西荻窪の暮らしをていねいに

2018.12.20
西荻窪の暮らしをていねいに

まち歩き、古本、アンティークと周辺マップが数多く存在し、どのお店に入ってもご近所のショップカードやフライヤーが棚にぎっしり。毎月行われる朝市や昼市のほか、まち歩きをテーマにしたイベントなど、どの街よりも地元愛を強く感じる東京・西荻窪。古いものと新しいものが絶妙なバランスでミックスされ、流れる空気もゆったり穏やか。そんな街で生まれ育ち、地域の人の健康と暮らしに寄り添う事業を展開する「暮らしのいろいろ ていねいに、」代表の福田倫和さんにお話をお聞きしました。

一つのお店で4つの事業を運営する「暮らしのいろいろ ていねいに、」とは?

JR西荻窪駅南口から徒歩7分、店舗兼住居の木造アパート内に「暮らしのいろいろ ていねいに、」はあります。“地元の人の健康と暮らしをサポートする”をテーマに掲げ、2013年にお店をオープン。今行なっているのは、食べる・安らぐ・学ぶ・住むの4つの事業で、これらを取りまとめているのが、西荻窪出身&在住の福田倫和さんです。

2013年に起業した時から行なっている事業が、シェアカフェの運営。現在、3つのお店が営業しています。提供するメニューのジャンルは異なるものの、統一して日替わりごはんがふるまわれます。

「シェアカフェを利用するみなさんに話しているのは、『自分の家族に毎日食べてもらいたい食事を作ってください』ということ。安心・安全な食事はもちろんですが、西荻で生活する人たちが毎日食べたいメニュー、価格帯であることも大切にしています」

カフェスペースの奥にあるのは個室のセラピールーム。国家資格のひとつである、はり灸あん摩マッサージ指圧師の資格を持つ福田さんが、「しごと帰りやカフェで食事をした後、フラッと立ち寄れてリラックスできる場所になれば」という想いで運営しています。

オープンキッチンになったカウンター席の一角。一人で訪れたお客さんとスタッフが談話する、という光景が日常的だそう
オープンキッチンになったカウンター席の一角。一人で訪れたお客さんとスタッフが談話する、という光景が日常的だそう
「はり灸指圧マッサージ」、「びわの葉温灸」といった、体の芯から癒されるセラピーを行う。子供を連れての施術も可能
「はり灸指圧マッサージ」、「びわの葉温灸」といった、体の芯から癒されるセラピーを行う。子供を連れての施術も可能

利用する人のニーズと福田さんの活動がマッチング

「カフェとマッサージの運営をはじめた頃、健康や暮らしにまつわるワークショップを細々とやっていたのですが、だんだん『やりたい』と言ってくれる人が増え、ジャンルの幅も広がって。質、量ともに充実してきたので、『これもひとつの事業として成り立つ!』と思ったんですよね」

ワークショップも事業の柱の一つに加わり、さらに2017年9月からは、不動産事業を新たに立ち上げることになります。

「西荻出身で、お店もやっていると『あの人、西荻詳しいよね』ってなるんですよ(笑)今、西荻の街も人気なので、『住んでみたいという人が多いから案内してくれない?』という話が来るようになり、趣味で始めた活動が西荻ニクラス不動産です」

福田さんが行う不動産事業は、家賃や間取りで住居を決めるのではなく、西荻窪という街・暮らしに役立つ情報を知った上で住まいを決めていくサービスです。当初は賃貸住宅の仲介に必要な資格を持っていなかったため、不動産屋の協力を得て物件メインの街歩きツアーなどを3年程していたそう。

「ここのスペースは…」と、ていねいに案内してくれる福田さん
「ここのスペースは…」と、ていねいに案内してくれる福田さん

「参加される方から『家も紹介してくださいよ』って言われちゃうんですよね…実際、仲介業までやらないと利益もほとんどなかったし、やっていく内に『もっとちゃんとやろう』と思うようになって、宅地建物取引士の資格を取ったんです」

ただ、仲介業を行うためには事務所が必ず1部屋必要。どこか借りるのはどうかと考えているタイミングで、「ていねいに、」が入居していたアパートの一室に空きが出ます。

「まさか空くと思っていなかったので、『これはもう始めるしかない!』と思いました。この場所以外で事業を始めるのは、家賃的にも距離的にもどうかな…という思いがあったので」

と当時の偶然を振り返る福田さん。必然的に、より地域に密着したはたらき方をすることになっていきました。

不動産事業では、毎月第三日曜日に行われる神明通りあさ市など、西荻窪のイベントに出店することも
不動産事業では、毎月第三日曜日に行われる神明通りあさ市など、西荻窪のイベントに出店することも

