店舗デザインとカフェを育てる

2023.05.25
店舗デザインとカフェを育てる

小金井で2017年に、カフェ「WISE MAN COFFEE(ワイズマンコーヒー)」をオープンし、同時に「WISE MAN WOODWORKS」として店舗デザイン業を始めた木山岳大さん。カフェはJR中央線の武蔵小金井駅から徒歩15分という立地ながら遠方からも人が訪れ、土日には列をなす人気店となっています。店舗デザインの仕事も順調に重ね、カフェの経営を支えています。2023年には武蔵小金井駅の近くにカフェの2号店をオープンさせた木山さんに、今の思いやこれからの展望などを伺いました。

自分の好きなものは全て自分で作りたい

木山さんは子どもの頃から「自分でいろいろなものを作りたい」という思いが強かったといいます。高校時代から自身の会社を作ることを考え、大学生の時にはフードビジネスに興味を持ち、横浜の人気レストラン「bills」で働き始めます。人気の理由やこだわりを感じながら調理師免許を取得しますが、多くの人手が必要になるレストランで利益を出すことの難しさも感じました。コーヒーも好きで、カフェでバリスタとして働いたり、カフェ巡りをしながら自分の進む道を模索し始めます。

「自分がやりたいのは本当にレストランなのか? と考えるようになりました。くつろげる空間でゆったりとした時間を過ごしてもらうという意味ではバリスタも同じだと興味を持つようになって。やるからには豆の焙煎から全て自分でやりたいと思いました」

WISE MAN COFFEE本店で話す店主の木山岳大さん。「仕事ってつくるものだと僕は思っていて。お客さんのアンテナを期待するんじゃなくて、自分からアプローチして知ってもらうことがスタートだと思っています」
WISE MAN COFFEE本店で話す店主の木山岳大さん。「仕事ってつくるものだと僕は思っていて。お客さんのアンテナを期待するんじゃなくて、自分からアプローチして知ってもらうことがスタートだと思っています」

大学卒業後は、billsの本店があるオーストラリアのシドニーへとコーヒー修業に向かいます。一年間、ツアーガイドをしながらカフェでバリスタとして働いた後、昔から興味があったカナダ・トロントの「プロペラコーヒー」で働こうとカナダに移ります。豆の仕入れや焙煎、抽出など、ほぼ全ての工程を行っていたカフェは、木山さんが目指していた形でした。さらに、ビジネスマンからカフェを開いたオーナーのビジネス目線の経営は、木山さんのコーヒーや事業に対する考え方を変えていきます。

「それまではお金がたまれば店を開こうと思っていましたが、開業に必要なのはお金だけではなく、ビジネスの勉強や経験も重要だと気付いたんです。今振り返っても、知識や経験がないまま開業していたら失敗していたと思いますね」

住宅街にあるWISE MAN COFFEE本店。「2階建てて庭スペースもあって、内装の仕事と両立しやすいことからこの場所にしました」
住宅街にあるWISE MAN COFFEE本店。「2階建てて庭スペースもあって、内装の仕事と両立しやすいことからこの場所にしました」

帰国後は、月島の老舗コーヒー豆商社で働きます。そこで働いたことは木山さんにとってキーポイントだったといいます。

「それまでのカフェとは全く違っていて、見た目のお洒落さではない強さや泥臭さがあって、これだよねと思ったんです。丁寧な買い付け、安定した供給と味や価格など、お客さんの見えないところで努力していて、そういうところが大切なんだなとすごく思いました。今でも刺激になっています」

今もその店の豆を仕入れているそう。「同じ豆が店によって1.5倍の価格になったりしますが、中間コストってお客さんに失礼だと思うんですよね」
今もその店の豆を仕入れているそう。「同じ豆が店によって1.5倍の価格になったりしますが、中間コストってお客さんに失礼だと思うんですよね」

カフェで働く傍ら、木山さんは店舗デザインの勉強も始めます。もともとものづくりが好きで、学生時代から内装や建築の本を読み、家具を作っていましたが、勉強して資格をとるなど本気で取り組もうと思ったきっかけは海外での経験でした。

