そばではたらく
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人やモノと共に表現するコーヒー

最近、平日は会社員としてはたらき週末に地域活動に参加するなど、本業がありながらフリーランス的な活動をする人が増えているように思います。東京・西国分寺にある焙煎所TakaiTOCoffee(タカイトコーヒー)の高井智之さんもその一人。カフェ店員としてはたらきながら個人でイベント出店し、コーヒー豆を販売しています。チームや組織だけでなく、地域やそこに住まう人たちと一緒に活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

焙煎を始めるきっかけは「豆の声を聞く」

高井さんは福島県出身。大学入学で上京し、就職と留学を経て、現在はクルミドコーヒー(株式会社フィスティナレンテ)で社員としてはたらいています。入社は2012年11月。それと同時に会社から「コーヒーの担当になってほしい」と言われました。「実は、コーヒーにものすごく興味があったかというとそうではなく、好きでも嫌いでもないという感じだったんです。入社後は覚えることもたくさんありましたし、コーヒーについて考えるようになったのは一年後でした」。

高井さんがコーヒーにハマったのは、下北沢にあるスペシャルティコーヒー専門店COFFEA EXLIBRIS (コフィア エクスリブリス)の講座への参加がきっかけ。スペシャルティコーヒーはワインに似てフルーツや花、ナッツやチョコレートといったユニークな風味、特性を感じられると知り、「コーヒーは多様で楽しいもの」と感じたからだそうです。その後、同店が当時、コーヒー豆を仕入れていた丸山珈琲の焙煎セミナーに「ちょっと体験する気持ち」で参加し、高井さんはそこで現在に繋がる話を聞くことに。

「豆の声を聞いておいしいコーヒーを作っていく。とにかく『豆の声を聞く』ということを言われて。『大事にするのは香りだから、今、この豆がどうなりたいかを考えましょう』って。豆が『熱い』と言ったら温度を下げなきゃいけないし、『もっと温度を上げてくれれば香りが出るよ』と言っていたら温度を上げる。その話を聞いて興味を持って、自分で焙煎を始めました」。

焙煎の奥深さを知ったものの、はたらくお店で豆の仕入れ先は決まっており自宅で飲むためだけに焙煎する日々。技術を試す機会がなくモヤモヤを感じていた時に「スタッフも増えたし、それぞれがいろんなことを挑戦する時期にしよう」と上司に声をかけられ、お店で開催するイベントで自身がブレンドしたコーヒーを提供することに。これがTakaiTOCoffeeへと繋がります。

「コーヒーが持つ多様な風味との出会いは、一つの表現のようにさまざまな果実、景色や季節、色や音までも想像させ、ときには、作り手である人や土地の気配さえ感じる可能性があると思います」と高井さん。

自由に動ける環境への感謝、信頼に応える責任

イベント出店の依頼があると、豆の仕入れから焙煎、納品、イベント終了後の清算まで自分で行う高井さん。コーヒー豆は実際に飲んだものから選びます。仕入れ先のテイスティング会へ行って試飲し、その場で味を覚え、考え、使うべきタイミングが来たら購入する。テイスティングできなかったときは豆を扱うカフェや喫茶店へ行って飲んでみるそうですが、焙煎はお店によって違うため、焙煎で出た味なのか豆の本来の味なのか、良い豆なのかを見極める必要があります。こだわればこだわるほど時間はかかるし交通費などの経費もかかる。少量で仕入れることはできず在庫を抱えることにもなります。

「会社からは『クルミドの名前を使わないでいいし自由にやっていい』と信頼してもらっていますが、やりたいことを自由にやるには責任がともなう。僕がイベントへ行っている間のお店の人件費とか、行くからには結果が出ないと続かないとか、在庫で自宅の和室がいっぱいになりそうとか(笑)、シビアな現実もありますね」。

