団地に住み営む、染色作家の夫婦

2023.03.23
団地に住み営む、染色作家の夫婦

「引っ越そうと考えた時もあったけれど結局この場所が気に入って住み続けることになってしまいました」と語るのは、染色ユニットの「kata kata」として活動をする松永武さんと高井知絵さんご夫妻。調布市にある神代団地商店街の一角に、アトリエ兼ショップと自宅を構えています。

2014年から現在の場所に店を構えて9年。この場所との出会いや団地の仲間とのつながり、そしてお二人のこれからについて、まちの魅力を交えながらお話いただきました。

全ての始まりは学祭での制作だった

大学時代から染色の勉強をしていた武さんと知絵さん。二人が活動を始めたのは学園祭がきっかけだったそうです。

武さん  「何かしようと取り組んだのが、オリジナルの手ぬぐい制作と販売だったんです。それがkata kataの始まりですね」

染色との出会いも大学からなのかと思いきや、どうやら違うよう。

知絵さん 「実家は浜松にある染物工房で、両親共に染色作家。小さい頃からその環境が当たり前だったんです。染色を学び始めたのは自然な流れでしたね。違う道を考えたこともあったけど、気づけば両親と同じ道を歩んでいました」

明るくさわやかな性格の知絵さん。染色の世界を心から愛していることが伝わる
明るくさわやかな性格の知絵さん。染色の世界を心から愛していることが伝わる

でも、あえて親御さんと共に活動をすることはないそう。

知絵さん 「実の親だと素直になれないこともあるんです。師事もしたし、今でも実家の工房を借りるので、ありがたいのですが……。他人ではないからこそ割り切れない感情が湧くんですよね(笑) 離れて活動をしている位がちょうど良いです」

武さん 「その間に入っているのが僕ですね。実の両親じゃないからこそ冷静になれると言いますか。工房にいるその瞬間は、師事を仰ぐ師匠と弟子なんですよね」

知絵さん 「本当にうま〜く間に入っているよね(笑)」

大学卒業後も東京で活動を続けるkata kataのお二人にとって、浜松の実家とご両親は、ゆるく柔らかにつながり続ける関係なのでしょう。

穏やかで落ち着いていて、冷静な武さん。対照的な性格の夫婦ユニット
穏やかで落ち着いていて、冷静な武さん。対照的な性格の夫婦ユニット

そもそも、二人が打ち込む染色とはどんな仕事なのでしょうか。

染色作業は単に布を染めるだけではありません。図案をデザインし、型紙を作る。さらに布に型紙をのせ糊をおき、糊が乾いたら刷毛で染色する。その後は色の定着のために布を蒸し、水に一晩つけて糊をふやかして洗い落とす。さらには布を干して乾かすまでが作業の工程。想像以上に多彩で緻密な作業です。

染色の際に使用する型のデザイン。切り絵のごとく、1つずつ彫っていく実に繊細な作業
染色の際に使用する型のデザイン。切り絵のごとく、1つずつ彫っていく実に繊細な作業

知絵さん 「元々染めの仕事は分業制。“型紙を彫る”“デザインの図案を考える”、そして“染める”と作業工程ごとに別の人が行うものでした。それをひとりで全ての作業をする流れを作り上げたのが人間国宝である芹沢銈介さんです。父と母がこの技法を習得していたことから、私もそれが当たり前だと思っていました。今私たちもその方法を基本に制作していますね」

作業を行うときに一番大変なのは、アイデア出しだと二人は話します。

武さん 「アイデアを想起する一番最初がとても苦しいんです。でも、“これだ”って決まれば早い。型紙をひたすら黙々と彫っていくのが楽しいですね」

kata kataの二人は、動物や草木などを誰もが目にして親しみやすいことを大切にしている。こうした自然のモチーフは物語やストーリー性を伝えやすいと感じているとか。こちらは毎年制作している干支のカレンダーの型。よく見ると動物やモチーフは必ずどこかでつながりがあり、一体性をもたらすデザインになっている
kata kataの二人は、動物や草木などを誰もが目にして親しみやすいことを大切にしている。こうした自然のモチーフは物語やストーリー性を伝えやすいと感じているとか。こちらは毎年制作している干支のカレンダーの型。よく見ると動物やモチーフは必ずどこかでつながりがあり、一体性をもたらすデザインになっている

手仕事の世界の殻を破って、多くの人と出会いたい

ユニットの発足をきっかけに「染色作家として暮らしていくためにはどうするとよいのか」と真剣に考え始めた武さんと知絵さん。大学を卒業してからは、てぬぐいやバッグなどを制作し、ギャラリーでの展示販売やイベントへ出店。地道な活動は続きます。

知絵さん 「自分達のことを知ってもらうために、もっと多くの人に作品が届くようにしたい。でも、型染めは手仕事で時間もかかります。活動を始めて3年目に、量をたくさん作るには限界があることに気づきました」

