高架下の常識をくつがえす

2017.03.27
高架下の常識をくつがえす

5組のメンバーが、同じ空間の中でお店を営むアトリエテンポ。
最終回となる連載4回目は、地域とのつながりについてお聞きします。定期的に行うイベントの開催、高架下という場所について、これからの展望など。アトリエテンポをスタートさせる時から、メンバー全員が大切にしてきた志について、お話を伺いました。

イベントではお店の“はしご”を楽しんでもらう

—イベントの開催については、どのように企画しているんですか?

池田「主には、アトリエテンポが主催のものと、中央ラインモール主催のものと2つがあります。企画については特に決まりごとはなく、僕らのつながりの中で生まれていっています。やまさきさんがゲストを呼んだり、企画をまとめてくれることが多いですね」

やまさき「それぞれがイベントに出た時に知り合った作り手さんとか、私の地元の鹿児島の人とか。地域やジャンルにこだわらず、商品の背景にある暮らしや生き方が素敵だな、紹介したいなという方をゲストに呼んでいます」

藤原「普段のランチ営業の時もそうですけど、イベントの時も食堂と物販の間の扉を開けているので、この場所から、お客さんが空間を行き来されている様子が見えて楽しいです」

やまさき「ふじわらで食べて、ここで買い物をして、ONLY FREE PAPERと珈琲や(アトリエテンポと同じ“コミュニティステーション東小金井”内の店舗)に寄って、という感じで、みなさん、この中ではしごをして楽しんでくれてますよね」

イベント中はたくさんのお客さんが集まり、夕方まで賑やかな光景が広がる。
イベント中はたくさんのお客さんが集まり、夕方まで賑やかな光景が広がる。

新しい時代の商店街のような、地域に近い場所でありたい

—アトリエテンポは、個店が集まっている昔の商店街のような雰囲気も少しありますよね。そういう感覚もあったりするのでしょうか?

池田「僕自身は少し持ってますね。ただ、古くからの商店街だといろんなお店が入ってるから統一感はないですけど、こうやって作るものや感覚が同じメンバーで集まっているというのは、今の新しい時代に即した商店街みたいなものなのかなと。地方でもそうですけど、空いてる商店街に新しいお店が入って再生していくとか、そういうことがこの地域でも出来るんじゃないかな、と一時期よく考えていました」

やまさき「はけのおいしい朝市の時からずっと、地域とつながりのある、ここに住む人たちにとって近い場所でありたいなという思いはあります」

藤原「アトリエテンポで2年やってみて、地域に根ざしてやってきたつもりでいたけど、本当に地域の人たちに使ってもらえてるかというと、実は思ったよりもまだ知ってもらえていないなというのが実感としてあって。この先、そのギャップを埋めていきたいです。違うコミュニティや、違う価値観をどう受け入れてもらうのか、というのは試行錯誤しているし、課題だなと思ってます」

食堂側からの景色。長い廊下のような通路を行き来しながら、お客さんはお店を眺める。
食堂側からの景色。長い廊下のような通路を行き来しながら、お客さんはお店を眺める。

お客さんを待つ場所があることの安心感

—お店という拠点がここにできて、地元以外のイベントに出る時の意識も変わってきましたか?

沢藤「外のイベントに出て、お客さんから“またくるわ”とか“検討します”と言われた時に、自分の中で捉え方が変わった気はします。昔は、そう言われると“あ、行っちゃった…”と思ってたんですけど、お店を持ってからは、ちゃんと待つ場所があるというか」

中丸「イベントとかで“また来ます”と言われて、実際に戻ってきてくれるお客さんって1割もいないくらいなんですけど、お店があると、またここに来てくれることが多いよね」

藤原「食堂の方も、イベントやびん詰めで知ってくださった方が電車に乗ってお店に来てくださることも増えてきました。隣で物販をやっている相乗効果も大きいと思います。お客さんの層が近いから、coupéやsafujiを見に来てくださった方が寄ってくれたり、逆に合ったり」

