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コンサルタントの実験

大手電子商取引企業に勤めながら、その傍らで無人古本屋を営む中西功さん。数ある小商いの中で、なぜ無人古本屋というものを発見し、選択したのでしょうか?
後編となる今回は、兼業としてBOOKROAD店主に辿り着くまでの道のりと、本業との関係性、そしてこれからの展望について伺います。

コンサルタントとしての成熟と、一つの衝動

中西さんが電子商取引企業に新卒として入社したのは14年前。多くの人の中でインターネットを利用することが一般的になり、この会社も急速に成長している時期でした。職種はコンサルタント。運営するECサイトへ出店してくれる企業に対して、いかにしてネット上で商品が売れるかをアドバイスする日々を過ごします。担当部門はファッションやインテリア、日用品などでしたが、大好きな本で蓄えた異文化の知識を駆使して、自分の得意な分野の知識を当てはめながらコンサルティングしていたそうです。

ECコンサルタントとしての技と経験を着実に身につけていった中西さん。この時、“この経験を自分ごとの何かで試したい”という気持ちが次第に芽生えはじめていったそうです。

小さくやるには、尖らせる

時を同じくして、収集し続けた本も増え続けていよいよ自宅での保管に困りはじめた頃、中西さんはこの本を活用した“場所”をつくろうと思い立ちます。とはいえ、本業の傍らで活動する以上、情熱を注ぐことにも限界がありました。限られた時間の中で自分がつくれる場所とは何か。古書店を中心に本にまつわる場所へと足を運び、リサーチしていくうちにあることに気がつきます。

「賑わっている古書店の多くは、必ずそのお店にカラーを持っていたんです。例えば規模が大きいとか、例えば希少価値のある本を持っているとか。それを自身に照らし合わせてみると、そこで勝負して古書店をつくっても負けてしまうなと。だから内容ではなく形態でカラーを持たせようと思ったんです」

そして、決め手となったのはとある古書店の店主の言葉でした。

「『古本屋は、新刊書店が本を返品できるのとは違い、在庫を抱えながら販売しているでしょ。だから、せっかく興味を持って店内に足を踏み入れてくれたのに、何も買われずに出て行かれるとすごく残念な気持ちになるんだよ』。この言葉を聞いて、せっかく好きなことで場所をつくるのに、そんな気持ちにはなりたくないなと思ったんです。それならいっそ、無人にしてしまおうと閃いたんです」

本業の傍らで無理なくできて、好きな本を活用して、本好きな人とも仲良くなれる、さらには人件費もかからない。「これならイケると」と確信したそうです。

「小さいことをやるからには、戦略的に秀でる部分は絶対に必要なんですよね」

自分自身をコンサルタントした結果、中西さんは“無人古本屋”という答えを導き出したのです。

商店街を歩いている時に偶然張り紙を見つけて発見した物件が今のBOOKROAD。家賃もそこまで高くない。ならば、と思い準備をはじめたそうです。

実店舗をかまえる理由

ECコンサルタントの経験をそのまま活かすのであれば、オンライン古書店としてネットショップをはじめるという方法もあったはずです。けれど、あえて物件を借りて無人古本屋を営むことを選んだ中西さん。その動機はなぜだったのでしょうか。

「そもそも僕は、人の行動を観察するのが好きなんです。僕がお店に行くのは数日おきですが、前回行った時からお店にどんな変化が起こっているのか、いつも楽しみにしてお店に行きます」

棚に並べられた本と案内板とガチャガチャのある無人スペースがあったら、人はどんな行動をとるのだろう。無人のなかにどんなコミュニケーションが生まれるのか、いわば、これは中西さんの実験スペースなのかもしれません。
さらに続けて、こう話します。

「それに、自分と同じ世界観に賛同してくれる人を街の中で探そうと思っても難しいじゃないですか。誰彼かまわず声かけるわけにもいかないし。でも、こうして拠点を構えていると興味を持ってくれた相手からコンタクトを取りに来てくれる。それってすごく合理的ですよね」

以前、「欲しい本はありませんでしたが、この仕組みを楽しませてもらいました」という張り紙がガチャガチャに。無人古本屋という仕組みそのものに代金を支払ってくれる人がいたそう。

異文化との出会いを楽しみ続ける

「自分でお店を持つことで、コンサルタントとしての言葉に説得力が生まれました。実感値で提案ができるようになったことが、大きな収穫ですね」。無人古本屋を続けて4年。時には古本屋の繋がりで知り合った人に、本業のイベントでの公演を依頼することもあるそうで意外な形で本業にもいいフィードバックがもたらされています。

現在では売上げも安定し、認知度・期待度も高まりを感じるBOOKROAD。それでも、本業を辞めて古書店業に本腰を入れようとはあまり思わないそう。平均社歴が3年未満のIT業界の中で14年も在職し続けられたことへの理由を、中西さんならではの言葉で話してくれました。

「それなりに大きな会社なので、部署移動=転職のようなものなんです。そうするとまた新しい人との出会いもあるし、知らない知識や文化にも触れることができる。これは企業に勤めているからこその醍醐味です。でも、よくよく考えてみれば、これって本が好きになった理由と変わらないんですよね」

一つひとつの言葉をきちんと整理して説明してくれる中西さん。リスクなくできる小商いの無人古本屋をたくさんの人にはじめてもらうことが今の願いだそう。

本で未知なる知識や異文化に触れ続けて無人古本屋の店主というもうひとつの収入源を手に入れた中西さん。これからもあらゆる出会いを楽しみながら、新しい扉を次々と開いていくことでしょう。(文・カトウ 写真・鈴木智哉)

プロフィール

中西功

大手電子商取引企業にてECコンサルタントとして仕事をする傍ら、2013年にJR中央線三鷹駅の商店街の一角に無人古本屋「BOOKROAD」のオープン。

BOOKROAD
https://www.facebook.com/bookroad.mujin/