高架下白地図に描くまちづくり

2020.11.06
高架下白地図に描くまちづくり

近所に空き地ってありますか。子どもの頃には公園のように遊んだり、野良猫が溜まっていたり、工事をはじめると何ができるんだろうとワクワクしながら観察したものですが、最近、めっきり目にしなくなったように感じます。

平成に入った頃から、連続立体交差事業として、日本中で本格的に行われてきた鉄道の高架化。“開かずの踏切”問題も話題となり、朝のラッシュ時間帯には1時間に約1分しか開かない武蔵小金井駅近くの小金井街道踏切が全国ニュースで幾度となく放送されました。
線路が高架化され、地上にできた高架下。工事が完了する毎に距離を伸ばしながら、何キロもの線状空間が生まれました。今でも全国各地で、JR、私鉄ともに高架化工事は続いています。ここをどう使うか。コロナ禍の只中、都市のあり方、郊外や地方の価値が大きく見直された今、この特徴的な空間は、これからの時代を描くキャンバスに見えてきます。

今は、スクラップ&ビルドではなく、リノベーションによる空き家利活用に代表されるように、あるものをどう活かすかを問い直している時代でもあります。その中で、高架下は格好の“空きキャパシティ”です。人の暮らしに近いエリアはほとんどの土地が建物などで埋め尽くされてしまった状況において、ビルの間の空中階でも、海を埋め立てたり山を崩したりするわけでもなく、「何をつくるか」ゼロから考えていける場所はそうそうありません。

2010年頃から開業ラッシュがはじまり、現在も最も活発な動きがあるのは東京。JR東日本では今年9月にオープンしたばかりの「日比谷OKUROJI」、郊外では昨年、子会社のJR中央ラインモールが学生寮「中央ラインハウス小金井」を開業しました。2016年に東京メトロと共同で「中目黒高架下」を開業した東急電鉄は、昨年「新丸子駅~武蔵小杉駅高架下 グルメストリート」をオープン。小田急電鉄は、下北沢駅と世田谷代田駅の間に生まれた線路跡「下北線路街」に「BONUS TRACK」を先月グランドオープンさせました。

高架化や再開発の途上にある全国を見渡してみても、戦後に建てられた“高架下建築”としてマニアもいる大阪・兵庫に多い住居物件や、いわゆる“ガード下”的な雰囲気の屋台や商店、雨や雪をしのげるという利点を活かした公園、駐車場・駐輪場など、テナントが多数入居する商業施設タイプから単一機能タイプまで、多様な用途に使われています。
往々にして、数十年前に定められた用途地域(住宅地として指定されていて商業施設は開業できないなど)の問題はありますが、そこさえクリアする道を見つければ、私たちのニーズややりたいことを叶える、とても懐の広い受け皿の役割を果たしてくれる気がします。高架下を空間や時間で分けてシェアすれば、その可能性はさらに広がります。

コロナ禍や働き方改革以降、都心の会社ではたらき郊外で暮らす、あるいは、毎日同じオフィスビルへ通うといったはたらき方から、しごとの形は多様に、自由度が格段に上がっています。リモートワーク、職住近接、起業、副業・複業。家の近くにオフィスを構えたり、空いた時間で小商いをはじめたという話もちらほらと聞こえてきます。
新しいことをはじめようとするとき探す実現の場所は、これまで多くの業種で一等地とされてきた都心や駅前である必要はありません。この1年で、生活の中心は市街地でも駅でもなく、家だという感覚を思い出した人も多いのではないでしょうか。

家から近く、まちから近く、今ぽっかりと空いている場所。例えば高架下を1m。自由に使っていいよと言われたら、あなたなら何をしますか。自分のまちに何がほしいですか。夢を描きやすいこの空間で、これからどんな日常が生まれていくか楽しみです。

本コラムの写真は、2021年2月、京都の阪急京都線高架下に開業する「SHARE DEPARTMENT」。工事が進む現地の様子です。住民たちがはたらきしごとをつくる場として、新たな高架下空間が生まれようとしています。
本コラムの写真は、2021年2月、京都の阪急京都線高架下に開業する「SHARE DEPARTMENT」。工事が進む現地の様子です。住民たちがはたらきしごとをつくる場として、新たな高架下空間が生まれようとしています。

SHARE DEPARTMENT(京都洛西エリアに2021年2月オープン)
https://share-department.com/

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