「海外では家を直したりカフェを作るのも当たり前に自分の手でやっていました。僕も好きなものは全部自分で作りたいタイプなので、自分でカフェを作りたいと思いました」

木山さんは自分の手で自分のカフェを作るため、進み始めます。

カフェと同時にはじめた店舗デザインの仕事

2017年、木山さんが26歳の時にカフェ「WISE MAN COFFEE」をオープンします。2階に事務所を構え、「WISE MAN WOODWORKS」として店舗デザイン業も始めました。店舗デザインを仕事にしたのには一つの思いがありました。

「店舗デザインは相場が高いので、自分と同じように、店を持とうとする若い人たちの力になりたいと思いました。困っている部分があるからこそビジネスチャンスがあると思ったんです。自分と同じ年の人がいくらならできるか、コストを下げるにはどうすればいいかなどを真剣に勉強しました。小さなお店の店舗デザインは大手がやっているところが少なくて、意外と個人が勝てるんです」

店舗デザインの仕事は、木山さんが全体のデザインや厨房設備配置を考えて、実際に電気工事などを行い、一人の大工さんと共に作り上げていきます。お客さんの金額的負担を減らすために可能な限り工事期間を短くしながら少人数で仕上げるため、工事が始まれば休む時がない日々になります。

「新築と違ってリフォームはすごく大変。大工のノウハウや経験値がすごく必要なので、教わりながら学んでいます」と話す木山さん
「新築と違ってリフォームはすごく大変。大工のノウハウや経験値がすごく必要なので、教わりながら学んでいます」と話す木山さん

店舗デザインの仕事を始めて6年、仕事を積み重ねて責任も大きくなってきた今がターニングポイントだといいます。

「好きなことを仕事にすると、ある時から軽い気持ちで好きと言えなくなってきます。僕一人でやるからこそお客さんが負担するコストを抑えられて、お客さんにもメリットがあると思ってやっていましたが、何事にもキャパがありますからね。うまく回らないってことは課題があるので、それを直していけばいいんです。今は人を増やして設計図やお客さま対応のサービスの質をどんどん上げていく時だと思っています」

壁がでてきても木山さんは真正面から向き合い、解決策を見つけて自分自身で乗り越えていきます。その経験がさらなる成長へと木山さんを押し上げていきます。

コロナ禍は人が集まる場所を避ける人などの来店やテイクアウト、Uber Eatsの利用が増え、逆にプラスになったという
コロナ禍は人が集まる場所を避ける人などの来店やテイクアウト、Uber Eatsの利用が増え、逆にプラスになったという

人を大切にすることで生まれる情

WISE MAN COFFEEは駅から15分ほどの住宅地にあり、決して利便性のいい場所とはいえませんが、カフェ巡りのインフルエンサーが訪れてツイッターで発信したことをきっかけに、カフェ好きに知られる存在となっていきました。

「有難いことですけど、テレビなどのメディアの取材も慎重にならなくてはと思っています。拡散力が強すぎてスタッフが疲弊したり、常連のお客さんが来なくなったり、それってすごく危険だと思うんですよね。一時的な集客を求めるのではなく、また来たいとか、人に勧めたいと思ってもらえるような店にすることをかなり大切にしています」

修練が必要なラテアート。習得したといえるには6年かかったという。失敗も多いものなので、木山さんが時々、ノーミスで入れる姿を見せ、スタッフの気を引き締めるという
修練が必要なラテアート。習得したといえるには6年かかったという。失敗も多いものなので、木山さんが時々、ノーミスで入れる姿を見せ、スタッフの気を引き締めるという

カフェのスタッフは、現在、バリスタとして働く4人とアルバイトの16人。それだけの給料を支払えるのは店舗デザイン業が支えているから。木山さんは、スタッフにいい環境で働いてもらうために惜しみない投資が必要だと話します。

「素敵なカフェにするには、いいスタッフを育てることが必要ですよね。カフェはいろいろなお客さんがいるのでストレスもありますし、スタッフのメンタルがブルーだとお客さんも気持ちよくない。まかないを用意し、食べながらスタッフ同士のコミュニケーションをとってもらって、ここにいる時間を楽しく過ごしてほしいんです。それに、自分と同じように独立を目指す人を応援したいので、僕がこれまでの経験で得た仕入れ方法やルート、焙煎機についてなども全部教えますよ」

