貧困ループに感じた使命

2017.12.11
貧困ループに感じた使命

箱が少し潰れている、店の陳列ルールに適さない…、食品流通の世界では、“まだ食べられる食品”がちょっとした理由で大量に廃棄されています。その量、家庭からの廃棄も含めると、国内だけで年間621万トン。この食品ロスを活かす方法はないかと生まれたのが、フードバンク活動です。企業や家庭に眠っている食品を寄贈してもらい、児童養護施設や困窮世帯などに無償で提供する動きが各地で広がっています。全国のフードバンク活動のサポートに日々奔走しているのが、今回の主役である米山広明さんです。

団体同士の連携でノウハウ不足をフォロー

全国フードバンク推進協議会(協議会)は、国内フードバンク活動の課題の解決や政策提言を行うことを目的に、2015年に設立。現在24のフードバンク団体が加盟しており、米山広明さんは設立時から事務局長を務めています。

米山広明さん。フードバンクを広めたいという熱い思いにあふれています。
米山広明さん。フードバンクを広めたいという熱い思いにあふれています。

「各地の団体の大半はボランティアスタッフが運営しており、専従スタッフを配置できるところはごく一部に限られています。フードバンクは食品輸送や在庫管理などのコストがかかりこそすれ、収益を得られないところが悩みの種。理解ある企業や個人の寄付が頼り、というのが現実です。
またフードバンクは食品の寄贈元と寄贈先を見つけること、その間の連携を成り立たせることが大事になります。しかしそのノウハウが分からずに、せっかく団体を立ち上げてもうまく運営できないところが少なくありません」

そこで協議会では団体の運営支援をしつつ、政府への政策提言や支援者獲得に向けての広報活動を進めながら、活動の理解浸透を図っています。

やりたいことが分からず漠然と過ごす日々

米山さんとフードバンクとの出会いには、母親のけい子さんの存在が関係しています。けい子さんは地元の山梨で、フードバンク団体を立ち上げた人物。団体の理事長を務め、今は協議会の代表でもあります。お母さんの熱心な取り組みに、米山さんも感化されたのかと思いきや、入口はむしろ受け身の姿勢でした。

「大学を出てからというもの、数年間フラフラしていたんです。山小屋で住み込みのアルバイトをしながら母のしごともボランティアで手伝う程度で。そもそも進学も、目的意識なく漠然と決めてしまった。でも、“やりたいこと”など誰かが与えてくれるものではありません。それが分からなくて、モヤモヤした学生生活を送っていました。結局、卒業後も就職せずにいて。しかしある時、母から『新たな事業を立ち上げるから協力して』と頼まれたのです」

農業体験による就労支援のようす。慣れない中でも懸命にからだを動かす。
農業体験による就労支援のようす。慣れない中でも懸命にからだを動かす。

新事業とは、ホームレスや生活保護を受けている人を対象にした就労支援でした。農業体験を通じてコミュニケーション力を身につけ、ハローワークへの同行などで就職をサポートし社会復帰を図る取り組みです。米山さんは参加者と一緒に、農作業をすることになりました。

「貧困の連鎖」という日本社会の陰

ホームレスの人たちと毎日過ごす中で、米山さんはある誤解をしていたことに気づきます。

「打ち解けてくると、彼らは過去の話をしてくれました。すべての人に共通していたのは、虐待を受けたりネグレクト(育児放棄)を受けていたりと、子どもの頃の家庭環境が恵まれていなかった結果、早くから働かざるを得なかったことでした。私には、大学に入学するという選択肢が当たり前のようにありましたが、彼らには大学以前に高校にすら進学することも許されなかった。そのため、大人になってもしっかりとしたしごとにつくことが難しく、貧困から抜け出せずにいました。彼らが貧困に陥ったのは、決して怠けていたからではなかったのです。実際彼らは日雇いなど、低賃金で不安定なしごとではありましたが、懸命にはたらいていました」

当時を振り返りつつ、貧困の深刻な問題について語る米山さん。
当時を振り返りつつ、貧困の深刻な問題について語る米山さん。

これまで何ひとつ不自由なく育ち、それがふつうだと思っていた米山さんは、日本社会の陰の部分を見た気分になりました。
「ショックでしたね。それまでは『はたらかざる者食うべからず』なんて思っていたのに、はたらいていない私は食べることに困っていないのに、懸命にはたらく彼らのほうが困窮している。私と彼らを分けていたのは、環境に恵まれていたか、そうでないかの違いだけでした」

その後も活動を通じ、子どもの貧困を目の当たりにした米山さん。教育上の不利を被るだけでなく、経験の乏しさがコンプレックスや自己肯定感の低さにつながり、それが生涯にわたりネックになるなど、貧困問題の根深さを知ることになります。

食品の援助を受けた人たちからの、感謝のメッセージ。
食品の援助を受けた人たちからの、感謝のメッセージ。

「それは同時に、フードバンク活動の意義に気づいた瞬間でした。わたしたちが届けられるのは、わずかな食べ物に過ぎません。しかし彼らはそれらでお腹を満たし、浮いた食費で文房具を買うなど、少しだけでも“ふつうの暮らし”に近づけるわけですから。これは自分の使命だと確信しましたね。モヤモヤしていた自分に、本気でやりたいことが見つかったのです」

それから数年が経ち、今では関係省庁や大手企業との調整や、イベントを企画運営しながらフードバンク団体の運営相談にのる毎日。目が回るほどの忙しさです。

ところで日々全力で活動に取り組む米山さんですが、2016年の春に拠点を山梨から東京に移しました。米山さんにとって、東京ではたらく意味とは。次回はその理由に迫ります。(たなべ)

連載一覧

陰を照らすフードバンクの支え人

#1 貧困ループに感じた使命

#2 “ビジネススキル”が非営利事業を支える

プロフィール

米山広明

全国フードバンク推進協議会 事務局長
1983年山梨県生まれ。愛媛大学卒業後、地元の山梨に帰郷。2008年のフードバンク山梨設立時よりフードバンク活動に携わる。フードバンク活動全般、組織基盤強化事業、困窮世帯への生活相談、農作業を通じた自立支援等、新規事業の立ち上げや、自治体への事業提案を担当。2015年より現職、新設フードバンク団体の立ち上げ支援や政策提言活動を行っている。
http://www.fb-kyougikai.net/

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