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【VOL.5】ゼミを卒業して見えてきた選択肢

暮らしを豊かにする事業の創出を目指す「まちのインキュベーションゼミ」には、過去3回で70名が参加してきました。アイデアと向き合い、仲間と試行錯誤を繰り返しながら過ごす4ヶ月。ゼミを経て、それぞれのはたらき方やしごとはどう変化しているのでしょうか。
会社勤めを辞めてフリーランスになった人、新たな拠点を見つけ移住する人、今のしごとの価値を感じつつパラレルに活動を続ける人。ゼミ卒業生である白石恭一さん、宮下杏子さん、大石摩耶さんが集まり、座談会を開催しました。3人の現在地から見える、これからのはたらき方とは。

―ゼミがスタートしたのは2019年12月なので、#1に参加された白石さんはあれからもう1年以上、宮下さんは半年、大石さんは事業トライアルをされたばかりですよね。それぞれにゼミに参加する前の自分を思い返してみると、今とどのような違いを感じますか?

大石 やってみようかなという軽い気持ちから、「やりたい!」という強い想いに変わったなと思います。ゼミに参加する前はしごとと子どもの学校行事で精一杯で、それ以外に何かすることは考えていませんでした。それが一度チャレンジしてみると、これから歩みたい道が見えてきて。

3月に事業トライアルを終えたばかりのゼミ#3「ローカル遊びの再発見」に参加し、子どもたちが楽しめる駄菓子や工作教室のある「レトロなたまり場」を実践した大石さん。「娘が“駄菓子屋さん”を知らなくて、学校でも会社でも家でもない、サードプレイス的な場所がつくれたらいいな」と考えていたそう。

宮下 私は、人とのつながりが大きく変わりましたね。ゼミに参加したとき、実は引っ越したばかりで近所に知っている人がいなかったんです。ゼミを通して何人も知り合いができて、暮らしにすごく安心感が生まれました。

白石 昨年、印象的な出来事があって。僕がゼミで出したのと同じアイデアで、実際にお店をはじめた方がいたんです。最初はめちゃくちゃ悔しかった。でもそれは一瞬で、自分が考えていたことって正解だったんだな、ビジネス化できるんだと思うようになりました。自分は何をするのかを具体的に考える発想にシフトした気がします。

「レトロなたまり場」の会場は、今年2021年3月に武蔵小金井にある民家「平林家」。子どもたちも大人も集まり大盛況。

―それぞれに「こんなことをしたい」というアイデアをお持ちだったと思うのですが、皆さんはどのような経緯でゼミに参加されたのでしょうか。

白石 飲食のしごとから不動産会社に転職をしたタイミングで、「食と街」というテーマがぴったりでした。僕が考えていたのは、農家さんが出荷できないB品以下の “ライフストック”の青果を使ったアイスクリーム屋さん。地方創生や地域活性化に関心を持って以前からしごと以外にも活動していたのですが、転職で上京してからは動けていなかったので、これを期に何かはじめたいなと。

大石 当時、グルメサイトの運営に携わっていたのですが、コロナ禍で飲食業が追い込まれていく中で、自分がしていることに疑問を抱きはじめていました。もっとダイレクトに、地域で役に立てるしごとがしたいなと。まちづくりとか地域とか、そういうキーワードでネット検索をしまくっていました。「ビジネスにするのは難しくても何かできないかな」くらいの気軽な気持ちで申し込んだのを覚えています。

駅で見かけたポスターが目に留まって、帰りの電車でチラシを見ながら申し込んだという白石さん。「23区内に住んでいたのですが、僕ともう1人以外皆さん多摩地域の方で、最初はどうしようと思いました(笑)」。

宮下 私はもともと建築を勉強していて、鉄道系のデベロッパーに勤めています。ずっと建物をつくる側のしごとをしてきたぶん、できた後の暮らしにすごく興味がありました。地域のいいものを紹介するお店ができたらいいなと参加したのですが、「これからの家と庭」というテーマから着想を得て、自宅の軒先を使ってやってみようとアイデアが固まっていきました。

―4ヶ月のゼミに参加されている間は、どのようなことを感じていましたか?

