JR中央線 東小金井駅付近の高架下にある、古着とクラフトビールのお店「Toy Toy(トイトイ)」。店主の東松真依さんは、大手アパレル会社を退職後、オンラインストアとポップアップストアを経て、2023年に路面店をオープンしました。自分らしくステップアップを叶えたその経緯について、お話を伺いました。
元々ファッションで自分らしさを表現することが好きだったという東松さんは、新卒でアパレル会社トゥモローランドに入社します。
「学生時代はフランスに留学していました。帰国後すぐに就職活動に入ったのですが、みんな画一的にリクルートスーツを着て、同じような髪型をして、というのに違和感を感じちゃって。アパレル業界は服装も自由で、むしろそこが選考基準になる。そういった自由な雰囲気の方が自分に合っているのかなと思いました」
そして、ベルギーのブランドを扱う店舗に配属され、京都、大阪、青山、丸の内のお店で約10年勤務します。店長職を担いながら、レイアウトや買い付け、イベントの手配、在庫の管理、ポップアップの立ち上げなど、あらゆる業務を兼任しました。
「本当に服が好きで。同じように服が好きなお客様と会話しながら接客をするというのはすごく楽しかった」と当時を振り返ります。
そんな東松さんに転機が訪れたのは、第一子を出産した後のこと。折しも世界はコロナ禍に見舞われていました。仕事もできず、コロナ禍で外出もできず、社会とかけ離れていく感覚で、次第に自分の生き方について考えるようになります。
「これからは会社で経験したことを活かして、自分の力を試してみたい。子どもを見ながら、大好きな洋服を人に提案していくやりがいを感じられる仕事に挑戦してみよう」
そこで自分で新しいビジネスを始めようと、アイテムに選んだのが古着。東松さんは、古着を扱う理由についてこう語ります。
「私自身、以前からプライベートで好んで古着を着用していました。ハイブランドで少し値の張るものも、古着だと手が届きやすくなる。高いものを高いまま販売するのではなく、自分と同じように、良いものをリーズナブルに着ていただきたいという思いがありました。それに、ノーブランドの服だったら一点ものなので愛着を持って着ていただける。そこが古着の魅力かなと思っています」
新しい仕事への思いは強まるものの、当時はまだ出産したばかり。仕事をするにしても、自宅で子どもを見る必要がありました。それで考えたのが、オンラインストア。「子どもを見ながら空いている時間に自分のペースで仕事ができるため、スタートしやすかった」と話します。
こうして、東松さんは少しずつ古着屋を形にしていきます。オンラインストアの運営やSNS発信などの経験はなかったものの、YouTubeなどを見ながら独学で一から習得していきました。
オンラインストアを始めて1年ほど経った頃。東松さんのSNSを見たイベントの主催者の方から、出店してみないかと声がかかります。本当にお客様に来ていただけるか不安を感じながらも思い切って出店したところ、SNSからお客様が広がり、多くの方に来店いただけたそうです。
「イベントでお客様や出店者の方々から接客を褒められることが多くて。会社員の頃は特別接客が得意だと感じたことはなかったのですが、意外と自分って接客に向いているのかもしれないと思ったんです。お客様に直接ご提案できるのも強みの一つだな、と自分を客観視できました」
この経験から、オンラインストアだけではなく直接お客様に会う機会を増やしていくことを決意し、随時ポップアップストアを開催するように。さらに、渋谷のイベントスペースを間借りし、週に一度、二週間に一度といった一定のペースでお店をスタートさせていきました。しかし、間借りのスペースでは毎回在庫を出し入れしなければならず、常設でオープンできる自分専用の場所が欲しいと考えるようになったと言います。
そうしたなかで出会ったのが、東小金井駅そばにある高架下の創業支援施設「MA-TO」。
