[編集長の酒場談義]旅するように、はたらく/西山佳孝さん

2018.04.19
[編集長の酒場談義]旅するように、はたらく/西山佳孝さん

リンジンの新シリーズがスタートします。その名も編集長の酒場談議。リンジン編集長である北池智一郎が、今気になる人を近所の酒場に招いて、根掘り葉掘り聞き倒します。

初回のお客様は、全国津々浦々を飛び回り、行政や民間企業と一緒に地方のしごとに取り組む西山佳孝さん。旅するようにはたらく、その生き方をお聞きします。

1杯目は乾杯のビール、2杯目から北池はハイボールへシフト。
1杯目は乾杯のビール、2杯目から北池はハイボールへシフト。

全ては興味を持つことからはじまる

北池
今、タウンキッチンのしごともしてもらってますが、それ以外にも、いろいろやってますよね。グーグルカレンダーでスケジュールを共有しているけど、ほんと、全国各地を飛び回っている感じ。たまに海外を挟んだり(笑)。今ってタウンキッチン以外のしごとっていくつぐらい抱えているの?

西山
そうですね、日本地図を南から、沖縄、奄美、鹿児島、水俣、長崎…と、まあ15から20ぐらいです。

北池
そんなにあるんだ。そのそれぞれで、行政とか民間企業から個人としてしごとの依頼を受けているんですよね。営業バリバリやっているイメージがないけど、どんな風にしごとがはじまるんですか?

西山
6〜7割ぐらいが行政で、それ以外が民間企業です。お金に執着しすぎないということは意識してますかね。はじめはお金をもらえるかどうか分からないけど、面白そうな取り組みに声をかけてもらえれば、とにかく行ってみる。そのスタンスを取っているので、色々なところから声を掛けてもらえるようになってきたんだと思います。

北池
なるほどね。でも、そうは言ってもお金は大事ですよね。「大事なのはお金じゃない、気持ちだ!」みたいな思想は理解できるけど、とは言え、みんなが気になるのは、やっぱりお金の稼ぎ方ですよね。

西山
たしかに、気持ちだけではご飯は食べていけないですからね(笑)。でも、本当に、シンプルにいろんな面白そうな話を聞きに行くことというところからはじまってるんですよ。

北池
どんな所で、そんな面白そうな話が聞けるの?

西山
単純ですよ。興味あるなしに関わらず、とにかく誘われた飲み会にはとりあえず出席するようにしてます。もちろんその場でしごとになる話、ならない話ありますけど、酒場からすべてのしごとは始まっている、といってもいいかもしれないですね。

北池
なるほど。

西山
でも、お誘いいただいた席で相手と深く話していくと、大抵の場合、そこには困りごとがあって、そこで僕自身も興味を持てれば、じゃあまずは現地に行きましょうかってなるんです。

北池
そこでビジネスにつなげる構想を練るんだね。
西山さんみたいに、個人で地方のしごとをやりたいという人ってたくさんいるような気がするけど、西山さんみたいになるにはどうすればいいの?

西山
そうですね。最低限の旅費や手当が出る仕組みは結構あるんです。最初の切り口はそこからですね。専門家派遣とか、アドバイザー事業とか。いくつかそういうのがあるんですよ。

北池
案件になりそうな話があって、「じゃあ一回、現地に行きましょうか」ってなったときに、お互いに持ち出しを無くすために、制度を活用するってことですね。そういったお役目をいただいて、そこから最低限の旅費はもらえてるんなら、気持ち的には楽ですね。

西山
そうですね。この仕組を使うとお互いに負担がないので、地方に行く最初の切り口としては有効な手段です。

実はグルメな2人。おつまみにもそれぞれのこだわりが。
実はグルメな2人。おつまみにもそれぞれのこだわりが。

北池
実際に現地視察に行って、しごとにならないこともあるの?

