日本でまちづくりや地域活性の仕事に携わったのち、2024年4月から1年間フィンランドに滞在していたライター・杉田が現地で見た景色や感じたことをコラム形式でお届けします。今回は、フィンランドの図書館に関する話です。
フィンランド滞在中、多くの時間を過ごしたお気に入りの場所の一つが図書館。フィンランドの図書館は明るく開放的な雰囲気で、子どもたちの笑い声が聞こえてきたり、中高生がお菓子をつまみながらおしゃべりを楽しんでいたり、とても自由な空気が流れています。自然光がたっぷりと入り、明るい色使いの内装やデザイン性の高い家具が使われた空間は、居心地が良くて何も用事がない時ですらついつい長居したくなるのです。
フィンランド国民の図書館の利用率は世界でもトップクラスと言われており、地元の人にも身近な存在として愛されています。
帰国後に都内の小さな図書館を訪れた際に、一席一席に「飲食禁止」「撮影禁止」「20分以上の離席禁止」「居眠り禁止」「研究目的以外のPC利用禁止」などといった禁止事項が書かれた紙がびっしりと貼られていて、物音一つ立ててはならないという緊張感が漂っており、息苦しく感じてしまいました。
フィンランドの図書館には、厳しいルールは設けられておらず、一人一人が自由に過ごしているのに、不思議とうるさくなりすぎたり、不快な思いをすることがない。禁止事項のアナウンスがなくても、利用者が暗黙の了解でマナーを守ることで、ルールに縛られるのではない、心地よい秩序が保たれているのかもしれません。
そして、驚いたことといえば、貸し出しサービスが本だけにとどまらないということ。DVDやBlu-ray、CDに関しては日本でも利用できる図書館が多いですが、その他にもテレビゲームやボードゲーム、図書館によっては楽器や演奏スタジオまで利用することができます。
いつでも受け入れてくれる居場所として、すべての人に開かれていて、市民が誰でも無料でこうしたサービスを利用できるフィンランドの図書館。帰国してからも、ふと、あの心地よい空気を思い出しては、近くにあったらいいのになと、恋しくなります。
1994年東京都生まれ、ライター。地方のデザイン会社でライター・編集者として、7年間にわたり、さまざまな自治体のプロモーションやまちづくり、イベント企画に携わったのち、2024年4月から2025年3月までの1年間、フィンランドに滞在。本連載ではフィンランドでの日常を“まちづくり”や“デザイン”の視点で切り取り発信中。