ちょっとした記事

[編集長の酒場談議] ITとコミュニティ / 佐々木博さん

インターネットってすごい!

北池
毎年コウカシタスクールに講師として来ていただきありがとうございます。佐々木さんにはITを中心にお話をしていただいていますが、毎年大人気で、「昨年もスクールに参加したけど、1年経ってもう一度佐々木さんのお話が聞きたい」という方も続出です。

佐々木
そう言ってもらえるとうれしいな。

北池
佐々木さんとの出会いは、佐々木さんが当時、原宿にある大きなシェアハウスに住まわれていたときですよね。そのリビングで開催されるディスカッションに私も呼んでいただき、その時に佐々木さんもその場にいて。

佐々木
今から6年ぐらい前かな。当時、コミュニティづくりに興味があって、シェアハウスに住んでいたんだけど、あの時の暮らしは、僕にとっての原体験でしたね。

北池
バーチャルなITの専門家が、リアルな暮らし方に興味を持つっていう、そのギャップがいつもおもしろいなあと。更に時代をさかのぼると、その昔はNHK教育のパソコンのお兄さんをされていたとお聞きしています。今日はそこからお話をお聞きしたいです。

全国各地でITの講義をされている佐々木さん。

佐々木
ぼくがNHKに出演したのは1997年。27歳の時だった。振り返ると、新しくはじまったばかりのインターネットは従来のマスコミやオールドエコノミーといった権威的な文化に対するカウンターカルチャーだったように思います。

北池
なるほど。

佐々木
そんな時代なので無名な自分が教育テレビで講師をすることは象徴的なことだったのかも。

北池
そこに選ばれるのはすごいことですね。ITというと、今の大手ベンチャー企業の創業者たちが、当時の聖地だった渋谷に集まっていたという話を聞いたことがあります。

佐々木
僕の場合は、ビジネスというより、「インターネットって誰にでもチャンスがある。ある意味で革命的な技術だ。ということを1人でも多くの人に伝えたい」って気持ちが先にあったのかな。

北池
それで佐々木さんに白羽の矢が立った。佐々木さんはいつからITに興味を持たれたのですか。

佐々木
子どもの頃から、目には見えないものへの興味があって。そういう抽象的なことを考えるのが大好きなんですよ。パソコン画面に映るのは、ただの情報なので実態があるようでない。手に取ることもできない。そんな幻想になぜ多くの人が惹かれるのか?

北池
なるほど。

佐々木
ITに興味を持つ前も、たとえば「お金」ってなんだろう、「結婚」ってなんだろうなど、みんなが信じている共同幻想のようなものに対して疑いを持つ癖があった。インターネットという仮想現実的な情報空間はその格好のテーマだったんです。

佐々木さんの講座は、ITの使い方ではなく、生き方そのものを考えさせられる講義で大人気。

メディアで感じた矛盾

北池
それで、Eテレの時代はどんな生活だったんですか?

佐々木
色々面白かったですよ。今よりももう少し国営放送的というか。茶髪ダメ。服装も丸首はダメとか。NGワードも多かった。でも、マスメディアの中でやるのも勉強だと思って楽しんでいましたよ。

北池
やはり、マスメディアという権威はすごいんですね(笑)。

佐々木
2000年初頭に自治体にパソコンが導入されて初心者向けの「IT講習会」がはじまってからは、番組もより一層注目されましたね。

北池
超有名人ですね。街を歩いていたら「あ!先生だ」って気付かれたんじゃないですか。夢の印税生活も手に入れて。

佐々木
NHKで講師をはじめて最初の3~4年は楽しかったかな。でも、だんだんとプレッシャーの方が大きくなってしんどくなってきたんです。

北池
どっかで無理があったんですね。

佐々木
NHKらしくしなきゃいけない、ってことが辛くなってきた。ITって基本の思想は「自由」なんです。身の丈に表現することの重要性を説いているのに、自分がマスメディアで話すときは、本音でしゃべれず、台本通りと言われる。本来の自分のスタンスと、NHKで求められる姿とのギャップがしんどかった。

北池
それはつらそうです。

佐々木
テレビって、しゃべりたくない時もテンションあげて明るくしゃべらないといけないから。

北池
うん。

佐々木
時代的にも、だんだんテレビが権威じゃなくなっていくのを感じて来たのが2004〜5年ぐらいかな。

北池
広告業界もテレビからインターネットに移り、インターネット会社がテレビ会社を買おうとする動きも出て。

佐々木
そろそろテレビの世界でパソコンの操作方法を教えるのはもういいかなと思い始めた。世の中にはパソコン教室が駅前に乱立しだして、もうこれは僕の仕事じゃないなと。