西山
ありますけど、それは稀ですね。

北池
ちゃんと、案件化してるんだ(笑)。

西山
地域の中で何かやろうとしてる人って、人の繋がりや関係性を必ず持っているんですよ。そういう関係性を紐解いていく中で、前に進めるための方法を探っていく感じですかね。

北池
わかるような気がします。「お金がない」とみんな言うけど、あるところにはちゃんとあるんですよね(笑)。額の大小ではなく限られたリソースの中で、いかに情報を集め知恵を出していくか、というのが大事ですよね。

3杯目、北池は再びハイボール。西山さんは引き続きビール。
3杯目、北池は再びハイボール。西山さんは引き続きビール。

多拠点でのしごとは成り立つのか

北池
多拠点で活動するというはたらき方って、流行ってきてますよね。そういうはたらき方に憧れる人が増える一方で、実際に成立するのかどうかは気になるところです。

西山
そうですよね。二拠点だと想像しやすいんです。たとえば、通常は東京でしごとをしていて、週末は少し離れた田舎で過ごすっていう暮らし方。ポピュラーなのは、千葉とか山梨とか伊豆とか。制約こそありますが、実現可能な暮らし方ですよね。でも、東京と東北、東京と九州の二拠点って、さすがに想像しづらいじゃないですか。でも、そういった地方にこそ、本当はいろんな困りごとがあると思うんですよ。

北池
今はLCCとかもあるし、距離の制約はなくなりつつありますよね。

西山
でね、実は地方のキーマンって、ちょこちょこ都会に来てるんです。しごとやお金って、結局都会に集中してるんですよね。やっぱりまだまだ物事は東京で決まってる感覚はありますね。

4杯目、西山さんはビールをおかわり。北池は3杯目を継続中。
4杯目、西山さんはビールをおかわり。北池は3杯目を継続中。

北池
私の勝手なイメージなんですけど、行政の人たちって、他の行政の動きを知りたがっているのかなって。そういう意味では、西山さんっていろんな行政でモデル性の高い事業を立ち上げているので、その情報は宝なんだろうな。

西山
もしかしたら、求められているのかもしれないですけど、自分自身で、それはあんまり意識したことないですね。
私が最近気になっているのは、地方と地方という関係性についてです。どうしても、東京と地方という構図が生まれてしまいがちなんですが、あえて、地方同士で完結できる道を探りたいんです。そこに多拠点で活動できるヒントがあるのかなと思っています。

北池
そこにビジネスチャンスというか、しごとの種があるっていうこと?

西山
それは、まだわからないですね。でも、二拠点ではなく、多拠点という視点は面白いなと思ってます(笑)。

移動中こそ、しごとの時間

北池
でも、そんなに全国各地を飛び回ってると、移動時間も相当長いですよね。移動中は何してるの?

西山
移動中って、逆に集中できるいい空間なんですよ。だから、集中しないとできない作業をしてます。九州ってちょうど良い距離なんですよ。一時間半から二時間ぐらいあるので、まとまった作業時間がとれるんで、結構貴重なしごとの時間なんです。

北池
企画作りとか、資料の読み込みとか。図書館に行ってるみたいな感じですね。

西山
そうですね。あとは、次に提案しないといけない課題をぼんやりと考えていたりとか。

北池
そのアイデアって何を使って蓄積させてるの?アイデアノートとかですか?

西山
わたしはあんまりノートを使わずに頭で考えることが多いですね。でも、たまに使うのはタブレットのメモ帳機能とかですね。すごく地味ですよ。
最近では、飛行機内でもネットがつながるようになっちゃって、貴重な時間が脅かされてるんですよ。だって、ネットがつながっちゃったら地上にいるのと一緒じゃないですか。

北池
たしかに。

西山
あと移動中ということであれば、僕よく歩くんですよ。特に朝とか。打ち合わせの場所まで一時間かかっても歩いちゃいますね。

北池
よく歩いてるよね。

西山
歩いてるときって、それこそ歩くことしかできないから、考え事がしやすいんです。そうすると色々と思いつくんですよ。「あの頼んでいた作業どうなったかな?」とか「あのスケジュール調整止まってるな」とか「あの案件、そろそろ詰めていかないといけないな」とか。人に依頼できる作業ならその場で電話して確認できますし。

北池
確かに、歩くのはいいよね。自転車とか自動車を運転してるときって全然考えられない。結構、運転に集中しなきゃいけなくって。長距離バスとかは、すごい考え事できるけど。

西山
歩いているとなんかリズムがあって、脳が刺激されるんですよね。

西山さんのペースが上がり、5杯目に突入。
西山さんのペースが上がり、5杯目に突入。

これからのはたらき方

北池
サラリーマンを辞めて独立しようとか、フリーで動いてて次のステップを探っているとか、これから、副業とか多拠点とかの言葉がもてはやされていくと思うんですけど、それに向いている人、向いていない人の違いってなんだと思いますか?

