公園のポテンシャルを町に広げる

2021.10.05
公園のポテンシャルを町に広げる

身近な自然を守ることを目標に掲げ、18の都立公園と54の市立公園を管理し、自然環境の保全や環境教育、イベント企画・ボランティアコーディネートなどを手がけているNPO birth(バース)。コロナ禍で高まる自然回帰やPark-PFIの創設を背景に、公園という場が注目される中、birthの立ち上げメンバーで事務局長の佐藤留美さんと、タウンキッチンの北池が対談。都立武蔵国分寺公園の緑豊かな環境で、birthの取り組みから、公園とコミュニティの関係性やこれからの可能性について、じっくりうかがいました。

身近な緑と人をつなぐNPO

佐藤:実はタウンキッチンさんとは、ずっとお話したいと思っていたんです。高架下などでの創業支援施設の運営を通してまちづくりされている取り組みを興味深く感じていました。

北池:ありがとうございます!私もbirthさんの活動は以前から気になっていました。今日はよろしくお願いします。まずはNPO birthの成り立ちからお聞かせください。

佐藤:仙台出身で、大学進学で東京に来ました。自然が多い郊外の武蔵野エリアに住んでいたのですが、気づいたら畑や雑木林などの緑がどんどんなくなって、マンションや駐車場に変わっていく。都市に住みながら、自然と共存できる方法はないだろうかと模索する中で、1997年に仲間4人でNPO birthをつくりました。

小さな頃から自然や昆虫が大好きだったという佐藤さん。東京で緑がなくなっていくことへの危機感と、人と自然のつながりを取り戻したいという想いが、今の活動の原点にある
小さな頃から自然や昆虫が大好きだったという佐藤さん。東京で緑がなくなっていくことへの危機感と、人と自然のつながりを取り戻したいという想いが、今の活動の原点にある

池:1997年というと、NPO法ができる前の設立だったんですね。

佐藤:そうなんです。自然の保全だけでなく、人と自然の関わりをつくるという視点で、ボランティアの支援や調整をしたり、地域の団体を連携させる媒体となる組織が必要だと感じていて。そんな組織をつくるなら、会社ではなくNPOという新しい概念が合ってるんじゃないかと思いました。

北池:実は、「NPO法人NPO birth」という法人名がすごく気になっていたんです。NPO法ができる前に、NPOをつくろうと思われたので、この法人名になったんですね。

佐藤:はい。当時の日本にはモデルがなく、アメリカのNPOのインターンシップに参加したんです。アメリカでは行政の予算が減額された状況でも、NPOが市民の声を吸い上げてボランティアと一緒に公園をつくったり街路樹を植えるプロジェクトを進めたりと、人やお金などのリソースを集めるプラットフォームになっていました。日本より20年ぐらい進んでいると思いましたね。

birthの取り組みに以前から注目していた北池。近所の公園で子どもと遊ぶことも多く、話が弾む
birthの取り組みに以前から注目していた北池。近所の公園で子どもと遊ぶことも多く、話が弾む

公園を自分ごとにする

北池:birthさんは公園の管理をされていらっしゃいますが、具体的にはどのようなことをされているんでしょうか?

佐藤:はい。もともと日本の公園って、なんかつまんないなと思っていて…。

北池:あれもダメ、これもダメと、やっちゃいけないことだらけとよく言われますよね。

佐藤:そうそう。私たちなら公園をもっと面白くできるんじゃないかと思ったんです。単に管理するというより、ボランティア活動やイベントなどを通して、もっと自然について知ったり、人と人が出会ったりできる場をつくっていきたくて。私たちがマネジメントする公園では、自然体験プログラムを行うパークレンジャーや、ボランティアのコーディネートやイベントの企画などを行うパークコーディネーターという専門スタッフが入って、公園づくりをしています。

