自由に遊ぼう!ぼくらの自然享受権

2025.06.20
自由に遊ぼう!ぼくらの自然享受権

日本でまちづくりや地域活性の仕事に携わったのち、2024年4月から1年間フィンランドに滞在していたライター・杉田が現地で見た景色や感じたことをコラム形式でお届けします。最終回は“幸せ”をテーマにフィンランドでの1年間を振り返ります。

世界幸福度ランキングで8年連続トップとなり、“世界一幸せな国”として知られているフィンランド。わたしも渡航前から、漠然とそのイメージを持っていました。

実際に1年間暮らしてみて、フィンランドの暮らしの豊かさに大きく影響しているだろうと感じたのが「森」の存在。フィンランド人の友人や、ホストファミリーと過ごしていると、彼らにとって森がいかに身近な存在であって、自然の中での楽しみの見つけ方がとても上手だと感じる場面がたくさんありました。

そして、その根底にあるのが「自然享受権」。“誰もが自由に散策し、楽しむことができる自由がある”という考え方で、フィンランドでは、すべての人にルールの範囲内で自然を楽しむことが許されているのです。

そのため、現地の人の多くが、植物や動物に対する知識が豊富。普段は大人しいフィンランド人の友人が、森を一緒に歩くと急に饒舌になり、鳥や植物の名前、自然に関する豆知識をたくさん話してくれるなんてことも。夏には森で採ったキノコで料理をしたり、ベリー摘みをしたり、自前のボートで湖釣りを趣味にしている人も多いそうです。

ホストファミリーと一緒に森でキノコ狩り
ホストファミリーと一緒に森でキノコ狩り
キノコは毒性があるものも多いので、必ず現地の人と。食べる前には図鑑で調べ直す
キノコは毒性があるものも多いので、必ず現地の人と。食べる前には図鑑で調べ直す
数種類のキノコと生クリームを使ったシンプルなスープ。香りが豊かでおいしい
数種類のキノコと生クリームを使ったシンプルなスープ。香りが豊かでおいしい

そして、幸福度ランキング1位の背景には、物価や税金が高くても、その分安定した福祉や教育の機会が市民に平等に与えられていることがなどが要因としてあるそうですが、わたしが短期滞在者として感じた幸せの秘訣は「幸せのハードルを下げること」。

実際に現地で暮らしてみると、フィンランドは日本に比べて圧倒的に娯楽が少なく、街中で友達と遊びに行く場所といえば、カフェやバーくらい。しかも日曜日は休みのところも少なく ありません。フィンランドに長く住んでいる日本人でさえ「とにかくやることがない」と言うほど、日本がいかに娯楽に溢れていたかを実感します。

森が生活のそばにあるフィンランド。山がなく、なだらかな地形なので歩きやすい。夏になるとワイルドベリーがそこら中に自生していて、見つけるとついつい摘んでしまう
森が生活のそばにあるフィンランド。山がなく、なだらかな地形なので歩きやすい。夏になるとワイルドベリーがそこら中に自生していて、見つけるとついつい摘んでしまう
夏、パステルカラーの建物に映る木漏れ日がうつくしい。生活の中の小さな幸せの一つ
夏、パステルカラーの建物に映る木漏れ日がうつくしい。生活の中の小さな幸せの一つ

言語の壁のせいで、現地の情報が入ってきづらかったのは事実ですが、それでも娯楽には事足らない日本の生活とは全く違い、一見すると日本での暮らしの方が満ち足りているように見えます。

ただ、消費的な娯楽が少ない分、フィンランドの暮らしでは身の回りの小さな幸せに気がづきやすくなったり、編み物や料理など、自ら楽しみを作るようになりました。特に冬は暗く寒い日が続くため、太陽が顔をのぞかせるだけで、ものすごく幸せに感じるのです。

身の回りのちょっとしたことに感動したり、自分のそばにある環境を楽しむことが、フィンランドの暮らしの中で学んだ、日々を豊かに過ごすコツの一つです。

プロフィール

杉田映理子

1994年東京都生まれ、ライター。地方のデザイン会社でライター・編集者として、7年間にわたり、さまざまな自治体のプロモーションやまちづくり、イベント企画に携わったのち、2024年4月から2025年3月までの1年間、フィンランドに滞在。本連載ではフィンランドでの日常を“まちづくり”や“デザイン”の視点で切り取り発信中。

https://www.instagram.com/e_sary125/

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