夫婦の風通しがよくなった理由

2017.03.20
夫婦の風通しがよくなった理由

5組のメンバーが、同じ空間の中でお店を営むアトリエテンポ。連載3回目のテーマは、“夫婦が同じ職場ではたらくこと”について。実は、アトリエテンポでは、dogdeco HOME、safuji、coupéと3組のお店が夫婦ではたらいています。家族であり、共同経営者でもあり、作り手同士でもある。何でも言い合える関係性のなかではたらくことは、どのような利点と難しさがあるのでしょうか?

お互いの役割を尊重する

—夫婦で職場が同じということはよくあると思いますが、お店の経営者であり、同じ作り手であると考えた時に、役割分担とかはされてるんですか?

中丸(美砂)「靴作りでいうと、うちは制作パートが完全に分かれていて、分業制なんです。私は、靴を作る前半部分の、裁断や製甲を担当しています」

中丸「僕は後半部分の底付けを担当していて、ここだと場所が狭いので自宅でやることが多いです。僕らはお互い別の靴のメーカーにいたんですけど、メーカーってだいたい分業制なんです。2人とも工程の得意分野がもともと違うので、それが合わさって初めて靴一足ができる。だから、相手がやる作業はかなり尊重して、口を出さないようにしてます」

—美砂さんは笑っていらっしゃいますが…。

中丸(美砂)「制作に関してはあまり言われないけど、他では…いろいろあります(笑)」

沢藤「家族で一緒に仕事してると、つい口出したくなっちゃうし、お互い全てが見えるので、それはシビアな部分でもありますよね。例えば僕の場合だと、前日の夜にすごい呑んでて、次の日ここで作業してて動きが悪かったから“次の日に残さない約束じゃないの?”って怒られたりとか(笑)ごまかしが一切きかないです」

普段は、広い作業スペースを必要とする貴幸さんが自宅で制作し、ミシンで作業をする美砂さんがお店に立つことが多いのだとか。
普段は、広い作業スペースを必要とする貴幸さんが自宅で制作し、ミシンで作業をする美砂さんがお店に立つことが多いのだとか。

お店に立つことで、夫婦間の風通しが良くなる

—何でも言いやすい関係だからこそ、つい喧嘩が多くなったりはしませんか?

沢藤「うちは、しょっちゅう言い合いしてます」

藤原「safuji家の夫婦喧嘩に、私が介入したりするよね(笑)2人がピリピリしてるタイミングで声かけたら、両方の話を聞かなきゃいけなくなったり」

沢藤「共感してもらいたくて、仲間を作ろうとするんですよ。たいてい僕が悪いんですけど…」

中丸(美砂)「でも、お店に立つようになって、夫婦の間で風通しが良くなったなと思います。他のみんなも夫婦でやっていたりするので、お互い愚痴も言いやすかったり。2人の間で直接は言いにくいいけど、誰かを通すことで伝えやすくなることもあって」

中丸「以前は自宅に一日中こもって2人で作業をしていたので、やっぱりどこか息苦しいんですよね。でも、今は基本的に僕が家で作業をして妻がお店、という感じで離れる時間もあるので、しごと以外での不必要なぶつかりもなくなった気はします」

貴幸さんと美砂さん、夫婦の作業がひとつに合わさることでcoupéの靴は完成する。
貴幸さんと美砂さん、夫婦の作業がひとつに合わさることでcoupéの靴は完成する。

しごともプライベートも共有する

—アトリエテンポの他の夫婦を見て、参考にしたり、影響されたりということはありますか?

中丸「safujiさんが加奈子さんに怒ってるのとかを見て、自分はああならないように気をつけよう、と反面教師にしてます(笑)」

沢藤「ああなっちゃいけないですよね…」

池田「作り手同士だとぶつかることもあるのかもしれないですよね。うちは基本的にしごとの作業は全部僕がやって、不在の時に奥さんを頼るという感じなので、ある意味すっきりしています。あと最近は、うちはよく託児所になっています(笑)」

中丸(美砂)「うちの子、しょっちゅう抱っこしてもらってます」

沢藤「池田さん、最近“じぃじ”の顔になってますよね(笑)」

—みなさん、プライベートでもよく会うんですか?

