お店を共有する仕組み

2017.03.09
お店を共有する仕組み

JR中央線東小金井駅をおりて武蔵境駅方面に100メートルほど歩くと、線路の高架下にatelier tempo(アトリエテンポ)という工房を併設したお店があります。

ここに集うのは5組。犬と人が心地よく暮らすためのアイテムを扱う池田功さん、美枝さん夫妻。手縫いの工程を大切にした革製品を作る沢藤勉さん、加奈子さん夫妻。オーダーメイドで靴を作る中丸貴幸さん、美砂さん夫妻。シルクスクリーン版画で紙や布の雑貨を作るやまさき薫さん。地元野菜を使った食堂を営む藤原奈緒さん。

各店舗の居場所は決まっているものの、壁のようなはっきりとした境界線はなく、それぞれの商品がひとつの空間の中で心地よく並び合っています。

もとは“はけのおいしい朝市”という地元のイベントで共に出店していた5組が、この場所で一緒にお店を始めたのはなぜでしょうか? そこには、様々な“はたらき方”のヒントがありそうです。

個々の発信力をひとつにする

—数人で集まってお店を持つ、という働き方はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

池田「JR中央ラインモールから、東小金井駅の高架下の一角に、地域とつながるような場所を作りたいとお話をいただいたのが始まりです。僕らが関わっていた“はけのおいしい朝市”は6年目を迎え、小金井でも集客力のあるイベントだったので、声をかけていただけたみたいです。みんなも自分の場所を持ちたいという思いを抱えているタイミングだったので、このメンバーに相談しました」

沢藤「東小金井は中央線の中でも谷間のような場所なので、お店を出しても人が来るのかな…という思いもありました。でも、自分だけではなく、それぞれの発信力が集まるなら、お客さんに来てもらえる可能性があるなと思ったんです」

藤原「それは心強かったですね。私も、当時は料理教室とびん詰めの製造ができる場所を探していたけど、採算的なことを考えた時に単独ではじめて、軌道にのせるのは難しいなと思っていました。でも、このお話をいただいて、お客さんが集まるという絵が初めて見えてきたんです」

(左から)coupéの中丸貴幸さん、dogdeco HOMEの池田功さん。
(左から)coupéの中丸貴幸さん、dogdeco HOMEの池田功さん。

店内での制作時間を確保する

—店内に工房があり、ものづくりの様子を見ることができるのも、ここの特徴ですよね。このかたちは、当初から考えていたんですか?

中丸「最初にお店の話をいただいた時、僕は少しだけ迷いがあったんです。働いていた靴のメーカーから独立してまだ2年経っていなかったし、お店に立つようになることで、靴を作る時間が減ってしまうんじゃないかと。でも、制作する時間をお店の中でも確保できるなら、やれるかもと思いました」

やまさき「私たちは製造業なので、作る時間は削ることができない。それに、作り手としても尊敬しているこのメンバーでやるなら、ただ商品を並べて売るだけじゃなくて、制作している姿をお客さんに自然に見てもらえるような場にしたい、という思いもありました」

池田「そのため、最初はショップというお話で相談されていたんですけど、アトリエを併設するかたちを、こちらからJR中央ラインモールさんに提案させていただきました」

あたらしい日常料理 ふじわらの藤原奈緒さん。
あたらしい日常料理 ふじわらの藤原奈緒さん。

生活レベルで関わるという覚悟

—もともと仲がいいからこそ、仕事という一歩踏み込んだ部分を共有することに不安はありませんでしたか?