「出店場所を決める際、子どもを育てながらストレスなく仕事をするために、自宅から通いやすいというポイントは大きかったです。もちろん、家賃が安い点も。固定費を抑えてどうやって経営していったらいいのか試行錯誤できますから。あとは、いいなと思った商品を一人でミニマムに揃えて一人で販売できる、このサイズ感がちょうどよかったんです。MA-TOには小さなお店が様々入っているので、周りの店主に相談もできますし」
固定費のかかる店舗を持つことに、それほど不安はなかったと言います。
「会社で働くという選択をしなかった時に、自分のやりたいことと子育てを両立させると決めたんです。路面店をオープンすることで、自分の仕事を仕事としてしっかり確立させたいという思いがありました。いきなり路面店を始めるのではなく、オンラインストアで商品が売れて、ポップアップストアで実際にお客様の顔が見えて手応えを感じられた。そういうステップがあったので、怖さよりも期待の方が大きかったですね」
Toy Toyを開店する時に新たに始めたのが、クラフトビールの販売です。その理由については、「ビールが好きだから」に尽きると言います。
「お洋服を楽しみながら、お酒も楽しんでほしいと思っています。実は、店舗を探す時にもお酒を販売できる飲食可の場所を探していて、どちらも叶うMA-TOは理想的でした」
現在契約しているブルワリーは10社ほど。最初は、酒屋さんに行って自分で飲んでみて、ブルワリーに連絡するといった地道なやり方で契約先を開拓していきました。ブルワリーのセレクトのポイントは、ビールやパッケージに作り手のこだわりやストーリーが感じられること。東松さん自身、こだわりを持って古着を買い付けしているので、その点で古着とクラフトビールがうまくリンクしていると言います。
古着の買い付けは、半年に一度、ヨーロッパ各地を回ります。会社員時代からヨーロッパの服に魅せられ、さらに「古いものに価値を見出す」というヨーロッパの人々の価値観も古着とうまくマッチしました。
買い付けや値決めで意識しているポイントはどこにあるのでしょうか。
「ワクワクするような面白いお店にしたいから、機械的に、アイテムごとにまんべんなく買い付けするようなことはしません。アイテムに偏りがあっても、自分が本当に良いと思ったものだけをセレクトしています。仕入れ値は頭の片隅に置きながら、お客様の着用スタイルがイメージできること、素材の良さ、ダメージが少ないといった点を大事にしていますね。価格を設定する際は、できるだけ、お店と商品を客観視するように努めています。自分だったらいくらで買うか、お客様目線で価格を決め、お店が存属していくためのギリギリの利益が出るようにしていますね」
Toy Toy で扱う商品は古着ですが、東松さんが重きを置いているのは「古さそのもの」ではないと言います。
「ヴィンテージのみを扱い、古さを重視している古着屋さんも多いと思います。でもToy Toyでは、ヴィンテージの物にこだわるというよりは、ご自身のクローゼットにある物と古着を組み合わせて、今っぽく、自分らしく着られるという点を大事にしています。そこが他の古着屋さんと違うのかな。私がセレクトショップ出身だからこそ、その感覚を生かしながら、古着に馴染みのない方にも古着を楽しんでもらえていると思っています」
自分のお店を営むことについては、どう感じているのでしょう。「自分の裁量で全てが決まる点が面白くもあり、難しくもある」と話します。
「会社員時代の店長の仕事が、売上について色々と任せてもらえるポジションで。それがすごく楽しかったんです。だから路面店をオープンする時も、自分で判断することを楽しんでいけるだろうというイメージを持って始めることができました。ただ、今は全てが自分の責任だという点が、やはり会社員時代とは大きく違いますね」
現在は二人のお子さんの子育て中でもあり、買い付けで家を空ける時はもちろん、お店の営業もご家族と協力しています。「子どもとの時間を優先させる日なのか、仕事を優先させる日にするのか。その判断を自分でできている点に満足している」と、上手に子育てと自己実現の両方を叶えています。