地域住民のアイデアを生かし、一緒にイベントを企画・実行していくのも、大切な役割。birthでは地域と連携してボランティアのコーディネートやイベントを企画する協働コーディネートチーム、地域の生態系を再生させる自然環境マネジメントチーム、安全パトロールや自然教育を行うレンジャー・環境教育チームの3つのチームが連動して公園づくりを推進(撮影:NPO birth)
地域住民のアイデアを生かし、一緒にイベントを企画・実行していくのも、大切な役割。birthでは地域と連携してボランティアのコーディネートやイベントを企画する協働コーディネートチーム、地域の生態系を再生させる自然環境マネジメントチーム、安全パトロールや自然教育を行うレンジャー・環境教育チームの3つのチームが連動して公園づくりを推進(撮影:NPO birth)
公園の自然環境を再生し、地域の健全な生態系をつくるための取り組み。武蔵国分寺公園では約50種の絶滅危惧種が確認され、地域の企業や市民とともに保全活動が進められている
公園の自然環境を再生し、地域の健全な生態系をつくるための取り組み。武蔵国分寺公園では約50種の絶滅危惧種が確認され、地域の企業や市民とともに保全活動が進められている

北池:一言で公園の管理といっても、大きな公園から小さな公園まで様々だし、公園ごとに設置の経緯や役割が違いますよね。公園によって、管理の仕方に変化をつけているのでしょうか?

佐藤:一つ一つの公園というよりも面として考え、緑のつながりをつくっていくことを大切にしています。その中で、“公園や緑は行政や管理者のもの”と考えるのではなく、地域の方が身近な公園の自然保全や景観づくりに参加して、みんなで一緒に公園をつくっていけるとすごくいいと思ってます。

北池:誰かがつくって、誰かが管理してくれている公園ではなく、地域のみんなで一緒に公園をつくっていこうとされているんですね。

佐藤:それが大事だと思ってます。例えば、ボランティアに参加して花壇に花を植えるだけで公園に愛着がわきますし、作業を通して周りのボランティアや来園者と話すきっかけやつながりも生まれます。

北池:公園を自分ごとにしていく、ということですね。

佐藤:はい。“緑があることが楽しい”“自分でもなにかできるんだ”と思ってもらえたら、次につながる力になります。そのためのきっかけづくりができればと思ってます。

北池:まちづくりでも、行政がなんでもやってくれる時代ではなくなってきて、一人ひとりの地域住民の主体性が求められるようになっています。私たちも、そういう人を地域に増やしたいと思い、地域に根付いた創業支援をやっています。公園も同じことが言えそうですね。

佐藤:はい。まさに私たちの取り組みは、公園をきっかけとして、地域の人たちが緑を町に広げていったりと、まちづくりに積極的に関わることを目的としているんです。

北池:別の視点で、イベントをして集客数が多いことを、成功としているケースが多いように感じています。でも、イベントなどのハレの日だけでなく、日常的なケの日にこそ、いかに公園が使われているかが大事だと思うんですが。

佐藤:まさに同じ感覚ですね。地域の方が“お客さま”として公園を使うのではなく、日常的に自分で使いこなしていく。消費者という意味のコンシューマーと、プロデューサーの両方を併せ持つ、“プロシューマー”として活躍していくことが大事だと思ってます。

北池:それをbirthさんが支えていらっしゃるわけですね。

ボランティアで植えられた花壇。「花を植えて景観をよくしたり、ボランティアを育成したり、地域の人が公園で顔見知りになるような環境をつくることが、地域の防犯・防災対策にもなり、安全な生活につながっていきます」と、佐藤さん(撮影:NPO birth)
ボランティアで植えられた花壇。「花を植えて景観をよくしたり、ボランティアを育成したり、地域の人が公園で顔見知りになるような環境をつくることが、地域の防犯・防災対策にもなり、安全な生活につながっていきます」と、佐藤さん(撮影:NPO birth)

公園は多様な人が集まる“縁側”

北池:コロナ禍で緑や自然が求められるようになり、キャンプがブームになったり、公園に行く人も増えていると聞きます。現場を管理されていて、佐藤さんはどう感じていらっしゃいますか?

佐藤:自然に対する価値観が変わってきているのは喜ばしいことだと感じています。昨年の緊急事態宣言の自粛期間には公園にものすごくたくさんの数の人が来ました。

北池:確かに、大きな都立公園などは、土日は超過密状態になっていて驚きです。

佐藤:ただ、公園のマナーを知らない方も増えたので、トラブルが起きて私たちが仲裁に入ることも多くありました。ボール遊びを例にすると、いつも来ている子どもたちは、人が通る園路の近くは危ないことを知っていて、広場の真ん中で遊んでいるんです。けれど常連ではない人たちが多くなると、園路を歩く高齢者にボールがぶつかったり、硬いボールを使ったりと、危ない状況になってしまうことがあります。

