人を巻き込むつぶやき力

2017.08.03
人を巻き込むつぶやき力

唐品知浩さんは、自身が立ち上げた会社で別荘やリゾートのマーケティングに携わりながら、週末は2つの仕事を掛け持ちしています。ひとつはDIY好きが集まって、施主や大工さんと一緒に小屋をつくる『YADOKARI小屋部』の活動。もうひとつは、建物の壁にプロジェクターで映画を映し、野外で映画を楽しむ『ねぶくろシネマ』の活動です。
面白いと感じたことからビジネスに派生させる、唐品さんのしごと術とは。

新たなつながりを生む、面白がる会

唐品さんは、「面白いと感じたことは、きっとみんなも面白いと思うはず」と考え、これまでいろいろなプロジェクトを立ち上げてきました。唐品さんにその起爆剤となっている活動が、『○○を面白がる会』です。

「最初、『不動産を面白がる会』というのをやってみたんです。資産や財という視点だけでなく、単純にリノベーション物件を見るのが好きという人も一緒になって、不動産についてお酒を入れながらゆるく語り合ったら、面白いことになるんじゃないかと思って。それから毎回あるテーマを決めて、それがどうなるともっと良くなるか、前向きに考えてアイデアを出し合う会を不定期でやっています」

調布市からはじまった「ねぶくろシネマ」。子ども連れのファミリー層も多く集まる。
調布市からはじまった「ねぶくろシネマ」。子ども連れのファミリー層も多く集まる。

不動産のほか、これまで調布や神田といった地域や、父親、PTAなど身近なテーマを取り上げたという面白がる会。唐品さんは、名刺交換をしなくても、互いを分かり合い参加者が自然とつながるのがこの会のよさだと考えています。

「ひとつのテーマを前向きに考えると、意見や立場が違う人同士でもなぜか打ち解け合えるようです。『神田を面白がる会』では、生まれた時からこの地域に住む人と、タワーマンションに住むような最近移り住んできた人たちとの交流について、双方の意見を聞きながらアイデア出しをしました。ゲストに招いた神田明神の宮司さんから過去に境内でプロレスを興業したなど興味深いコラボレーションの話が聞けると、『あ、意外と新しいものを受け入れてくれるまちなんだ』と新しく来た人たちも気づきを得られるのです」

『○○を面白がる会』のようす。毎回違った考えを持つ人たちが集まりながらも、ポジティブな議論が繰り広げられるそう。
『○○を面白がる会』のようす。毎回違った考えを持つ人たちが集まりながらも、ポジティブな議論が繰り広げられるそう。

神田を面白がる会では町の重鎮と主催者で意気投合し、その後、世代を越えて住民たちが交流できるキッチン付きイベントスペースをオープンさせたそうです。

つぶやきが取り組みを伝播させる

そして唐品さんは、面白がる会での縁を活かすには、ちょっとしたつぶやきが大切だと言います。つぶやくことで、ビジネスは生まれるのだと。
ねぶくろシネマが生まれたのも、実はFacebook上のつぶやきからでした。

「前に小屋部の活動で大磯に出かけたとき、自動車道路の橋脚に絵が描かれているのを見て『これは何かできるんじゃないか』ってその時に思ったんですよね。家の近所には多摩川が流れていて、子どもと散歩したときに、京王線の橋脚を見に行ったんです。そしたら思いのほかすごく大きくて。写真と一緒に『ここに映画を映したら面白そう』って投稿したんです」

多摩川で行われた、ねぶくろシネマの模様。上映中も電車が走るが、その時の音も含めた臨場感が醍醐味。
多摩川で行われた、ねぶくろシネマの模様。上映中も電車が走るが、その時の音も含めた臨場感が醍醐味。

投稿の反応は予想以上のものでした。『調布を面白がる会』の参加者は「やろうよ!」と多くの人が賛同し、「映画のまち」をうたう、調布市からも協力を得ることができました。

「その後ねぶくろシネマをやって、その模様をまたSNSでつぶやくと、今度は別の面白がる会でつながった人たちが興味を持って、『ほかの場所でもできないか?』と持ち掛けてくれる。そうした連鎖的な反応で、次につながっていくのを感じています」

横展開を意識する

いろいろなプロジェクトを立ち上げる中、唐品さんはいつも横展開ができるかどうかを意識するといいます。

「どの活動にしても、場所やテーマの制約を受けることがないんですよね。例えば『○○を面白がる会』は、○○に入るものを変えればいくらでもアレンジできるし、ねぶくろシネマは、条件さえ整えば調布でなくてもできる。小屋をつくることだって、場所が限定されるわけではありません。事業として進めていくなら、発展性を考えるべきだと考えています。企業は枠組みをつくることはできても、ソフトを生み出すことを苦手としているところがまだまだ多い。自分が取り組んでいる領域はソフトの部分なので、ニーズがあると感じています」

『○○を面白がる会』のロゴもつくり、ブランドイメージをつくりあげていきます。
『○○を面白がる会』のロゴもつくり、ブランドイメージをつくりあげていきます。

一方で、「ねぶくろシネマは『映画のまち調布』で発祥したことに意味がある」と唐品さん。しかし場所やテーマ縛られるのではなく、持ち運びできるノウハウや仕組みで勝負できることで、ビジネスにすることを可能にしています。
しかしそれだけでは、必ずしもしごとの機会は広がらないと唐品さん。
次回は、唐品さんのしごとで大切にしている思いを紹介します。

連載一覧

3枚の名刺を持つ男

#1 不動産を軸にした新しいビジネス

#2 人を巻き込むつぶやき力

#3 自分をホールディングス化する

プロフィール

唐品知浩

1973年生まれ。東京都出身。旅行会社勤務の後、リクルートへ。別荘系不動産広告営業に15年間携わる。その後独立し、別荘・リゾートマンション専門のポータルサイト『別荘リゾートnet』の運営を開始。同時にプロに任せず、施主を中心とした素人集団で小屋を製作する『YADOKARI小屋部』を発足。また調布を拠点に活動するデザイナーたちと、まちをリデザインする集団『合同会社パッチワークス』を立ち上げる。
別荘リゾート.net:http://bessoresort.net/
YADOKARI小屋部:http://yadokari.net/category/yadokari-hut/
ねぶくろシネマ:http://www.nebukurocinema.com/

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