[編集長の旅日記]豊橋・前掛け工場編

2020.03.26
[編集長の旅日記]豊橋・前掛け工場編

愛知県豊橋市。古くから織物生産が盛んであったこの場所に、昨年、織物工場が誕生しました。立ち上げたのは、東京・小金井に本社を構える前掛けの製造販売を手掛ける有限会社エニシング。代表の西村さんのご案内のもと、工場見学をさせていただきました。

最寄り駅は愛知県・豊橋駅から在来線で一駅のJR二川駅。駅から徒歩10分ほどのところに工場はあります。東海道新幹線と梅田川に挟まれた立地で、河川敷には立ち並ぶ桜の樹が。今頃は綺麗に咲いているんでしょうね。西村さんは土地探しをするのに100件以上の物件を探されたそう。ただ製造するだけの工場にせず、多くの人に見に来てもらえる工場にするために、駅から近いこの土地に決められました。

中に入ると、多くの織機が並んでいます。鈴木、遠州、豊田という昭和初期に名を馳せた3大メーカーが、今も現役で稼働しています。これまでは、長年経験を積んだ職人さんが製造したものを仕入れていましたが、ご高齢で後継ぎがいないため、エニシングが事業承継しました。

若い3人の職人が技術を習得し製造しています。中にはUターンで豊橋に戻った人もおり、伝統技術の承継に関心の高い若者が増えています。
若い3人の職人が技術を習得し製造しています。中にはUターンで豊橋に戻った人もおり、伝統技術の承継に関心の高い若者が増えています。

豊田や鈴木など世界に誇る自動車メーカーが、もとは織機メーカーとしてスタート。100年経った織機が今でも現役バリバリで稼働している様子から、確かな技術の積み重ねを感じます。それが自動車製造の礎になっているんですね。

こちらは豊田の織機。豊田佐吉さんによる発明。

織物は縦の糸と横の糸からなります。長い縦の糸を、一定のリズムでテンポよく横糸が織られていき、一枚の布ができあがります。糸の太さで一号から三号まで前掛け帆布を製造していますが、大手メーカーからは、その生地の厚みが評価され、最も高価な一号帆布がよく注文されるそうです。

一見おなじに見える帆布でも、質感や触り心地がぜんぜん違う。

工場がある二川は、東海道五十三次の33番目の宿場として栄えた場所。今も旧宿場町の面影が各所に残っています。本陣、旅籠屋、商家の3つが見学できる日本で唯一の宿場町として、毎年たくさんの観光客が来られます。織物工場もルートの一つに組み込まれており、100年続く伝統技術を多くの方に見学いただいているそうです。

今回の見学で、企画販売をされていたエニシングが、事業承継により製造業に事業領域を拡大された様子を見ることができました。工場の現場には20代の若いスタッフが、淀みなく流れるような動きで次々に帆布を織り上げており、職人としての道を確実に進んでいる姿が眩しく映りました。

昭和の全盛期には織物産地として栄えた豊橋ですが、時代の流れと共に安い工業品が溢れ、職人の人数も年々減少。伝統的な技術を残したいという気持ちはあれど、仕事がなければ残せないのも事実。そんな中、エニシングは日本発の前掛けとして世界をマーケットに販路を拡大し、帆布製造という仕事が、これからの時代も継続できるという道筋を作ったことが大きいと思います。「作れる」と「売れる」の両面があってこそ、伝統が引き継がれていくことを感じることができた現場でした。

エニシング 豊橋前掛けファクトリー
〒441-3147 愛知県 豊橋市 大岩町 西郷内167-2(沢渡91-2)

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