このとき新たに取り入れたのが注染(ちゅうせん)という手法でした。注染は、染布を効率よく量産するために誕生した染色技法です。糊で防染した布を屏風たたみ状に折り重ね、布の上から染料を注ぎます。

それまで行っていた刷毛で一枚一枚染める型染めと違い、また染められた布の色具合や表情もやや異なり、デザインの輪郭に柔らかなにじみが出る、独特な染めムラに特徴があります。型染めと違い、大量生産しやすいのも注染の魅力でした。

武さん 「型紙や染めサンプルまでは自分たちで作り上げ、染める作業だけを職人さんにお願いすることにしました。腕のよい注染の職人さんと出会えたのも影響しています。私たちが染めサンプルを用意すれば、染めの作業を思い描いた形でお願いできるし、注染は比較的均一に、沢山の染め物を作ることができる。これなら多くの人に届けることができる! と私たちの願いが叶ったのです」

注染の職人さんに染めのオーダーを出す際に用いるサンプル。二人が染めたものを見本として提供することで、職人同士で微細な違いを理解しあえるのだとか。目と手の感触で通じあう世界
注染の職人さんに染めのオーダーを出す際に用いるサンプル。二人が染めたものを見本として提供することで、職人同士で微細な違いを理解しあえるのだとか。目と手の感触で通じあう世界

こうして武さんと知絵さんは、デザインをすることに集中できるようになったそう。そして驚きなのは、型のデザインを、染色の世界以外にも提供できるよう、型紙をデータ化する取り組みを始めるのです。

武さん  「デザイン提供の仕事ができるように、PCでデータ作りの勉強を始めたんです。大学時代一度も触ったことなかったのに(笑)」

「できることは他にもある」。思いついたことは積極的に取り入れ、kata kataを育てる活動をする二人。そんな折に、クラフト作家やデザイナー、アーティストたちを見出して掬い上げ、毎年数々のイベントを実施する「手紙社」の北島勲さんと渡辺洋子さんに出会います。

知絵さん  「わたしたちが初個展を開いた際に、“編集長宛”としたDMをお送りしたのです。それを読んだ北島さんはずっとDMを大事にとっていてくださって。その後、手紙社主催のイベント『もみじ市』の第1回を開催する際に、出店しないかとお誘いしてくださいました」

書店でライフスタイル雑誌を見つけては奥付を見て、雑誌の編集長宛に手紙を書き、作品を見せにいっていた、と当時を振り返って話すお二人
書店でライフスタイル雑誌を見つけては奥付を見て、雑誌の編集長宛に手紙を書き、作品を見せにいっていた、と当時を振り返って話すお二人

武さん 「北島さんとの出会いは大きかったです。何も実績のない若造を育ててくださり、感謝しかありません。調布にある手紙社のそばで共に活動をしたい思いもあり、このタイミングで国領に引っ越しをしたほど。転機となったもみじ市では、他のクリエイターや作家との出会いもあり、今までずっとつながり続けています。イベントの時はいつも同窓会をしている気分。仲間の活動を見て、自分達ももっと頑張ろうと励まされています」

デザインに専念するようになってからは、手ぬぐい以外のテキスタイルや、文具、食器など「kata kata」のデザインを用いた様々なプロダクトを作り始めた
デザインに専念するようになってからは、手ぬぐい以外のテキスタイルや、文具、食器など「kata kata」のデザインを用いた様々なプロダクトを作り始めた

店舗併用住宅という最高な場所との出会い

国領で3年ほど生活をするなかで、「もっと広いスペースで制作をしたい」という気持ちが湧き、引っ越しを考え始める二人。そんなタイミングで、神代団地の商店街に空き店舗が出たということを知ります。

知絵さん 「内見したら広い間口と奥行きの深さに惹かれました。でも面積が広いゆえ、お値段的に少し無理する感じかな?という気持ちも……。とはいえ2階建てのこの場所、店舗兼住宅として使えるところが魅力でした。アトリエ、ショップ、そして住居と制作と日常が交わりあう理想の生活をがイメージできたんです。何より長い布をめいっぱい広げることができる空間であることは願っていたことでした」

神代団地商店街の一角にある「kata kata」のアトリエ。手紙社の内装を手がける建築家・井田耕市さんがアトリエをデザインしてくれたそう
神代団地商店街の一角にある「kata kata」のアトリエ。手紙社の内装を手がける建築家・井田耕市さんがアトリエをデザインしてくれたそう

