2020年の東京オリンピックまであと2年。各種目の中でも特に盛り上がりを見せているのが陸上競技。今回のお客様は100メートル走の選手として海外大会2位の実績を持ち、現在は子どもたちにランニング教室をおこなっている荒川さん。アスリートのセカンドキャリアに課題意識を持つ彼が、今のしごとにたどり着くまでのお話をお聞きします。
北池
久しぶりですね。お忙しそうで
荒川
はい、夏休みは1年で一番の稼ぎ時なんです。毎日、朝から晩までびっちりプライベートレッスンに追われていました。夏休みが終わって、ようやく一段落です。
北池
毎日、朝から晩まで?!それはすごい。荒川さんが東小金井のシェアオフィスを使ってたのは3年前ぐらいだね。当時は生徒さん集めに苦労していたけど、見違えましたね。
荒川
金脈を見つけましたよ(笑)というのは冗談ですが、おかげさまで生徒さんがすごい増えました
北池
結構、稼げたみたいだね。どんな人がお客さんなの?
荒川
都大会に出るような子どもたちもいますが、結構、普通の人が多いです。子どもの頑張る姿を応援したいっていう親の気持ちはすごいですね。東京以外から来られる人も結構います。
北池
最近はNHKのEテレにも出演してましたね。
荒川
テレビに出たからといって、急に生徒さんが増えるわけではないんですが、でも大きいイベントに呼ばれるようになりました。あと、自分が何者なのかを知ってもらえるのは良かったですね。
北池
確かに、親からしたら子どもを預ける訳だし「あんた何者なんだ」ってなるもんね。Eテレ出演ってのは、かなり親の安心につながりそう。
荒川
そうなんです。自分より走るのが速い人ってたくさんいるんです。でも、毎日毎日子どもに走り方を教え続けてきたので、教えることにかけてはプロになったのかなって。そのことを自信を持って人に言えるようになりました。
北池
振り返ると、ブレークしたきっかけはあったの?
荒川
はじめた当時は、プライベートレッスンを一回3000円でやっていたんですが参加者は増えなかったんです。それで、思い切って5000円にしたら、何故かお客さんが増えて。それで、さらに単価を上げて8000円にしたら、お客数は変わらなかったんですけど、リピート客が増えました。良いものと分かったら続けてくれるんですね。今は9000円を頂いていますが、月10回もプライベートレッスンに来てくれる人もいます。
北池
結構なお月謝になりますね。
荒川
はい、でも特にお金持ちとかではなく、普通のご家庭のお子さんです。子どもが頑張ってる姿を親はやっぱり応援したいんですね。
北池
なるほどね。走るのが早いって子どもの自信に繋がりますよね。特に運動会とかで1番になると親として誇らしい。その自信を持ち続けさせたいという気持ちもあるんだろうな。
北池
あとは、創業当時から続けているwebメディアがありますよね。
荒川
はい、スポーツクラウドというメディアで、アスリートが体のメンテナンスやトレーニング方法について記事を出しています。おかげさまで、今では月250万ぐらいのページビューをいただくメディアに育ちました。
北池
月250万とはすごい!はじめた頃はどんなもんでした?
荒川
はじめたのは3年前で、2年前が月50万ビューぐらいでした。
北池
今の状況は、2年前には見えてなかった景色ですよね。流れを作るまでは苦労したけど、乗り出すとそのまま進んできた感じなのかな。
荒川
そうですね。最近は広告費を一切かけなくても、自然にビューが伸びるようになりました。記事のクオリティを下げることなく続けてきたからなのかな。おかげさまで、今では独自に企業広告をいただくまでになりました。
北池
やっぱりコンテンツがいいから、つみあがっていったんですね。ほかにはどんな事業をやってるの?
荒川
あと整体院をやっています。メディアもランニング教室も整体院も全部つながっているんですよ。メディアで宣伝して、ランニング指導して、 怪我してしまった人に対しては整体で、と。
北池
ゆりかごから墓場まで、じゃないけど、アスリートにとって無くてはならない事業に育ってきているんですね
北池
振り返って3年前に東小金井のKO-TOにいたときはどんな感じだった?一回、荒川くんの顔が真っ青で、どうしたのって聞くと『北池さん、やばいです。貯金が尽きそうです』って言われたことあるけど、覚えてる?
荒川
覚えてますよ。一番やばいとき残高が1024円でした(笑)毎日、もやしを焼いて食べてましたよ。
北池
アスリートとしてあるまじき食生活(笑)そのとき『アルバイトして収入を得ろ』ってアドバイスした記憶があるけど。起業した人がアルバイトするってプライドが許せないような気がするけど、でもやっぱりお金は大事だからね。お金がないと、せっかくの事業も続けられないし。
荒川
はい。でも、結局バイトはしなかったんです。やばいって言いつつ、お金が入りそうな気配があって。まあ大丈夫だろうと意外に楽観的でした。
北池
あと聞きたかったのは、創業する前に一橋大学のMBAに通ってましたよね。MBAは役に立った?
荒川
社会人でも陸上を続けましたが、実業団の廃部も相次ぎ、アスリート一本で食べていけないとわかりました。周りの仲間も同じような状況で、これからどうしていけばいいのかわからず、とにかくMBAに行って経営の知識をつければ何か変えられるだろうと思ったんです。
北池
実際どうだった?