やまさき「それはありました。喧嘩別れはしたくないなぁとか。一緒にお店をやるというのはお金も絡んでくるし、イベントに一緒に出る時とは違って、生活レベルでお互いに関わっていくことになるので」

中丸「揉めることがあるとしたら、一番の原因は絶対にお金だと思ったので、そこは最初にしっかり仕組みを作りたかったんです。特に、coupé、safuji、ヤマコヤはレジを共有することにしたので、シフトや経理については何回も話し合いましたよね」

沢藤「自分の都合でお店を抜けたい場合はどうするか、とか」

中丸「僕は靴、safujiは革小物という製造業で、火を使ったりシンナーのように匂いがしたり、ここではできない作業も多い。やまさきさんもデザインや絵を描く仕事なので、制作と接客を同時にするとなると、シフトを組んで、みんなでレジを回すというやり方になりました」

(左から)safujiの沢藤勉さん、ヤマコヤのやまさき薫さん、coupéの中丸貴幸中丸さん。
(左から)safujiの沢藤勉さん、ヤマコヤのやまさき薫さん、coupéの中丸貴幸中丸さん。

お店の枠をこえて、レジや店番を共有する

池田「アトリエテンポの区分けは3つに分かれていて、まずdogdeco HOMEと藤原さんのところで1つずつ。この2店舗はレジもシフトも独立させています。残りの1つのスペースを3組でどうやってシェアしていくのかというのは、何回も検討しましたね」

やまさき「お互いの商品のことは全て把握して、3組の誰かが不在の時でも商品のオーダーを取れるようにしたり、役割を分担したりしました。ちなみに私はシフト担当で、1ヶ月ごとにみんなの予定を聞いて組んでます!」

沢藤「僕のところが備品担当。奥さんがやってくれてますけど(笑)」

中丸「僕は経理担当です。多分、仕事の全ての作業の中で一番そこに気を使ってます…。イベントを開催したりする時はアトリエテンポ全体の経理も担当しています。イベントの時は結局場所をみんなで共有するので、レジを集中させた方が楽だったり、そこはやりながら変わっていった部分です」

次回は、アトリエテンポのコンセプトでもある、“ものづくりと販売”の関係について、お話を伺います。(安達)

手前の店舗から奥の食堂までが、ひとつの空間としてつながる店内。
手前の店舗から奥の食堂までが、ひとつの空間としてつながる店内。
連載一覧

日常が見えるシェアストア -atelier tempo-

#1 お店を共有する仕組み

#2 “作る”と“売る”のいい関係

#3 夫婦の風通しがよくなった理由

#4 高架下の常識をくつがえす

プロフィール

池田功・池田美枝

化粧品メーカーの広告やデザインの仕事を経て、1999年にdogdecoを創業。2001年に伊勢丹新宿店を開店。2009年に地元である武蔵小金井にdogdeco HOME 犬と暮らす家を開店し、2014年にatelier tempoに移転。
http://www.dogdeco.co.jp

沢藤勉・沢藤加奈子

革製品のメーカー勤務後に独立し、2010年に夫婦でsafujiとして三鷹の自宅に工房を構える。使うほどに手に馴染むsafujiの革小物は、革の質感と手縫いのプロセスを大切にしている。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。
http://safuji.com

中丸貴幸・中丸美砂

手製靴のメーカー勤務後に独立し、2012年に夫婦でcoupéとしての活動をスタート、自宅に工房を構える。コッペパンのような、つま先の優しい丸みがcoupéの靴の特徴。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。
http://coupe-shoes.com

やまさき薫

デザイン事務所勤務を経て、紙媒体のデザイナー、イラストレーター、シルクスクリーン版画作家として活動。暮らしの中から生まれる絵やデザインを大切に、紙や布の雑貨の制作やワークショップを開催している。2014年、atelier tempoにお店と工房を兼ねた、絵とデザインのアトリエ ヤマコヤをオープン。
http://yamasakikaoru.net

藤原奈緒

小金井市内のカフェで調理を担当後、2006年より料理教室を開講。家庭料理をよりおいしくするための調味料ふじわらのおいしいびん詰めの開発、販売などを経て、2014年、atelier tempoに地元の野菜とびん詰めを使った食堂あたらしい日常料理 ふじわらをオープン。
http://nichijyoryori.com

atelier tempo

東京都小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井内
http://www.facebook.com/ateliertempo/

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