白石 僕のアイデアに賛同してチームになってくれた方々がいたことで、まずは具現化してみていいんだと勇気をもらったなと思います。一度したいことを口に出してみると、支えてくれる人って意外とたくさんいるんだなという驚きもあって。

大石 私もその驚きをすごく感じています。カフェで偶然知り合いに会って話していたら、その人と一緒にいた人も私のSNSをフォローしてくれていたんです。この1年で、応援してくれる人の存在を実感しています。したいと言うことで、どんどん事が進むことも感じました。あとは、たとえ1日の実践でも何かやり遂げるのはやっぱり大変だなと…

宮下 本当に大変ですよね(笑)私は自分が住んでいるまちを事業トライアルの場にしたので、ゼロからやってみて、まちの人がこんなに受け入れてくれるんだなという気づきがありました。ゼミの後しばらくのんびりしていたら、近所の皆さんの方から「次はどうします?」と連絡が届くくらいです。

宮下さんのチームが実践した「軒先から、こんにちは」に参加する店舗や家は、エリア内12箇所にまで広がった。SOHO利用ができて、道に面した玄関がガラス張りという自宅から“軒先”活用のアイデアを得たそう。

―知り合いや仲間が自然と広がっていくというのは、ある程度絞ったエリア感で事業をする面白さのひとつですよね。ゼミを経て、今でも続けていることは何かありますか?

大石 私は事業トライアルを終えたばかりで、これからの進め方を模索しています。メンバーとは相変わらず仲がいいのですが、事業にしていくか、イベントとして関わりたいかはそれぞれ違っていて。お2人はおしごとも別にしていらっしゃるので、つながりを含め、どうやって続けていらっしゃるのかすごく興味があります。

白石 ゼミ終了から1年以上経つ今でも、メンバーとは時々やり取りしています。僕たちのときはコロナ禍のはじまりで結局実践ができなかったのですが、にんじんを引き取らせていただく予定だった農家さんが、ずっと気にかけてくださっているみたいで。ちょうど数日前、メンバーの1人が偶然そこの高校生の娘さんに会ったと教えてくれました。支えてくれる人っているんだなという出会いのうれしさを、ゼミの後もずっと感じています。

宮下 終わってからも、出会いがさらに広がりますよね。「そういうことをしたいんだ」と理解してもらえたことで、人を紹介していただくことも増えました。最近また大きな地震が起こっていることもあって、顔が見える地域の関係性は大事だなと改めて思うようになって、少しずつ次の展開を考えています。

2020年9月に開催した「軒先から、こんにちは」。地域との接点を模索していた工務店も実行委員として参加した。出店者として参加した人がゼミ後にも工務店主催の月1回の「建材いちば」に出店するなど、いつの間にか縁が広がっていたことも宮下さんにとってうれしい出来事だったそう。

―最近、具体的にはたらき方が変わったということがあれば、ぜひ教えてください。

宮下 ゼミの期間は会社のしごと量がそんなに多くなくて、流れが穏やかでした。ちょっと大家さんのところ行ってくるかという心の余裕もあったり。ゼミの準備もしつつ、しごともしつつということが可能だったんです。そんな状況でも、イベントを一つやり切るのは大変で、正直燃え尽きた感がありました(笑)会社のしごとも好きなので、両方をゆるく続けていきたいなと思っています。例えば、フル勤務ではなく週4くらいでもいいかなと具体的にイメージするようになりましたね。

ゼミの間通ったのは、JR中央線東小金井駅近く。行き帰りには各々でまちを散策する姿もあった。

大石 私は実はガラッと変わっていて、3月で会社を退職したんです。ゼミが終わったときに、「したいことしかしたくない!」と思ってしまって。やっぱり私は、地域に絞ったことをしたいなと。収入は一旦厳しくなるけど、したいことだけするんだと思うと心は軽くて。自分が実践したことを発信しながら地域と関わっていれば、そこからまた、ゼミのように縁が広がる予感があるんです。

「地域に点々とある魅力的なスポットや人を結ぶような活動もできたら」と大石さん。

白石 本当に直近で決意したことなんですが、出身の名古屋に戻ることにしました。ゼミで多摩の農家さんとも繋がって、やっぱり飲食って面白いなと思っていたところに、名古屋で“まちと食をつなげる”というコンセプトの再開発を進めている方々から「戻って来ないか」と声をかけていただいて。この数ヶ月、ビルの屋上菜園を作るプロジェクトにまずは遠隔で関わっています。地元の活性化が僕の根本にある想いだったので、ずっとしたかったことが将来的に具現化できそうだなとワクワクしています。

―アフターコロナを見据えて、これからどんなはたらき方をしていきたいと思われていますか?

