人が集うリヤカー店舗のはじめ方

2017.09.18
人が集うリヤカー店舗のはじめ方

“屋台”と言えば、おでんやラーメンを連想しますが、小金井市に住む人たちは“珈琲”をイメージされるかもしれません。赤い屋根の愛らしい緑のリヤカーを引いて屋台出店をしているのは、珈琲屋台出茶屋の店主である鶴巻麻由子さん。ハンドドリップの珈琲を屋外で販売しています。自分が心から好きと想えることで、自分らしいはたらきかたをする。さまざまなスタイルのコーヒショップやカフェがある中で、どうして屋台だったのでしょう? 質問の答えは、鶴巻さんの好きなモノとコトに関係していました。

屋台スタイルでの珈琲販売を決めた理由

鶴巻さんと珈琲との出会いは、学生時代にアルバイト先として選んだ神保町の喫茶店です。珈琲が好きだったからではなく、喫茶店の古き良き時代の佇まいが好きだったから。最初は、ウエイトレスとしてドリンクや軽食を運ぶしごとがメインでした。そんなある日、マスターのすすめでハンドドリップで珈琲を淹れることに。その後も度々体験することで、どんどん珈琲の魅力にはまっていき、マスターが開いていた教室にも参加するようになりました。プライベートでもあらゆるお店の珈琲を飲みに行ったり、珈琲豆を買って自宅で淹れたり。珈琲中心の生活になっていたそうです。

「散歩が趣味で『自動販売機の珈琲じゃなくて、美味しい珈琲が飲めたらいいな』と。自分好みの珈琲豆もわかってきて『野外で珈琲を淹れられたらいいな』と考えるようになりました」と当時を振り返ります。

転機となったのは24歳頃。兼ねてから思い描いていた夢を形にするべく応募したのが、引っ越し先の小金井市で見つけた商工会主催のこがねい夢プラン支援事業という企画です。企画を提案し一年以内に実現できれ助成金がもらえるというもので、鶴巻さんは珈琲屋台のアイデアを提出、見事提案が通り実現に向けて動き出したのです。

手挽きした豆を一杯一杯丁寧にハンドドリップ。鉄瓶と炭で沸かしたお湯は、とてもまろやかですごく美味しい。
手挽きした豆を一杯一杯丁寧にハンドドリップ。鉄瓶と炭で沸かしたお湯は、とてもまろやかですごく美味しい。

ゼロからのスタートだった屋台づくり

車の免許を持っていない鶴巻さんが、屋台営業で目をつけたのはリヤカーでした。珈琲の屋台販売はもちろん、リヤカーの移動販売自体が少なくなっている中で、どうすればいいのかわからないことだらけ。模索する日々だったと言います。

「東京で1件、リヤカーを製造しているところをたまたま見つけたんです。そこで屋台のノウハウを教えてもらうことからスタートしました。リヤカーだとガス、電気が使えないので炭の使用を考え、今度は炭屋探し。そこでは、炭の扱い方を学ぶためにはたらかせてももらいました。何もわからないなりにはたらいていたので、出会う方みなさんが親身になって応援してくれて。リヤカー1台、通常約50万円かかるところを中古の部品などを使って30万円程度に抑えてくれたり、炭や火鉢の道具の卸価格をかなり安くしていただいたり。資金を貯めて行動に移したわけではないので、本当にありがたい話です」と笑います。

初代リヤカーは、14年経った今も現役。荷物を乗せると100kg以上はあるリヤカーですが、女性ひとりでも引けるように計算されて作られています。
初代リヤカーは、14年経った今も現役。荷物を乗せると100kg以上はあるリヤカーですが、女性ひとりでも引けるように計算されて作られています。

お祭り出店から店舗の軒先での出店へ

商工会主催のこがねい夢プラン支援事業で提案した珈琲屋台の準備が整い、助成を受けるために必須だった実績作りに。営業場所として選んだのは、地元で年に数回開催されるお祭りでした。その後、助成金を受け取ることはできたものの、お祭り出店のみで生計を立てることは難しく、アルバイトをかけもちする日々が続いたそうです。

「『できることから少しずつ』という感じでしたが、出店場所を増やせないかと考えついたのが店舗の軒先をお借りしての営業です。その一店舗がお祭りに出店されていたオリーブガーデンで『軒先でやらせていただきたいんですよね』と交渉したところOKをいただけて。そのほかにも自分が心惹かれる素敵なお店に出店交渉をし、営業させていただきました。リヤカーを引いているところを見かけて『うちでやりませんか?』と声をかけていただくこともありましたよ。お店の敷地をお借りしているので『失礼がないように』という責任感も学ばせてもらっています」。常設店では、わからなかった貴重な体験を積み重ねながら、屋台営業一本で生計を立てていくようになります。

来客の9割が常連。和気あいあいとした雰囲気は、常設店では味わえない野外ならではの空気感です。
来客の9割が常連。和気あいあいとした雰囲気は、常設店では味わえない野外ならではの空気感です。

屋台営業14年で見つけたやりがい

経営はもとより、屋外での営業の知識もまったくなかった鶴巻さん。珈琲屋台を始めた頃は、開店前の準備もままならず、営業するのもやっとだったそう。それでも自分の好きなモノ、コト、ヒトがあるからこそ続けられると言います。

「それぞれの時間を過ごす中でふと会話が生まれるのは、外ならではだと思うんです。冬場は火鉢を置いていますが、みなさん自然に手をかざして話が始まって。屋内のお店で隣の人と会話することってほとんどないですよね。お店の雰囲気は、確実にお客さんが作ってくれていています」。野外ということ、珈琲を淹れること、人と人がつながっていくこと。鶴巻さんの“好き”こそが、自分自身の原動力、周りの人たちの賛同に繋がっているのではないでしょうか。

「外はいいですよね! 屋台はこれからもずっと続けていきたいです」と力強く話してくれました。
「外はいいですよね! 屋台はこれからもずっと続けていきたいです」と力強く話してくれました。

次回は、移動販売にこだわる鶴巻さんが常設店の出茶屋の小屋&オリーブ・ガーデンをオープンさせたきっかけについて迫ります。

連載一覧

#1 人が集うリヤカー店舗のはじめ方

#2 出茶屋を支える周囲の後押し

プロフィール

鶴巻 麻由子

平林家のお庭と仕立てとおはなし処Dozoの軒先のほか、お祭りやイベントなどに屋台出店。2017年7月に常設店の出茶屋の小屋&オリーブガーデンをオープン。

珈琲屋台 出茶屋
http://www.de-cha-ya.com

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