北池:なるほど。ルールとしてどう線を引くのかは難しいですね。柵をつくって「ボール遊び禁止」となってしまうのは寂しいですから。利用者一人ひとりのリテラシーが求められるんでしょうね。

佐藤:はい。最低限のルールは決めますが、その都度、利用者の方々と対話しながら一緒に使い方を考えていくようにしています。

北池:運営は大変だと思いますが、そんな公園が増えるといいですね。白か黒かの境界線を引いて、一律のルールを決めれば効率的に管理できるけど、やればやるほど禁止事項の看板が並んでしまう。公園は、各自の責任のもとで使い方に自由度がある、地域に残された数少ない場所なのかもしれませんね。

佐藤:そう感じます。私たちは公園を“縁側”だと思っているんです。昔は縁側がどこの家にもあっていろいろな人が出入りしてましたよね。公園も、子どもや親子、高齢の方、障害のある方など、誰もが自由に来て過ごせる場所。その関わりの中で、社会的なマナーを身につけていく学びの場という側面もあるかなと思います。

都立武蔵国分寺公園の広場。平日も多くの人が訪れ、ウォーキングやボール遊び、ピクニックなどを楽しむ姿が見られる
都立武蔵国分寺公園の広場。平日も多くの人が訪れ、ウォーキングやボール遊び、ピクニックなどを楽しむ姿が見られる

コミュニティが育てばお店も儲かる

北池:「Park-PFI(公園に飲食店や売店などの収益施設を設置し、収益を活用して公園整備をする民間事業者を公募する制度)」がスタートして、ビジネスとしても公園が注目されるようになりました。佐藤さんは今、Park-PFIの可能性や課題をどう考えていますか?

佐藤:収益事業がクローズアップされるケースが多いですが、コミュニティを醸成する場をつくるためにも、Park-PFIの活用はすごく重要だと思っています。例えば、カフェに併設してワークショップやミーティングができるオープンなスペースがあれば、そこでコミュティを育てることができます。子育て世代や一人暮らしの高齢者の方、学生なども集まれて、ワイワイと話せる場がつくれたらよいなと。

北池:コミュニケーションを誘発するために有効だと。

佐藤:そうですね。そして、コミュニティが育つとお店も儲かると思います。

北池:なるほど。

佐藤:例えば、西東京いこいの森公園は、駅から離れた場所にあるにもかかわらず、私たちが指定管理をはじめてから、利用者が毎年5,000人以上も増えています。パークコーディネーターが、地域団体の課題を一緒に解決したり、地域の方とイベントを企画したりしながら、コミュニティを育ててきたからです。地域の方々が活躍できて、つながり合える場をつくれば、みんなが公園を愛して普段から利用するようになるんです。

北池:そうすると、公園内の施設の収益もどんどん上がっていく、ということですね。

佐藤:はい。西東京いこいの森公園には常設の店舗はありませんが、自動販売機や手ぶらバーベキューなどの収益事業を行い、週末にはケータリングカーが来ています。そして、その売上げは毎年どんどん上がっています。公園にただお店があるだけでは目新しさがなくなったら足が遠のいてしまうけれど、コミュニティが育っているところで地域と関わりがある事業や店舗を展開すれば、確実に収益は上がるはずです。

北池:私たちの創業支援施設も、人気タウンでもなく、駅前立地でもない。そういった立地で新しくビジネスを始める方がたくさんいるのですが、皆さん、きちんと稼ぎをつくっていらっしゃる。通行量や商圏分析などの定量的な数字だけでは測れない、もっと違うところに稼ぐための秘訣があると思ってます。

佐藤:タウンキッチンさんが手がけているのは、まさにコミュニティをベースとした、お店や人のつながりなんだと思います。そういった意味で、私たちの考え方ととても近いと思いますね。

北池:ありがとうございます。公園についても、池袋に代表されるような便利な場所にある公園が注目されていますが、もっと不便な場所にあって、今はその魅力に気付かれていないような公園がたくさんあると感じています。そんな日常的な公園に、ポテンシャルを感じます。

佐藤:はい。地域の人を巻き込みながら魅力的な公園をつくっていけば、みんなが公園をもっと活用しはじめて、新しいビジネスが生まれていくと思います。実際、この武蔵国分寺公園の周辺にはいつのまにかお店が増えていますし、隣の小学校は教室が足りなくなるほど人口も増えています。土地の資産価値も確実に上がっているはずです。