西荻窪出身の福田さんが地元でやりたいことを見つけるまで

大学卒業後は、新卒で入社したメーカーの営業を2年されていた福田さん。退職を決意した当時をこう振り返ります。

「しごとが面白くないわけではなく、サラリーマン生活も悪くはなかった。ただ、自分がずっとはたらいていく場所とは違うかな…と感じていて。今後どうしようか、いろいろ探っているうちに東洋医学に出会い、これかも?と思ったんです」

東洋医学の知識と経験を深めるために鍼灸の専門学校に通い、卒業後に選んだ就職先が、マクロビや自然治癒力に興味のある人の間では有名な長野県にある宿泊施設、ホリスティックリトリート穂高養生園です。

鍼灸師としてはたらいた6年間は、やりがいがあり、はたらく環境も福田さんに合っていました。しかしその中で、いつしかひとつの感情が浮かび上がっていることに気づきます。「もっと身近に、日常生活の中で居心地のいい場所が作れないか」。福田さんのはたらき方、地元・西荻窪との関わり方が、だんだんと明確になっていったのです。

「西荻窪でお店をするのは、仕事や出かけ先から帰ってきた時でも立ち寄りやすいしニーズもあると思った」と福田さん
「西荻窪でお店をするのは、仕事や出かけ先から帰ってきた時でも立ち寄りやすいしニーズもあると思った」と福田さん

開業するまでに培った人脈と経験に救われる日

退職し、西荻窪に帰ってきた福田さんは「ていねいに、」のオープンに向けて、着々と準備を進めていきます。穂高養生園ではたらいた経験を持つスタッフとも出会い、一緒にお店をやっていくことが決まるなど、開業に向けて順調に事が運ばれていた…と思いきや、「店舗は、飲食店と施術ができるセラピールームの2部屋が必要だったので、現在の物件を見つけるまでに1年かかりました」と苦笑い。しかし、この1年間に出会った同業者やお客さん、そして経験が、今手がけている事業の原点のひとつになっていました。

「シェアスペースとして、キッチンや座敷をレンタルしていますが、当時は西荻窪駅北口にあるコミュニティレストランのスペースを借りて、半年間ほど夜カフェの営業をしていたんですよ。マッサージは、出張でやっていて」

店舗営業をするために必要な初期費用をかけず、開業する頃には口コミで「お店がオープンする」という情報が自然と広がっていたと言います。カフェは誰かにお願いするつもりでいた福田さですが、それ以外の事業でもシェアやレンタルを積極的に行うのは、貸す側も借りる側もメリットがある、ということに気づいたから。現在カフェにはボランティア制度があり、無償でホールスタッフとしてはたらく代わりにまかないとして食事が出る、ということもやっているそう。いつかの自分のように、西荻窪の街で何か始める人のきっかけに、後押しする存在になりつつあるようです。

店舗入口にある棚は、委託スペースに。商品のセレクトは、福田さんが行なっています
店舗入口にある棚は、委託スペースに。商品のセレクトは、福田さんが行なっています

西荻窪を拠点にする人たちが心地よく暮らすために

生まれも、育ちも、はたらく場所も西荻窪の福田さん。調べてみればご自身の結婚式も、1932年に建てられた地元の集会所・井荻会館を披露宴会場にして、西荻窪駅から人力車でお練りをしたりと、街全体を使った“西荻婚”をされていました。ちょうど開業準備をしている時期だったそうで、福田さんにとって西荻窪は公私ともにキータウンということが伺えます。

JR西荻窪駅周辺。少し歩けばカフェや雑貨店など、個性的なお店が軒を連ねています(写真・福田さん)
JR西荻窪駅周辺。少し歩けばカフェや雑貨店など、個性的なお店が軒を連ねています(写真・福田さん)

そんな愛してやまない街で、今後どんな活動を考えられているのか聞いてみると「うーん…」と笑います。

「今やっている事業も『地元の人の健康と暮らしをサポートする』というコンセプトにそっていれば、何をやってもいいのかなーと思っているうちにだんだん広がっていったので。屋号にある“いろいろ、”というのは、いろいろなことをやっている、そしていろいろな人がいる、やっているという意味を込めています」

地元をよく知り、そこで暮らす人、商い人と密につながっているからこそ生まれるしごと。年々注目され、時代とともに変わっていく西荻窪の見守り人として、今後も変わらずていねいに、いろいろ取り組んでいく福田さんの活動が楽しみでなりません。(新居)

プロフィール

福田倫和

「食べる」「安らぐ」「学ぶ」「住む」のそれぞれをキーワードにした活動を行う「暮らしのいろいろ ていねいに、」を運営。はり灸あん摩マッサージ指圧師、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP認定者、宅地建物取引士の資格を持ち、はり灸指圧マッサージや不動産業、お金、開業についての講座を行う。
http://teineini.com/

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