西荻窪のiplikanaで開催された一日マルシェ「tenohira」での様子。

活動をすすめる中で、北海道上川町のイベントに誘われた高井さん。「現地に行くとクルミドコーヒーを知らない人ばかりで、会社員としてのクルミドの名刺を渡すと、『ん?高井さんはTakaiTOCoffeeですよね?クルミドコーヒーって何?』となる。それで、東京でイベント出店と豆の販売を中心にしていますと自己紹介すると『西国分寺というところに行けばお店があるの?』と聞かれるけど実店舗はないし自分は何者なのか?と。改めてクルミドコーヒーのように実店舗があるって大事だなと思ったり、『イベント出店と豆販売』というなら定期的に出店したり豆販売の窓口を作らないといけないなと思ったり……TakaiTOCoffeeの名刺も作らないと、とか、自分のあり方を考え直すきっかけになりました」。

会社員としての本業があると、自分が何者なのか?を考えることは多くはないでしょう。そんな中であなたは何者なのか?と問われたとき、会社の看板を背負っているからこそできる感謝や、会社の外で活動することの責任を改めて実感できるのかもしれません。

北海道上川町のイベント 大雪 森のガーデン GlmStay2017に出店。イベントをイメージした花のブレンド、森のブレンドのコーヒーとコーヒー豆を販売し完売。

コーヒーを通じて互いが生きる表現をする

高井さんがTakaiTOCoffeeの活動をスタートした理由のひとつに「僕が頑張ることで他のスタッフも『自分も何かできるかも』と思ってほしい」という思いがあるといいます。

「挑戦してみたいことがあるなら、お店で表現してほしい。それがお店で表現できないとしたら、僕とコラボして何かをやってもいいしどんどんお店の外に出てほしいなって思います。実際、スタッフが月2回だけ地域のコミュニティスペースで営業する食堂でコーヒーを出したり、その食堂でライブをする地元出身ミュージシャンふたばと一緒にブレンドを作ってファンの人が豆を買ってくださったりして、食堂やミュージシャンのことを知ってもらい、コーヒーのことも広がっていく……ということが起きている。自分だけじゃなく、皆が良い方向にいけばいいなと思っています」。

TakaiTOCoffeeの“TO”は英語の“to”で、「コーヒーとのつながり」「コーヒーのために」、日本語の“と”で、「人やモノと一緒に表現し、創造していくコーヒー」の想いが込められています。「これからも『コーヒーは多様で楽しいということ』、『安すぎず、高すぎない持続的な価格』『コーヒーを通じて互いが生きる表現をすること』を大事に活動していきたい」と話す高井さん。

今後も積極的にイベントに出店し、地域の飲食店でコーヒーを必要としているところがあればコラボメニューとして提供したり、近所のおじいちゃんの誕生日にコーヒー豆をプレゼントしたいというお孫さんがいたらブレンドを作ったりしたいとのこと。

ふたばブレンドはミュージシャンにコーヒーの好みを聞き、彼らの人柄や楽曲からイメージして作った。「豆の声を聞くことに加え、作品やご本人のイメージも大切にしました。ご本人に気に入っていただいたり、ファンの方のSNSコメントを読んで良い感想がたくさんあったりするとホッとします」。

「大量ではなく個人的なプレゼントでもいい。ミュージシャン、飲食店、ご近所さん……地域で何かをやりたいと思っている人と一緒にコーヒーで表現をしていきたい」。

縁あって出会った人とのコミュニケーションを大切にし、“人”“空間”“作品”などに合わせてブレンドを作る。会社に「コーヒーの担当になってほしい」と言われたひとことから「コーヒーで表現すること」を知ることができ、良さや強みを発揮できるようになり、会社員でありながら自分のしごとを持つ。雇用や拠点にしばられないはたらき方はフリーランスならではのイメージですが、職場の理解を得られれば高井さんのように表現や活動の場を広げることができるかもしれません。(メイン写真:©︎KOSHOKU MAEBARA)

TakaiTOCoffeeのパッケージなどのイラストは奥さんのharuna yuasaさんが担当。「彼女の活動もたくさんの人に知ってもらえたら」

プロフィール

高井智之

東京・西国分寺のクルミドコーヒーでカフェ店員としてはたらきながら、2016年11月から個人で焙煎所をスタート。自家焙煎コーヒーの販売、イベント出店などを中心に活動中。

https://www.instagram.com/takaitocoffee/

https://takaitocoffee.wixsite.com/takaitocoffee