そばではたらく
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経済性の殻を破る兼業店主

西東京市の西武新宿線西武柳沢駅の近くでクラフトビールの店ヤギサワバルを営む大谷さんと、グラフィックデザイナーでありながらヤギサワベースという駄菓子屋を営む中村さんの対談です。第2話では、これまであまり聞いたことがなかったというお互いのはたらき方の歩みについて話が進みました。

サッカーを軸に、半農半Xにチャレンジ——大谷さん

——大谷さんは、小学生のサッカーチームの運営・指導もされています。いつごろからでしょうか?

大谷 「大学生のときに、アルバイトでサッカーのコーチをしないか?というところからなので、17年くらいですね」

中村 「えぇ!? そんなに?」

大谷 「年間100日くらいやっているから、相当ですよね(笑)。子どもたちへのサッカー指導って、平日もやるんですよ。大学を卒業するときに就職をどうしようか、と考えたんですが、やっぱりサッカーの指導を続けたくて普通の企業でははたらけないな、と」

中村 「人生を賭けてサッカーの指導をしている……これはみんな知らないんじゃない?言った方がいいよ」

大谷 「まぁみんな、全然知りませんよね(笑)。平日2日くらい、サッカー指導があるときに仕事を抜けられるようなところを探して、スポーツ系のNPOに就職しました。そこには10年くらいいて、その後また別のNPOではたらいた後、茨城にある農家グループの鹿嶋パラダイスで週に3日はたらくという生活をしていました」

中村 「鹿嶋パラダイスは今も行っていますよね?」

大谷 「そうですね。ヤギサワバルを始めたので、鹿嶋パラダイスに行くのは週に1日半になりましたが、クラフトビールや野菜を仕入れたり、そのときできることを手伝っていたりしています」

中村 「サッカーの指導がそれほどまで軸になっているとは知りませんでした」

大谷 「あまり人にうまく話せないのですが……、NPOを辞めるときも、サッカーは捨てないんだな、と自分でも思いました。鹿嶋パラダイスではたらくことは、“半農半X”へのチャレンジをテーマにしているんです」

——「半農半X」とはどういったことでしょうか?

大谷 「半分農業に関わって、半分自分の好きなしごとをしようという生き方です。例えば、田舎でちょっと活動したいという人は結構います。でも、田舎に行くまでの交通費など経済的な課題があるという場合、農作業をして収穫したものを東京で売り、それで生活ができるのであれば、新しいはたらき方になると思うんです。そんな経済性が成り立つのかどうか、自分自身で試している感じですね」

中村 「あぁ、ヤギサワバルは木曜日〜日曜日のオープンですものね」

大谷 「そうです。いろいろ言われましたよ。公的な補助金を申請しようとしても、週4日の営業じゃダメとか、飲食なら週5日でもダメとか。いやいやサラリーマンだって、いまどき週5日ですよね。1日少ないだけでダメなの?と思いましたよ。飲食だから毎日、昼も夜も営業してボロボロになって、というイメージがあるのか……。だから僕は、そういったアドバイスもお聞きしながら、自分なりのスタンスで始められないかな、というのがありました」

中村 「グルメ情報誌の営業さんにも同じような話をしていますよね(笑)」

大谷 「ええ、こうすると儲かるよ、みたいなことを言ってくれるんですが、僕のゴールとはちょっと違うなと感じるので」

ヤギサワバルでは、茨城県にある農家グループ鹿嶋パラダイスでつくられたクラフトビールをメインに提供している。大谷さんは、週に1日半は鹿嶋パラダイスで農作業をし、そこで醸造されたビールを仕入れ、木曜日〜日曜日にヤギサワバルを切り盛りする生活。

デザイナー兼駄菓子屋店主——中村さん

——中村さんはグラフィックデザイナーとしても活躍されています。なぜ、駄菓子屋も始めたのでしょうか?

