『Chika-baの西川さん』と呼ばれるようになりました。そして、地元のイベントに企画や相談役として声をかけられたりする機会が増えました。町で活動している人との繋がりができた時、ぼくは東京に来て初めて『自分の居場所ができた』と感じることができたんです。23歳の時に滋賀から転勤で上京してからずっと東京暮らしでしたが、それまでは街で暮らす消費者のひとりでしかありませんでした。工房という場所で作家さんと関わり、街の人と関わることで、国立が心の底から安らぎ、同時に元気をもらえる大好きな街になりました。今では自分の子どももよく工房に連れて行きます。『今日はChika-ba?クミタテ?Tschool?』と、いつも楽しみにしています」

現在Tschoolで技術面でのサポートを担当する革細工職人の佐伯仁朗さん(写真右)と出会ったのもChika-baでした。これからもたくさんの繋がりが生まれ、そこからたくさんの作品が生まれていくことでしょう。

西川さんの物語で“副業”に対するイメージが変わったというあなた。

もしかすると、あなたが住む街も、あなたが地域に関わってくれることを待ち望んでいるのかもしれません。

プロフィール

西川義信(にしぼん)

サラリーマンでありながら国立市にある2つのシェア工房、Chika-ba(チカバ)、クミタテのオーナーであり、立川のファブスペースTschool(ツクール)にも立ち上げから関わる。

https://www.facebook.com/nisibon