木山さんの温かい思いを受けながら、メインのスタッフはオープン当時からメンバーが変わることなく店を支えています。

「僕はきれいごとが嫌いなタイプなんですけど、きれいごとではなく、情って意外と大切で。厳しさや締めつけではなく、情を持ってほしくて。週5、6日働いているスタッフの子が、1日しかない休みの日にもここにコーヒーを飲みに来てくれたりするのがすごくうれしいんです。これが情、愛着だなと。そうすると自然とお客さまを大切にする思いが生まれて、丁寧な接客につながるんですよね」

「この人に任せられるなと安心感を持ってもらえる喋り方や立ち振る舞いを意識しています。カフェでの接客経験が生きていますね」
「この人に任せられるなと安心感を持ってもらえる喋り方や立ち振る舞いを意識しています。カフェでの接客経験が生きていますね」

お客さん目線のカフェ2号店をオープン

2023年2月、木山さんは駅近くに2号店の「WISE MAN COFFEE 武蔵小金井駅南口店」をオープンしました。物件はタウンキッチンの紹介で出合いました。

「2年前から僕の目が届く近隣エリアで物件を探していて、いいタイミングで出合えました。2店舗が近いので客の奪い合いになるんじゃないか? と多くの人に言われたんですけど、反骨精神で両店舗とも人気店にしたいですね」

2号店としてオープンした武蔵小金井駅南口店。カフェ自体が店舗デザインのショールームでもある
2号店としてオープンした武蔵小金井駅南口店。カフェ自体が店舗デザインのショールームでもある

2店目を展開しようと決めたのは、お客さんに対する思いが根底にあったといいます。

「店に列ができてお客さんを待たせてしまうのが気になっていました。店を続ける中で、一番考えるようになったのはお客さんの気持ちでした。利便性やフードメニューを提供するなど、お客さん目線の店を作ろうと思いました」

ただ、今の気持ちになるまでには葛藤もあったそう。

「本店をオープンして数年経った頃、フレンチトーストがバズって注文が殺到し、自分のコーヒー漬けの日々はなんだったんだろう、自分で豆を焙煎する必要ないのではと思ったこともありました。今思えばそんなことで悩むことなかったんですけどね。自分の店で使う豆を焼くのは当然で、それが楽しめる人には響くし、フレンチトーストが食べたい人は食べたらいいし。今はお客さんが楽しいと思う気持ちを大切にしたいと思っています」

武蔵小金井駅南口店では、スイーツのほかにもラザニアやカレーなどのフードメニューを提供する
武蔵小金井駅南口店では、スイーツのほかにもラザニアやカレーなどのフードメニューを提供する

また、2号店オープンには、店舗デザイン業にとっても大きな意味がありました。

「ショールームとしてちゃんとしたものを作りたいという思いもありました。2号店のカフェの内装は水道・ガスなどのインフラ込みで相場よりかなり安く仕上げて、若いオーナーの方が手の届く価格を実現しました。通常、内装の仕事では工務店などが間に入って、事前に施工者の顔を見ることができないので、お客さんも実店舗があると安心してくれます」

カフェもビジネスも生き物として大切に育てる

店舗デザインとカフェを2軸で営む木山さん、お店やビジネスについてこんな話をしてくれました。

「内装業で忙しいとカフェは任せきりになってしまいますが、それもよくないなと思っています。カフェもビジネスも生き物なので、ケアを怠ればどこかで不調が出てくるんですよね。そして薬が必要になってお金がかかってきたり。でも根本の問題を探すとスタッフの対応などの基本的なことだったりするので、スタッフとコミュニケーションをとりながら近くでみていかないと、と思いますね」

定休日に店内の大型焙煎機で焙煎する。「今後はより焙煎機にこだわってぶれない味を出すなど、質をもっと上げたいです。取り扱う豆の種類を増やしてお客さんの楽しみも増やしたいですね」
定休日に店内の大型焙煎機で焙煎する。「今後はより焙煎機にこだわってぶれない味を出すなど、質をもっと上げたいです。取り扱う豆の種類を増やしてお客さんの楽しみも増やしたいですね」

幅広い視野で常に先のことに目を向けている木山さんですが、今後の展望はあるのでしょうか。

「コーヒーを飲める焙煎所みたいな店舗を3号店として作りたいですね。コーヒーを楽しむことをお客さんと共有できるような、自分のエゴが出せるお店かな。そこで焙煎することで、2つの店の豆の安定供給をしたいです。一年くらいやってみてだめだったらカフェにしますけどね」

