まちのインキュベーションゼミ#6との連動企画「あの人の、お店づくり解剖」。第2弾は、東京都小金井市で古い家具や小物の販売・修理を行うアンティークス・エデュコの店主 今井岳史さん。東京蚤の市などのイベントに出店するほか、2022年3月には吉祥寺パルコに2号店をオープンし、まちの人気を集めています。「アンティーク業界でも僕は正統派ではない」という今井さん。一体どんな経緯や想いでお店づくりをされてきたのでしょう。
場所は、東京郊外の小金井市。緑豊かな小金井公園のそばに、「アンティークス・エデュコ」はあります。店内には、一点モノの椅子や机、棚、ライトなど、歴史が刻まれた家具や小物がズラリ。奥には修理工房があり、耳をすますと修理の音が聞こえてきます。
このお店を開く前は、家具職人だったという今井さん。はじめに家具職人を志したのは、25歳の時でした。
「オフィスワークは自分に合わないし、手を動かして何かをつくることが好きだったので、ものづくりで生計を立てていきたいと思っていて。それまではレコード屋ではたらきながらバンドをしていたんですが、音楽は形のないものだし、生活の糧にはなりにくい。安定していて、衣食住に結びつく形のあるものづくりをしたいと考えた時に、家具製作がピッタリきたんです。音楽をずっとやってた反動かもしれない(笑)」
そこで今井さんは、家具製作を学ぶために職業訓練校に入り、一から技術を習得。修了後は、いくつかの職場でしごとを重ねます。最初はマンションの作り付け家具を作るしごとに就いたものの、合板をノリで貼り合わせるような簡易な作りの家具が多く、使い捨てが前提。「やりたいことと違う」と感じてすぐに辞め、次は高価なイタリア家具の店で修理を担当することになりました。そこで製作ではなく、修理のしごとに惹かれていったと言います。
「ずっと新しいものを作ることにこだわっていたけど、あるものを直すことはすごくクリエイティブだと気付いたんです。どの部分が壊れていてどう直せば使えるのか、どの部分をどうすれば見た目や機能性が良くなるかを自分で工夫して考えながら手を動かしていく。ものづくりのやりがいを十分に感じましたよね」
その後は、目黒のアンティークショップに移り、本格的な家具修理を任されるように。ここでのしごとが今井さんに大きな影響を与え、後々のお店づくりにつながる土台が築かれていきました。
「アンティークショップでの経験がなかったら、今のアンティークス・エデュコはないと思います。外国からぼろぼろの状態で仕入れてきたものを、クリーニングして直して今の暮らしで使えるように仕上げる。何百ものアンティーク家具を扱い、直す技術を吸収していきました。それに、オーナーがアパレル業界からアンティーク業界に転身された方で、ファッションやプレスとコラボしたイベントなど尖ったことをしていて、売り方や見せ方なども学ぶことが多かったですね」
長年、職人としてはたらいてきた今井さんが、自分のお店を始めようと思った動機は何だったのでしょうか。聞けば意外にも、最初はお店をつくること自体に興味があったわけではないと言います。
「自分のお店を持つという選択は、自分の経験や技術で暮らしを立てていくにはどうしたらいいのかを考えた結果でした。正直、独立を考えた時に家具の修理だけで食べていくのは厳しい。修理だけよりも、自分で仕入れて修理して売る方が稼げるし、自由で面白そうだなと。アンティーク家具のお店を開くなら、洋モノも和モノもジャンルを問わずにやりたいとイメージが広がっていきました」
そして、たまたま車で通っていた小金井市の五日市街道路沿いに、広さも価格も工房兼家具屋としてちょうどいい空き物件を見つけます。駅から遠くてお店も少ない立地ながら、ものづくりへの意欲が掻き立てられる自然豊かな環境も決め手になったとか。もとは自動車の整備工場だった場所。今井さんと職人仲間が結集して、解体から壁の張り替え、塗装などまでDIYで行い、家具のお店に生まれ変わらせました。
賃貸料や改修費を抑え、自己資金のみで開業へ。順調に進んだかに見えた今井さんでしたが、お店を立ち上げてから運営の大変さに直面したと言います。
