ちょっとした記事

空き家から縮小社会の未来を眺む

人口が減り、空き家が増える。そんな社会が目の前にせまる中、私たちの住む郊外はまさにフロンティア。東京都が今年度新たにスタートした『起業家による空き家モデル事業』が象徴するように、アイデアを持っている起業家と、空き家の所有者をつなげ、起業家育成や空き家の利活用を通して地域の問題解決をすることにも大きな期待が寄せられています。
夏の終わり。雨が降り注ぐ中、それに負けじと熱気ある100名弱の方にお集まりいただきました。それぞれの専門家である4人の登壇者を囲み、『郊外の空き家を考える会議』がはじまりました。

“郊外の”空き家を考える

北池
「最近、空き家が人気のキーワードですね。今日も大雨の中、たくさんの皆さんにお集まりいただきました。人口が減る一方で新しい住宅は次々につくられ、必然として家が余ってきているということなのかなと思います。この流れを直接的に止めようとしても色々難しさがあります。そこで、空き家が増える社会を大前提として、そのなかで“楽しく愉快に暮らすために、空き家とどう向き合うのか”ということを論点にしたいと思います。この問いを、専門家の皆さんと話し合いたいと思います」

登壇者4人が向かい合わせになって、会議を進めていきます。

この日のモデレーターである、北池(株式会社タウンキッチン)。今年5月からは店舗・事務所に特化した不動産事業を始め、翌月には東京都の起業家による空き家活用モデル事業のコーディネーターに選定されました。今、空き家のことが気になって仕方がない模様。

空き家の正体

北池
「上田さんは東京都の空き家活用事業の専門家としてもご活躍の一方、ご自身も不動産会社として所有者に寄り添った利活用を展開されていますよね。空き家の問題って、そもそもどのようなものなんですか?」

上田
「2013年の調査で、全国に空き家が820万戸あるとされ、2033年には2000万戸を超えると予想されています。誰もが空き家の所有者になる可能性があるんです」

北池
「空き家ってボロボロの誰も使ってない家、というイメージが強いのですが、新しい賃貸アパートでも借り手がついてなければ、それは空き家という定義で調査されてるというのは、意外に皆さんご存知ないですよね」

上田
「はい。さらに放置されている空き家というのも大きな問題です。高齢者が介護施設などに入居することで家が空くのですが、そこには思い出の品などがたくさんありますよね。はじめのうちは親族が管理するのですが、ついついその足が遠くなっていき、結果的に放置されてしまうんです」

北池
「そんな状況にある中で、上田さんは空き家の利活用をどのようにするのがいいとお考えですか?」

上田
「基本的に空き家の利活用には、売る、貸す、直す、壊すの4種類があります。実は賃貸は案外大変なんです。賃貸にすると色々な責任が発生しますし、場合によっては数百万単位のリフォーム費用がかかります」

北池
「そうなんですね」

上田
「オーナーの希望としては、売ると貸すが多いのですが、私たちが関わる案件では、壊す(解体)+売るというのが圧倒的に多いんです」

北池
「賃貸で責任や費用が発生するのならば、更地にして売ってしまった方が簡単なんですね」

上田
「というよりも、それ以外に解決する手段がないので、そうしているという方が正しいかもしれません。オーナーは基本的に利活用にそこまで積極的ではないケースが多く、これから空き家を利活用したいという方はオーナーにとってどんなメリットがあるのかを考えることは必須ですね」

上田 真一さん(NPO法人 空家・空地管理センター代表理事)は、そもそも空き家問題とは何かということを、丁寧に説明してくれます。誰もが空き家の所有者になる可能性があるこれからの時代に、知らなくてはいけない土台の話です。

住宅を活かす

北池
「空き家の正体が少し見えてきたところで、その一つの解決手段として、仲さんのようなご活動は興味深いものがあります。住宅を活かして小さな経済圏をつくるというご提案を建築家としてされていらっしゃいますね」