宮下 週の半分は在宅勤務をしていることもあって、お昼食べがてら散歩することが多いのですが、古い家がバタバタと壊されて更地になっていくのが、寂しいというかもったいないと日々感じていて。軒先の活動が何かつなげられたらいいなと。サーキュラーエコノミーとかシェアにも興味があって、いい古民家があったら住み替えたいという想いもあります。平屋とかいいですよね。そうなったとき、さらにまちに根を張ったはたらき方ができるなという期待感を抱いています。

大石 私ははたらき方をこれと決めていなくて、とても自由な気持ちです。この会社いいなと思ったら入るかもしれないし、自分で会社を立ち上げるのも選択肢のひとつ。やりたいことを軸にして、それにあったはたらき方であればと思います。最終的には、自分の家の近くに拠点を持ちたいなと思っていて。事業として続ける仕組みが必要になってくるので、例えば、工作が得意なメンバーがいたので、教室を開ける空間が併設したらどうかなとか構想しています。

ゼミで「これは事業化できそう!」と言ってもらえたことは自信になったと白石さんは振り返る。

白石 僕は多摩も東京も離れて、名古屋という離れた場所へ行く予定ですが、色んな地域が関わり合いながらできることってあると感じていて。お2人の話を聞いていて思ったのは、同じようなことをしたい人って、どの地域にもたくさんいると思うんです。同じコンセプトを持ったお店やイベントが色々な地域にあれば、協力体制を築くこともできそうですよね。この座談会も素敵な縁だなと思っていて、「軒先から、こんにちは」と「レトロなたまり場」in名古屋を一緒にできたら面白いなと(笑)

宮下・大石 いいですね!ぜひコラボレーション企画を考えましょう!

 

このわずか3年ほどの間に、はたらき方改革がはじまり、予想外のコロナ禍が訪れ、それまで当たり前だったしごとのあり方が大きく変化してきました。これからのはたらき方は、会社勤めより起業だとか、時間や場所に縛られないことではなく、それも含めた多様な選択肢の中から、自分に合ったものを選び、組み合わせていくことではないでしょうか。

3名の話から感じるのは、具体的なアイデアかぼんやりとしたイメージかは問わず、“こんなことがしたい”“こんな風にはたらきたい”という想いを声に出したときに生まれる力の大きさ。多くの方が出せずにいる最初の一歩は、たった一言をそばにいる誰かに伝えるだけで、時に不思議なほど自然に動き出せるようです。

それぞれ違う期間のゼミに参加していたため、この日が初対面だった3人。話すごとにたくさんの共通点が見つかった。コラボレーションのアイデアも生まれて、これからがますます楽しみ。

まちのインキュベーションゼミ#4「郊外につくる、新しいシゴト」

期間5月22日(土)〜9月25日(土)場所KO-TO(東小金井事業創造センター)定員20名 ※応募多数のため、選考あり参加費無料対象・新しい働き方やワークプレイスづくりに興味がある人
・公園、農地、空き家などを活かしたシゴトづくりを考えている人
・子育てや介護をしながら働くことに取り組みたい人
・テクノロジーやクリエイティブをまちづくりに活かしたい人
・事業のアイデアを形にするサポートがしたい人
プログラムオリエンテーション 5月22日(土)13:00〜18:00
事業アイデアを持ち寄り、チームを編成します。さらに、今後の実践までを視野に入れたスケジュール設計を行います。

プランニング 7月17日(土)13:00〜18:00
約2ヶ月間の個別ゼミを通じて設計したプランを完成させます。実践に向けた細部の検討を進めます。

トライアル 8月下旬~9月中旬
チームごとに「郊外につくる、新しいシゴト」を育む事業プランのトライアル実践を行います。

クロージング 9月25日(土)13:00〜18:00
約4ヶ月間の振り返りを行います。実践で得た学びをシェアし、それぞれのネクストステップを描きます。
詳細・申し込みhttps://here-kougai.com/program/program-387/

プロフィール

白石恭一

飲食業界で約6年間はたらいたのち、不動産業界に転職。近日中に出身である名古屋に拠点を移し、地方創生事業のプランナーなど多数の経験を活かしながら、食とまちをコンセプトとした再開発プロジェクトなどに参画予定。ゼミ#1「食べると街のいい関係」に参加。アイデアはライフストック(形の悪さや傷によって出荷できない農作物)を使ったアイスクリーム屋さん。

宮下杏子

大学で建築を専攻し、現在は鉄道系デベロッパー勤務。暮らしをつくるソフト面の企画をしたいと考え、ゼミ#2「これからの、家と庭」に参加。自身が暮らす家の軒先をヒントに、阿佐ヶ谷(杉並区成田東エリア)で「軒先から、こんにちは」を実践。ゼミメンバーだけでなくエリア内に家や店舗を持つ人も加わり、物販やスタンプラリーなどのまち回遊イベントを企画している。
https://nokisaki.wixsite.com/karakonnichiwa

大石摩耶

グルメサイトの運営やウェブ広告に携わりながら、もっとダイレクトに地域の役に立ちたいと考え、ゼミ#3「ローカル遊びの再発見」に参加。駄菓子屋を知らない自身の娘を見て発想を得た“子どもたちが集まり楽しめる場”のアイデアから、「レトロなたまり場」を実践。3月には会社を退職。多様なはたらき方を選択肢として持ちながら、自宅近くに拠点を持つ目標に向けて計画中。
https://www.instagram.com/retro.tamariba/