“作る”と“売る”のいい関係

2017.03.13
“作る”と“売る”のいい関係

5組のメンバーが、同じ空間の中でお店を営むアトリエテンポ。

連載2回目のテーマは、アトリエテンポの特徴でもある“ものづくりの現場を見せる”ということについて。お店に工房を併設することに、作り手たちはどのような想いを持っているのでしょうか?

商品の背景にある、作り手の姿を伝えたい

—前回、お店でも制作時間を確保したいというお話がありましたが、ものづくりの様子をお客さんに見てもらう、ということに関してはいかがですか?

中丸「僕もsafujiも、独立前に働いていたメーカーでは、百貨店に商品を卸していたんです。でも、たくさん作っては、売れ残るものが廃棄されたりセールにまわされたりという繰り返しで、それを見るのが本当に嫌でした。だから、自分がお店をやるなら、受注制にして、作る様子を見てもらったり、使う人の声を聞いたりしながら作りたかったんです」

やまさき「自分が普段ものを買う時もそうですけど、ただデザインが好きというよりは、その背景にある、作る人自身の暮らしとか生き方みたいなものに惹かれて手に取ることが多くて。ここでも、工房での姿を見てもらうことで、そういう商品との出会いが生まれたらいいなという思いはあります」

池田「ここは都心ではなく郊外なので、商品だけが並んで効率よく売るというかたちではなく、この土地で暮らしてものづくりをしている人たちが、その現場を見せながら丁寧に販売していくというスタイルが向いてるんじゃないかなと、お店をやりながらも感じています」

コッペパンのような、丸みのあるつま先が特徴のcoupéの靴。
コッペパンのような、丸みのあるつま先が特徴のcoupéの靴。

お店を持つことで、商品の変化を見ることができる

—それは、商品を長く使ってほしいという想いからくるものなのでしょうか。

やまさき「ものづくりの現場を見てもらうことで、愛着を持って使い続けてもらえたら嬉しいなとは思います。safujiやコッペを近くで見ていて思うのは、買った人たちが手入れをしたり修理をしたりしながら、使い続けてくれていたりするんです。経年した佇まいとかを見ると、革はいいなぁと羨ましくなります」

沢藤「革いいですよね。靴もそうだけど、使う人によって味わいが変わってくるんですよ。1年でそんなになっちゃうの!? という人もいるし、数年使ってもすごくきれいな人もいて面白いです」

中丸「それを見ることができるのも、お店という拠点ができて、同じ人が何度も来てくれたりするからだよね。イベントに出店していた時は、買ってもらった後にどうやって使ってくれてるか、ということまでは見えないことも多かったので」

革の質感にこだわるsafujiの小物は、長く使うほど持ち主の手に馴染むのが魅力。
革の質感にこだわるsafujiの小物は、長く使うほど持ち主の手に馴染むのが魅力。

制作中もお客さんと目線の高さを合わせる

—制作に集中している時にお客さんと会話もする、ということに戸惑いはありませんでしたか?

中丸「実は未だに慣れなくて…」

やまさき「作業の手を止めるタイミングが難しいですよね。版画だとインクも乾いちゃうし。そこは試行錯誤ですね」

沢藤「期日が迫っている作業はここに持ち込まないとか、お店に持ち込む時はある程度作り込んでおくとか、いろいろ工夫してます。僕らは、接客をしてまた来てもらったり、その場で買う決断をしてもらったりすることも大切なので。僕の場合は、お客さんに声かけてもらった時に、手を止めて椅子から立ち上がると、“さぁ、接客しますよ”という感じでプレッシャー与えるんじゃないかと思っていて、いつも立ち仕事にしてます」

やまさき「あ、それわかる! お客さんと目線の高さを合わせるというか、私もお店では座高の高いイスを使っていて、わざわざ立ち上がった感じが出ないように心がけています」

ものづくりを体験してほしいという想いから、イベントではワークショップを行うことも多いやまさきさん。
ものづくりを体験してほしいという想いから、イベントではワークショップを行うことも多いやまさきさん。

工房としての機能性を探る

—工房としては、作業をしていて使い勝手などはいかがですか?

中丸「ここのコンセプトでもある“作りながら売る”という意味では、僕の場合は作業スペースが少し狭いんですよね。靴作りはある程度の広さは必要で、ここでできなくて家でやる部分もあります。なので、本当の意味で作るところと売るところを一緒にできたらどんなにいいだろう、という理想はあります。この近くに作業場を作りたいなぁとか」

やまさき「メイン工場は隣です、みたいな」

中丸「そうそう。東京の西側にあたるこのエリアって、企業の工場とかではない、僕らみたいな小さな製造業の人が作れる場所がないんですよね。住宅地だと音とか匂いのこともあったり。だから、木工や焼き物の作り手の人たちは多摩とか山奥に行くことが多くて。需要はあると思うし、そういう工房がいくつか並ぶような場所が、このエリアにもできたらいいなといつも考えてます」

次回のテーマは、“夫婦が同じ職場で働くこと”。仕事とプライベートの境界は? 喧嘩した時はどうするの? などなど、家族と一緒に仕事をすることについて、詳しくお聞きします。(安達)

植物や食べ物、動物など、暮らしの中から生まれるモチーフを描くやまさきさんのイラスト。
植物や食べ物、動物など、暮らしの中から生まれるモチーフを描くやまさきさんのイラスト。
連載一覧

日常が見えるシェアストア -atelier tempo-

#1 お店を共有する仕組み

#2 “作る”と“売る”のいい関係

#3 夫婦の風通しがよくなった理由

#4 高架下の常識をくつがえす

プロフィール

池田功・池田美枝

化粧品メーカーの広告やデザインの仕事を経て、1999年にdogdecoを創業。2001年に伊勢丹新宿店を開店。2009年に地元である武蔵小金井にdogdeco HOME 犬と暮らす家を開店し、2014年にatelier tempoに移転。
http://www.dogdeco.co.jp

沢藤勉・沢藤加奈子

革製品のメーカー勤務後に独立し、2010年に夫婦でsafujiとして三鷹の自宅に工房を構える。使うほどに手に馴染むsafujiの革小物は、革の質感と手縫いのプロセスを大切にしている。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。

http://safuji.com

中丸貴幸・中丸美砂

手製靴のメーカー勤務後に独立し、2012年に夫婦でcoupéとしての活動をスタート、自宅に工房を構える。コッペパンのような、つま先の優しい丸みがcoupéの靴の特徴。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。

http://coupe-shoes.com

やまさき薫

デザイン事務所勤務を経て、紙媒体のデザイナー、イラストレーター、シルクスクリーン版画作家として活動。暮らしの中から生まれる絵やデザインを大切に、紙や布の雑貨の制作やワークショップを開催している。2014年、atelier tempoにお店と工房を兼ねた、絵とデザインのアトリエ ヤマコヤをオープン。
http://yamasakikaoru.net

藤原奈緒

小金井市内のカフェで調理を担当後、2006年より料理教室を開講。家庭料理をよりおいしくするための調味料ふじわらのおいしいびん詰めの開発、販売などを経て、2014年、atelier tempoに地元の野菜とびん詰めを使った食堂あたらしい日常料理 ふじわらをオープン。
http://nichijyoryori.com

atelier tempo

東京都小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井内
http://www.facebook.com/ateliertempo/

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