Toy Toyは、2024年3月で開店1周年を迎えました。オープン当初は物珍しさでお客様が入ってくることもありましたが、長くは続かなかったとか。その後は集客に力を入れようと決め、SNSを強化することに。その努力が実り、少しずつInstagramを通して遠方から来ていただける方も増えていきました。
今は他のショップと連携して、さまざまな新しい取り組みにもチャレンジしています。
「北千住にあるレコードショップでToy Toyの古着を取り扱っていただいたり、静岡県にある古着屋のユーロヴィンテージをToy Toyでポップアップ出店したり。これからも、他のショップの方にご協力いただきながら、自分だけではできない試みをして認知度をより高めていきたいと思っています」
東松さんはこれからお店をどうしたいと考えているのでしょうか。Toy Toyのファンをもっと増やすことが第一目標だと話します。
「生涯、仕事をしていきたいと思っているんです。そのために、今はお客様にもっと知ってもらうことが必要だと感じています。Instagramからオンラインストアを見てご来店いただけるお客様も多いので、SNSの発信とオンラインストアにも力を入れていきたいですね。今は一人でお店を営むのがちょうどいい規模感ですが、自分一人だけで対応できないぐらいようになった時に、店舗拡大など次のステップを考えられたらと。あと、子どもにも仕事をする私を通して、仕事っていいな、人生って楽しいなと思ってもらえたら嬉しいですね。ゆくゆくは子どもと海外に買い付けにもいけたら」
仕事に対する強い思いを抱きながら、自分の夢へと一歩ずつステップアップしてきた東松さん。気負うことなく、できることから少しずつ歩みを進めるその軽やかさは、東松さんがセレクトするカラフルな洋服そのもののようでした。経営者として、母として、東松さんの今後が楽しみです。(酒井)
学生時代はフランス・リヨンに留学。大学卒業後、新卒でアパレル会社トゥモローランドに入社。約10年に渡り、店長職、バイイング、全国のイベント計画、全国の商品管理を経験する。退社後、オンラインショップで古着の販売を開始。ポップアップストアへの出展を経て、2023年3月小金井市において、古着とクラフトビールのお店「Toy Toy」をオープンする。
https://toytoy.shopinfo.jp/
まちのインキュベーションゼミは、アイデアを地域で育てる実践型の創業プログラム。アイデアを事業化したいリーダーと様々なスキルを持って事業化をサポートしたいフォロワーがチームを作り、地域をフィールドに実践までを共にする4ヶ月間のプログラムです。
2024年7月20日(土) − 12月7日(土)
KO-TO(東小金井事業創造センター)
30名(先着順)
一般 5,500円 / 24歳以下 2,200円 (税込)
・アイデアをカタチにしたい人
・事業計画を実現したい人
・新規事業をはじめたい人
・事業を推進する仲間が欲しい人
・デザインなどのスキルを、誰かの事業に活かしたい人
・すでにあるお店や場所を、誰かに有効利用してほしい人
・事業化のサポートを通じて、起業経験を積みたい人
・将来、起業を目指している人
オリエンテーション
7月20日(土)10:00 – 18:00
各自がアイデア発表を行い、リーダーを選出します。決定したリーダーを中心にチーム編成し、4ヶ月後の実践に向けた業務設計を行います。親交を深める交流会も開催します。
プランニング
9月14日(土)13:00 – 18:00
実践プランをチームごとに発表します。プランに対するフィードバックをもとに、実践に向けた細部の設計を進めます。事業計画書の書き方など、創業に役立つ講義も行います。
実践
11月下旬
プレイベント、テストマーケティング、Web等による情報発信など、チームごとにプランニングした内容の実践を行います。
クロージング
12月7日(土)13:00 – 18:00
トライアルを踏まえ、事業プランの再構築を行います。ゼミを通じて得た気づきや学びをシェアし、各自のネクストステップを共有します。交流会でゼミ終了後も切磋琢磨し合える関係性を育みます。