荒川
多面的に物事を見られるようになりました。経営のことでは一通りの知識を得られ、分からないことが出たとしてもどうやって調べればいいかを知ることができたのが良かったですね。それに、色んな人がいて、色んな意見をもらえたのも大きかったですね。
北池
もう経営者として完璧ですね(笑)
荒川
いえいえ、あくまで理論を学んだだけで、実践は別物です。本当に自分は経営のことがわかっていないなあと。今でも向いてないって思っています。ついこの前まで、人をマネジメントすることに違和感しかなかったですし(笑)
北池
荒川くんは、アスリートのセカンドキャリアをなんとかしたいって思いで起業したんだよね。早く走ることを追い求め、でも全員がウサイン・ボルトにはなれず、99%以上の人たちが走るということから離れたしごとをしないといけない。
荒川
そもそも陸上は、中学とかの時点で先生や親から「将来、稼げないから辞めたほうがいい」って言われるんです。陸上はつぶしがきかないからと。そして、実際に大人になるまで陸上をやっても、残念ながら競技でやってきたことを社会で認められないんです。
北池
なるほど。野球やサッカーと違って、陸上ってそういう競技なのかもしれないね。
荒川
たまに、体育会系の人間は気合と根性があるので営業マンに向いている、みたいな話もありますが、それって精神論に過ぎず、競技で鍛えてきたことを活かしているわけではないんですよね。自分たちが人生を賭けて取り組んできたことを、もっと社会に活かしたいって思ったんです。
北池
うんうん。
荒川
それで、水泳や体操だったら、子ども向けの教室が全国にあるので、競技者として退いた後も、経験を活かすしごとがあるんです。だったら、陸上もスクールがあればしごとがつくれるな、と。世にないなら自分で作ればいい。かけっこの教室も絶対にニーズがあると思ってました。
北池
もともと市場がなかったところに、新たに生み出すのってすごいね。
荒川
価値がないから市場がないのではなくて、みんな価値を知らないだけだと信じていましたね。特に根拠があったわけではないですけどね(笑)
北池
これまで事業を続けてこられたのは、事業への強い思いがあったからこそなんですね。
荒川
いや、実はそれだけじゃないんです。もう一つ、父親との約束というか。
北池
と言うと?
荒川
もともと、弱い自分が嫌で、強くなりたい一心で陸上をはじめたんです。人に自慢できることがほしかった。それでがむしゃらに練習して、陸上選手として筑波大学を目指すことにしたのですが、父親から猛反対されてしまったんです。もう家から出て行け、みたいな。
北池
あら。でも、まあどこの家庭でも、そういう話ありますよね。
荒川
父親の期待には答えたいという気持ちはありつつ、でも言いなりになりたくないという思いもあり。それで陸上で成功するまでは地元の福井には帰らないという覚悟で筑波に行きました。その後、実力をつけて、地元福井の大会で優勝できたときは本当にうれしかった。
北池
それで、ようやくお父さんにも認められた。
荒川
いえいえ。それが、まだ全然だめでした。その後、起業することになったときも大反対で。
北池
つらいね。
荒川
でも、ようやく事業として軌道に乗り出し、年収が人並みになって報告したときに、やっと認められました。この前、実家帰ったら、NHKのEテレに出演したときの写真が部屋中に貼ってあったんです(笑)
北池
やっぱり子を応援しない親なんていないんだね。でもなんかわかるな。父親にとって、息子は永遠のライバル、みたいなところがあるのかもね。そう簡単には認められないっていうか。
荒川
親を裏切りたくない気持ちが強くて、事業をやめる訳にはいかなかったんです。最後は、そこが一番強かったですね。覚悟ができました。
北池
今後の方向はどう考えてます?社会的な広がりを考えると荒川くんはプロデューサーになった方がいいようにも思うし。あるいは、そもそも広げたいと思っていないとか?
荒川
無理に広げる必要もないのかなって思い始めています。最近は大手企業から声がかかることもあるんですが、情熱があってちゃんと広げようという気持ちがあるかどうかっていうのを大事にしています。
北池
なるほど、濃度を薄くしてまで広げようとは思っていないってことね。有名になると、いろんな人が寄ってくるしね。
荒川
最近、中学3年の子どもに「どうやったらスポーツクラウドに入社できるの?」と聞かれたことがあって「スポーツでお金をつくるのは簡単ではないけど、 陸上を頑張ってプロフェッショナルになったら入れるかもしれないよ」って真剣に答えました。本気で陸上をしごとにしたいと思う人がいられる場はつくっていきたいですね。
北池
教え子が、自分のしごとに憧れを持ってくれるのはうれしいですね。
荒川
はい。それに、もしこれからランニング教室の認知が広がり、市場が拡大してきたら他にもやる人がでてくるだろうと思います。でも、市場を取り合うのではなく、市場全体を盛り上げていければいいなあと。その時に、自分がスタンダードになっていると最高なんですけどね。
北池
うんうん、荒川くんにはこれからも、業界を背負うぐらいの気概で突き進んでほしいな。これからもがんばってね。
元陸上選手で、筑波大学体育専門学群を卒業後、一橋大学大学院に通いMBAを取得。在学中の2014年にランニング・コネクションを起業。小学校教員免許、中・ 高保健体育教員免許も所有。
「ランニング・コネクション」
http://ランコネ.jp
「スポーツクラウド」
http://sports-crowd.net