小金井で築くスケボーカルチャー

2023.03.16
小金井で築くスケボーカルチャー

近隣にスケートパークがある小金井で、2022年3月、スケートボードと古着のお店「UNDERPASS KOGANEI」をオープンした比嘉優介さん。お店は、JR中央線の東小金井駅近くの高架下にある創業支援施設「MA-TO(マート)」にあります。スケーターでもある比嘉さんのお店を通じてスケボーコミュニティの輪が広がっています。「ここで店を開くのは想定外だった」と話す比嘉さんですが、一体どんな経緯で自分のお店を開くことになったのでしょう。

地元・沖縄で育まれたスケボー愛と店を持つ夢

沖縄県宜野湾市出身の比嘉優介さん。中学生の頃から洋服が好きで「自分の服屋を開きたい」と何となく考えていたといいますが、そこには地元への思いがありました。

「自分が育った宜野湾市は基地が真ん中にあって、その周りを東西南北にエリアが分かれている感じで。自分の実家のエリアには何もなかったので、そこにお洒落なお店が一つでもあれば地域にとってもいいんじゃないかと思ったのが、自分のお店を作りたいと思ったきっかけでした」

沖縄はスケートボードが盛んな街。もともとサッカー少年だった比嘉さんでしたが、友達から誘われたのをきっかけに、10代の頃からスケボーにハマっていったそうです。

「沖縄は街に一つはスケートパークがあって大人も子どもも米軍の人も滑っているという風に、街にスケボーカルチャーが根づいていたんですよね。友達の多くがスケボーをしていて、スケボーを通して友達が増えることもよくあって。家から徒歩5分のスケートパークで、一日のほとんどの時間を過ごしていましたね」

店主の比嘉優介さん。「スケボーで大会に出たり飯を食ってるわけじゃなくて、好きで滑ってるだけなんです。スケボーは音楽、スポーツ、ファッション、スケートビデオといろいろなカルチャーが混ざって絡まっているので、深みがあって面白いです」
店主の比嘉優介さん。「スケボーで大会に出たり飯を食ってるわけじゃなくて、好きで滑ってるだけなんです。スケボーは音楽、スポーツ、ファッション、スケートビデオといろいろなカルチャーが混ざって絡まっているので、深みがあって面白いです」

20歳の時、比嘉さんは地元の環境に甘えずに自立しようと沖縄を離れることにしました。東京・三鷹の友達の家で居候しながらさまざまなアルバイトを経験し、安定した働き方をしようと吉祥寺の大手アパレルショップで働き始めます。やがて社員として店長を任されるようになり、接客、在庫管理、経理関係などの仕事を通して、お店運営の基本を身につけていきました。

一方で、東京に来てからも武蔵野公園や小金井公園などでスケボーを楽しんでいた比嘉さん。25歳の時、スケーターの友達から「スケボーブランドのお店がオープンするから一緒に働かないか?」と誘いを受けます。安定した仕事を辞めることに迷いがあったものの、大好きなスケボーと関わることができる新しい世界に飛び込むことを決めました。

店で販売するパーツもブランドのもの。希望者には店で取り付けも行うので、一人の接客に40~50分ほどかかる
店で販売するパーツもブランドのもの。希望者には店で取り付けも行うので、一人の接客に40~50分ほどかかる

小金井に開いたスケボー&古着屋

新しい職場は、イギリス・ロンドンで生まれたスケボーのストリートブランド「パレス・スケートボード」で、高品質で価格も高い服やスケボーを扱っていました。比嘉さんはそこで、素材など商品の知識を深めながら、原価や海外からの搬送費、粗利といったお金の流れも含めてお店全体の運営を学び、やりがいを持って働いていたそうです。たくさんのお客さんでにぎわう人気店でしたが、3年ほど勤めた頃にコロナの影響が広がってきました。

