そばではたらく
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手間ヒマかけずにお店を営む

しごとや家事…そんな営みで日々の時間の大半を費やしてしまう日常の中で、自身の興味関心事をもうひとつの収入源として成り立たせたいと思いながらもそれを行動に移すことができていない人は少なくないはずです。今回は、大手電子商取引企業に勤めながらもその傍らで風変わりな肩書きを持つ中西功さんにお話を伺いました。兼業や副業をはじめたい人にとってのヒントが見つかるかもしれません。

本を通じて異文化に触れる歓び

JR三鷹駅北口から10分ほど歩くとやがて見えて来る商店街の、その中にひっそりとある無人古本屋 BOOKROAD。まるで野菜の無人販売所やコインランドリーを彷彿とさせるような佇まいです。もちろん、店には店主も従業員も不在。さらに24時間営業という商店街の中でもひときわ違和感の放つ存在の主こそが中西さんその人です。電子商取引、いわゆるECサイトと古本屋…。“モノを販売する”という共通点こそあるものの、その2つの点がいかにして結ばれて線となったのでしょうか、そのきっかけは大学時代にありました。当時、どっぷりと本の世界へのめり込んだ中西さん。ですが、その好奇心は本の内容とは別の方向へと向かっていきます。

「本が好き。というよりも、本があることで様々な世界があることを知れることが好きだったんです。本って一冊一冊がもはや異文化じゃないですか。それが面白くて」

自分の知らない世界や知識を得るために収集した結果、10年ほどで増え続けた本はおよそ1000冊。そろそろ自宅での保管も難しくなってきた段階でこの本を使って何か面白いことができないか。考えた末に辿り着いたのが、無人古本屋でした。

この日も会社帰りに取材に応じてくれた、店主の中西さん。

無人古本屋という仕組み

BOOKROADはお店としてはとても小さく、そもそも看板すらありません。さながら商店街の一区画に本棚があるようなイメージ。ガラス扉を開けるとセンサーが人を察知し、パッと店内に明かりが灯ります。無機質なスチールラックには様々なジャンルの本が並び、壁面には店の利用方法が記載された案内板が掲示してあります。つくりこそとても簡素な印象を受ける空間ですが、余分な情報がないからこそ不思議と本と向き合う自分に気付かされます。ひとつ、大きな違和感として目に留るのが、お会計係としてガチャガチャの機械が置いてあることなのですが、これこそが無人古本屋の技の見せ所。棚に並ぶ本の後ろに貼られたシールの値段は300円か500円なので、その金額に合わせて設置された2種類のガチャガチャを利用します。ガチャガチャを回すと出てくるカプセルの中にはビニールの手提げ袋が入っていて、そこに本を入れてお会計は終了。という仕組みです。

「最初は賽銭箱でお会計という案もあったんです。でもそれではあまり面白くないのと、本を持ってお店を出て行く時に、買った証拠のようなものが無いと、なんとなく『盗んでしまった』という罪の意識がはたらいてしまうと思って。なにより、何歳になってもガチャガチャってワクワクしますしね」

現在では月平均で10万円前後の売上げがあり、お店の家賃を差し引いても利益を生み出せているそうです。大きな手間をかけずに、小さくても好きなことで収入を得る。これこそ兼業することの醍醐味といえるのではないでしょうか。

ガチャガチャの中に入っているカプセルはあと数個。たくさんの人に愛されている証拠。

人の善意を信じきる

無人にすることで真っ先に思い浮かぶことと言えば、盗難の心配。けれど、中西さんは無人で運営していくことに不安はなかったと言います。目的を持って来てくれる人はまず盗難なんてしないし、さらにここは生活道路に面しているので通行する人はほとんどが地域の住民。自分が住んでる場所では悪いことをするという心理は自然とはたらかないもの。むしろ、今では商店街の人も監視の目の役割を担ってくれているのだそうです。

「この店はたくさんの人の善意で成り立っているんです。だから、僕もその善意を信じきろうと思って」

時折、無人古本屋を開きたいという相談を受けてアドバイスをすることもあるそうですが、最終的にはほとんどが無人ではなく有人書店に着地すると言います。どこまで“人を信じきれるのか”。ここが無人のお店を営めるか否かの分岐点のようです。

この店の説明が描かれた案内板。お客様とのコミュニケーションの役割を果たしています。

店主としての自覚

とても幅広いジャンルの本が並ぶBOOK ROAD。けれど、無人なだけにともすると冷たい印象をあたえてしまい近寄り難い存在になりかねない。だからこそ誰にでも親しみを持ってもらえる選書を心がけているそうです。基本的には中西さんが読んだ蔵書ですが、最近では人から譲り受けることも増えたきたそう。「あるとき、一切の案内をせずに実験的に店内に木箱を置いてみたんです。すると何冊かの本が入っていたんですよ」。地域にようやく浸透してきた実感を感じたエピソードだと中西さんは嬉しそうに話します。

今では同年代が営む古書店へ自ら積極的に足を運び、店主と交流をすることも多いという中西さん。自身で常駐している店主との意識の違いこそが無人古本屋の店主としてのアイデンティティなのだそうです。

「やっぱりみなさん、本への熱い情熱を持っているんですよね。もちろん、僕も本は大好きですよ。でも、あくまでもコミュニケーションツールとしての“好き”なんですよね。だから、このお店に訪れる人も、本との出逢いはもちろんですが、この無人古本屋というパッケージを楽しんでもらえたらとても嬉しいです」

2畳程の広さの店内。でも実は奥には書庫があり、3000冊以上の本が保管されているそうです。

後編の次回は、副業としてBOOKROAD店主に辿り着くまでの道のりと、本業との関係性、そしてこれからの展望について伺います。(文・カトウ 写真・鈴木智哉)

プロフィール

中西功

大手電子商取引企業にてECコンサルタントとしてしごとをする傍ら、2013年にJR中央線三鷹駅の商店街の一角に無人古本屋「BOOKROAD」をオープン。

https://www.facebook.com/bookroad.mujin/