自分の思いや経営者としての考えで方向性を決め実行しつつも、お店やビジネスの様子を見ながらその都度、柔軟に対応する。まさに生きているものとの対話、育ての姿がありました。

最後に木山さんに、これから創業を考えている人へのアドバイスをうかがうと、こんな答えが返ってきました。

「人に頼るのではなく『自分が動け』と思います。やってみなければわからないことをやる前にいくら考えても時間ばかりくうのですが、その時間に満足している人もいます。やってみて壁にぶつかったらそこで対応していけばいいんです。それとスピードですかね。僕の唯一の長所といえるのが、スピードが速いこと。思い立ったらやる勇気を持って、失敗してでも全力投球できるようでないと、特に飲食店は厳しいと思います」

「自分が好きなことをやっていると楽しいんですけど儲けにつながらないこともあるし。スタッフの給料払うためにもっと稼がないと、と思っています」
「自分が好きなことをやっていると楽しいんですけど儲けにつながらないこともあるし。スタッフの給料払うためにもっと稼がないと、と思っています」

「僕はだいぶとげがありますよ」と最初におっしゃっていましたが、木山さんのお話を聞くと自分に厳しく、スタッフやお客さんに対する温かい思いであふれていました。思うようにいかないことがあっても他人や何かのせいにすることはなく、自分の中での反省点や改善点を見つけ、前に進んでいく。自分個人の思いと経営者としての目線などいろいろな視点で柔軟に考え、実践することができる。これこそ事業を成長させる経営者の姿なのだと感じました(堀内)。

プロフィール

木山岳大

大学生の時に、フードビジネスに憧れたことをきっかけに、独学でレストランやカフェ開業を目指す。コーヒー修業のため、オーストラリア・シドニーでバリスタとして働き、その経験を元に、カナダ・トロントのロースタリー「プロペラコーヒー」で働く。オーストラリア、カナダで200店以上のカフェに足を運んだコーヒー好き。帰国後、日本のコーヒー商社に勤務。2017年、カフェ「WISE MAN COFFEE」をオープンし、同時に「WISE MAN WOODWORKS」として店舗デザイン業を始める。2023年、「WISE MAN COFFEE 武蔵小金井駅南口店」をオープンする。

https://www.wisemancoffee.com/

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本記事のWISE MAN COFFEE2号店の物件探しをお手伝いさせていただきました。理想の働き方、暮らし方を実現できる、住居・店舗・事務所物件をお探しします。まずはお気軽にお問い合わせください。空き家・空き地の利活用のご相談もお受けしております。
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INFO

まちのインキュベーションゼミ#7

まちのインキュベーションゼミは、アイデアを地域で育てる実践型の創業プログラム。アイデアを事業化したいリーダーと様々なスキルを持って事業化をサポートしたいフォロワーがチームを作り、地域をフィールドに実践までを共にする4ヶ月間のプログラムです。アイデアを仲間と一緒にまちで実現していくメンバーを募集します。

期間

2023年7月22日(土) − 12月9日(土)

場所

KO-TO(東小金井事業創造センター)

定員

30名(先着順)

参加費

3,300円(税込)

対象

・アイデアをカタチにしたい人
・事業計画を実現したい人
・新規事業をはじめたい人
・事業を推進する仲間が欲しい人
・デザインなどのスキルを、誰かの事業に活かしたい人
・すでにあるお店や場所を、誰かに有効利用してほしい人
・事業化のサポートを通じて、起業経験を積みたい人
・将来、起業を目指している人

プログラム

オリエンテーション
7月22日(土)10:00 – 18:00
各自がアイデア発表を行い、リーダーを選出します。決定したリーダーを中心にチーム編成し、4ヶ月後の実践に向けた業務設計を行います。

プランニング
9月9日(土)13:00 – 18:00
実践プランをチームごとに発表します。プランに対するフィードバックをもとに、実践に向けた細部の設計を進めます。事業計画書の書き方など、創業に役立つ講義も行います。

実践
11月下旬
プレイベント、テストマーケティング、Web等による情報発信など、チームごとにプランニングした内容の実践を行います。

クロージング
12月9日(土)13:00 – 18:00
トライアルを踏まえ、事業プランの再構築を行います。ゼミを通じて得た気づきや学びをシェアし、各自のネクストステップを共有します。

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