そばではたらく
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遠い国の物語を運ぶ古雑貨の行商

ここ数年で骨董市やアンティークマーケットの数は急激に増え、週末になると必ずといっていいほど、どこかで開催されるようになりました。COVINの宇治橋帆織さんは、フランスを中心としたヨーロッパから買い付けてきた古雑貨などをトランクひとつに詰め込んで、毎週末のようにマーケットに出店しています。背景に物語が感じられる宇治橋さんのセレクトは、アンティークが好きな人にも、ふらっと訪れた人にも人気があり、出店ブースの前はいつもお客さんで賑わっています。お店という拠点は持たず、ネット販売もせず、トランクひとつを持ち歩き、マーケットへの出店にこだわってきた宇治橋さん。そのはたらき方に対する想いについて、お聞きしました。

トランクひとつでマーケットをめぐる

宇治橋さんは現在、年間で80回ほどのマーケットに出店しています。トランクひとつに品物をぎゅっと詰め込み、麦わら帽子をかぶってどこにでも出向くのですが、多くが屋外での開催なので、炎天下の夏や北風に吹かれる冬など、そのほとんどが実は体力しごとです。

「最初は大変でしたが、もう慣れました(笑)。トランクも、隣の出店者の人に『こんなに入ってたの?』といつも驚かれるくらい、隙間なくぎゅうぎゅうに入れて持ち歩くんですけど、買い付けの時も趣味で旅行をする時もいつもそうだったので。重たい荷物を運ぶことも、ずっと外にいることもわりと平気なんです」

撮影をしたこの日は、有楽町で月に2回開催される「大江戸骨董市」でした。骨董市では日本一を誇る規模で、海外のお客さんも多く訪れます。英語を交えながら、品物がどこの国からやってきたのかを楽しそうに説明する宇治橋さん。その笑顔からは、買い付けや旅先でマーケットを巡る宇治橋さんの姿が浮かんできます。

出店の時はいつもかぶっているという麦わら帽子が、宇治橋さんのトレードマーク。

お店で待つよりも自分から会いに行きたい

初めてマーケットに出店してから、6年目。地域や会場の雰囲気に合わせて持っていく品物や棚での並べ方を変えるなど、現場で積み重ねた経験を活かして、出店の工夫をしているといいます。出店すれば必ず来てくれるという常連のお客さんも増える一方で、お店を持つという選択肢を考えたこともあるのでしょうか?

「自宅の一角をショールームにしようかとか一時期検討しましたけど、やっぱり行商スタイルでお客さんと関わる方が好きだなと思ったんです。お店を持つということは、家賃とか資金面のリスクもありますが、一日どのくらいのお客さんが来てくれるかわからない中でじっと待っているのなら、私は自分からお客さんに会いに出歩きたいんです」

アンティークは中古品でもあるため、写真で見た時の印象と実際に手にした時の印象は異なります。そのため、Webを使っての販売なども考えていないと言います。告知や広報活動などは、HPではCOVINのセレクトの雰囲気が伝わるようなイメージ写真を中心にし、近日の出店告知や買い付けてきた品物の紹介など、最新の情報はInstagramに載せるという使い分けをしています。

パリの蚤の市の風景。こうした買い付けの旅行記なども、Instagramで発信している。

新しいことに挑戦しやすい行商スタイル

マーケットで他の出店ブースも眺めてみると、宇治橋さんの陳列には奥行きがあり、品数が多いことはもちろん、品物の背景に物語を感じられることに気づきます。化粧箱や宝石箱、小さなトランクケースの中に、ブローチやイヤリング、ボタンやスパンコールなどの小物がぎっしりと並べられ、遠い国の誰かの部屋を眺めているように楽しいのです。度々ブースに戻ってきては、お気に入りを求めて探し続けるお客さんも多くいます。

「何もなかった場所に、トランクを開くとひとつの世界が広がる感じが好きなんです。条件の異なる決められた場所の中で、どう並べたらいいかなと、新しい挑戦を毎週のように気軽にすることができる。それも、行商スタイルのいいところだと思います。お店だったら、そんなにたくさんの頻度で棚や商品を入れ替えたりするのはきっと難しいですよね」

出店前には、ブースのサイズを想定しながら家で実際に品物を並べ、シミュレーションを繰り返すといいます。SNSで告知をすると、地方から買いに来てくれる常連のお客さんも多いため、なるべく同じ品物ばかりが続かないよう、新鮮味を出すことも工夫します。

溢れるほどぎゅっと詰め込んであるので、お気に入りを掘り出す楽しさもある。

買い付けでは背景にある物語も見つける

買い付けに行くのは年に3回。品物を売り切るまでの期間を考え、現在のペースに落ち着いたのだと言います。フランスやベルギー、イギリスなどに行くため、ユーロやポンドなどの外国為替レートを新聞やニュースで常にチェックしながら、買い付けのタイミングを決めています。

「膨大な数のアンティークマーケットや問屋街などをまわり、ひとつずつ選んでいくので、気力も集中力もいります。でも、お店の人と話をするのがすごく楽しいんです。これはどんな持ち主が使っていたのかとか、こんな美しい繊細なディテールは現在では作れないよとか。時々、私物を売っている人が、エピソードを話しているうちに『やっぱりこれは売らない』と言うこともありますけど(笑)」

時代や国をこえて、ひとつの品物から物語を感じることができるのも、アンティークの魅力のひとつ。出店の時、背景にあるそれぞれのストーリーを丁寧に教えてくれるのも、COVINが人気の秘密なのかもしれません。


次回は、宇治橋さんがアンティークの世界でしごとをすることになった、ひとつの転機についてお聞きします。(安達)

買い付けのエピソード、もとの持ち主の言葉などを楽しそうに伝える宇治橋さん。

プロフィール

宇治橋帆織

美術大学を卒業後、輸入玩具メーカーや雑貨の制作会社などの勤務を経て、COVINを始める。COVINとは“contemporary”と“vintage”を併せた造語。ヴィンテージの品物を現代の生活の中でも楽しめるようセレクトし、都内を中心としたアンティークマーケットなどに出店し販売。中目黒でオリジナルの帽子を扱う「Sugri Salon」にもアクセサリーを中心とした常設コーナーがある。詳しい出店情報などはサイトを参照。

https://covin-vintage.jimdo.com