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閉店する喫茶店の文化を紡ぐ

村田商會は、閉店した喫茶店の家具や食器などを引き取り、インターネットショップやイベントなどで販売するという業態で2014年に開業し、これまでメディアにも多く取り上げられています。店主は、長年にわたり全国の喫茶店をめぐり、会社員を経て起業した村田龍一さん。長年の趣味が生業になった経緯と、喫茶店に寄せる思いをお聞きしました。(取材日:2020年3月12日)

閉店する喫茶店を引き継いで

JR西荻窪駅北口から徒歩2分という好立地にある喫茶店。店頭にはコーヒーカップ型の「村田商會」のサイン。一見すると昭和の喫茶店のおもむきそのもののこのお店は、45年間この場所で営業を続けてきた「POT」という喫茶店を村田さんが居抜きで引き継ぎ、村田商會として2018年12月にオープンしました。

カウンター5席、4人掛けのテーブル席が2卓と、コンパクトな店内の内装は、POT時代からほとんど変えず、昭和レトロな雰囲気。全国の純喫茶メニューを参考に、村田さんが好きなものを揃えています。

販売する家具のほとんどは練馬区に借りている倉庫で保管し、主にインターネットショップやイベントで販売、一部をお店で展示しています。家具などはリペアを施し自ら配送もしているとのこと。両立は大変なのではないでしょうか。

「月・火は喫茶店を連休にしているので、どちらかは仕入れや倉庫でのメンテナンス作業などをしています。あとは開店時間の前後で作業したり。どうしても長時間労働になってしまいますね」

村田さんがこの場所を喫茶店として引き継ぐことを決意したのは、いろいろな条件が揃っていたことが大きかったそうです。廃業する喫茶店は建物ごと壊すことが多いそうですが、POTはビルの1階にあり耐震性は問題なく、駅からのアクセスは抜群。コンパクトでひとりで切り盛りできるちょうどいい広さ。 このままの状態で、誰か引き継げる人はいないだろうか。閉店を知り、家具の引き取りについてマスターと相談しているうちに、村田さんの思いは高まっていきました。

喫茶店をやりたいという知り合いに持ちかけたもののすぐに決断とは至らず、マスターとそんな話していたとき、たまたま居たお客さんに「あなたがやったら」と言われ、心が動きます。ネットショップをはじめて4年、イベントでの売上の比率が高くなってきていたこともあり、リアルな店舗がほしいと思い始めていた矢先のことでした。

「自分もいつかは喫茶店の主人になったら楽しいなという思いはありました。コーヒー淹れるのも料理をするのも好きでしたし。でもそのために準備していたわけではなかったので、迷いに迷うところだったんですけど、こんないい条件のいいところはなかなかないので、思い切ってやってみようと」

家具・食器販売と並行して、喫茶業を始めることを決めた村田さん。多くの人によろこんでもらえるようにしたいと考え、参加型のリターンを用意してクラウドファンディングで出資を募った結果、70万円ほどが集まり、喫茶店好きの輪も広がりました。

クラウドファンディングで得た資金で、長年の使用で痛んでいた水回りを改修

入口すぐのことろに食器などを展示販売。喫茶を利用しない人も利用できる

純喫茶との出会い

こうした村田さんのチャレンジには、根底に「喫茶店文化を残していきたい」という熱い思いがあります。本や漫画が好きで大学では日本文学を専攻し、時間があると古書店めぐりをしていた村田さんが純喫茶と出会ったのは19歳のとき。アルバイト先の先輩が中野にあった老舗店「クラシック」(2005年に閉店)に連れて行ってくれたことがきっかけでした。

「当時すでに建物はかなり古くて床が傾いていて、レトロを超越したような感じでした。こんなに古い建物で営業して賑わっていることにびっくりでした。こんなお店があるんだなって」

純喫茶に興味を引かれた村田さんは、ほかの店にも行くようになり、古書店で買った本を純喫茶で読む、というのがその後会社員になってからも休日の楽しみになりました。服や雑貨を扱う全国展開のお店に就職し、転勤や出張で各地の喫茶店を訪れることも多く、休みを利用して全国の気になる店を訪れていたそうです。この頃はまだ、喫茶店は趣味の範囲でした。

コーヒーが一般的になった1960年〜1970年代に相次いで開業した喫茶店は、オーナーが高齢になり始めた2000年位くらいから、チェーンのコーヒー店の台頭の影響もあり次々と廃業していきます。そんな状況を感じていた頃、お気に入りの店が閉店し、捨てられてしまうというテーブルと椅子のセットを譲り受けます。

通っていた時からその店の家具が気に入っていた村田さん。もらったテーブルと椅子のセットは、現在も自宅で愛用しています。当時は販売などは考えていませんでしたが、喫茶店についてSNSで発信をはじめ、喫茶店好きの仲間とつながるようになってから、自分のほかにも捨てられてしまう家具が欲しいという人はいるだろう、潜在的な需要があると感じるようになりました。

