そばではたらく
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住宅街に佇む一軒家のごはん屋 

小金井市にある古い民家を改装し、気軽に立ち寄れるごはん屋さんに仕立てた、にしまきごはん。まったくの未経験から始めた飲食店が、わずか4年で多くの人に愛される店に育っています。今回は、シェアカフェからスタートし、3つの店舗の形を経て現在のスタイルにたどり着いた、にしまきごはんの変遷について、店主の西真紀さんにお話を伺いました。

飲食業未経験、阿佐ヶ谷のシェアカフェでスタートを切る

西さんがにしまきごはんを始めたのは、2014年5月5日のことでした。JR中央線阿佐ヶ谷駅の近くにあるカフェ・イネルで働く友人に、「不定期でいいから、やってみたら?」と声をかけられたのがきっかけとなりました。
 
当時、西さんは舞台音響の仕事をしていて、「カフェをやる」という発想はまったくなかったそうです。しかし、もともと料理をつくること、食べることが好きだった西さん、「不定期でも……」という友人の言葉に、「あ、そんな感じでやってもいいんだ!」と気負いなく始められたと言います。
 
席数7席ほどのこぢんまりとしたイネルは、いろいろなスタイルのカフェが入れ替わりで店を開くスタイル。「店を持ちたいけれど資金的に難しい」「良い店舗物件がなかなか見つからない」といった人たちが、気軽に場所を借りて店を開くことができます。
 
西さんは当初、月に1回程度のペースで、にしまきごはんを開いていました。「飲食業の経験もないのに、いきなり始めちゃって(笑)。人にご飯を出すって、こういうことか〜というのをすごく学べました」。こうして、西さんの人生に“ごはん屋さん”という扉が開かれたのでした。

心も体もホッとするおいしさとあったかさを見事に表現したにしまきごはんのロゴ。田んぼ仲間が西さんのイメージから作ってくれたものです。「このロゴから、いろいろなことが動き出した感じです」と西さん。

お客さんからの情報が、スモールステップにつながる

本業が休みの日に合わせて、シェアカフェで料理を振る舞う生活を始めた西さんは、徐々にカフェのしごとが楽しくなっていきました。「“おいしい!”と言ってもらえると、やっぱりうれしくて。だんだん腰を据えてやるようになっていったんです」。
 
にしまきごはんでは、野菜を主体にしたベジごはんとベジおやつを出しています。食材には西さんが吟味したものを厳選して使用。料理好きの西さんはそれまでも、おいしいものを食べ歩いたり、マクロビオティック(マクロビ)料理教室に通ったり、料理本で研究したりといったことを趣味として楽しんでいました。だから、自然な流れの中で、ベジ料理の知識を蓄え、おいしい野菜や米などをつくる農家さんたちと知り合う機会があったそうです。
 
「私の料理では、野菜本来の味を生かすことはもちろんですが、ご飯に合うおかずであることも大切にしています。だから、しっかり目に味付けをしますし、男性に食べていただいても満足感を得られるようなボリュームにしています。シェアカフェを始めたとき、どんなものを出すのか決めていなかったのですが、割と早い段階にビーガン料理でいけるなと感じ、今とほとんど変わらないスタイルになりました」
 
こんなこだわりが詰まったにしまきごはんなので、お客さんはどんどん増えていきました。あるとき、お客さんの一人から、「西荻窪にいい場所がある」と教えてもらったそうです。ごはん屋さんが面白くなってきたタイミングだったので、西さんは挑戦を決めました。新たな場所は、西荻窪にあるIn the Rough(インザラフ)というカフェ&シェアスペース。ここで週1回、金曜日ににしまきごはんをオープンさせることにしたのです。

この日の日替わりメニューは、ボリュームたっぷりの車麩カツ(ネギみそだれ)をメインに豆腐のそぼろあん、ピーマンと糸こんの甘辛炒め、トマトときゅうりのすっぱサラダがおかず。ご飯は、七分つき米と玄米を半分ずつ合わせたものか、玄米のみから選べます。味噌汁は、昆布と椎茸を1時間以上コトコト火にかけて出汁を取っています。

アパートの1部屋をシェアして営業する

In the Roughでもにしまきごはんは圧倒的な支持を受けました。「金曜日はにしまきごはんの日」が定着し、その日を楽しみに来店するお客さんも増えていったのです。そのころ世田谷区に住んでいた西さんは、毎週、お店を開ける日に西荻窪まで通う生活になりました。食材の仕入れや仕込みもあり、通うのが大変だな……、自分の店を持ってもいいかもしれない、と考えるようになっていったそうです。
 