北池
目まぐるしい時代の変化ですよね。今ではそんなパソコン教室もあまり目にしなくなった。

佐々木
そうだよね。だって、テクニック的なことはググればわかっちゃうからね。テレビじゃそんなこと言えないけど(笑)。

パソコンの操作方法よりも、その先の世界の素晴らしさを知ってもらいたい。

ITが必要な人に教えたい

北池
mixiとかブログブームも始まって、一部の人のものだったパソコンが、多くの人が使えるようになったんですね。

佐々木
特に最近はスマホやタブレットになったから、より簡単に教えられるようになったけど、当時は操作方法を教えるだけでも難しかった。だからこそかもしれないけど、ご高齢の方に「操作方法」だけを教えるのは、本当につまらなくて。教えたいその先がもっとあるんだけど、なかなかそこに至らない。というジレンマ。

北池
Eテレの視聴者はご高齢の方が多かったとか。

佐々木
番組名も趣味悠々だったし(笑)。そんな風に思い始めてからは、単に趣味としてのパソコンの操作方法を教えるのではなく、たとえば、皆さんが経験した戦争のことや次の世代に語り残したいものを伝えるためにITを活用しましょうって話をしてました。

北池
それはとっても意義がありそう。

佐々木
でもこれが、全然響かなかった。もうオレたちは人生頑張ったから、あとは悠々自適にさせてよ、って。

北池
ああ、それは分かるな。僕も同じようなことを言って、高齢の方に怒られた経験があります。

佐々木
それで、子育てに苦労しているママ、ブラック企業で自分のキャリアに苦しんでいる若者、そんな人たちに対して、ITやテクノロジーを自立のために活用してほしいと思うようになった。NHK的な優しいキャラから、ちょっぴり熱血というかぶっちゃけキャラでいこうと決めたんです。

東小金井の高架下にあるカフェで、調布・深大寺のビールをいただく。

ITとコミュニティ

北池
佐々木さんには創業者向けにITの講義をお願いしていますが、シェアとか、地域とか、暮らし方とか。そういう話が中心になるのが少しわかったような気がします。

佐々木
それは僕も、確信犯的なんです。インターネットでいかに注目されるか? ということより大事なのは、いまの時代をどうやって生き抜くか? だから。でもそんなタイトルでは来てくれないでしょ(笑)。

北池
たしかに。facebookでいいね!をどうしたら増やせるとか、そういうのをみんな期待してるんだけど、本質はそこにない。

佐々木
ITはこれからの時代を生きるための教材みたいなものだから。答えではなくて問いなんだよね。いいね!をたくさんもらうことが、はたして信用を担保するのか? とか、実際に会ったことのない人を信用する、もしくはされるためには何が必要か? などを議論する教材。

北池
色々な経緯があって、ITを武器にしながら、それを社会でどう使うのかということにエネルギーを注がれるようになったと思うのですが、やっぱり今、佐々木さんには、福祉のことをお聞きしたいです。

佐々木
はい。

北池
どこまでお話していいのかわかりませんが、佐々木さんのお子様が難病で障害をもち、日常的に医療的ケアを必要とする生活となり、これまでシェアハウスで自由に暮らす、と言われていた佐々木さんの生活が一変した。家族という最小のコミュニティだけでは生活が難しい。

佐々木
そうですね。

北池
一方、佐々木さんは、もっと広く地域の関係性を見直し、共助しあえるコミュニティがこれからの暮らしには必要だと考え、実際そのような暮らし方をチャレンジされてきた。そんな佐々木さんだからこそ、福祉の当事者となり、ITが福祉とどう結びつく姿をイメージされているんでしょうか。

佐々木
以前は地域との共生とかシェアする暮らしに可能性を見出そうとしてきたんだけど、子供の難病が発覚したときは、そんな暮らしと真逆の、知り合いも身寄りもいない土地で孤族な暮らしからはじまったこと。誰にも頼れない一番避けたい暮らし方から難易度の高い生活が突然はじまって、今に至るので、今は未来を見据えるというよりは日々を乗り越えることだけで必死なのは事実。

