そばではたらく
通勤時間1030

家族、スタッフ、まちとともに

三鷹市、武蔵野市で3店舗のライフスタイルカフェを運営するパブリック・スペース代表の鈴木佳範さん。一人の力だけではなく、家族や共にはたらくスタッフのみなさんと想いを共有し、“豊かな生き方”のあるまちづくりに取り組んでいます。スタッフの数も40人を超え、以前のような意思疎通が難しくなってきたという新たな課題もある中での挑戦が続きます。

「一緒に生きている」を実感できる暮らし

独立を考え始めたころ、鈴木さんの背中を押したのは奥様でした。「ハイファミリアは彼女あってできたようなもの」と鈴木さんは言い切ります。もともと専門学校で製図ソフト(CAD)を教えていた奥様は、ハイファミリアの設計図を引いてくれたそうです。それから、床や壁にはお金をかけた方が良いといったアドバイスや、店のメニュー表などのグラフィック関係を手がけていきました。パソコン作業や経理など鈴木さんの手が回らない部分を、しっかりと支えてくれたのです。

今でも共に店について考え、目配りをしているそう。だから「一緒に生きているという感じはめちゃめちゃしますよ。彼女がいなければ、はたらきかたも変わっていただろうし、今でも先立たれたらどうしよう……と不安で仕方ないです」。奥様へのリスペクトの気持ちをそんなふうに表現する鈴木さんです。

今は5歳と3歳になるお子さんもでき、家族4人で一緒に過ごす生活を何よりも大切にしています。「警察官だった父が、家族と一緒にいる時間を持つために駐在所勤務を希望するような人でした。その背中を見て育ったというのもありますし、イタリアでもそういう感じでしごとをしている人が多くて憧れだったんですよ。一緒の目的に向かって生きているという感じが」。鈴木さんの二人のお子さんが店に来ると、仕事中のスタッフたちが声をかけたり、遊んであげたりしてくれるそう。それは、家族で一緒に生きていきたいと思う鈴木さんが「見たかった景色」と感じる瞬間なのです。なんだかうらやましい生き方です。

“カフェ サカイ”“オンド”まで、西荻窪の自宅から愛車のVespaで約20分。“快適な通勤スタイル”だそうだ。

お金から解放されたとき、チャンスを掴める

“カフェ ハイファミリア”までに5年半、次の“カフェ サカイ”までが3年、そして“オンド”まで1年半と、店の立ち上げ期間や会社の規模は加速度的なスピードで進んでいます。その前進する決断を支えているのが、商学部だった学生時代に学んだお金の知識や考え方です。「お金から解放されたとき、つまり借金は怖くないと思え始めたころから、いつチャンスが来ても動けるように、常に準備を整えておくという考え方になりました」と鈴木さんはいいます。

こんなエピソードを教えてくれました。「ハイファミリアでギャラリーを貸しているお客さんに、『石神井公園で店をやったら絶対流行るよ』と言われてすぐその日、23時に店を終わらせ24時には石神井公園に行ってみたんです。そこで良さそうな空き物件があれば、借りる予定もないのにすぐに不動産屋さんに連絡を入れて家賃を聞く。そんなことをしょっちゅうしています。具体的な予定がなくても、相場を頭に入れておくだけなんですけどね」と笑います。その姿勢が、チャンスが来たときに「ほら来た!」とすぐに動けることにつながっているそうです。「どんな人にもチャンスは巡ってきます。でもそのときにお金の知識がなくて諦めたりするのはもったいない。投資をして、それでたくさんの人が幸せになる場をつくれるのであれば、借金なんてちっとも怖くないですよ」。

「はたらくことは、お金と切り離すかどうかじゃないでしょうか。『儲かる』という字は『信じる者』と書きますよね。自分の道を信じて進んでいる者のところにお金が集まるという意味かな、とも思っています」。ビジネスとして事業を継続させるために収益を上げることと、鈴木さん自身の夢を実現させる想いが絶妙なバランスで保たれています。

人を幸せにできる力

鈴木さんは今、40人以上のスタッフと一緒にはたらいています。奥様と二人で立ち上げた“カフェ ハイファミリア”のときから、鈴木さんの目指す店やまちづくりについてスタッフと意識を合わせていくことを大事にしてきました。特に若いスタッフには、お金の価値を知ることの大切さをよく話すそうです。例えば、同じようなデザインで3万円と3000円のシャツがあったとします。“お金がないから3000円のにしよう”という選択を続けていると、結局、本物の良さに触れることもできないし、3000円でそのクオリティでつくられるシャツのすごさも分からないままになってしまう。だから、若くて違いが分からないうちに3万円の価値に触れておくことも大切だ、と伝えるのだそう。

鈴木さんは、スタッフにも“たくさんの人を幸せにしたい”という気持ちではたらいてもらいたいと話します。決して楽なしごとではないけれど、その気持ちがはたらくことへの誇りに繋がってくれると嬉しい、とも。鈴木さん自身も常にその想いを胸に日々を過ごしています。だから、休みの日でも完全にオフモードになるのではなく、多くの人が訪れる町並みを見に行ったり、美術館や店を訪れたり、おいしいものを食べたりと、感性を刺激される場所やものを頭にインプットして、新しい構想につなげています。「結局、いつもしごとをしている」と笑う鈴木さんですが、その笑顔はとても幸せそうでした。

最後に「独立からの10年間で、最大のピンチはいつでしたか?」と尋ねると、「ピンチ?常にピンチですよ」と思いがけない答えが返ってきました。大胆さと繊細さ、現状に満足しないハングリーさを持つ鈴木さん、この国をカフェであふれる景色にするしごとはまだまだ続いていきます。

プロフィール

鈴木佳範

パブリック・スペース株式会社 代表取締役。岩手県出身。大学卒業後、三鷹のライフスタイルショップ「デイリーズ」を経て28歳で独立。現在、カフェ2店、デイリーアクセスショップ1店を経営する。

Cafe Hi famiglia(カフェ ハイファミリア)

http://www.hi-famiglia.com

Cafe Sacai(カフェ サカイ)

http://www.cafe-sacai.com

ond(オンド)

http://ond-craftfood.com/