調理は独学という村田さん。昭和の純喫茶メニューだけでなく、季節のオリジナル商品も

村田さんの著書「喫茶店の椅子とテーブル〜村田商會がつないだこと〜」(実業之日本社)では、これまでに関わった喫茶店のエピソードを豊富な写真とともに紹介

会社を辞めて起業する

新卒で入社した会社で10年以上つとめ管理職になった頃、人を束ねるしごとは向いてないという気持ちが大きくなり、退職することに。次を決めないままとりあえず組織を離れた村田さんでしたが、また会社員になっても同じことになるのではという気持ちがあり、半年ほどはぶらぶらと旅先で喫茶店を訪ねたりしながら、今後のイメージを模索していました。

「しごととして明確に考えたわけではないけど、喫茶店から引き取ってきた家具を自分が気に入って使っていて、ほかにも欲しいという人はいるだろうなと。でも売っていないなと。何となく思っていて。これを形にしたら面白いな、とは考えていました」

退職して半年ほど経った頃、一度その思いを実行にうつしてみようと、練馬区で倉庫を借り「村田商會」としてインターネットショップを開設しました。喫茶店好きとして情報発信していた村田さんは、たびたび閉店するお店の情報を得ていました。家具の引き取りの交渉は、自ら出向いてお店の様子を伺い、店主の話をじっくり聴いて、こちらの意向も伝えながら、丁寧に進めていくそうです。

閉店する喫茶店の家具や食器は、アンティークでも骨董品でもないため市場には出回らず、高価なものや新しいもの以外は捨てられてしまうことがほとんど。 村田さんはただ販売するだけではなく、使われていた喫茶店のエピソードを紹介し、その商品の背景にある歴史や文化などを付加価値にしています。長年にわたり喫茶店を愛好してきた村田さんならではの視点が、新しいビジネスを生んだといえるでしょう。

「自分が楽しむだけではなく多くの人によろこんでもらえて、それがお金になるということはとてもありがたいことです」

店内の本棚には、喫茶店や珈琲に関する本が並ぶ

残していきたい喫茶店文化

喫茶業を始めてまだ1年と少し、試行錯誤しながら日々忙しくしている村田さん。閉店する喫茶店から引き取りの依頼を受けることも増えているそうです。2019年に閉店した西東京市のくすの樹は、先方から相談を受けて展示販売の企画を担当。当日は大雨にも関わらず、閉店を惜しむたくさんのお客さんが訪れました。

「喫茶店好きというよりも、くすの樹のファンが来てくれた感じで、普通だったら売れないようなものもほぼ全部売れました。オーナーもよろこんでくれて、大変でしたけど楽しかったですね」

村田さんが提供しているのは、好きだった喫茶店の思い出の品をみんなで分けるような体験や、そのお店にまつわるストーリーそのもの。そんな村田商會はこれから、どんな展望を持っているのでしょうか。

「愛されてきた古いお店が、多少かたちは違っても残っていけたらいいなと思うので、同じような思いを持つ方の助けが出来たらと。また、閉店を考えている喫茶店のご主人に、あたらしく喫茶店をやりたいと考えている人を紹介してバトンタッチできるようにしたい。自分が商売を広げたいというよりも、そういう流れができるようになればいいなと思っています」

喫茶店をやりたいという人から相談を受けることもあるという村田さん。若い人がお金をかけて一からお店をはじめるのはハードルが高いけれど、引き継ぐという選択肢が加われば可能性が広がる。そういう価値観をもつ人を紹介し、つないでいきたいと考えているそうです。

「相談されたときに、大丈夫ですよ、と言えるように、まずは自分がこの喫茶店をがんばらないと」 という村田さんの言葉から、喫茶店文化をつないでいきたいという思いが伝わってきます。惜しまれつつ消えていく古い喫茶店の灯火が、かたちを変えても次世代に受け継がれていく。文化をつくり、しごとをつくる村田さんのはたらきかたは、これからの時代に生きるヒントを与えてくれています。(安田)

「お店を残してくれてありがとう」というお客さんの言葉に象徴されるように、古いものを大切にする西荻のまちに溶け込んでいる

プロフィール

村田龍一

1981年東京都練馬区生まれ。会社員を経て2014年に村田商會を立ち上げネットショップで販売を開始。2018年に西荻窪のPOTを引き継ぎ喫茶の営業も始めた。イベント出店や展示企画なども行いながら、喫茶店文化を発信している。

※5月現在、店舗は新型コロナ感染症の状況に鑑み臨時休業中です。最新情報はホームページ、ツイッターでご確認ください。
ホームページ https://muratashokai.theshop.jp/
ツイッター https://twitter.com/muratashokai