「それまでは家具職人としてものづくりのしごとがメインだったので、“モノが良ければ売れる”としか考えてなかったんです。仕入れて販売するという運営面は本当に素人で、お金の話はしどろもどろだし(笑)、仕入れ先も一から開拓する必要があって。業界では古物市場のセリで仕入れるのが王道なんですが、新人に厳しい世界で苦戦しましたね…」
しかし次第に、お店に併設された工房で修理やアレンジができることを強みに、買い取り依頼が増加。アンティークコレクターの家にうかがったり、古い家を壊す時に呼んでもらったり、店舗の方から不要品を譲ってもらったり。徐々に買い取り客の声に応えて、アンティーク家具だけでなく古物全般を幅広く取り扱うスタイルに変化し、商品の幅が広がっていきます。
「買い取りで古いお宅にうかがうと、一般の業者だとお金にならないからと見向きもされずに捨てられちゃうものっていっぱいあるんです。例えば、レトロなお茶碗や外国製のお土産品とか。それをうちで買い取ってキレイに仕上げてイベントで販売すると、買い取りのお客さんもお店に来たお客さんも喜んでくれるんですよね。本来は捨てられていたものを、掬ってみんなに喜ばれる。それって、すごく素晴らしいことじゃないかと思うんです」
2022年3月。今井さんは吉祥寺のパルコに二つ目のエデュコをオープンしました。店内には、フランス製のままごと用プレート、真鍮製ドアノブ、ヴィンテージのキャンドルホルダー、絵柄がついた海外製の缶などなど、古い小物を中心に多彩なアイテムが。吉祥寺パルコ初のアンティークショップで、多くの人でにぎわっています。
吉祥寺パルコに2号店を出店した理由を聞くと、「ちょうどエデュコが10周年で、色々な想いが重なった」という今井さん。お店を続ける中で、新しい展開を検討していたタイミングだったそうです。
「いろいろなモノを買い取りしても、売る場がないと商売として成り立たない。小金井のお店は家具が中心で、小物は主にイベントでの販売に限られていたので、売る力を強めなきゃと考えてたんです。そんな時に、パルコさんから“吉祥寺にエデュコのような個性あるお店を入れたい”とお声がけいただいて。文化の発信地である吉祥寺に新しいお店をつくるは面白そうだと思いました。2号店は、アンティークや古道具、国、年代などの枠を超えて多様な価値観が混ざり合い、自由な視点でモノと向き合えるお店にしたいなと」
こうした販売の場づくりに加え、職人として技術継承の使命も感じていたとか。2号店オープンに向けて新しいスタッフを3人迎え入れ、今井さんの技術を受け継いでいきます。
「この業界は狭き門で、僕もそうだったんですが、しごとを見つけるのが大変なんです。うちでもスタッフ募集をしてない時に、ウェブサイトから何件も応募がきていたくらい。そんなこともあって、ニッチな修復技術を若い世代に伝えたいという気持ちが出てきて。100年以上前のぼろぼろの家具も直す技術がなければ捨てられて終わりですが、技術が続けばずっと使い続けられますから」
今は小金井と吉祥寺の2つのお店を営む今井さんが、お店づくりで大切にしてきたことは何でしょう。「僕はガチガチに計画を立てるタイプじゃないし、正直、いまだに運営も得意じゃない」と笑いながらも、開業当時から貫く独自の判断軸がありました。
「一部のマニアが集まる閉じた場所で高額で売るのではなく、同年代や若い人たちが“これ、かわいい!”と手にとってもらえるように意識していますね。イベントも、いかにも王道の骨董市ではなく、ちょっと毛色が違うオープンなマルシェなどをあえて選んでいます。そうすると、自ずと直し方も変わってくる。機能的で見た目も魅力的で価格も安くするのが、エデュコの修理のスタンスです。ガラッと変えなくても、もとを生かして少し手を加えるだけで、すごく良くなるモノも多いんですよね」
また、事業の展開を検討する時は、「楽しいしごとかどうか」という感覚を重視しているとか。
「実際、楽しいことをやってる人たちは強い。この業界でもコロナで閉めたお店は多いですが、好きで商売をしてる個人店の人たちはしぶとくて(笑)、今もほとんど残ってる。好きなことはめちゃくちゃエネルギーが出るんで、周りからリアクションがあるし、応援してくれる人が現れますから。僕もこんなお店をはじめたことで、モノや暮らしにこだわりがある方、お店や事業をされている方、ものづくりをしている方など、個性的で面白い人たちとたくさん出会えました。商売を媒介にして、人と人、人とモノのつながりができたのは、いい意味で想定外ですね」
