東久留米市、小金井街道と滝山中央通りの交差点から、およそ300m続く「まえさわ小町商店会」。1960年代につくられた滝山団地のほど近くにあり、東久留米駅、花小金井駅、武蔵小金井駅へと向かうバス通りがメインストリートです。2023年には「東京商店街グランプリ」準グランプリ、2024年にはPRユニットが「東京都女性活躍推進大賞」に輝いた注目の商店会。その存在に憧れ、思い切って物件を借り、新たな一歩を踏み出した人も。地元の常連さんだけでなく、事業をはじめようとする人たちも惹きつける魅力はどんなところにあるのでしょう?
東久留米市に暮らす黒田恵美さんは、2024年、まえさわ小町商店会の一員として「たねかコンディショニングルーム」を開きました。産前産後の妊産婦、高齢の方たちを中心に、いわば0歳から90代まで、ピラティスと整体で身体をケアするサロンです。
理学療法士として15年以上、近隣市の病院に勤務していた黒田さん。仕事にやりがいもあり、「起業だなんてまったく考えてなかった」といいます。変化を芽生えさせたのは、3人の子どもたちでした。
「仕事が楽しいか聞かれたとき、『やりがいあるよ』とは答えたものの、『私の仕事おすすめだよ!』と言えなかったことにモヤモヤが残って…。『挑戦するのもいいな』って感じてもらえるような姿を子どもに見せたいんだと気づきました。大変なこともあるけど、楽しそうだなと思ってもらいたいです」
「子どもたちが大きくなったとき、このまちが居場所になっていたらいいなという思いもあります。結婚を機に東久留米に引っ越して来たのですが、今では本当にこのあたりが大好きで。空き店舗や空き家が増えていく風景も目にしていて、自分に何かできるとは思ってなかったけど、でもいつか何か、という気持ちはずっと胸の中にありました」
40数店が加盟するまえさわ小町商店会。マンモス団地である滝山団地の建設とほぼ同時期に生まれ、「滝山東商店会」として住民の毎日を支えてきました。1999年にはバス通り沿いに街路灯を設置し、2007年からは、公募から選ばれた愛称「まえさわ小町」が商店会の正式名称となっています。
「サロンを開いてから、商店会事務局の方や各店舗の皆さんとたくさんお話するようになったのですが、とってもあったかい商店会なんです。お互いのお店を紹介し合ったり、店主の顔をイラストにしてカードラリーイベントを企画したり。相談もしやすいし、すごく安心できます」
そう話す黒田さんにとって、実はサロン開業前から、まえさわ小町商店会は特別な存在でした。
「この商店会はもともと憧れだったんです。PRユニット『こまちーズ』がとにかく素敵で。お店をされている女性3人組なのですが、老舗のお店を継いでいらっしゃったり、自分で起業されてたり、パワフルでかっこいいなあと思っていました」
商店会に加盟しているお店は多種多様。例えば、黒田さんにとってまさに“はじまり”の場所だった「はじまりの家 そら」さん。宿泊利用もできる訪問看護ステーションで、カフェ営業やピアノ教室なども開催しており、地域の誰もが立ち寄ることができる“コミュニティホーム”の一面も持つ場所です。
「友達の紹介で遊びに行ったとき、『いつか女性に向けた整体をしてみたい』と話していたら、代表の冨澤さんが『ここでやってみたら?』と声をかけてくださったのがすべてのはじまりです。一角をお借りして談笑しながら整体をしたのですが、隣の部屋で看取りをしていて、『穏やかなお顔だね』なんて声が聞こえてきたり、ご家族が帰宅する前にキッチンでごはんを食べて思い出話をされていたり…。すごく穏やかで、こんな最期もあっていいんだと衝撃を受けた経験でした。病院で解決できることって一部で、地域にいる時間の方が長い。地域にいる理学療法士はとても少ないので、わたしは地域でサポートを必要としている人の助けになれたら、という思いも強くなりました」
続いては、黒田さんが家族で来るたびに大量買いしてしまうという菓子店「Tuttofaremoose(トゥットファーレムース)」さん。ホテルでパティシエとしてケーキ作りをされていたご夫妻が2022年に開業したお店です。
「構想を練っていたというわけでもなくて、わりと唐突に『やってみるか』と思い立ったんです」というお2人の手から作り出されるのは、お芋をテーマとした洋菓子。東久留米市で生まれた品種、柳久保小麦を使ったケーキや、熟成壺焼き芋も大人気です。
最後に伺ったのは、PRユニットこまちーズのお1人のお店でもある「ふとんしばた」さん。商店会が発足する前、団地の開発途中でまだ周りが野原だったという早い時期に開業した老舗です。
寝具の販売だけでなく、木綿ふとんの打ち直し、来客用の貸ふとんなど、住まいに近い実店舗らしいサービスで長くこの地域の暮らしに根付いてきました。
こまちーズのkyokoさんが「そういえばこれ持ってる?」と黒田さんに差し出したのは、商店街の50周年を記念として2019年に発行した冊子『まえこま』。「いいね!」と思う場所やものを見つけてもらおうと、加盟店を一軒ずつめぐって紹介しています。
「この冊子をつくるときに結成したのがこまちーズなんです。3人同世代で、子どもの通っている学校も同じだったりして。冊子作りもイベントも『これしたい!あれしたい!』という妄想がいつもいっぱいあります(笑) 新しいお店だと、物販のお店があるといいな」とkyokoさん。
サロンを持ってみると、1人で開業して奮闘しながら、仕事を楽しむ女性が近くにたくさんいることに気づいたという黒田さん。リーフレットのデザインをお願いしたりと、「一緒になにかしよう!」という話にすぐつながるそう。
自分のように新しいチャレンジをはじめたい人の応援になればと、黒田さんは一軒家を改装したサロンの一部をレンタルスペースとして貸し出しています。
「自分の子どもたちへの思いと同じくらい、女性でも働き続けられる道をつくりたいという気持ちもあります。定年まで理学療法士として働き続けている女性って少ないんです。病院以外にも多様な働き方の選択肢が広がればと思っています。商店会で仕事できるのってすごくいいですよ。事務局の方もすごく優しくて、開業前に相談したら『やってやって!絶対したらいいよ!』と背中を押していただいて(笑) わたしがそらさんでチャレンジをスタートしたように、このサロンも誰かのはじまりの場所になれたらうれしいです」
滝山団地といえば、団地内にある「滝山中央名店会」も老舗から若い世代の新規出店でしばしば話題になるエリア。
どんな場所で、何をはじめるか考えるときには、立地や物件の条件ではなく、どんな人たちがいるのか見詰めてみると、その先の光景が一気に広がりそうです。暮らしと、仲間と、まちの歴史。そんな魅力に惹かれたら、まえさわ小町商店会を訪れてみてはいかがでしょう。
まえさわ小町商店会
https://maecoma.com
たねかコンディショニングルーム
https://www.instagram.com/taneka.co.room/
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