「人が集まればコミュニティができるわけではありません。地域の人がそこで活躍できて、つながり合っていける仕組みが必要です」と、佐藤さん
「人が集まればコミュニティができるわけではありません。地域の人がそこで活躍できて、つながり合っていける仕組みが必要です」と、佐藤さん
東久留米市の小学校の跡地にできた都立六仙公園では、「廃校でなくなってしまったコミュニティを復活させたい」という地域住民の声から、麦の収穫祭や防災キャラバンなどのイベントが生まれた(撮影:NPO birth)
東久留米市の小学校の跡地にできた都立六仙公園では、「廃校でなくなってしまったコミュニティを復活させたい」という地域住民の声から、麦の収穫祭や防災キャラバンなどのイベントが生まれた(撮影:NPO birth)

北池:そういう意味でも、住宅街が広がる郊外では、より一層、地域の公園を日常的に利用する人の声をよく聞き、地元の企業やお店がもっと公園に関わっていけるといいのかもしれませんね。

佐藤:そう思いますね。地元の人たちの声を拾いながら公園や地域の特性を踏まえて、どんな施設が必要か、どんな事業を行うべきかを地域で一緒に考えて、一緒に育んでいく。そのマネジメント役として、NPO birthやタウンキッチンさんのような存在が、これからますます必要になっていくと思います。

北池:高度成長期に緑をコンクリートに変えてきて、そして人口減のこれからの時代、改めて、町の緑をどうしていくのかは、大きなテーマだと感じています。それは公園だけに限らず、農地・生産緑地だったり、もっとミクロに見れば各家庭の軒先や庭をどうしていくのか、ということにもつながってくると思います。

佐藤:はい。公園をきっかけに、身の回りの緑に目を向けて、何かやってみようと思う人が増えるといいなと。そうすれば町の姿が変わり、ますます人が集まる町になります。海外の先進都市では緑のまちづくりが主流化していますが、この多摩エリアこそ、豊かな自然を活用して、誰もが住みたくなるまちづくりができる素晴らしい地域です。これから、タウンキッチンさんと、公園や農地、雑木林などをフィールドに、ご一緒させていただけると、面白いことができそうですね(笑)

北池:ぜひ、ご一緒させてください!今日はいろいろお話ができ、楽しかったです。ありがとうございました。

INFO

まちのインキュベーションゼミ#5「今こそ コミュニティの底力」

期間

2021年11月6日(土)〜2022年3月19日(土)

場所

KO-TO(東小金井事業創造センター)

定員

20名

参加費

無料

対象

・地域コミュニティを築くことに興味がある方
・子育て、介護、福祉、医療、スポーツなどの分野で事業を考えている方
・公園、農地、空き家などを活かして新しいコミュニティをつくりたい方
・事業のアイデアを形にするサポートがしたい方
・まちづくりや事業開発に興味がある主婦や学生の方

プログラム

オリエンテーション 11月6日(土)13:00〜18:00
事業アイデアを持ち寄り、チームを編成します。さらに、今後の実践までを視野に入れたスケジュール設計を行います。

プランニング 1月15日(土)13:00〜18:00
約2ヶ月間の個別ゼミを通じて設計したプランを完成させます。実践に向けた細部の検討を進めます。

トライアル 2月下旬~3月上旬
チームごとに「今こそ コミュニティの底力」を育む事業プランのトライアル実践を行います。

クロージング 3月19日(土)13:00〜18:00
約4ヶ月間の振り返りを行います。実践で得た学びをシェアし、それぞれのネクストステップを描きます。

プロフィール

佐藤留美

NPO法人NPO birth事務局長。宮城県仙台市出身。東京農工大学農学部卒業。公園管理運営士。1997年にNPO birthを4人で立ち上げ。翌年アメリカ・サンフランシスコのNPOでインターンシップに参加し、緑をまちに広げる先進的な取り組みや組織運営などについて学ぶ。2006年にはNPO birthの取り組みの一つとして、公園の指定管理事業をスタート。多摩エリアをはじめ都内各所で自然と人との共存をめざし、公園の運営管理や協働によるみどりのまちづくりなど幅広く携わっている。東京都東村山市在住。著書に「パークマネジメントがひらくまちづくりの未来」(共著、マルモ出版、2020)。

https://www.npo-birth.org
https://www.facebook.com/npobirth.org/
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