これまでを振り返り、「面白い方へ面白い方へと進んできた」と言う今井さんは、あくまで自然体。そして、アンティークス・エデュコのこれからをこう話してくれました。
「開業した頃は商売として成り立たせることに必死だったけど、続ける中でだんだんと大きな視点になっていきますよね。捨てられてしまう古いモノを掬い上げ、価値を見出して整える。そして、新しい暮らしに送り出す。そのために、自分たちの観点で何ができるのか。その方法をこれからも模索していきたいと思ってます」
感性を大切に、業界の常識にとらわれない柔軟な発想で独自の仕入れ・販売スタイルを築いてきた今井さん。この先の10年も、お店のオーナーとして職人として、新たな道を切り開いていくのでしょう。
2000年 レコード店などではたらきながらバンド活動
2003年 雑誌編集のしごとをするが、オフィスワークは合わず
2004年 職業訓練校で家具製作を学ぶ
2005年 マンション家具の製作を担当
2006年 イタリア製家具屋で修理を担当するように
2007年 西洋アンティークショップで修理の経験を積む
2010年 日本の骨董屋で国内アンティークの知識を習得
2012年 小金井市にアンティークス・エデュコをオープン
2017年 立川の「エデュコの小さな蚤の市」で小物を販売し大人気に
2022年 10周年を迎え、吉祥寺パルコに出店
まちのインキュベーションゼミは、アイデアを地域で育てる実践型の創業プログラム。アイデアを事業化したいリーダーと様々なスキルを持って事業化をサポートしたいフォロワーがチームを作り、地域をフィールドに実践までを共にする4ヶ月間のプログラムです。
今回のテーマは「お店づくり」。いつかお店を開きたいという構想段階の方から、開店準備中で地域の仲間を増やしたい方、お店をオープンしたけどもっとお客様を増やしたい方、誰かのサポートを通してお店づくりを経験をしたい方など、「お店づくり」をキーワードにメンバーを募集します。
7月30日(土)− 12月10日(土)
KO-TO(東小金井事業創造センター)
30名(先着順)
3,300円(税込)
・アイデアをカタチにしたい人
・事業計画を実現したい人
・新規事業をはじめたい人
・事業を推進する仲間が欲しい人
・デザインなどのスキルを、誰かの事業に活かしたい人
・すでにあるお店や場所を、誰かに有効利用してほしい人
・事業化のサポートを通じて、起業経験を積みたい人
・将来、起業を目指している人
オリエンテーション
7月30日(土)10:00-17:00
参加者の自己紹介を行い、共にプログラムをスタートする仲間を知ります。さらに、事業計画に関するレクチャーやフィードバックを受けて、各自のアイデアをブラッシュアップします。
選考会・チームビルディング
8月20日(土)10:00-17:00
リーダー立候補者がプラン発表を行い、リーダーを選出します。決定したリーダーを中心にチーム編成し、4ヶ月後の実践に向けた業務設計を行います。
プランニング
9月24日(土)13:00-17:00
実践プランをチームごとに発表します。プランに対するフィードバックをもとに、実践に向けた細部の設計を進めます。
実践
11月下旬〜12月上旬
プレイベント、テストマーケティング、Web等による情報発信など、チームごとにプランニングした内容の実践を行います。
クロージング
12月10日(土)13:00-17:00
トライアルを踏まえ、事業プランの再構築を行います。ゼミを通じて得た気づきや学びをシェアし、各自のネクストステップを共有します。
アンティークス・エデュコ 店主。20代から家具職人として製作や修理の技術を習得。現在、小金井市の工房併設の本店と武蔵野市の吉祥寺パルコ店の2つのお店を持つ。立川駅ビルで毎年開催される「エデュコの小さな蚤の市」や、「東京蚤の市」、「はけのおいしい朝市」など多くのイベントに出店。中央線沿線在住。奥さんと小学生の子どもの3人暮らし。
https://antiques-educo.com