「いわゆる住宅のことを居住専用住宅と呼びますが、仕事から帰ってお風呂に入ってご飯食べて寝ることを目的とした建物ですね。50年ぐらいで生まれた言葉です」

北池
「高度経済成長期に都心の労働力を確保するために、郊外に宅地が形成されてきたと聞きます」


「はい。一軒家もそうですが団地も多く建てられて、地方から出てきた賃労働者の核家族の受け皿となりました。子どもを作り育てるためには、ということで、守られたプライベートな空間こそが大事になっていくんです。賃労働者、つまりサラリーマンですが、その住宅であるから、仕事場やお店は住宅には併設されていません。その結果、外と交流する空間を持たない住宅が増えていきました」

北池
「そして、年月がたち、住宅を持つ世代が高齢になってきた。子どもたちは世帯を持ち、新たにマンションを購入する。そして、親が亡くなり、実家が空き家になってしまう。仲さんは、そんな住宅をどのように活かしていけばいいとお考えでしょうか?」


「『脱住宅』(共著、平凡社)という本の中でも紹介していますが、住宅を住むためだけに使わない。そんな住宅のあり方ができないかと考えています。例えば、自宅兼造園設計事務所として家の一部をショールームにするとか、空いている部屋はレンタルスペースとして貸し出すなど、自宅でありながら地域に大きく開かれたケースがあります」

北池
「小さな経済を住宅に組み込んでいくと、自然と意識が外向きになり地域住民との関係も良好になっていくんですね」


「はい。住宅とお店を掛け合わせると、たとえば道路の前を綺麗にしなくちゃという感情が芽生えます。お店の前が汚いとお客さんは来ませんから。意識が外向きになるんです。そうすると、ご近所との付き合い方が変わってきます。この関係性の変化が、空き家問題の解決の糸口につながるのかもしれません」

仲 俊治さん(株式会社仲建築設計スタジオ代表取締役)。“脱住宅”をテーマに、食堂付きアパート、上総喜望の郷おむかいさん、白馬の山荘など、今私たちが当たり前に住んでいる2LDKや3DKといった“住む”ことを目的とした住宅に、刺激的な変化を提案しています。

人口減少時代の都市

北池
「都市計画・まちづくりの専門家である饗庭さんは、この空き家問題をどのように捉えていらっしゃいますか?」

饗庭
「そうですね。今日は皆さんに都市のスポンジ化ということをお伝えしたいと思います」

北池
「スポンジ化。コンパクトシティといった言葉はよく耳にしますが」

饗庭
「実はこのスポンジ化というのは、最近専門家の中でもよく使われているフレーズになっています。これから都市は間違いなく縮小していくのですが、ではどのようにして小さくなっていくのか。僕も10年くらい前までは中心から拡大していった都市は、膨らんだ風船がしぼむように外側から小さくなっていくのだと想像していたのですが、これは大きな間違いだったんです」

北池
「外側から小さくなっていくのではない?」

饗庭
「はい。ではどこから縮小化が現れていくのか。それを確かめるために東京から千葉まで車を走らせて検証してみたんです。すると、決して都心からだんだん衰退しているわけではない。昔は繁華街であった都市の真ん中にある商店街に空き店舗や空き家が並んでいる。ああこういうことかと。つまり、外側から衰退していくのではなく、実は中がスカスカになっている」

北池
「それがスポンジ化ということですね。たしかに、駅近だけでなく、駅から離れた場所にも、建売住宅が次々に建築されている状態です。なぜこのような現象になるんでしょう」

饗庭
「全てオーナーが違う人で、それぞれの人がそれぞれのペースで人生を歩んでいるから仕方がないですね。それぞれのペースに合わせて空き家や空き店舗が生まれていく。そして、その事実からは逃げることができなくて、これからこの現象と付き合っていくしかありません」

北池
「今後、どうなってしまうのでしょうか?」

饗庭
「悲観ばかりしていても仕方ないので、良いところを探してみると、結構あるんですよ。これから都市は、ゆっくりと小さくあちこちでスポンジ化していきます。急に来る大きな変化は個人では対応できないが、ゆっくりと小さい変化であれば、その意識さえあれば個人レベルでも対応できる。そんな“やわらかくてしぶとい都市空間”ととらえればいいですね」

饗庭 伸さん(首都大学東京 都市環境学部都市政策科学科教授)に、縮小する都市を悲観するのではなく、ポジティブな未来を設計するための考え方を教えていただきます。

まちの縮小化とオーナーメリット

北池
「都市のスポンジ化が加速していく中で、縮小化を前提としたまちづくりを考えていくということですね。そのときに、仲さんの “住む+〇〇”ということに可能性があるように感じます」


