住宅街で異彩を放つ古着屋の正体

2024.09.26
住宅街で異彩を放つ古着屋の正体

ワークゼミ&コンテスト「NEW WORKING」連動企画、「武蔵村山の実践者たち」の第3弾は、武蔵村山市の住宅街にアトリエ兼ショップをオープンしたファッションデザイナーの塩谷優太さん。「diddlediddle(ディドゥルディドゥル)」やリメイクブランド「00◯◯(ゼロゼロマルマル)」を立ち上げ、ラフォーレ原宿やパルコに出店するなど、多くの人を魅了してきました。「なぜこの場所に?」とよく聞かれるという塩谷さんに、縁のなかった武蔵村山を拠点にした経緯やブランドのこれからなどをうかがいました。

“理解されない”からブランドを始めるまで

住宅地が広がる、武蔵村山市の大南通りの一角に、2軒連なる古着を取り揃えたショップ&アトリエ「マルキューショップ」があります。まちの中に突如現れる、異彩を放つ存在感。「古着屋をやってるって言われると違和感があって。あくまでリメイクブランドの材料を置いているだけなんです」と言う、オーナーの塩谷優太さん。実は、ファッションブランド、diddlediddleや00◯◯のデザイナーでもあります。

武蔵村山市に拠点を持つ前は、どんなことをされていたのでしょう。服が好きで文化服装学院で学んだ塩谷さん。最初のブランド、diddlediddleを立ち上げた一つのきっかけは、アパレルショップの販売員として就職し、価値観の違いを感じたことでした。

「文化服装学院は自分で何かをつくり出すクリエイティブな人たちが集まっていたので、同じ感覚の人が多かったんです。でも、アパレル業界に就職して販売員の仕事をすると、周りとの価値観の違いを感じたし、自分が進むべき場所じゃないと思いました。例えば、デザイン性の強い服を着ていたら馬鹿にされることもあって。突き進んだ発想のものって、デザインでもアートでも理解されないものが多いじゃないですか。そもそも僕は自分のブランドを持ちたい、デザインをしたかった」

diddlediddleと00◯◯のデザイナーで、マルキューショップのオーナーでもある、塩谷優太さん。小さな頃から工作など自分の手で何かを作ることが好きで、大工になりたいと思っていた時も。最終的に辿り着いた表現が服だった
diddlediddleと00◯◯のデザイナーで、マルキューショップのオーナーでもある、塩谷優太さん。小さな頃から工作など自分の手で何かを作ることが好きで、大工になりたいと思っていた時も。最終的に辿り着いた表現が服だった

その後、デザイナーを募集していると聞いて入ったのが、アパレルの人材派遣会社。結局デザインの仕事はなく再び販売員となりますが、塩谷さんのデザインを好む人が周りに多くいたことも後押しとなり、派遣期間終了のタイミングで独自のブランドdiddlediddleを立ち上げます。シャツをメインに、パーツごとに素材を変えながら同じ色を使うことで単色の深みを出すなど、細部までこだわったデザインで注目されるように。アパレル業界で積んだ企画・販売・買付の経験や人脈を活かして店舗を展開し、ラフォーレ原宿から路面店へ。そして、自分の会社を設立しました。

「経験があまりない中でブランドを始めたので、本当に手探りで。でも、どこかのブランドのデザイナー経験がないことがプラスに活きることも多い。デザインは答えがない世界だけど、経験があるとどうしてもそれまでの経験から答えを感じちゃいますよね。独立してもどこかのブランドの匂いが残っていたり。そんな縛りもなく、自由にやれるので」

diddlediddleの2017コレクション「挑発」より。diddlediddleのブランドコンセプトは「不自然な物をいかに自然に見せるか、自然に不自然を見せる」。diddleにはだますの意味も
diddlediddleの2017コレクション「挑発」より。diddlediddleのブランドコンセプトは「不自然な物をいかに自然に見せるか、自然に不自然を見せる」。diddleにはだますの意味も
00◯◯の#66のコレクション「モモンガスタイル」より。00○○のブランドコンセプトは「小さいけれど大きな変化をもたらす攻めすぎない攻撃的ファッション」
00◯◯の#66のコレクション「モモンガスタイル」より。00○○のブランドコンセプトは「小さいけれど大きな変化をもたらす攻めすぎない攻撃的ファッション」

