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ローカル遊びの実践者が語る本音 公開講座#3レポート

HEREは、高度成長期に開発された郊外にフォーカスし、暮らすだけにとどまらない新たな可能性を探る2019年にスタートしたプロジェクト。これまで「まちと食」、「家と庭」を切り口に、インキュベーションプログラムやイベントなどを行ってきました。

そして第3弾は、「ローカル遊び」がテーマ。どうすれば、はたらくと暮らすをうまくミックスし、まちに遊びの要素を取り入れることができるのでしょうか。
そこで、鎌倉を拠点にユニークなコンテンツを世に送り続ける面白法人カヤック代表取締役CEOの柳澤大輔さん、空き物件を活かして谷中のまちの営みをリノベーションするHAGI STUDIO代表で建築家の宮崎晃吉さん、そして府中市で市民主体のアートフェスをしかけるNPO法人アーティスト・コレクティヴ・フチュウの芝辻ペラン詩子さんを迎え、オンライントークイベントを10月24日に開催しました。

折しもwithコロナによってライフスタイルは様変わりし、はたらく場と暮らす場の境界線があいまいになりつつある昨今。ゲストのみなさんの取り組みをベースに、“遊ぶように暮らす秘訣”を探りました。

集まる人が文化をつくり、文化が人を集める

最初のプログラムは、柳澤さんによるキーノートスピーチです。
柳澤さんがCEOを務める面白法人カヤックは、鎌倉に拠点を構える東証マザーズ上場のITベンチャーです。2017年には「ちいき資本主義」を打ち出し、地域の持続的成長を促すコンテンツ開発にも力を入れています。
同社は法人名のとおり、“面白さ”がすべての中心。経営手法や社内制度に至るまで面白さを追求します。「サイコロ給」は、サイコロの目でボーナスが決まる独自の制度です。

「面白法人である以上、面白がってはたらく集団でありたい。その文化を築くには、報酬制度が大事だと気づいたのです」(柳澤さん以下同)

柳澤さん自身は上場企業の経営者であるため、株価を上げ企業の経済的価値を高めることを常に求められています。けれども面白さを追求するには、GDPとは違った軸が必要だと考えています。それは地域においても同様だと話します。
カヤックが鎌倉に本社を構えるのも、面白がってはたらくには経済的な効果だけではなく楽しさを優先すべきと考えたからです。鎌倉は、暮らす人のまちへの愛着が非常に高い。暮らすにも便利で、職住近接をかなえるには絶好のロケーションでした。

「会議室などのオフィスの機能をまちの中に分散させていて、社員は自然とまちなかを歩く仕組みにしています。まちの文化は、はたらく人に影響を与えるはず。また、集まる人によって文化は生まれ、文化がその地に馴染む人を呼ぶものです。会社のめざす姿に合わせて、はたらく場を選ぶのは大切なことだと思います」

オフィスマップのスライドを見せながら話す柳澤さん。

面白がる感覚をブレストが磨く

市内の20を超える企業・団体が参画する「まちの社員食堂」も、地元の活動から生まれたものです。厨房に立つのは、市内にある飲食店の料理人たち。プロのつくるランチやディナーを、週替わりで楽しめるしかけです。これまで70を超える飲食店が参加しました。食事をした利用者が後日店を訪れるなど、お店のPRにも一役買っていています。
こうしたアイデアが生まれる背景には、「つくる人を育てる」というカヤックの企業理念と、理念の実践としてブレインストーミング(ブレスト)を推奨する文化にあるといいます。

「誰かの人生を面白くさせるには、まず自分自身が面白がり、次にまわりから面白い存在と認められることで成り立つものです。それには主体的に楽しみ、周りを巻き込めることが大切です。そして物事を自分ごとにするカギは、アイデアを出すことだと気づいたのです。ブレストが日常化すれば面白いアイデアがどんどん湧くようになるし、面白くて幸せな気持ちにもなります。人と人とを近づける効果もあります」

カヤックのブレスト文化は、鎌倉の地域団体「カマコン」でも使われ、カマコンのフレームは全国に展開しました。

さらに、社内でのブレストを通し、地域と移住希望者をつなぐ「SMOUT」というスカウトサービスの開発にもつながりました。
地域との交流を通貨にした「まちのコイン」もカヤックならではのアイデア。鎌倉市のほか、小田原市や福岡県八女市などでの導入が進んでいます。
近い将来GDPなどの経済指標ではなく、アイデアや人とのつながりが重要な評価軸になると柳澤さん。まちを遊ぶには、面白がる“しかけ”がポイントのようです。

