そばではたらく
通勤時間010

考え過ぎたら、はじまらない

東京都小金井市にあるJR中央線 武蔵小金井駅 南口から徒歩5分、小金井街道から1本入った裏道に今年5月オープンした飲食店「CHILL」。日中は、倉科聖子さんが地元野菜を使ってフレッシュなベジバーガー&スープの店「mignon」を、夜はコーヒーの豆をお客さん自身が挽くスタイルのカフェ「kobalt」を阿部裕太朗さんが営んでいます。

同じ店でも、店に立つ人や売るものでまったく違う表情を見せるCHILLは、倉科さんと阿部さんのはたらき方の違いから自然に生まれた、新しいスタイルの飲食店かもしれません。今回はお二人のはたらき方への想いを伺いました。

10年後にありたい姿からはたらき方を考える

倉科さんと阿部さんのはたらき方は対照的です。倉科さんは、日中は本店のフォレスト・マムと姉妹店のmignon双方に目配りし、18時に本店を閉めるとすぐに帰宅すると決めています。一方の阿部さんは、シャトー2Fの営業を終えてから、さらに深夜までkobaltの店頭に立っています。そのはたらき方の違いはどこからくるのでしょうか。

倉科さんはかつて、看護師、喫茶店のママ、主婦と二足も三足ものワラジを履いてはたらいていました。「当時は子どもたちを育てるためとか、家のためとか、普通の女性が考えるような理由ではたらいていたの」という倉科さん。4人のお子さんが独り立ちし、転機を迎えます。「自分の時間を持てるようになって、何のためにはたらいているのかを考えることが増えてきて。目一杯はたらくことが格好いいとは思わなくなった」と話します。

そして、生きていて嬉しい、楽しいと感じられるはたらき方に変えようと2014年、好きだったお菓子づくりに専念できるフォレスト・マムをオープンさせます。

10年後は今と同じようなはたらき方は絶対できないから、どんな自分でありたいか、どんな暮らしをしていたいかを倉科さんは常々考えています。10年後にありたい姿に近づくために、何か面白いこと、楽しいことはないかといつもアンテナを張り、しなやかにはたらき方を変えていっているそうです。mignonを始めたのも、その流れの中でのことでした。

「心強い同士」と倉科さんが信頼を置く、手作りパンの店 ファンタジスタの浅野さん(右)。mignonの店頭は、浅野さんが守っています。

“しごと”と捉えないはたらき方

中学生のころから人に何かを振る舞うことが好きだったという阿部さんが、飲食に関わるしごとに就いたのは自然な形でした。阿部さんがつくるランチやスイーツ、ドリンク類は、味はもちろん、天然の発色やコントラストの鮮やかさに心を奪われます。

1店舗目のシャトー2Fの店長を任されて約2年、ようやく、やりたいことができるようになってきたと阿部さんはいいます。「シャトー2Fを始めたとき、“こうしたい”という店のイメージが全然思い浮かばず、“こうあるべき”という思い込みにとらわれちゃって、すごくずっこけたんですよ」と笑います。

そんな経験もあって、CHILLで店を開けることは「しごとではなく、趣味の一環」という意識を大切にしています。「実際に、友達がうちに来てお茶しているという感覚なんだけど…。しごとだ! と思うと急にやる気がなくなっちゃって」。そんな阿部さんの醸し出す空気が店を包み込んでいます。店を訪れるお客さんは意外にも一見さんが多いそう。一見さん同士が小さな店の中でコーヒーを味わう間に、共通の知り合いがいることがわかり、そこから話が盛り上がるーーそんな展開をカウンターの向こうから眺めるひとときが、ものすごく面白い、といいます。

お客さんが自分で挽いた豆を受け取ると、阿部さんが丁寧にネルドリップでコーヒーを淹れます。そんな合間に聞こえるお客さんたちの会話に、「人生の先輩がたの言葉は深い!」と日々感じるそう。

日常の、些細な話題ができる場に

CHILLの隣には地下水の湧き出る井戸があり、近隣の人たちが普段着で水を汲みに来るような、生活に密着した場所です。道路に面して扉のない出窓式の店が開放されているので、店の前を行き来する人たちと「こんにちは」「今日は帰りが遅いのね」といった何気ない会話が交わされています。

倉科さんも阿部さんも、ちょっぴり気取って入るカフェもいいけれど、CHILLは地域に住む人たちの日常に溶け込んだ場に育てていきたいと考えています。ごくごく日常の話題を話す相手とつながれる場、つながった人たちと情報交換ができる場——そんな場になっていくことを願っています。

それと同時に、「考え過ぎないで!」というメッセージも発信していきたいそうです。お二人のCHILLを見て、「店って案外、簡単に始まるんだな」とか、「人とつながることで、新しい展開が起こるんだな」と感じてもらえれば、どんどん楽しいことが広がっていくのではと心を弾ませています。

飲食店経営のほかにもケータリング、イベント開催、各種イベントへの出店、カルチャースクール講師など市内外で活躍している倉科さんと阿部さん。とびきりの美味しさと美しさのセンス、そして温かな人柄のお二人に、多くのファンがいるというのもうなずけます。これからも、新しい形の“何か”をつくり出し、たくさんの人たちをつなげていってくれることでしょう。(大垣)

お互いの考え方を尊重し合っている倉科さんと阿部さん。はたらき方は対照的ですが、CHILLへの想いは重なっています。

プロフィール

倉科聖子

看護学校卒業後、看護師として勤務。自身の子どもに食べさせたり、友人たちをもてなすことからスタートしたスイーツづくりがいつしかしごとに。長年、ご主人が経営する喫茶店を手伝った後、2014年7月にヴィーガンスイーツ専門店「フォレスト・マム」をオープン。今年6月、CHILLで「mignon」としてベジバーガー&スープの販売を開始。

http://forest-mam.on.omisenomikata.jp
https://www.facebook.com/forestmam/

阿部裕太朗

ギャラリーカフェ「シャトー2F」のアルバイトとしてはたらいていたところ、2年ほど前に店長を任される。カフェとして本格的なランチ、スイーツの提供の他に、人とのつながりを生む場となるようギャラリー、ワークショップ、ライブなどさまざまな形態のイベントを開催。今年5月からCHILLで「kobalt」として夜カフェ、朝抹茶(週1回)をオープン。

https://chill-koganei.shopinfo.jp

CHILL

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