古着×デザインのリメイクブランド

2016年には、diddlediddleでリメイクのコレクションを出したことをきっかけに、古着を活かしたリメイクブランド「00◯◯」を立ち上げます。古着のコートにスプラッタリングペイントを施したり、古着のスウェットをランダムに繋ぎ合わせてワンピースにしたり、ジャージに別生地をエプロンのように縫い合わせたり。全て一点モノで、今も塩谷さんにしかつくり出せないデザインを生み出しています。リメイクブランドを事業の主軸に舵を切った理由はあるのでしょうか。

「僕は絵でも何でも、元々あるものをベースにいじって表現するのが得意。作る中でそれに気づいて、リメイクブランドを伸ばしてこうと思いました。それに、新品では最初に大量生産するため、生産と販売の時期のバランスで、売れるほど大金が必要になって回らなくなってしまうという経営の難しさも感じていて。その点、リメイクブランドは売れたら売れるほどつくっていけばいい。無駄な在庫を抱えることなく、カバーしやすかったというのもあります」

武蔵村山市にあるマルキューショップ。団地や公園が近くにあり、住宅街が広がる大南通り沿いに2つの異質なお店が並ぶ。その隣の物件も今は倉庫・アトリエになっており、新しい仕掛けを考えているところ
武蔵村山市にあるマルキューショップ。団地や公園が近くにあり、住宅街が広がる大南通り沿いに2つの異質なお店が並ぶ。その隣の物件も今は倉庫・アトリエになっており、新しい仕掛けを考えているところ

リメイクブランドでは、古着の仕入れからデザインがはじまります。

「古着を仕入れるときは、見た瞬間にデザインの発想が浮かんだものをピックします。発想から一日過ぎただけでも経験や気分など色々な影響で見る角度が変わるので、最終的なデザインは大体変わりますね。それにコレクションとしてテーマを決めて新作を出しているので、テーマによって変化が起きます」

ファッション業界では、春夏と秋冬にコレクションを発表するのが一般的ですが、00◯◯では季節の枠組みを超えて、これまでに66回ものコレクションを発表。例えば「再構築」「シンデレラ」などユニークなテーマを設け、流行とは一線を画し、デザイナーの世界観を発信しています。

00◯◯の服でコーディネートする塩谷さん。「ただブランドをやるだけじゃなく、お店にしても古着の買い付けにしても、考え方を持ってやっていかないと、自分がやってる意味がないなと思います」
00◯◯の服でコーディネートする塩谷さん。「ただブランドをやるだけじゃなく、お店にしても古着の買い付けにしても、考え方を持ってやっていかないと、自分がやってる意味がないなと思います」

武蔵村山にアトリエと古着屋を開いた理由

00◯◯は、ユニークな高いデザイン性で注目され、都心や地方のパルコでも出店。ファッション感度が高いコアなファンが広がり、売り上げを大きく伸ばしていきました。しかし、2020年から本格的に広がったコロナ禍は、ファッション業界でも大打撃に。外出自粛が続く中で服自体が売れなくなり、塩谷さんのブランドもパルコでの営業を終了。オンラインショップに加え、都心で期間限定のショップを出しながら、アトリエに使える物件を探していたそうです。

「リメイク古着の材料が多過ぎて、どうしても広いスペースが必要になってきたんです。自宅にあったアトリエを別の場所に設けて、ついでにお店で販売もできたらいいなと。坪単価を抑えられて、お店を出すなら人が暮らす住宅街に近くて、目の前にコンビニがあって、車が停められる場所。そんな条件で探したら、たまたまここが見つかったんです」

ヴィンテージ古着が並ぶ店内。ここから制作のために古着を取り出すことも。塩谷さん自身映画が好きなことから映画Tシャツも他にない品揃え
ヴィンテージ古着が並ぶ店内。ここから制作のために古着を取り出すことも。塩谷さん自身映画が好きなことから映画Tシャツも他にない品揃え