「私たちが設計した『食堂付きアパート』という集合住宅があるのですが、家という場が地域の一部になり、商店街の人とアパートに住む人との新しいコミュニケーションが生まれました。大企業によるまちづくりだけでなく、小さくても個人レベルで変えていくということは大事だなと思います」

それぞれのスペシャリストの話を、登壇者同士も聞き入っています。

北池
「空き家を使って事業を始めたいという相談を多くいただくのですが、建築基準法や都市計画法という法律の壁があります。障害者の就労支援や高齢者のシェアハウス運営など、住宅と相性の良い事業プランなどもありますが、住宅をそのまま店舗にしたり事務所にすることは難しく、なかなか利活用が進みません」

上田
「古い物件を用途変更すると、現在の耐震レベルまで補強する必要があり、大きなコストを伴います。そのコストを誰が担うのか、借り手にその意識が低いのが現状です」

北池
「賃貸に出ている住宅物件も、住むための家として使ってほしいというオーナーの意向もあります。近隣への迷惑を考えると、今まで家だったところが急に民泊で外国人がウロウロしたり、といったことは嫌がられます」

上田
「たしかに、オーナーとして改修工事のコストを負担してまで住宅以外の活用をしたいとは思っていないケースがほとんどですね」

北池
「やはり、なかなか単純にはいかなさそうですね。解決の糸口はあるんでしょうか」

上田
「オーナーが物件を貸すことのメリットを考えるのが大事だと思います。例えば、定期借家契約として、期間限定で貸してもらうなど、所有者が決断しやすい仕組みをつくっていくのも一つの手かと」

北池
「オーナーのメリットという観点では、饗庭さんが携わられた国立の古民家を改修した『やぼろじ』はどういう状況だったんでしょうか?」

饗庭
「『やぼろじ』の場合、オーナーは固定資産税の負担と草刈りなど庭の維持管理に困られていました。オーナーはそのときは住んでいませんでしたが、数年後の定年を迎えるときには戻ってくる可能性もあり。そのときに借り手に居座られては困るとのことで、定期借家契約にしました」

北池
「時間軸を意識して考える必要がありそうですね」

上田
「すごく大きなメリットじゃなくてもいいと思うんです。マイナスをゼロにするだけでも大きなメリットですし。オーナーの立場からすると、固定資産税がゼロになる、手間なくなる、期間が短い、くらいでも十分なメリットになりますから」

饗庭
「オーナーにヒアリングする時に、どういう縁を持っているのかなと読み取るのも一つです。家族縁、地縁、趣味縁、その人が持ってる縁を手繰ると、解決策が見えてくることがあります。例えばオーナーの趣味を共有し合える場にするとなると、すっと話がまとまったり…」

北池
「ともすれば、使っていないならタダで貸してくれても…と考える借り手がいなくもないですが、その意識は大いに変えないといけない。双方による丁寧な対話のなかで、お互いにとって意義のある枠組みを考えることが大切ですね」

楽しく愉快なまちをつくるために

それぞれのテーマがクロスした先に眺む空き家問題の解決方法とは。

北池
「では最後に、それぞれの立ち位置の中で思うことを教えていただきたいのですが、仲さんの基本的な考え方としては、住宅として閉じてしまうのではなくて、住宅と地域がどう握手していくのか。この接点をいかに増やすのかというのが、キーになっていくんでしょうか」


「はい。もちろん開くばかりではなく、正しく閉じることも大事だと思います。黒か白かのどちらかだけになってしまうのではなく、グレーな中間領域の部分を住宅の中にどう埋め込んでいくのかを実践できたらいいなと考えています」

上田
「空き家を減らすためにできることは実はシンプルで、“壊して建てない”ということを繰り返していくことに尽きる。でもそれってなかなか現実的でなく」

北池
「所有者さんの立場からすると、実家を相続した途端、ハウスメーカーや時間貸駐車場の会社などから怒涛の営業電話が鳴ってうんざりするといった話を聞きます」

上田
「私たちがトライするパターンとして多いのが、隣地の方に購入してもらうということです。お隣の住宅を解体して、自分の広い庭になる。それを積み重ねていくんです。ただ得てして多いのが、隣地の方もまた老夫婦、というケース」

