出茶屋を支える周囲の後押し

2017.09.21
出茶屋を支える周囲の後押し

14年間、移動式の喫茶店を営んでいた珈琲屋台出茶屋店主の鶴巻麻由子さんが、2017年7月に常設店を開店させました。拠点を持たずに営業していた鶴巻さんが、その場所に選んだのは出店先のひとつでもあったオリーブ・ガーデンの軒先でした。

常設店を作ることになったきっかけ

JR東小金井駅より徒歩8分、苗木や鉢花、花苗、園芸資材などを取り扱うオリーブ・ガーデンの軒先に、赤い屋根が目を引く緑の小屋が建ちました。2005年から定期的に出店していた珈琲屋台出茶屋が、今年の7月に出茶屋の小屋&オリーブ・ガーデンとしてオープンしたのです。

オリーブ・ガーデンでの出店風景。屋台が小屋に変わってもお馴染みの顔ぶれがそろう日も多い。
オリーブ・ガーデンでの出店風景。屋台が小屋に変わってもお馴染みの顔ぶれがそろう日も多い。

常設店を作ることになったきっかけ

「“いつか常設店を持ちたい”、という思いは全くありませんでした」と言い切る鶴巻さんが、とある真夏の暑い日にふと思った「お客さんが少しでも快適になる空間作りはできないか」「体力温存のためにリヤカーを引く日数を減らせないか」「人通りが少なくなる真夏にオリーブ・ガーデンと一緒に何かできないか」という考え。常設店なら何かできるかもしれないと思いながらも、所有地ではないことから勝手なことは言えないと思い直し、オリーブ・ガーデンに相談することはしなかったそうです。

けれども、それから半年が経つものの、鶴巻さんの“やってみたい”という思いが色褪せることはありませんでした。さらに、お祭り出店をして間もない頃の庄司さん(出茶屋の小屋&オリーブ・ガーデンのスタッフ)との出会いも鶴巻さんの“やってみたい”という気持ちを後押しすることに。

「お祭り出店の準備にあたふたしている私を他の出店者さんが見るに見かねて(笑)。たまたまお祭りの手伝いに来ていた庄司さんに『手伝ってあげなよ』と声をかけてくれたんです。喫茶店ではたらいている彼女が手伝えば、無事に営業ができるだろうと。庄司さんは、初対面にも関わらずとても親身になって手伝ってくれて。そのことがきっかけで、それ以降も何度かヘルプで入ってくれるようになりました。常設店のことも彼女には何度も相談をしていたんですけど、ちょうど庄司さんが勤めていた喫茶店の閉店が決まって。庄司さんのはたらきぶりは知っていたし、転職先を探すなら『常設店で一緒にはたらきたい』そんな風に思ったんですよね」。

いろんな思いと出来事が重なり、思い切ってオリーブ・ガーデンに相談。“やりたい”という強い思いだけでは実現できないことだけに、話を持ちかける時はドキドキしたそうですが、オリーブ・ガーデンの返事は意外にも「いいよ」と、あっさりしたものでした。50万円の補助金が受けられる小規模事業者持続化補助金にも共同で応募してくれ見事採択。夢が形になっていったのです。

出茶屋の小屋&オリーブガーデンの建築期間は約2ヶ月。火〜日曜の11:00〜18:00頃までの営業です。
出茶屋の小屋&オリーブガーデンの建築期間は約2ヶ月。火〜日曜の11:00〜18:00頃までの営業です。

店舗だからできること

知り合いの建築家や材木屋、常連のお客さんも一緒になって作ったという出茶屋の小屋&オリーブガーデン。ここで販売しているのは、屋台と同じく小金井市の地下水、炭と鉄瓶を使って淹れるハンドドリップの珈琲がメインです。そのほかにも南部鉄器で焼いたホットサンド、喫茶店常務だけでなく、お菓子作りも得意とする庄司さんが手作りする焼菓子やスイーツもあります。飲食店の許可を取っているので、屋台よりも提供できるメニューが自ずと多いのです。

「テイクアウト用の窓口を作ったことで、屋台出店の時よりも気軽に立ち寄ってもらえる印象です。近所の方、オリーブ・ガーデンのお客さんなど、常連さん以外の利用が増えて、少しずつ浸透してきましたがまだまだこれからですね」。

兼ねてから希望していた通り、常設店の営業を仕切っているのは庄司さんです。では、鶴巻さんはというと…今まで通り週4日程度、平林家のお庭と仕立てとおはなし処Dozoの軒先で屋台出店をしています。

ホットサンドのメニューは、タマゴサンド、ツナサンドの定番以外に週替わりで内容が変わる本日のおすすめもあります。
ホットサンドのメニューは、タマゴサンド、ツナサンドの定番以外に週替わりで内容が変わる本日のおすすめもあります。
イートインスペースでは、お年寄りから子供まで幅広い世代の方々が珈琲と軽食を楽しんでいます。
イートインスペースでは、お年寄りから子供まで幅広い世代の方々が珈琲と軽食を楽しんでいます。

屋台も小屋も“長く続ける”ことを目指して

お店を始める上で大切なことを鶴巻さんに質問してみると、予想に相反した回答が返ってきました。

「資金や道具など、準備をすることは大切だと思いますが、万全に整うことはないと思うんです。お店を始めるのに一番大切なことは“やりたいという気持ち”。諦めなければ、行動に移せば形を変えてでも実現できるのではないでしょうか」。

大好きな屋台営業をいつまでも続けるために始めた常設店の営業は、まだまだこれからだと笑います。「今後、店舗もスタッフも増やすことはありません。自分ができることは限られていますから。ただ、定期的にイベントを企画・開催したり、フライヤーを配布したり、日々コツコツと無理することなく、お客さんが楽しみにしてくれることをいつまでもやっていきたいですね」。その積み重ねこそが、お客さんに愛されるお店を長く続けていく秘訣なのかもしれません。

提供するメニュー、空間だけでなく、鶴巻さんの人柄こそがお店の魅力となっています。
提供するメニュー、空間だけでなく、鶴巻さんの人柄こそがお店の魅力となっています。
連載一覧

#1 人が集うリヤカー店舗のはじめ方

#2 出茶屋の未来を見据えた先に

プロフィール

鶴巻 麻由子

平林家のお庭と仕立てとおはなし処Dozoの軒先のほか、お祭りやイベントなどに屋台出店。2017年7月に常設店の出茶屋の小屋&オリーブガーデンをオープン。

珈琲屋台 出茶屋
http://www.de-cha-ya.com

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