自宅もアトリエのそばへ引っ越し、都心から辿り着いた武蔵村山。それは集客よりも、制作の環境を優先した結果でした。

「そもそも、売り上げをしっかりさせたいというお店をベースにした発想ではないんです。お店ベースだと集客しやすい駅前で坪単価が高い場所になって、いくら売らなきゃいけないというノルマが出てきちゃう。そうすると、“制作のついでに販売”っていう気持ちじゃいられなくなっちゃいますよね。僕は制作のために、うるさすぎずのどかな感じがほしかった。強いて言えば近くにカフェがほしいですけど(笑)」

そして、アトリエの“ついで”に店舗を開いた理由をこう話します。

「古着をリメイクする時も、綺麗に並べておいた方が使いやすいですよね。それなら、お店を併用した方が絶対いい。リメイクブランドを10年近く続ける中で、自然と古着の買付ルートが普通の古着屋よりしっかりして幅が広がり、古着屋としての力も感じていましたし。それに、僕自身が販売員の経験を通して小売の重要さや、売れた時の喜びややりがいも知ってるので、このスタイルがちょうどいいなと」

古着屋の奥には工房があり、スタッフが縫製作業をしながら店番をしている
古着屋の奥には工房があり、スタッフが縫製作業をしながら店番をしている

そして2023年7月、武蔵村山市に古着屋とアトリエを兼ねた「マルキューショップ」がスタート。その一年後には、隣の物件が空いたことで、二つ目の古着屋をオープンしました。今は、ヴィンテージの古着屋を「◯Q」、低価格帯の古着屋を「丸九」と呼んでいます。

武蔵村山市のアトリエで制作しながら古着を販売し、完成したリメイクブランドの服は三軒茶屋や吉祥寺などの期間限定ショップで販売。「ようやく形になってきた」と話します。

ぬいぐるみが敷き詰められたトルソーも、塩谷さんが制作したもの。原宿のお店から受け継がれている
ぬいぐるみが敷き詰められたトルソーも、塩谷さんが制作したもの。原宿のお店から受け継がれている

確かな戦略を持ち、スマートに進んできたように見える塩谷さんですが、今があるのは失敗を経験したからこそだと言います。

「昔1回、お金が足りなくて、もっと階段を登って挑戦できるのに止めるしかなかったことがあって。それは嫌なので、全ての土台を整えるようにしています。大切なのは、資金力や人脈や得意分野など自分を客観的に把握した上で、どう頑張っていくかの道筋をつくって、どれぐらい本気でやれるかということ。僕自身全てができているとは思ってませんが、不安だから色々考えます」

まちを知り、もっと仕掛けを

それまでに縁のなかった武蔵村山市でアトリエ兼古着屋を開き、今、どんなことを感じているのでしょう。「この場所でやっていることは原宿や渋谷の店と変わらない。“本気すぎる”というのが伝わったのか(笑)、予想をはるかに超えて売れました」と言う塩谷さん。お店の宣伝をしていないのにも関わらず、多くの地元のお客さんが訪れるそうです。

「最初はお客さんが来すぎたら制作に支障が出るから、ほどよく販売できればいいかなと思ってたんですけど、今はお客さんがたくさん来ても大丈夫なバランスになってきました。だからこれから、わざわざこの場所にお客さんが来るような仕掛けを始めたいなと考えてます。この場所にこんなお店があるのを知らない人が地元の人でも多いので、やるだけやってみようかと。あとは、このまちの方が自分のスタンスで楽しめる場所になれたらいいのかなと思いますね」

今の場所で、やりやすさを感じているそう。「お店の場所としては安いのでやりたい放題できた」とか
今の場所で、やりやすさを感じているそう。「お店の場所としては安いのでやりたい放題できた」とか

都心から郊外・地方まで、様々な場所で出店してきたからこそ、まちとビジネスの関係性についても、考えを巡らせます。

「都心や郊外、地方、どのまちにも違いがあって、ビジネスに良い部分もあれば悪い部分もある。ここでも、このまちに住んでいる方のファッションの考え方をある程度知ることができたので、すごく良かったなって。今後お店をやっていくときにもいろいろ活かせるので、まちを知ることは大事ですよね」

様々なまちでお店を開いてきた。吉祥寺などのパルコで出店していた時も
様々なまちでお店を開いてきた。吉祥寺などのパルコで出店していた時も
パッケージから目を引くアクセサリーも制作
パッケージから目を引くアクセサリーも制作