「スケボーが好きな個性的なスタッフが集まっていて、自由度も高く、皆で納得しながらお店をつくっていく環境がよかったです。ただ、コロナの影響で人を減らすことになり、自分は20代前半の若い子が残った方が店にとってもいいと思って辞めることにしました。場所が原宿だったので、もう少し落ち着いた場所で働きたいという思いもありましたしね」

退職を決めたものの、次のことは考えていなかったという比嘉さん。「何やろうかな?」と考え、「スケボー屋と古着屋を自分でやってみよう」と思いついたそうです。長い間、漠然とあった自分でお店をやってみたいという気持ちが形になっていきます。

早速、物件探しをスタートした比嘉さんは、WebサイトでJR中央線の吉祥寺から小金井あたりの物件を検索し、高架下の創業支援施設「MA-TO」と出合います。

「駅から近かったのと価格の安さが決め手でした。あと、小金井は大学やスケートパークが近くにあるのに古着屋やスケボー屋がなくて。若い人が来てくれるかなと目星をつけていたんです。いい物件と出合ったので勢いよく踏み出したという感じで、見つけてから借りるまでは早かったですね。遊んでお金を使うより、自分の店につぎ込もうと思いました」

MA-TOでは横のつながりも大切に。「MA-TOのピザ屋さんやカレー屋さんで食べたり話したり、そこの子どもと一緒に遊んだりもします」
MA-TOでは横のつながりも大切に。「MA-TOのピザ屋さんやカレー屋さんで食べたり話したり、そこの子どもと一緒に遊んだりもします」

そして、比嘉さんはこれまでの仕事で身につけてきたノウハウを生かしながらお店作りを進めていきます。一ヶ月で仕入れや陳列棚を作るなどの準備を行い、2022年3月に「UNDERPASS KOGANEI」をオープンしました。

「前の職場には頼りたくなかったので、自分で一から仕入れ先を開拓して、代理店に取引の依頼をしていきました。お店のディスプレイをDIYで作るのは好きなので楽しかったんですけど、ビジネスが絡む契約とかは苦手で大変でしたね(笑)」

木製の板が湿気るのを防ぐため、倉庫での保管はせず、店にも加湿器は置かない。「日本で扱っているのはうちだけじゃないかな」というイギリス直輸入の板も並ぶ。知人の縁でスムーズに取引につながった
木製の板が湿気るのを防ぐため、倉庫での保管はせず、店にも加湿器は置かない。「日本で扱っているのはうちだけじゃないかな」というイギリス直輸入の板も並ぶ。知人の縁でスムーズに取引につながった

自分の感覚を大切にした店づくり 

比嘉さんのお店にはイギリスからダイレクトに仕入れた板をはじめ、厳選された板が並びます。仕入れには比嘉さんのこだわりがあります。仕入れる板は一枚だけ。人気があっても全く同じデザインの板をもう一度、仕入れることはないそうです。

「一枚だけしかないと、早くお店に行かなくちゃと思ったりしますよね。そうやって購買意欲を高めて、お客さんに店に足を運んでほしいなと思っています。仕入れの基準は難しいですが、自分の感度をあげておくため、ブランドが出しているスケートビデオもよく見ていますね。いいものを置いているので、なるべく直接見てほしいし、会って売りたいので、オンライン販売にはあまり力を入れていないです」

幅広い人に来てもらえるようにと、店では古着も扱います。

「もともと古着は好きだったし、どちらの層にもアプローチできると思ったんですよね。スケボーやる子も古着好きだし、古着を見に来た人にもスケボーを知ってもらえる。古着もスケボーも、自分が好きで買いたくなるようなものをセレクトしています」