偶然にもIn the Roughの運営母体が不動産会社だったので、代表の方に相談をして物件を紹介してもらうようになりました。しかし、荻窪周辺では思ったような物件がなかなか見つかりませんでした。「いろいろ見たのですがものすごく家賃が高くて、一人でやるのは無理だなという感じでしたね」。
 
物件探しと並行して、週1回のにしまきごはんやイベントへの出店、野菜料理の教室開催など、楽しみながら活動の幅を広げていた西さん。ある日、イベントで知り合った人から、突然連絡が入りました。「今、小金井市内でいい物件を見つけたの。絶対、にしまきさん好きだと思うよ!」という内容でした。
 
「本当に急なことだったのですが、電話の後にLINEで写真がいっぱい送られてきて(笑)。じゃあちょっと見てこようかな、ということになったんです」。なんだか勢いに押される形で内見に出かけたそうです。そこは、JR中央線武蔵小金井駅から徒歩10分程度のところにある、ごく普通のアパートの1部屋でした。小さなキッチンと6畳程度のスペースがあり、1人の男性がジャズ喫茶を営んでいました。
 
「客席は2席しかなくて、すごくいいスピーカーでレコードを聴かせるお店でした。小金井って全然知らない街だったし、どうしようかな……と正直、迷ったのですが、そのお店の方はもう、私が借りると思い込んでいらっしゃって(笑)。これもタイミングかなと感じました」と西さんは振り返ります。
 
決め手は何だったのでしょう?「う〜ん、とにかく家賃がめちゃくちゃ安かったんですよね。普通のアパート価格で。連絡をくれた知り合いも、シェアしてやりたい!という感じだったので、じゃあ気楽に始めようかな、と」。こうして、2店舗続いたシェアカフェスタイルから、西さん自身の店を構えることになりました。

小金井市内で最初に開いたお店は「とにかく狭かった!」と笑う西さん。そんな経験も、4店舗目の店づくりに生かされたようです。

昭和時代の民家との出会い、一軒家での開業

思いがけず小金井市内に店を持つことになり、いちばん不安だったのは、まるで土地勘がなかったことです。「駅から少し距離もあるし、ごく普通のアパートの1部屋なのでちょっと入りにくい感じもある。お客さんが来てくれるのか、まったく読めませんでした」と言います。そんな不安に反して、開店直後からお客さんが次々と来てくれたそうです。「意外なことに、近所の方がふらりと気楽に入ってくださって。年齢層の幅も広く、短い期間で地域の人とたくさん知り合うことができました」。
 
しかし、次に頭を悩ませたのはスペースの問題でした。本来は居住用のアパートなので、調理場も客席も非常に狭かったのです。席数は6席、ちょっとお客さんが入るとすぐに満席になってしまいました。また、知人と昼、夜の交代制で店を開いていたので、交代時間が近づくと慌てて片付けるという状況で、リズムをつくることが難しかったそうです。
 
そんなときに声をかけてくれたのは、やはりお客さんでした。スペースに関する悩みを少し話していたところ、ある日「いい物件があるよ!」と教えてくれたのです。西さん自身も、店舗物件を検索できるサイトなどに条件を入力してあちこち探すということをやっていましたが、なかなかピンとくる物件に出会うことがない中でのことでした。
 
「小金井の人っていい意味で距離が近くて(笑)。その方は、今のお店ともう1件、別の物件も教えてくれ、なぜかほかのお客さんたち6人くらいと一緒に内見に行ったんですよ」。アパートでお店を始めて数カ月のこと、西さんの料理と人柄で、急速に地域のお客さんとの距離が縮まった結果ではないでしょうか。
 
物件探しでは直感を大切にしているという西さん。内見した2つの物件のうち、1件は立地条件や西さんのイメージに合わなかったのですが、もう1件は見た瞬間、「あ、ここでできる!」と思ったそう。「ここは本当に普通の家で、雰囲気なんかもしっくりきたんです」。2階建の民家まるまる1軒を借りることがトントン拍子で決まり、小金井で店を開けてからわずか半年で新たな展開を迎えることになりました。

住宅街にあるごく普通の一軒家。かわいらしい手書きの看板が目印。1階が食事スペース、2階はヨガや読み聞かせなど各種ワークショップなどに利用できる6畳のスペースがあります。当初はテラス席も設ける予定でしたが、お客さんの多くが自転車で来店するので、駐輪スペースに変更したそう。