今後の展開をうかがうと、武蔵村山市を拠点にしながら、2025年4月には吉祥寺に常設の路面店をオープンする予定だとか。00◯◯は、リメイクブランド、ヴィンテージ古着、低価格の古着、バンドTシャツの4つの要素で成り立っているため、この4つが期間ごとに入れ替わる新しいスタンスのお店をつくりたいと言います。前へ前へと進む塩谷さんを突き動かしているのは、デザインへの満たされない気持ちがありました。

「やりがいを感じるのは、服が出来上がった瞬間の1分ぐらい。デザインで誰を納得させるのが一番難しいかっていうと、自分なんですよ。常に自分を満たすという意味ではもの足りなくなっちゃって、だから次をつくっていくんだと思うんです」

売られている全ての古着は、デザイナーである塩谷さんが一つ一つリメイクブランドのデザインのために買い付けた材料
売られている全ての古着は、デザイナーである塩谷さんが一つ一つリメイクブランドのデザインのために買い付けた材料
2024年7月にオープンしたばかりの古着屋(丸九)は、低価格の古着に特化。低価格の古着もヴィンテージもリメイクブランドに必要
2024年7月にオープンしたばかりの古着屋(丸九)は、低価格の古着に特化。低価格の古着もヴィンテージもリメイクブランドに必要

ゆくゆくは新しいブランドをつくって、パリコレを目指したいと言う塩谷さん。これからも、デザイナーとしての感性と考え抜かれたコンセプトを軸に、新たな世界に進んでいきます。

塩谷さんのストーリー

2012年 ファッションブランド「diddlediddle」を立ち上げ
2014年 ラフォーレ原宿から渋谷の路面店に移転
2016年   リメイクブランド「00◯◯」を立ち上げ
2018年 名古屋や広島のパルコに進出
2023年 武蔵村山市にアトリエ兼古着屋「マルキューショップ」をオープン
2024年   二つ目の古着屋をオープン。店名を「◯Q」「丸九」に
2025年 4月に吉祥寺に新しい路面店をオープン予定

プロフィール

塩谷優太

diddlediddle、00◯◯のデザイナー。文化服装学院アパレルデザインメンズ科を卒業後、アパレル業界で販売・企画・仕入れなどを経験し、diddlediddle、00OOを立ち上げ。2023年、アトリエ兼古着屋を武蔵村山市にオープンした。不定期で三軒茶屋や吉祥寺などに出店も
https://diddlediddle.jp

INFO

ワークゼミ & コンテスト in 武蔵村山 NEW WORKING

「NEW WORKING」は、武蔵村山市の魅力創出を目指すワークゼミ&コンテスト。「まちにあったらいいな」というアイデアを募り、地域に根差した新しい事業へと成長を後押しします。あなたの小さなアイデアを、まちで大きく育てましょう。

対象

武蔵村山市内で事業アイデアをお持ちの方
・創業前および創業して間もない方(概ね5年以内)
・新規事業の立ち上げを計画している方
・申請時点で15歳以上の方
※団体、個人、法人は問いません
※居住地、本店所在地は問いません
※業種業態は問いません(ただし、公序良俗に反せず、社会通念上適切と認められるものに限ります)

奨励金

グランプリ 1名 30万円
準グランプリ 2名 10万円

スケジュール

エントリー
10月7日(月) 23時59分締切
「まちにあったらいいな」と思うお店やサービスなど、自由な発想で事業アイデアを募集します。

ワークゼミ
10月12日(土)14:00-17:30 @緑が丘ふれあいセンター

エントリーいただいた方を対象にワークゼミを開催。アドバイスを受けながらアイデアをブラッシュアップします。

1次審査書類の提出
11月11日(月)12:00締切
各自が事業アイデアを書類にまとめて提出。いよいよファイナリストを選出します。

最終審査会&グランプリ発表
12月15日(日)14:00-18:00 @TOKYO創業ステーションTAMA イベントスペース
選ばれたファイナリストが、プレゼンテーションを行い、グランプリ・準グランプリを決定します。

主催

武蔵村山市

運営

株式会社タウンキッチン

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