池田「男性陣は、しょっちゅう呑みに行ってます。スポーツバー風居酒屋とか。多い時は、週1くらいで行ってましたね。あと夏はみんなでキャンプとか」

やまさき「呑みに行く編成も、時と場合によって違ったりしますよね。女子メンバーだけの時もあるし。企画展をやる時は、閉店後にゲストの人も一緒に集まって、店内に机並べて藤原さんのご飯を食べたりとか。そういう時は、それぞれの家族もみんな一緒です」

「娘たちもよくお店に来ます」という池田功さん、美枝さん夫妻。
「娘たちもよくお店に来ます」という池田功さん、美枝さん夫妻。

子どもにとってお店は、親や先生以外の大人を知る場所

—お子さんたちは、自分の両親が近所にお店を出しているというのをどう感じているのでしょうか?

池田「自分たちが育ってきた環境はもっとローカルだったから、こうして取材を受けるような人が近くにいるとか考えられなかったですね。ここだと、子どもが何か作りたい、表現したいとなった時に、すぐ近くに聞ける人がいるという暮らしなので、面白いですよね。僕らが大人になってからしかできなかったことが、子どものうちからできる環境にある。それがいいとか悪いとかじゃなくて、将来どう活かされるのかなと楽しみではありますね」

沢藤「親や学校の先生以外のたくさんの大人と、こうして接する場所があるのはいいなーと思いますね。自分たちの育ってきた環境とはあまりにも違うので、興味深いです」

やまさき「うちの子は、小学校の友だちと“将来一緒にお店をやろうね”と約束してるんですけど、ひとりじゃなくて、お店は誰かとやるものだと思ってる。やっぱりここを見ているから、この形態が子どもたちの中でベースになってるんですよね」

次回は連載の最終回。アトリエテンポが定期的に行っているイベントの開催や、地域とのつながり、これからの展望などについてお聞きします。(安達)

中丸家の新メンバーは、みんながつい抱っこしたくなるお店のアイドル。
中丸家の新メンバーは、みんながつい抱っこしたくなるお店のアイドル。
連載一覧

日常が見えるシェアストア -atelier tempo-

#1 お店を共有する仕組み

#2 “作る”と“売る”のいい関係

#3 夫婦の風通しがよくなった理由

#4 高架下の常識をくつがえす

プロフィール

池田功・池田美枝

化粧品メーカーの広告やデザインの仕事を経て、1999年にdogdecoを創業。2001年に伊勢丹新宿店を開店。2009年に地元である武蔵小金井にdogdeco HOME 犬と暮らす家を開店し、2014年にatelier tempoに移転。
http://www.dogdeco.co.jp

沢藤勉・沢藤加奈子

革製品のメーカー勤務後に独立し、2010年に夫婦でsafujiとして三鷹の自宅に工房を構える。使うほどに手に馴染むsafujiの革小物は、革の質感と手縫いのプロセスを大切にしている。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。
http://safuji.com

中丸貴幸・中丸美砂

手製靴のメーカー勤務後に独立し、2012年に夫婦でcoupéとしての活動をスタート、自宅に工房を構える。コッペパンのような、つま先の優しい丸みがcoupéの靴の特徴。2014年atelier tempoにお店と工房をオープン。
http://coupe-shoes.com

やまさき薫

デザイン事務所勤務を経て、紙媒体のデザイナー、イラストレーター、シルクスクリーン版画作家として活動。暮らしの中から生まれる絵やデザインを大切に、紙や布の雑貨の制作やワークショップを開催している。2014年、atelier tempoにお店と工房を兼ねた、絵とデザインのアトリエ ヤマコヤをオープン。
http://yamasakikaoru.net

藤原奈緒

小金井市内のカフェで調理を担当後、2006年より料理教室を開講。家庭料理をよりおいしくするための調味料ふじわらのおいしいびん詰めの開発、販売などを経て、2014年、atelier tempoに地元の野菜とびん詰めを使った食堂あたらしい日常料理 ふじわらをオープン。
http://nichijyoryori.com

atelier tempo

東京都小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井内
http://www.facebook.com/ateliertempo/

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