「東京で流行ったものは、5年10年経ってからやっと田舎で流行る」。都会にいるとそんな笑い話がときどき聞こえてきます。四国・愛媛県の片田舎で生まれ育った私にとっては、心から納得すると同時に、馬鹿にされている気配を察知して悔しくもなります。
けれど、都会と地方の関係性は、私が田舎で暮らしていた10数年前とは明らかに変わってきているのを実感します。「そろそろ愛媛でもパンケーキが流行り始めたんじゃない」とからかわれながら帰省すると、ポートランドを目指したまちづくりを見て面食らい、雑誌を開けばパンケーキもハンドドリップ珈琲もサンドイッチもダッチベイビーも、東京と変わらない食文化を目にします。そればかりか、今や地方・郊外・田舎が、政治でもライフスタイルでもモテはやされている時代。地方から流行が生まれるというケースもめずらしくありません。
私の地元では、最近「あぁここも!」と言いたくなる光景が増えてきました。青々とした田んぼの真ん中に、突如洗練されたカフェがある。駅前の廃れた商店街には、地方産品を扱うセレクトショップでどこへ行ってもお目にかかるあの商品の本店。都会で一通りしごとをして、人生を見つめ直した30代のUターンラッシュが起こっています。
小商いの拠点を作ろうと思った若者が、東京でノウハウを学び、開業の場所として都心ではなく地方を選ぶ。いずれは生まれ故郷に戻りたいという動機も含め、土地や人といった資源を求め、地方で開業する人が多いように思います。
少し前の時代なら、地方でお店を開いたところで新しいものは理解されず商売にならなかったり、“都会にいるのが成功組”といったイメージも根強いものでした。それが、地方創生やまちおこし、さらには働き方改革といった行政やメディアの声によって、人々の視線が地方に向き、同時に、地方にいる人の感度も上がったことで、“地方で何かはじめる”という選択肢が一種のスタンダードになってきているように感じます。
都会で大成功するのではなく、地元に戻って新しいしごとを始めることが、今の時代の“故郷に錦”になっているかもしれません。創業支援や地域活性に携わっている私なら、都会の人がしごとの拠点にするシェア施設を作りたい。好きな環境を選んではたらけて、地元の人は、直接触れたことのない価値観や技術を感じられる。常識を壊して、本当に自分らしい生き方していくための可能性が広がると思うんです。(國廣)