鎌倉ではたらく人々の憩いの場となっている「まちの社員食堂」。

隣のまちを羨ましがっても始まらない

プログラムの後半は、パネルトークです。最初にゲストパネリストの宮崎さんと芝辻さんが、それぞれのまちでのプロジェクトを紹介しました。

宮崎晃吉さんは東京藝術大学への進学を機に、谷中暮らしをスタート。その縁で、「最少文化複合施設」というコンセプトのもと、カフェやギャラリーなどが入るHAGISOを立ち上げました。築60年超のアパートをリノベーションしたものです。宮崎さんの会社ではHAGISOの運営を起点に、谷中にある複数の古い建物をリノベーション。宿泊施設のHAGISO hanareやコミュニティースペース、飲食店などを展開するようになります。
運営するうえで意識するのは、“まち全体”の視点です。例えばhanareにはお風呂や食堂はなく、宿泊客は近隣の銭湯やお店に出向きます。拠点を行き来しつつ、まちそのものを味わえるようなデザインにしているのです。
まちに潜むリソースは切り口しだいで無限に遊べると、宮崎さんは語ります。

HAGISOのベースとなったアパートの「萩荘」について話す宮崎さん。宮崎さん自身も下宿していたことがあり、思い入れがあった。

HAGISOの外観。地域の人が気軽に立ち寄る、交流拠点となった。

芝辻ペラン詩子さんは府中市在住のアーティスト。市内の市立美術館の学芸員やアーティストたちと、2015年にArtist Collective Fuchu(ACF)を結成しました。ACFでは市内に住むアーティストの活動拠点や公共施設、飲食店などを結び、市内を丸ごと会場に見立てた「暮らしと表現の芸術祭 フェット FUCHU TOKYO」を2016年より隔年で主催しています。初回の来場者数はのべ4000人、第2回の2018年にはのべ1万人を動員しました。
フェットでは出展者が主体的に企画運営し、各地で行われる展示やワークショップの内容や準備も、すべてアーティストと企画者に任せています。芝辻さんは「自分のまちを楽しむのは、かみさまでも役人でもない」と、自発性の重要性を唱えました。

暮らしと表現の芸術祭 フェットについて語る芝辻さん。

フェットではワークショップを行うアーティストも多く、子どもから大人まで楽しめる。

パネルトークでは宮崎さんと芝辻さん、そして柳澤さんと一緒に、遊びとローカルを考えます。モデレーターはおなじみ、リンジン編集長の北池智一郎です。

北池「やりたいことがあっても尻込みしてしまう人が多くいますが、今日ご登壇のみなさんは鎌倉、谷中、府中とそれぞれの地域で、住む・暮らす・はたらくを交えた遊びを実践されています。どのようなモチベーションでスタートされたのでしょうか?」

柳澤「ブレスト体質だと、思いついたらやりたくなってしまうもの(笑) ですから私たちの場合は、逆にアイデアを“寝かす”ことを意識していますね。ブレストでアイデアが次から次へと湧き出る中で、何年経っても残るものこそ、本当に“やりたいこと”なんだと思います」

宮崎「建築のしごとは、基本的にクライアントワークなんですよね。その意識が強いから、自分たちの衝動を満たすアクションを起こしたくなりました。HAGISOを立ち上げるときも1000万円の融資を受けましたが、最悪死に物狂いではたらけば、返せないものでもないかなって(笑)」

芝辻「フェットは自分たちが楽しめるかが肝心で、必ずしも対価を得られる活動ではありません。私は府中で生まれ育ち、文化色の濃い国立や国分寺などの近隣のまちを横目に『いいなあ』と思うこともあったけど、ずっとこのままでいいのか。府中にだってクリエイターやアーティストはたくさんいるので、プラットフォームさえ整えば、ボトムアップでアートなまちづくりはできるはずという考えからはじめました。こうした新しい活動に積極的なのは、むしろ最近府中に住むようになった人たち。行政も最近市民活動のサポートに力を入れるようになって、今は追い風と言えます」

宮崎さんたちがプロデュースした、谷中のまち一画を会場にしたまちなか結婚式。招待客はまちをめぐりながら、さまざまなしかけを楽しむ。

考えが異なっても嫌いにならない

北池「宮崎さんや柳澤さんは、元々はよそ者として地域に入られたと思いますが、地元の人たちとどう関係を築いていますか?」

宮崎「正直なことを言えば、否定的に見られることもありました。でも諦めずにコミュニケーションを図ることで、関係が変わることもある。最初はなかなか受け入れてもらえなかった方が今ではHAGISOの常連になり、息子さんがはたらいてくれています(笑) よそ者を排除するまちではないですね。今の町内会長さんも長野出身の方です。地域のことを考えて動いて実績をつくれば、信頼してもらえます」

