今回の主役は、調布のコワーキングスペースに拠点を構える唐品知浩さん。お話を伺う前、いつもの取材と同じように「はじめまして」と名刺交換をしたのですが、いつもとは少しだけ違ったところがありました。唐品さんから、3枚の名刺を手渡されたのです。
唐品さん、今はどのようなはたらき方をされているのでしょうか?
「ふだんは、自分で立ち上げた別荘やリゾートの物件を紹介する、ポータルサイトの運営をしています。といってもサイトに情報を載せることだけでなく、新たな案件のコンセプトやイメージを考えたり、広告戦略を練ったり、不動産会社のリゾート開発全般をサポートしています。各地の物件を探しに、全国に出向くことも多いしごとです」
残り2枚の名刺のしごとについても聞いてみました。
「ひとつは『YADOKARI小屋部』という活動で部長をしています。 DIYに興味のある人たちを募って、施主のニーズに合わせて設計士がデザインしたおしゃれな小屋をみんなでつくる活動です。当日は大工さんにリードしてもらいながら、参加者はペンキを塗ったり屋根をつくったりします。小さいけれど、参加者がひとつの家づくりに丸ごと関われる試みで、3年間で、合計35件の小屋をつくりました。
もうひとつは『ねぶくろシネマ』といって、野外で映画を観るイベントです。夜の暗い時間に、建物の壁などに映画をプロジェクターで映します。いつもと違う場所で観る映画って特別だし、同じタイミングで声をあげたり笑ったりする一体感が面白い。子どもが小さくて映画館に行けないという人でも、周りを気にせず家族みんなで映画を楽しむことができます。この活動も10回を越えました」
別荘と、小屋づくりと映画……。ちょっと結びつきません。
YADOKARI小屋部や、ねぶくろシネマの活動は、休日が中心。しかしこれらは、市民活動やボランティアとも違い、きちんとした“しごと”なのだそう。唐品さんにとっては副業にあたります。
「一緒に活動するメンバーとも話したのですが、やっぱり収益を考えないと、ずっと続けていくのは難しいという考えで一致したんです。例えばねぶくろシネマでは、会場の調整もありますし、いろんな機材を用意しなければいけない。開催までに、それなりの時間と経費をかけている。少なくとも、その費用については考えなければいけないし、モチベーションをどう維持するかというのも重要なファクターで。それなら、少しずつからでもいいから稼げる仕組みをつくっておこうとなったんです」
訪れる人たちと幸せな時間を共有しながら、ビジネスとしても成立する、そのバランスが大切だと唐品さんは言います。
「うちは子どもが3人いますし。ただ遊んでいるだけじゃ、カミさんにも怒られちゃう(笑)」
みんなで小屋をつくるYADOKARI小屋部は、唐品さんが新たな暮らしや住まいを企画提案する企業へはたらきかけたことでスタートしました。またねぶくろシネマには、イベントに賛同したスポンサーがついています。それぞれのプロジェクトを実現できるのは、周囲の協力があってのこと。またこうした体制がつくれるのは、メインワークである別荘の仕事が大きいといいます。
「別荘と小屋と映画って、実は『不動産』という共通項があって。小屋部も、もともとは地方を中心に空き家や眠っている土地が増えていく中で、気軽に家を建てられるようになれば、もっといろんな人が別荘を持てるようになるのかもという思いから始まったものですし。また、ねぶくろシネマみたいな面白いことをやっているまちには、人が集まるようになりますよね。それはまちの資産価値を上げることにもつながるので、やっぱり不動産と密接に関係しているんです」
唐品さんの3枚の名刺はゆるいつながりを構築し、絶妙なバランスのもとで機能しています。そして話を聞くうちに、唐品さんには3つのしごとをつなげていく仕組みがあることが分かりました。
次回はその“仕組み”に迫っていきます。
3枚の名刺を持つ男
#1 不動産を軸にした新しいビジネス
1973年生まれ。東京都出身。旅行会社勤務の後、リクルートへ。別荘系不動産広告営業に15年間携わる。その後独立し、別荘・リゾートマンション専門のポータルサイト『別荘リゾートnet』の運営を開始。同時にプロに任せず、施主を中心とした素人集団で小屋を製作する『YADOKARI小屋部』を発足。また調布を拠点に活動するデザイナーたちと、まちをリデザインする集団『合同会社パッチワークス』を立ち上げる。
別荘リゾート.net:http://bessoresort.net/
YADOKARI小屋部:http://yadokari.net/category/yadokari-hut/
ねぶくろシネマ:http://www.nebukurocinema.com/