はたらく場所を都心から国立へ

2017.06.15
はたらく場所を都心から国立へ

国立市の谷保に店舗併用住宅を建て、自宅の一階をカフェとして営業しているデザイナーの丸山晶崇さん。今回は、都心ではたらいていた丸山さんが、しごとの場を国立市に移すことになった理由について、詳しくお聞きします。

国立に来るようになった理由

もともとは文京区に住み、都心のデザイン事務所や広告制作会社ではたらいていた丸山さん。暮らしとしごとの拠点として国立市を訪れるようになった最初のきっかけは、あるお店との出会いにあると言います。お店の名前は国立本店。本と町に関わる選書が並び、登録されたメンバーが共同で本棚を管理したり、中央線沿線でものづくりをする人同士をつなぐイベントを開催したりしている場所です。

「当時、国立本店の二代目店長をしていた建築家の和久倫也さんの妹の和久紗枝さんから、こういう場所があるから遊びに来ない?という連絡をもらったんです。もともと、和久さんの妹と僕が大学の同級生というつながりもあって。そこから少しずつお店のイベントに顔を出したり、国立に通うようになって。その後、三代目の店長をやってみないかと声をかけてもらったんです」

ちょうど、自身の拠点も都心に置こうか迷いながらも、それと同時に国立という町も好きになり始めていたタイミングでした。聞くところによると店長は2年ごとの交代制とのこと。「ここで働くのもいいかな」。まずは2年やってみようと丸山さんは決断したそうです。

「中央線は駅ごとに町の雰囲気が変わるから面白いですよね」と丸山さん。
「中央線は駅ごとに町の雰囲気が変わるから面白いですよね」と丸山さん。

国立と谷保は、都心と多摩のような関係性

国立本店の奥に事務所も移し、店番をしながらデザインのしごとも始めた丸山さん。はたらく町として国立に来るようになってからも、近くにある谷保に足を運ぶことはしばらくなかったと言います。
小さな駅舎を降りると、静かな住宅街が続く谷保の町。雑貨屋やカフェが集まり、外からも人がたくさん訪れる国立とは違い、人々の暮らしの営みを感じることができます。

「初めて谷保に来た時は衝撃でした。特に、はけ(国分寺崖線)あたりの景色は、畑や水田が広がっていて、東京ではないようなのどかな眺めにびっくりしました。国立と谷保って、都心と多摩のような関係だなと思っているんです。谷保の人は国立に行くけど、国立の人は谷保に来ない。でも、国立が今後発展していくとしたら、吉祥寺や西荻窪のようになっていくのかなと何となく予想ができるんですけど、谷保には、それとはまた違う可能性があるような気がしました」

2年間の国立本店店長を終えた丸山さんは、その間に自宅を世田谷区から国立市へと引っ越し、しごとの場を谷保にも広げるようになります。

大きな団地や静かな住宅街が続き、昔からの個人商店も暮らしの中に息づいている谷保の町。
大きな団地や静かな住宅街が続き、昔からの個人商店も暮らしの中に息づいている谷保の町。

古民家を事務所として活用する

2010年、丸山さんは、谷保の静かな住宅地を抜けた先にある、やぼろじという場所に事務所を移します。やぼろじは、長く空き家だった古民家をリノベーションし、母屋、前庭、蔵など合わせて300坪を超える敷地の中に、食堂、工房、事務所などが入るシェアオフィス。国立本店の二代目店長をしていた和久倫也さんをはじめとするメンバーと共同で立ち上げ、ロゴやサイトなどのグラフィックデザインは丸山さんが制作しました。

「古民家を建築家やデザイナーが活用するという事例では、かなり早い段階で始めた場所なんじゃないかなと思います。誰も使わなくなった古い場所に、新しい経済の価値をつけて市場に戻していく。そういう事例をつくれば、また誰かがどこかでチャレンジしやすいんじゃないかなという考えも当時はありました」

各地に残る使われなくなった古民家などを再生していくひとつのかたちとして、やぼろじは多くのメディアから取材をされ、注目を集めました。

やぼろじの入口。手前が建築家・和久倫也さんの事務所WAKU WORKS、奥の白い蔵が丸山さんのお店であるcircle [gallery&books]。他にもいくつかオフィスが入っており、イベントの会場になることも。
やぼろじの入口。手前が建築家・和久倫也さんの事務所WAKU WORKS、奥の白い蔵が丸山さんのお店であるcircle [gallery&books]。他にもいくつかオフィスが入っており、イベントの会場になることも。

日常の中に“非日常”をぶつける

数年後の2013年、丸山さんは敷地内にあった蔵を改装して、circle [gallery&books]をオープンしました。1階はセレクトした写真集や作品集、印刷や装丁にこだわった本などが並ぶ書店、2階は期間ごとに展示を入れ替えるギャラリーです。

「ギャラリーやアートというのは非日常のコンテンツで、銀座とか青山とか、だいたい生活感の薄い町にあるんですよね。谷保はそれとは正反対で、肉屋や魚屋のような日常のコンテンツが揃う、住むための町。そんな暮らしの風景の中に、あえて非日常のコンテンツをぶつけたら面白いかなという思いで始めました」

自分の生活圏内で本気のギャラリーを始めるというのは丸山さんにとっても挑戦でしたが、企画展をする作家を通じてなど、足を運んでくれるお客さんも増えてきたと言います。現在、事務所はやぼろじ内から国立の駅近くに引っ越していますが、しごと場のひとつとして、circle [gallery&books]でギャラリーの企画展なども引き続き行っています。

次回は、丸山さんのデザイナーとしてのはたらき方について、そして今後の展望についてお聞きします。(安達 写真・鈴木智哉)

circle [gallery&books]、2階のギャラリー。展示ごとにレイアウトも変わるので、それを見るのも楽しい。
circle [gallery&books]、2階のギャラリー。展示ごとにレイアウトも変わるので、それを見るのも楽しい。
連載一覧

店舗併用住宅に暮らすデザイナー

#1 商店街に建つパブリックな家

#2 はたらく場所を都心から国立へ

#3 デザインは生活圏から届ける

プロフィール

丸山晶崇

デザイン事務所、広告制作会社などを経て、2009年に独立。国立本店の三代目店長を経て、2011年に国立市谷保にやぼろじを共同で立ち上げる。2013年、やぼろじ内にギャラリー・circle [gallery&books]をオープン。2016年、自宅の1階を飲食店スペースにしたHOMEBASEを始める。2017年に「株式会社 と」を立ち上げる。
http://www.design-to.co.jp
http://circle-d.me

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