柳澤「心理的な壁があるのは確か。でも、“いいまちにしたい”という思いが伝わるよう、意識的にコミットしていますね。大事なのは、対立構造をつくらないこと。端的に言えば、考えが異なっても相手を嫌いにならないことです」

北池「地域のしごとをするときは、地域特性をどう絡めていますか?」

柳澤「ビジネスと同様に、一定のフレームワークが存在しているように思います。冒頭で紹介したカマコンも、ブレストを通じて地域に関心を持ち、地域を愛するという流れの型があります。だからゼロから始めるのではなく、フレームを活かせばいい。ただし、単に当てはめるのではなく、地域によるテイストの違いを考慮する必要はあると思います」

カマコンには年代や居住歴を問わず、いろんな人たちが集まりブレストが繰り広げられる。

その後も活動する地域を選んだ理由などを話し合いながら、トークは終盤に。

北池「今気になっていること、チャレンジしたいことは何ですか?」

芝辻「団体名に“コレクティヴ”とついている以上、一人ひとりが自律し、対話を重ねながらやりたいことを実現できる仕組みを築いていきたいですね。台湾政府が導入している『リバースメンターシップ』を取り入れて、次の世代と一緒に考えて、何かできたらと思っています。最近ビジネスの世界でも、『アート思考』が注目されていますよね。自分軸で課題を発見し、アクションを起こしてみることをぜひおすすめします」

芝辻さん夫妻が運営する、アートスペース「メルドル」。民家を改装してつくられた。

宮崎「コロナショックによって、全世界の人々がほぼ同時に、自分から半径数百mの世界と向き合う事態となったのは、ものすごいこと。住む場所とはたらく場所を分けていたのが、家でしごとするようになったのですから。ベッドタウンもこれから大いに化ける可能性がある。そのカギは、遊べる人の存在だと思いますね」

柳澤「統計的にも郊外や地方への移住が増えつつありますし、面白くなるポテンシャルを秘めた地域は、まだまだ至るところにあります。私たちも、ちいき資本主義の取り組みに力を入れていきますので、一緒に面白くできたら嬉しいです」


地域の特色を生かし、それぞれで違った遊び方をしていたパネリストのみなさん。3人とも、ワクワクする気持ちにふたをせず、面白がることが行動につながっていました。
イベント中はチャットを介したやりとりも活発に行われ、盛況のうちに幕を閉じました。(たなべ)

プロフィール

柳澤 大輔

面白法人カヤック代表取締役CEO
1998年、面白法人カヤック設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリ、各種キャンペーンアプリやWebサイトなどのコンテンツを数多く発信。さまざまなWeb広告賞で審査員をつとめる。ユニークな人事制度やワークスタイルなど新しい会社のスタイルに挑戦中。著書に『鎌倉資本主義』(プレジデント社)、『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』(KADOKAWA)ほか。まちづくりに興味のある人が集うオンラインサロン主宰。
https://www.kayac.com/

宮崎 晃吉

建築家、株式会社HAGI STUDIO代表取締役
1982年群馬県前橋市生まれ。2008年東京藝術大学大学院修士課程修了後、磯崎新アトリエ勤務。2011年より独立し建築設計やプロデュースを行うかたわら、2013年より、自社事業として東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を展開。
http://company.hagiso.jp/

芝辻 ペラン 詩子

アーティスト、NPO法人アーティスト・コレクティヴ・フチュウ 創設理事長
武蔵野美術大学映像学科、The Surry Institute of Art and Design University CollegeBA(Hons)Animation 卒業。アニメーションディレクターとして、プロモーション映像などを制作。2007年より作家活動を開始。2011年、artist-run-space merdre メルドルをオープンし、企画運営に携わる。2016年地元府中とアーティストの活動をつなぐ活動母体としてArtist Collective Fuchu(ACF)を設立し、「暮らしと表現の芸術祭フェットFUCHU TOKYO」を主催。2018年ACFをNPO法人化する。
https://fetetokyo.com/

北池 智一郎

株式会社タウンキッチン代表取締役
大阪大学工学部を卒業後、外資系コンサルティングファーム、ベンチャー人材支援企業を経て、2010年にタウンキッチン設立。暮らしを豊かにするアイデアやチャレンジが増える地域づくりを目指して、行政、大学、企業等と連携しながら、創業支援やコミュニティ支援に取り組んでいる。
http://town-kitchen.com/

ちょうどいい郊外HERE
https://here-kougai.com/