東小金井駅には3つの大学があり、そこに通う大学生や近くの高校生、通りすがりのおばあさんが立ち寄って服を買っていくなど、古着がお客さんの層を広げていきます。

古着は1週間から2週間に一度くらい卸の倉庫に足を運んで仕入れる。価格を自分で決めることができ、店の売り上げを支えているそう
古着は1週間から2週間に一度くらい卸の倉庫に足を運んで仕入れる。価格を自分で決めることができ、店の売り上げを支えているそう
スケボーカルチャーに欠かせないスケートビデオも見るという比嘉さん。スケートビデオにはブランドから出たものや、個人のスケーターが配信するもの、仲間内で作ったローカルなものもあるそう
スケボーカルチャーに欠かせないスケートビデオも見るという比嘉さん。スケートビデオにはブランドから出たものや、個人のスケーターが配信するもの、仲間内で作ったローカルなものもあるそう

まちに広がるスケボーコミュニティ

比嘉さんのお店は週に5日、14時から19時まで営業しています。今はだいたい一日に10人ほどのお客さんが訪れますが、いつ売り上げが落ちても困らないように週に2、3回、居酒屋でアルバイトもしています。お店をオープンして約一年が経った今、比嘉さんはお店や働き方についてどう感じているのでしょう。

「面白い、本当にそれに尽きますね。誰にも縛られることなく全部自分で決めて、好きに自分の思うような働き方ができる。向上心が高くて頑張ってどんどん売り上げを伸ばす人もすごいなあと思うんですけど、僕はそんなに頑張りたくないタイプ(笑) 好きなことをマイペースにできればと思っています。店のサイズ感もこれくらいがいいなって満足しているんですよね」

店では友達が作ったTシャツや本なども販売する
店では友達が作ったTシャツや本なども販売する

「店はいい意味でラフだと思います。無理して買う必要はないし、いいものを揃えているので気に入ったらどうぞ、みたいな感じです」

そんな比嘉さんの押しつけない姿勢やフラットな雰囲気が魅力となって、初めての板をここで買う人も増えてきているそうです。

「お客さんから友達になった人と、店のオープン前に一緒に滑りに行ったりしてますよ。店もスケーターたちのたまり場のようになっていて(笑) 徐々にこのお店が街やスケボー好きに浸透してきている感じはしますね」

小さな店内に、街のスケボー仲間や地元の友達が集まって過ごすこともあるそう。小金井で比嘉さんとお店を中心に、スケボーコミュニティが広がっていきます。

今、比嘉さんはちょうど30歳。お店や比嘉さん自身のこれからをどう思い描いているのでしょう。

「UNDERPASS KOGANEIを面白くて、アットホームで人が自然に集まるお店にしていきたいですね。ゆくゆくはお店を誰かに任せて、自分は沖縄で居酒屋と民宿を開いてもいいかなと。そこに東京の仲間たちにも遊びに来てもらって、沖縄のパークで滑れたら最高ですね。それと、歳を重ねてスケボーをやめていく仲間も多いですが、僕はやめたくないなと。そのために、若いスケーターとも仲良くなってどんどんコミュニティを広げていきたいですね。一緒に滑る仲間がずっといればやめなくていいので(笑)」

自分の感覚や思いを大切にしながら、肩ひじ張らずお店づくりや生活を楽しんでいる比嘉さん。そんな比嘉さんに引き寄せられ、新たなコミュニティの輪が広がっていっているのを感じました。(堀内)

高架下でつながるこんなお話も。「イギリスもスケボーが盛んですが、いつも天気が悪いからロンドンには高架下のスケートパークがあって、皆そこで滑っているんです」
高架下でつながるこんなお話も。「イギリスもスケボーが盛んですが、いつも天気が悪いからロンドンには高架下のスケートパークがあって、皆そこで滑っているんです」

プロフィール

比嘉優介

沖縄県宜野湾市出身。20歳で地元を離れ東京に。吉祥寺の洋服屋で3年、スケボーブランドの「パレス・スケートボード」で3年間、社員として勤務後、2022年3月、スケボーと古着の店「UNDERPASS KOGANEI 」を創業支援施設「MA-TO」にオープン。2児の父。

https://underpasskoganei.square.site/

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