北池
「そうなると購入する余裕はないし、広い庭の必要もなくなってきますね」

上田
「その場合は隣地を相続するお子さんに購入の打診をします。さらに、その土地を半分に割って両隣に相談をするなど、様々なパターンの提案が存在します。特に活用が難しい地域・物件になると、その土地の価値を最も見出してくれるのは隣地の方ですので、粘り強くアクションを続けていきますね」

北池
「オーナーが隣地の方と直接交渉をするのではなく、そういう事情を理解してくれる不動産屋さんと繋がりを持つというのも重要ですね」

上田
「オーナー間もそうですし、ご近所との間でもそうですけど、第三者が入ることは大事ですね。冷静になってアドバイスしてあげられる人。知識や見識を元に正しいアドバイスをしてくれる存在がいると空き家活用は加速していきます。オーナー自身も自分たちばかりで悩んでいるのではなく、まずは相談窓口などに気軽に足を運んでもらいたいですね。」

少しでも、空き家問題の解決法のヒントを持ち帰ろうと、真剣にメモを取る姿も多く見かけます。

饗庭
「40歳ぐらいになると給料って40万ぐらいもらえるようになると思うんですけど、東京に出てきた人って、給料の半分ぐらいを家賃に使っている人も少なくないと思うんです。だから、楽しく愉快になれない」

北池
「つまり楽しく愉快に暮らすためには、収入における家の割合を下げることだと」

饗庭
「まあ、極端に言うとそういうことです。郊外に住む人の多くは、50年前ぐらいに上京して、35年かけてローンを払い終えた、という方が多いのではないかと思います。そういう意味では、ローンから開放されて今は楽しく愉快な生活を送っている人が多いのかな。不動産にお金を使わずに、使いたい人が使える世の中になる。空き家活用のひとつの方向性かもしれないです」

北池
「みなさん、今日はお三方とこのテーマで意見を交換できること自体が、とても価値のある多岐に渡る話なのだと改めて感じています。個人レベルの論点、地域レベルの論点、そこに経済や法律が絡まり、複雑で難しいテーマになっているように思います。どうしても空き家を家の問題だと捉えがちですが、実は人と人の関係性の問題。親族との関係性、お隣との関係性、地域との関係性、それぞれの関係性を閉じずに開いていくことから複雑化した問題の突破口が見えてくるように感じました。この場で正解を出すことはできませんが、次に繋げていける場となりましたら幸いです」


大きな拍手とともに会議は終了し、空き家から縮小社会の未来を眺む私たちの体験としてしっかりと刻まれました。

集まった人たちの熱気にも負けない、空き家問題を取り巻く情報の波に圧倒されながら、この日の会議は幕を閉じました。

プロフィール

上田 真一

NPO法人 空家・空地管理センター代表理事
1984年埼玉県生まれ。高校2年から単身米国留学。オハイオ州立大学を卒業後、ベトナムでAPEX VIETNAM TRAVEL CORPORATIONへ入社、不動産事業部を立ち上げる。帰国後、株式会社リクルート入社、住宅設備・建材メーカーなどの営業担当。北斗アセットマネジメント取締役、NPO法人空家・空地管理センターの事務局長として事業を立ち上げ、現職。 主な著書に『あなたの空き家問題』がある。

仲 俊治

株式会社仲建築設計スタジオ代表取締役
1976年生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。2001〜08年 山本理顕設計工場勤務を経て、2009年建築設計モノブモン (現・仲建築設計スタジオ)設立。2009〜11年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手。2016年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館出展。主な作品に、食堂付きアパート、五本木の集合住宅、上総喜望の郷おむかいさん、白馬の山荘。 主な著書に『脱住宅 -「小さな経済圏」を設計する-』(共著)、『地域社会圏主義』(共著)がある。

饗庭 伸

首都大学東京 都市環境学部都市政策科学科教授
1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(工学)。同大学助手、非常勤講師等を経て、現在は首都大学東京都市環境学部都市政策科学科教授。専門は都市計画、まちづくり。また、そのための市民参加手法、市民自治の制度、NPO等について研究を行っている。主な著書に『都市をたたむ -人口減少時代をデザインする都市計画-』、『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』がある。