友人と改装し、畳のあるくつろぎ空間に

築年数が古い物件の場合、内装や設備もかなり老朽化しているというケースが多いのですが、この物件は直前まで住人がいたこともあり、とても良い状態でした。壁は張り替えなくてもよく、畳、障子やガラス窓もそのまま使えました。一方で、調理スペースはそれまでの経験を生かし、西さんが最も使いやすくなるよう工夫を凝らしました。もともと畳だったところをフローリングに変え、調理台を幅広く取って、その下に業務用の冷蔵庫などを収納できるよう設計。ガス台は2口コンロが付いていたので、それに加えて、汁物をあっためるための一口コンロを別に設置しました。風呂場だったスペースには、ベジおやつをつくるためのオーブンを置きました。
 
客席スペースでは畳敷きの和室をそのまま利用し、友人たちから譲ってもらったり、骨董市やリサイクルセンターで購入したちゃぶ台を置いて、足を伸ばしてくつろげる空間にしました。板の間には椅子席も用意し、まるで友達の家に遊びに来たような感覚でくつろげるような心配りがされています。

店舗内装を手がける友人の「しんちゃん」(写真)が全面協力!カウンターや棚などをつくったり、さまざまなアドバイスをしてくれたそうです。

物件を借りることを決めた2017年10月の月末にはオープンさせる予定でしたが、思いのほか改装に時間がかかり、再開は年明けの2018年1月11日になりました。「店舗内装を仕事にしている友人が全面的に協力してくれました。実は内装のコンセプトはほとんど考えていなくて(笑)。でも、“おしゃれな古民家”みたいな感じにはしたくないな、と思っていました。結局、好きなものの寄せ集めみたいになったのですが、割と思っていた通りに出来上がりました」と言います。
 
西さん自身もペンキを塗ったり、作業を手伝ったりする改装作業の間は、広々とした自分のお店がだんだん出来上がってくることにワクワクする気持ち半分、「いよいよ始まっちゃう!」という不安な気持ち半分で時間が過ぎていきました。
 
改装作業の思い出といえば、「ものすごく寒かったこと!!」だそうですが、作業の合間に、知り合ったお客さんたちが様子をのぞきにきてくれ、「こんなのが使えるんじゃない?」などといろいろなアイデアも出してくれたそうです。キッズスペースは、そんなお客さんたちが自宅から持ち寄ってくれたぬいぐるみやおもちゃ、絵本などが置かれ、子どもが飽きることなく遊べるスペースになっています。
 
住宅街にある一軒家でにしまきごはんを開店させて7カ月。西さん自身も小金井市に転居し、今では自転車で10分程度の距離に住んでいます。「ご近所のみなさんにもあたたかく迎えてもらえ、お客さんもたくさん来てくださり、ここに来て本当によかったです」と話す西さん、「これからも一品、一品のお料理に愛情を込めて、“おいしい”と言ってもらえるものをつくっていきたいです」と穏やかに微笑みます。お客さんや店舗物件との偶然の出会いを必然に変え、自然体で前を見つめる西さんの佇まいがとても印象的でした。
(文・大垣 写真・鈴木智哉)

友達の家に遊びに来たようなあったかい雰囲気のにしまきごはん。ついつい長居をしてしまいます。

改装コストはできるだけ抑えるよう工夫しましたが、お店の玄関だけは「お金をかけてでも、良いものを」という内装を手がけた友人のアドバイスで、あえて錆が出るような素材を使ってつくりました。「ここにいちばんお金をかけました!」と西さん。

ごく一般的な住宅の台所を改装した調理場。西さんが作業をしやすいよう、工夫が施されています。調理場の奥は、もともと風呂場だったのですが、今はオーブンを置いて焼き場にしています。

客席は約20席、ゆったりとくつろげる空間です。天井から吊るされた裸電球や、さりげなく掛けられたひょうたんスピーカーなど、西さんの好きなものがセンス良く配置されています。モダンな柄の座布団は、小金井市に来てから知り合った珈琲屋台・出茶屋の鶴巻さんに紹介してもらったお客さんの手づくり。

たまたま来店した、小金井市阿波おどり振興協議会の木下副会長(中央)。小金井市で毎年7月下旬に開催される小金井阿波おどり大会に西さんも参加しています。すっかり地域に溶け込み、愛されている様子。

プロフィール

西 真紀

2014年より、にしまきごはんを主宰。シェアカフェでの展開を経て、2017年4月に小金井市内のアパートの一室で知人と2人で店を構える。その後、半年で移転し、現在は小金井市内の一軒家でごはん屋さんを営む。

https://www.facebook.com/nishimakigohan/