中村 「デザイナーとしてのしごとは、先輩と一緒に10年ぐらい前に立ち上げた会社をベースにやっています。事務所は都心にあるので、打ち合わせで出て行くこともありますが、自宅で作業することも多くなっていて。そうするとやっぱり、人に会わなくなるんですよね。それがなんともこう、面白くないというか(笑)。ちょうどそのころ、商店街の方たちとのつながりができ始めていたので、定年後にやろうと思っていた駄菓子屋を始めることにしたんです」

大谷 「なるほど。駄菓子屋をやっているだけで良い人だと思われる節があって、ずるい商売です(笑)。商材としてもものすごくいい」

中村 「でも、儲けは全然ないですよ。さっきの話にもつながりますが、成功のゴールって画一的なものではないですよね。僕も駄菓子屋をやるときに、賛成する人と反対する人の両方がいました。“そんな儲からないことやるの?”みたいな反応の人とか(笑)。僕の場合は、成功のイメージをお金に結び付けて考えるのはちょっと苦手かな、と」

大谷 「経済性へのチャレンジの話ですよね。儲かるか儲からないかという機軸だけだと、資本主義の中では消えてなくなっていくものが多い。例えば、商店街にある小さな店とか。売れなくなってしまったらおしまいですよね。だから、経済性以外の機軸も必要なんだと思います。楽しい、とかワクワクする、とか。そういった意味で、明らかに経済的に不利な駄菓子屋を始める中村さんを知って、びっくりしたんです」

中村 「ハハハ。駄菓子に囲まれて何かしごとをしている自分の姿が面白いだろうな、という思いつきで始めたんです。僕は普段、ヤギサワベースでデザイナーのしごともしていますが、打ち合わせがあると、店を閉めて出かけてしまうこともあります。遊びにきた子どもたちが、“今日休みます”という張り紙を見て、絶望的に『エーーー!』とか叫ぶわけですよ。これは店を出した責任があるな、と思うようになってきました」

大谷 「それ、なんか分かります」

中村 「そんなこともあって、駄菓子屋を始めて1年半が経って、よそではたらいていた妻に会社を辞めてもらい、駄菓子屋としての責任を全うできる体制を作りました。ようやくいつも開いている駄菓子屋になれたわけです。もちろん、それに伴って家計は火の車ですが(笑)」

ヤギサワベースの一角でデザインの仕事もする中村さん。駄菓子屋にきた子どもたちがしごとをのぞきにくることもあるそう。「大人と話したがっている子どもも多いですよ」、子どもにとっては、はたらく大人を間近で見る機会なのかもしれない。

“経済的な成功=儲かる”のほかにも成功のゴールはあるはず、それを目指したいというお二人。店を持つことの意味は、店主自身の信念に通じることを改めて感じたお話でした。

第3話では、「面白そう」「これまでと違ったことへの挑戦」から始まったお二人の活動が、お客さんや地域とどう交わり合っているのかをお聞きしていきます。(文・大垣 写真・鈴木智哉)

プロフィール

中村晋也

グラフィックデザイナー 兼 駄菓子屋「ヤギサワベース」店主。2002年に先輩と二人で「NKグラフィコ」というデザイン会社を立ち上げる。定年後にでもやりたいと思っていた駄菓子屋を、思いがけず前倒しする形で2016年にオープン。今では、駄菓子屋店内でデザインの仕事をするというなんともクールなはたらき方が様になっている。

ヤギサワベース
https://www.yagisawabase.com
https://www.facebook.com/yagisawabase

大谷剛志

大学時代に始めた小学生サッカーチームの指導・運営がはたらき方の基軸。平日でもサッカー指導ができるよう、これまでにスポーツ系NPO団体や、視覚障害者とクライミングのNPO団体などで勤務。2015年からは、茨城県にある農家グループ「鹿嶋パラダイス」に所属。現在は、2016年にオープンさせたクラフトビールの店「ヤギサワバル」オーナーと鹿嶋パラダイスを兼業。

ヤギサワバル
https://www.facebook.com/yagisawabar/