西山
それ、よく聞かれるんですよ。同じ枕でないと寝れないという人は向いていないですね。

北池
(笑)。逆にそれ以外は特にないってこと?

西山
そうですね…。結局のところ興味があるかないかですかね。「西山さん全国飛び回って体力ありますね」って言われるんですけど、いやいや、僕だってそれなりに疲れてるはずなんです。自覚症状はないですけど(笑)。でもね、それよりも興味が勝っていれば、苦にはならないです。今、メキシコでのしごともしているんですが、メキシコって未知なる香りがするじゃないですか。そこに興味があるかないかと言われたら、やっぱりあるので。

北池
少年のようですね(笑)。

西山
例えば奄美大島で言うと、島自体が南北に長いんですけど、空港が北側にあって、関わらせてもらっている場所は南端にあるんです。島なのに移動するのに車で二時間ぐらいかかるんですよ。でも、面白そうじゃないですか?

北池
興味が優っていることが大事ですね。

幼いころは地図を眺めるのが好きだったという西山さん。
幼いころは地図を眺めるのが好きだったという西山さん。

北池
地方創生とかって言葉が叫ばれてずいぶん経ちますが、この流れが今後どうなっていくと考えてます? 特に地方と郊外についてとか。

西山
淘汰されていく時代がくるんじゃないんですかね? 地方も郊外も。東京以外だとしたら、関西圏、福岡、札幌、仙台、名古屋とかは残るとは思いますよさすがに。でもそれ以外は厳しいんじゃないかなあ。

北池
淘汰ってどんな状況? 消滅しちゃう?

西山
今でも、人口が減って集落がなくなってしまう状況になっています。今はまだ、集落レベルですが、それがもう少し大きな範囲でなくなってしまうのではないかと。一万人規模の市町村だとそんなことにならないと思う方がほとんどだと思いますが、でも、時間が流れてくると、それも起こってくるんじゃないかなと思うんです。ただ、私自身そこには悲観的ではないんですけど。

北池
どうして?

西山
その地域が、楽しくやっていれば、消えないと思うんですよ。

北池
それは楽しく暮らしていれば、人は自然に集まってくるってこと?

西山
まあ、それもありますけど、極端な話、楽しくさえやっていれば滅んでもいいとさえ思っているんですよ。

北池
時代の大きなうねりには抗えないよね。人が集まりやすい場所とか、共通しているものがあることって感じる?

西山
便利なところですかね。

北池
現実的(笑)。じゃあ、もし移動禁止令が発動されたら、どこに留まります?

西山
うーん、求められているところにとどまるんじゃないですかねえ。

北池
そうなんだ!「ここに行きたい!」っていう希望とかはないの?

西山
そうですね。実は、これまでも質問されてきた中で、一番面倒くさい質問があって。「今ままで一番良かったところでどこですか?」なんですよ。“良かった”ところってなんだろうと。例えば、沖縄は海がきれいと魚が美味しいかと、それって相対的なものじゃないですか。もっと南下すれば、たくさんいい場所はあるし。選択肢がある中で、この地域、っていうのはあるかもしれないですけど。自分の中で、そこにいたいっていう場所ってはないですね。

北池
そうなんだ。

西山
旅するようにはたらくを目指してやってきたわけではないんですよ。「困りごとがあるんだったらどこへでも行きます」というようなスタンスでいたら、結局旅するようにはたらかないと、やっていけなくなっちゃって(笑)。

北池
これからも、たくさんの地域へ旅するんだろうね。たまには私も誘ってね。

今日の酒場は、JR東小金井駅南口の商店街から1本路地を入った場所にある酒美飯囲ひろし。
今日の酒場は、JR東小金井駅南口の商店街から1本路地を入った場所にある酒美飯囲ひろし。

プロフィール

西山佳孝

株式会社タウンキッチン執行役員、東シナ海の小さな島ブランド株式会社経営企画室長。起業・創業支援やその後の経営支援を行うほか、公民連携や地方創生の視点での専門家派遣、自治体の政策や社会教育施設運営のアドバイザーなど多数の役職を兼務する。

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