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「お寺でやろう」を実験する副住職

約500年の歴史をもつ町田の古刹・祥雲寺。長男として生まれた亀山典弘(hiro)さんは、本来ならお寺を継ぐべき存在でしたが、大学卒業後は放浪の旅へ。アルバイトで生計をたてながら全国をめぐり、30歳になってお寺に帰ってきました。以来、地域資源としてのお寺の活用を提案し、「寺フェス」や「まちだの寺子屋プロジェクト」など、さまざまなイベントを主催しています。袈裟姿で足元にはスニーカーという、個性的な出で立ちの副住職・hiroさんに、お話をうかがいました。

仏教とは?寺とは?問い続けた20代

お寺で生まれ育ったhiroさんですが、跡を継ぐことはまったく考えていなかったと言います。

「お寺の子に生まれたら、絶対にお寺を継がないといけないという決まりはありません。別に私が継がなくてもいいんです。根本的に、そもそもお寺って必要なのか? とも考えます。最近はお葬式をお寺でやる方も少なくなりました。それなら、お坊さんは必要だけれど、お寺という場所は、必要ないんじゃないか、お墓があるだけなら、それはお寺じゃなくてもいいんじゃないかとも思います。考え出すと、どんどんお寺が必要じゃなくなってくるんです(笑)」

広々として境内には、たくさんの表情豊かなかわいらしい仏像がたくさん。

お寺の在り方同様、仏教にも疑問をもっていたhiroさん。大学時代には、アイスホッケー部で青春を謳歌する一方、「仏教とはなにか」を真剣に考えるようになったそう。

「お寺の子どもですから仏教は身近なのに、『仏教ってなに?』て聞かれても答えられる自信がありませんでした。そこで、仏教と真正面から向き合うために、あらゆるお経や、仏教に関する書物を読みまくりました。たどりついた結論は『仏教は宗教であると同時に哲学だ』ということです。仏教の開祖の釈迦は、宗教者でもあり哲学者でもあったのですよね。それに気づいて楽になったというか。ああ、そうなんだと自分のなかで納得感があり、仏教を受け入れる心が整ったというか。だからってお寺を継ぐという気持ちはなく(笑)大学卒業後は定職にはつかず、日本各地をめぐってアルバイトをしながら、自分のやりたいことを探していましたね」

お寺のあり方や仏教とはなにかを今も考え続けるhiroさん。

自分さがしの旅のようだったとふりかえるhiroさん。30歳で祥雲寺に戻ってきました。

「寺に戻ってきた理由は、帰ってみようかなと思ったから(笑)日本中でいろんなものを見聞きし、興味のあることに首をつっこんだり手を出したりしてみて、やっと『寺で暮らしてもいいかな』と思ったんですね」

仏教は哲学でもある、という気づきを得たことで実家であるお寺にも自然と目が向くように。そして、お寺を地域の人に活用してもらうことを発案します。

「帰ってきて、自分なりに何かを始めたいと思いました。そこで寺に隣接する『梅花の郷』という施設を地域の方に開放する『PBプロジェクト』を立ち上げたんです。イベントや講座、ワークショップを開きたいけど場所がない、そういう声があったので、ぜひ使ってもらえたらな、と」

このプロジェクトが、現在の活動につながります。

子どもと対峙するときも、いつでも真剣勝負。

アイディアマンのhiroさんの周りはいつも笑顔であふれている。

なにかを始めたい人に、お寺を開放する

「PBプロジェクト」は今、「まちだの寺子屋プロジェクト」と名称を変えて活動をしています。

「寺子屋は、江戸時代に子どもたちが読み書きそろばんを習った教育施設ですが、そんなにかた苦しくは考えていません。なにかをやりたい人たちが、自由に使える場所として開放しています。むかしのお寺は地域の集いの場でしたよね。でも今はお墓まいりぐらいでしか来ない場所になってしまった。日常のなかに、もっとお寺があってもいいんじゃないかと思っているんです。なにかを始めたいと思ったときに、お寺を使って形にしてもらいたいですね」

『まちだの寺子屋プロジェクト』では敷地内の施設を開放。地域のコミュニティスペースになっている。

考えつづけ、変化し続けるhiroさん流寺子屋

日本各地を放浪し、格闘技に本気で取り組んでいたこともあるというhiroさんは、世間一般のお坊さんのイメージとは、少し異なります。生家であるお寺を継ぐつもりはなかったそうですが、ならば、つきたかった職業があるのでしょうか?

「いえ。会社員ができるとは思いませんでしたし、やってみたいしごともこれといってありませんでした。就職をしたこともないのですが、自分でやるなら、経営やコンサル業が向いていると思うんです。私はなんにでも手を出してやってみるタイプです。やるからには成功させたい。そのために “仮説”と“実証”を重んじているんです。それはなにをするにも同じで、寺子屋プロジェクトでも、寺フェスでも、参加する人に“仮説”と“実証”をアドバイスしています」

寺フェスは2016年から祥雲寺で開催している一大イベント。キッチンカーの出店や、ワークショップ、音楽や紙芝居、格闘技演舞の披露、さらには葬儀体験や本堂ツアーなど、内容は盛りだくさんです。

「寺フェスをやるからには、出店者もお客さんも、やってよかった、来てよかったと思えるものにしたい。そこで、『成功させるためには出店者を多く集めよう』『出店者を集めるために、フライヤーをたくさん配ろう』と“仮説”をたてます。次は“実証”で、実際にフライヤーを配ります。これが効果的なら続けますし、思ったより効果が出なければ“仮説”を修正し、それを“実証”する。なにごとも、そのくりかえしです。そうやって“仮説”と“実証”をくりかえせば、成功を導き出せると思っています」

回を重ねるごとに参加者や協賛企業も増え、規模を大きくしている寺フェス。次回は来年春に開催予定。

祥雲寺の副住職として、今後、お寺をどのような存在にしようと考えているのでしょう。

「こうしていくぞ!という強い思いはあまりないんです。でも、せっかくお寺があるんだから、地域の方に有効活用をしてもらいたいですね。一歩踏み出したい人、なにかを始めたい人にお寺を使ってもらえたら。それがこれからのお寺の役割のひとつではないかな、と思います」

日常生活のなかにもっとお寺を感じてもらうために、hiroさんの“仮説”と“実証”はつづきます。(糸井)

プロフィール

亀山典弘(hiro)

町田にある祥雲寺の副住職。2019年から年2回の寺フェスを開催。祥雲寺敷地内の建物を利用した「まちだの寺子屋プロジェクト」では、イベントや講座などを開催している。