いつもの家庭料理がちょっと特別な味わいになる、藤原さんのびん詰め。
いつもの家庭料理がちょっと特別な味わいになる、藤原さんのびん詰め。

高架下は商業的な場所、という意識を変えていきたい

—アトリエテンポを始めて3年目に入りますが、これからの展望などがありましたら聞かせてください。

やまさき「本当はそれぞれ、住宅地の趣のある建物とかでお店をやるようなメンバーだっただろうなという思いも、どこかにあるんです。そういうメンバーがここに入る意味を、大切にしていきたいです。高架下という場所だけど、商業ベースじゃなくて、ちゃんと人の手が入っていることを大切にしたい。地域と距離が近い場所にならなきゃいけないという志でここを始めたので、それを忘れずに発信していきたいなと思ってます」

沢藤「高架下が商業的な場所だっていうイメージが僕自身はなかったんですけど、“そういうところに入るのね”って周りに言われて、逆にびっくりした記憶はあります」

やまさき「そういうみんなの意識を変えたいという思いはずっとあります。公共の場所が、もっと土着的な親しみやすい場所になってもいいんじゃないかなって。小金井でいうと、線路が高架になってせっかく南北がつながったので、地域の人たちが集まるような場所にしていきたいです」

池田「結局大切なのは僕は人だと考えているので、どこでやるにしても、かたちにできるメンバーだと思っています。物を売ることが優先ではなく、地域の人とどうやってつながっていけるのかを考え続けていきたいですね。そういう意味でもこの場所を評価していただいて、この中央線エリアにこういう場所がもっと増えたら嬉しいなと思ってます」(安達)

仕事仲間でもあり、何でも話せるご近所さんでもある、アトリエテンポのメンバー。
仕事仲間でもあり、何でも話せるご近所さんでもある、アトリエテンポのメンバー。
連載一覧

日常が見えるシェアストア -atelier tempo-

#1 お店を共有する仕組み

#2 “作る”と“売る”のいい関係

#3 夫婦の風通しがよくなった理由

#4 高架下の常識をくつがえす

プロフィール

池田功・池田美枝

化粧品メーカーの広告やデザインの仕事を経て、1999年にdogdecoを創業。2001年に伊勢丹新宿店を開店。2009年に地元である武蔵小金井にdogdeco HOME 犬と暮らす家を開店し、2014年にatelier tempoに移転。
http://www.dogdeco.co.jp

沢藤勉・沢藤加奈子

革製品のメーカー勤務後に独立し、2010年に夫婦でsafujiとして三鷹の自宅に工房を構える。使うほどに手に馴染むsafujiの革小物は、革の質感と手縫いのプロセスを大切にしている。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。
http://safuji.com

中丸貴幸・中丸美砂

手製靴のメーカー勤務後に独立し、2012年に夫婦でcoupéとしての活動をスタート、自宅に工房を構える。コッペパンのような、つま先の優しい丸みがcoupéの靴の特徴。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。
http://coupe-shoes.com

やまさき薫

デザイン事務所勤務を経て、紙媒体のデザイナー、イラストレーター、シルクスクリーン版画作家として活動。暮らしの中から生まれる絵やデザインを大切に、紙や布の雑貨の制作やワークショップを開催している。2014年、atelier tempoにお店と工房を兼ねた、絵とデザインのアトリエ ヤマコヤをオープン。
http://yamasakikaoru.net

藤原奈緒

小金井市内のカフェで調理を担当後、2006年より料理教室を開講。家庭料理をよりおいしくするための調味料ふじわらのおいしいびん詰めの開発、販売などを経て、2014年、atelier tempoに地元の野菜とびん詰めを使った食堂あたらしい日常料理 ふじわらをオープン。
http://nichijyoryori.com

atelier tempo

東京都小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井内
http://www.facebook.com/ateliertempo/

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