そばではたらく
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自分をホールディングス化する

別荘・リゾートマーケティングの会社を運営する唐品知浩さんは、それ以外に3つのプロジェクトで活動しています。DIY好きが集まり、みんなで小屋を建てる『YADOKARI小屋部』、野外で映画を楽しむ『ねぶくろシネマ』、そして1つのテーマについて前向きなアイデアを出し合う『○○を面白がる会』。どれも“しごと”として取り組む唐品さんの、はたらき観に迫ります。

1つの柱ではたらくことは危うい

唐品さんは、勤めていた会社を辞め、独立した当初から今のようなはたらき方をイメージしていたといいます。そのように考えたのはなぜでしょう。

「安定している企業は、バランスよく複数の事業を展開しています。もし、何かしらの理由である事業がダメになった時、事業の柱が1つしかない企業はたちまち立ち行かなくなります。これって、企業でも個人でも同じことなのではないかなと思っていて。特にサラリーマンを辞めて、自分で稼いでいかなければならない立場になったわけですから、複数の柱を用意しておくことが大事じゃないかと。自分をホールディングス化するというか」

「会社員の頃は、独立を念頭に置いていた、というわけでは特にありませんでした」(唐品さん)

会社員時代は、リゾートマーケティングの仕事に15年間従事していたという唐品さん。その分野のスペシャリストとして、業界では名の知れた存在でした。しかしある時、転機が訪れます。リーマンショックや東日本大震災などが重なり景気は急降下、リゾート業界も大きな打撃を受けます。唐品さんの担当していたメディアが、休刊に追い込まれたのです。こうした出来事も、複数の柱を持つという考えに影響しているのかもしれません。

「でも、どの柱も互いに関連しているということが大事で、僕の場合は『不動産』というキーワードでつながっています。別荘のしごとを通じて、小屋部のしごとが舞い込むこともあるし、また別荘とねぶくろシネマをコラボレーションするということも考えられる。相乗効果を生む関係だから成り立つのだと思っています」

1のことは、1.5にして返す

いろいろなプロジェクトに関わる唐品さんは、しごとを進めるうえでいつも大切にしていることがあります。それは、「1のアクションや期待に対し、1.5で返す」ということです。

「この考えは、会社にいる頃に鍛えられたものです。関わった人がみんなハッピーになるにはどうすればいいか、投資に対して得られる効果や利益はどのようなものかを常に考えています。だから、融合させることや相乗効果を意識するのかもしれないですね」

ふと思いついた企画が、想像以上の価値をもたらした場合もあります。

「ある時、『竣工式はあるのに、建物を取り壊すときの儀式ってないよね』SNS上でつぶやいたんです。そうしたら、『やってみたい』とある住宅ディベロッパーの方が手を挙げてくれて。それで、棟下式(むねおろしき)というイベントを開催しました」

棟下式の一幕。餅まきを行い、訪れた人たちにふるまった。

棟下式は、跡地に分譲住宅を立てることが決まっていた、ある金融機関の研修所で行われました。神主さんに建物を清めてもらうのと同時に、近所の人たちを呼んで公開イベントに。餅まきをしたり、壁に自由に落書きをしてもらったり、研修所に残った備品を持ち帰ってもらったり。夜は野球グラウンドで、ねぶくろシネマを行いました。

「当日は700人ほど集まり、なかなかの盛況となりました。ディベロッパーの担当者は、棟下式をしなければかつてグラウンドでゲートボール大会や、盆踊り大会をしていたことなど、知ることはなかったといいます。地元の人の土地に対する思いを知れたことはすごくよかったと話していました。また近くに住む人も、『前にあの場所で映画見たよね』と、研修所があったことを後々思い出せる。最初は古い建物を弔う、区切りをつける意味で棟下式を考えたのですが、前から住む人と新しく来る人との距離を縮める効果もあるのだなと感じました」

取り壊し直前の建物の壁に、目いっぱい落書きをする子どもたち。建物はなくなっても、思い出の中で残り続ける。

自分のしごとを子どもに見せられる

今のしごとのスタイルになり、唐品さんは調布のコワーキングスペースに拠点を設けました。

「一応事務所は都内にあるのですが、移動の時間を考えると自宅から近いところにワークスペースを持つことは大切だなと。勤めていた頃は片道1時間かけて通勤していましたけど、その間に何をしているかといえばスマートフォンを見ることくらい。ちょっともったいないなと思って」

今回のインタビューも、調布のコワーキングスペースで行われた。

職住近接ということは、子どもと過ごす時間も増えたのでは?

「いやいや、週末も外に出ているので、むしろ減りました。でも昔と違って、まとまった時間を取れるんですよね。前はせいぜい子どもが寝る前に30分くらい顔を合わせるだけでしたが、今は早く帰れれば、ご飯を食べたり遊んだりして2時間くらい一緒にいられます。あと小屋部の現場やねぶくろシネマに、子どもたちを連れていくことがあるんです。ですから子どもたちは僕のしごとを、大工さんとか映画の人とか言っています。本当は違うんですけど(笑)。でも子どもたちに、はたらくようすを見せられるのは、悪くないなと思いますね」

複数の肩書きを操る唐品さんですが、今後はどのように考えているのでしょう。

「今は本業と副業が分かれていますが、もっともっとその境目をなくしていきたいですね。人にしごとを聞かれた時に、『自分でも分からない』って答えてしまうようなのが理想ですかね」

リゾートマーケティングのしごとと、小屋をつくるしごと、そして映画イベントのしごと。唐品さんは、それぞれでプラスアルファの価値を意識することで、それぞれを進化させ、さらに新しいしごとも生み出してきました。
唐品さんの自分ホールディングス化は、さらに広がる予感です。

プロフィール

唐品知浩

1973年生まれ。東京都出身。旅行会社勤務の後、リクルートへ。別荘系不動産広告営業に15年間携わる。その後独立し、別荘・リゾートマンション専門のポータルサイト『別荘リゾートnet』の運営を開始。同時にプロに任せず、施主を中心とした素人集団で小屋を製作する『YADOKARI小屋部』を発足。また調布を拠点に活動するデザイナーたちと、まちをリデザインする集団『合同会社パッチワークス』を立ち上げる。

別荘リゾート.net:http://bessoresort.net/
YADOKARI小屋部:http://yadokari.net/category/yadokari-hut/
ねぶくろシネマ:http://www.nebukurocinema.com/