北池
なるほど。

佐々木
でも、そうなってあらためて理解したことは、在宅での医療的ケアも含めて、子供や親が病気で介護状態になったら、そのご家族の負担が半端ないということ。なので、精神的にも肉体的にもITやテクノロジーでそうした負担を軽減する必要性や可能性を常に考えるようになりましたね。

ご自身の生活が一変し、ITへの意識も変化があったとお話される佐々木さん。

福祉の世界に生きる

北池
いよいよ佐々木さんの人生の本番ってことですね。福祉の世界でITをどんなふうに活かそうとされているんでしょうか。

佐々木
例えば、子供の心拍数や血中酸素をスマホなどで常に把握できたら、ちょっとした異変にすぐに気付くことができる。それに、そうした計器って配線が大変で子どもにたくさんつなげていると、ちょっとした移動や寝返りすらままならない。医療機器としての難しさはあるけど、テクノロジーや工夫によって本人やご家族の負担を軽減できることがたくさんあるはず。また、なかなか同じ症例の子に出会えなかったり、こうした情報を発信したり共有するのが難しいので、そうした人たちの情報共有する仕組みや場を作りたいですね。今は、情報収集しつつ、ベンチャー企業や、福祉団体とコンタクトをとりはじめてます。

北池
ご自身のお子さんの経験から、色々トライされているんですね。

佐々木
介助しながらなので、自分の生活の中でできることから少しずつだけど。 

北池
確かにIoTによって福祉の社会は大きく変わりそうですね。

福祉という分野で、どのようにITを活かすことができるかを話し合う二人。

テクノロジーとコミュニティの融合

佐々木
それで話が戻りますが、福祉を考える上でITだけではやっぱり限界がある。加えてローカルなコミュニティは大事だと思ってます。

北池
コミュニティというと、内輪になりがちというのもよく聞きます。ご家族で高齢者とのシェアハウスに住まれてましたご経験もおありですが。

佐々木
サービス付き高齢者住宅が1階で、2階がファミリー向けの家という多世帯型のシェアハウスに住んでました。子供がいて、高齢者がいて、疑似家族みたいな感じになるかなと思ったけど、実際は理想とはかけ離れていた。

北池
どうしてですか?

佐々木
オーナーがサ高住にあまりに人が集まらなかったら、途中から介護施設事業者に丸投げしたんですよね。そうしたら当然おかしなことになって。介護をうける人や事業者って、シェアハウスとか共助のコミュニティなんて意識は全くないんですよ。介護施設への入居者はサービスを受けることを求めて、そこに住んでいるから。ちょっと枠組みに無理があった。僕らは老人ホームの上に住む、間借りファミリーみたいな奇特な人たちになってしまった。

北池
なるほど。

佐々木
今の日本は、いきなり、要介護にならないとそういう選択肢を検討しないんです。そうではなく、グラデーションをつくらないといけないと思う。若い時から擬似家族的な体験というか、子育てや介護するされるような経験があったら、当事者になった時に共助の関係になりやすい。

北池
世の中で多様性ってよく言われているのも、そのあたりとつながってくるんですかね。佐々木さんはよく、共助の重要性をお話されますが。

佐々木
その意味でもご近所さんが困ったときに無理なく助けあえる、地域・共助のプラットフォームをどのように構築するか?は課題ですね。 シェアリグエコノミー的ですが、そうした取り組みに積極的な自治体と一緒にここ数年検討を重ねています。

北池
テクノロジーとコミュニティの融合が大事だと。

佐々木
はい。まずは大きな規模ではなく、家族より広く、地域より狭いコミュニティを作ることを第一歩として考えています。その意味で、あらためて複数世帯が同居する共同住宅をつくりたいですね。

北池
障がいを持つ人も持たない人も、ITを使いながら、共助の関係性を持って暮らせる。

佐々木
そんな遠くない将来に作りたいな。いい歳だからね(笑)。

北池
いやいや。人生100年時代ですから。佐々木さんの新しいチャレンジ、楽しみにしてます!!

それぞれの未来に向かって乾杯。

プロフィール

佐々木 博

1970年生まれ。京都出身。パソコン・ITのエバンジェリストとして、NHK教育テレビ「趣味悠々」にて12年間番組講師を歴任。現在全国の地方自治体や起業などでソーシャルメディアやスマートフォンを活用した情報表現・創造、プレゼンテーション教育の普及に尽力。『日本的ソーシャルメディアの未来』 濱野智史、佐々木博共著など、40冊近い著書監修書籍をもつ。