武さん  「お世話になった『手紙社』のお店もすぐ横にあるし、自分もこの場所に根を下ろしたいなと、思い切って借りることにしたんです」

こうして2014年に、神代団地の一角で二人は暮らし、お店を始めます。染色を行う際には、ショップを休業し1階のスペースをめいっぱい使って広げて作業をしているそう。

商店街は今でこそ新旧世代が入り混じった顔ぶれのお店ですが、越してきた当時はまだ商店の人たちは世代交代中だったと話します。

知絵さん  「2014年に住み始めた時はまだ夫婦二人暮らしだったので、住んでいる人や商店の人たちともそこまで交流が多くなかったんですけど、時折お店の様子を覗きにきてくれたり、私たちも買い物に行って交流をしながら段々といろんなことを教えていただきました。商店街にはベテランの大先輩がたくさんいて、その方々に助けられながら店舗の一員として成長してきた感じですね」

アトリエの中には大きなポールが何本も。ここに染めた布を張って、乾かすのだそう
アトリエの中には大きなポールが何本も。ここに染めた布を張って、乾かすのだそう

アトリエをまちの交流の媒介に

住まうまちの人との交流が深くなり始めたのは、息子さんが産まれた頃からだと二人は話します。

武さん  「息子を通じてまちの人と交流する機会がグッと増えましたね。アトリエの前には広場があり、そこでずっと子どもを遊ばせてるんですけど。その辺をただ歩いているだけで、あちこちから皆が声をかけてくれるんです」

知絵さん  「“大きくなったね”とか“今日はどんなことをしているのかい”って目を細めてくれる。まち中に育ての親がたくさんいる感じですね」

団地の広場にはおばあちゃんから若い世代の親子連れまで、多世代が集まる
団地の広場にはおばあちゃんから若い世代の親子連れまで、多世代が集まる

そして子どもを通じてアトリエに足を伸ばしてくれる人も増えているのだとか。アトリエの中で制作作業をしていると、周りの人たちは“一体何をしているだろう?”と気になるけど、入っていいものか戸惑う。そこを子どもという存在がつないでくれています。

武さん  「最近は、昔団地に住んでた人が懐かしい場所めぐりのために、団地を訪れてくるんです。“昔の団地はこんなだったよ”とか、“子どもが小さかったときここで遊ばせたりしたものよ”なんて話してくれるんです。そのことが嬉しくて」

アトリエでは制作はもちろん、商品も販売。手ぬぐいやタオルを始め、服飾小物や文具まで幅広いラインナップ。kata kataの全てがここに揃う
アトリエでは制作はもちろん、商品も販売。手ぬぐいやタオルを始め、服飾小物や文具まで幅広いラインナップ。kata kataの全てがここに揃う

もちろん団地内に住む人たちも徐々に顔ぶれが変化をしています。

知絵さん   「コロナ前は、月に1回集会室で『ふれあい喫茶』をやっていて。おばちゃんたちが作ったカレーライスが食べれるんです。小さな子からお年寄りまでごった煮で集まり、交流の場になっていたなあ。私たちも仕事の合間にカレーを食べにいって、そこで色んな人と仲良くなっていきました」

武さん  「昨年の12月に団地で実施したクリスマスマーケットに参加したんです。すると段々と自分達と近い世代の人が住んでいることがわかって。その中でまちに関わる面白い人とも出会えるようになりました」

子どもを通じて広がった多世代が混じり合う暮らしを心底楽しそうに語る二人
子どもを通じて広がった多世代が混じり合う暮らしを心底楽しそうに語る二人

武さん 「皆んな子どもにも優しいし、支援も手厚い。そして、歴史のあるこの団地は老若男女がいてみんなで支え合って団地を作り上げている姿が面白いです」

住み始めて気づけばまもなく10年というお二人。子どもがだんだんと大きくなってきた今、時折引っ越したほうがいいのかと考えることもあるそう。

武さん  「でもね、このまちの住みやすさのことを見聞きして、自分達も十分実感していると、引っ越す理由がなくなってしまっているんですよ。気に入ってるんです。この暮らしを。まだまだこのまちで、暮らす人たちとゆるく関わりつつ、出入り自由なアトリエを、みんなの交流の媒介としていきたいですね」

制作と日常と老若男女と。彩り豊かに交わり、kata kataらしい暮らしの「型」がすでにできあがりつつあるようす。柔らかな交流を楽しみ、そのことを話す声ははずんでおり、ここを離れる気持ちはないのだろうなと感じます。kata kataにとって、暮らしの「型」を築き上げる日々は、まだまだこれからも続きそうですね。(永見)

プロフィール

松永武 高井知絵

東京造形大学造形学部のテキスタイルデザイン専攻に在学中、染布制作ユニット「kata kata」として活動をはじめる。夫婦二人で型染め、注染、プリントによるオリジナルの染布を制作。デザインのモチーフは日々の生活の中で感じる動物や昆虫、植物、風景など。現在は調布市内にある神代団地にて、アトリエ兼自宅を構えて制作活動中。

https://kata-kata04.com/

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