コロナ禍の中で、自然や緑の良さを改めて感じた人も多いのではないでしょうか?多摩丘陵にある大学のキャンパスでも、緑地を生かした様々な取り組みが生まれています。大学の中に閉じたままでなく、まちに開かれた緑地にすれば、私たちの暮らしも面白く豊かになっていくはず。地域連携の機会も広がり、大学の緑地に注目が集まっています。
2023年3月4日、「みどりのオープンキャンパス」をテーマに、「デザインセッション多摩(DeST デスト)」が開催されました。DeSTは、明星大学デザイン学部デザイン学科が主催する、多摩エリアでデザインの力を活かしたプロジェクトを増やしていくためのプラットフォームで、今年で6回目を迎えます。
オンラインで開催されたトークセッションには、DeSTを企画する明星大学 デザイン学部 教授でプロジェクトデザイナーの萩原修さんを進行役に、大学で緑地の活用に取り組む4人の教職員が登壇。東京学芸大学 環境教育研究センター 准教授で環境教育のフィールドである教材植物園に関わる小柳知代さん、早稲田大学 自然環境調査室に所属し所沢キャンパスの広大な緑地で市民や学生と連携しながら調査・保全活動を進める竹内大悟さん、武蔵野大学 工学部 准教授で都心のキャンパスの屋上にコミュニティガーデンを立ち上げた明石修さん、明星大学 理工学部 准教授で大学緑地を軸に学部・大学の枠組を超えて里山の活用プロジェクトを進める柳川亜季さんが集まり、大学の緑地の活用事例やこれからの可能性について話しました。
萩原: 僕が勤める明星大学では、コロナ禍の中で大学の緑地を活用した取り組みが始まりました。多摩丘陵には様々な大学があって、それぞれに緑地の活用の取り組みをしていることに気づきました。他にも、学芸大学や早稲田大学の所沢キャンパス、武蔵野大学などでも何かやっているらしいとわかってきて、今回集まっていただきました。話をする中で、自然との関係で活動している人には、優しい人が多いと感じました。
明石: 都会に住んでいるとみんな人間のペースになりますが、自然は独自のリズムで動いてます。ゆっくりした流れだったり、時間の流れが細かくて1週間で大きく変化したり。そんな自然の時間の流れを持っていることが、心の余裕や優しさにつながってるのかなと(笑) 都会のいたる所にコミュニティガーデンがあって、地域の人も含めて、自然を愛でたり人と交流できる場所をつくって、日々の忙しさとは別の時間軸や空間を持つことが、これから人間のウェルビーイングに大事だと思います。
萩原: 小柳さんは学芸大で先生になる人たちの教育の中で緑地を活用して、子供たちや地域の人たちにも広げている。地域の広がりについてどう感じてますか?
小柳: 緑地をどう活用していくか、緑地をどう教育に生かしていくかを環境教育の授業で伝えてはいますが、学校の先生だけでは限界があります。先生も忙しいし、専門性がないとどう活用していいかわからない。でも、地域の人に声を掛ければ緑に詳しい人や手伝ってくれる人もいる。皆さんのお話を聞く中で、地域や人とのつながりの大事さを改めて感じたので、これからの授業に生かしたいと思っています。
柳川: 緑地がなぜ大事かというと、緑地に関わる時ってマインドフルネスじゃないですか。例えば鳥を見てる時は鳥のことしか考えてない(笑) 雑念ゼロになれる瞬間を都会でもつくれるのはすごくいいですよね。カーボンをストックするといった実利的な部分だけでなくて、幸せに寄与してくれる。それに、私は農学専攻で土壌が専門だったため、最初は植物や生物についても知らなかったように(笑) 、“大学緑地学”といった分野は今のところ存在しませんので、大学緑地について特別に詳しい人はいません。障壁なく誰でも参加できるので、皆さんにもどしどし緑地に関わってほしいと思います。
萩原: 多摩丘陵に大学ができはじめたのが今から60年ぐらい前なんですよね。都心に大学の新設を制限する法律ができて、里山と呼ばれる多摩丘陵に大学が土地を求めて、30年前には丘の上に10の大学のキャンパスができた。さらにそこから30年経って少しずつ地域のつながりができてきました。皆さんは大学緑地の今後30年をどう描いてますか?
竹内: 早稲田大学所沢キャンパスのある狭山丘陵は、自然保護を主張される方と開発者との対決関係があった歴史があります。しかし時代は移り、自然保護へ向けて実際に行動できる人は減ってきています。地域の自然を将来に残すためには、もっと根本的なところの、自然を感じ親しんでいく部分で人を巻き込む仕組みが必要です。これからの30年では、今までの歴史を踏まえつつも、全く新しいものをドンと乗せていける発想やエネルギーが重要になってくると思っています。
明石: コミュニティや地域の課題を解決できる場として緑地があるということも言えると思うんですよね。都市化する中で失われてきた人間性や人とのつながり・コミュニティと、それと同時に失われてきた生態系や緑を一緒にどう再生していくか。それがこれからの課題だと思います。
萩原: それは重要な視点ですね。皆さんは、大学と緑地の可能性で感じることはありますか?
小柳: 生物保全の面では、大学の緑地は生き物が豊かで質もよく管理されています。その価値を共有し、地域の人と一緒にできることを増やしていくことが、郊外型のキャンパスでは大事になってくるんじゃないかと。また、学芸大ではエクスプレイグラウンドというプロジェクトがあって、学芸大が持つ教育の価値を、地域の企業や人とつなげて新しい学びの場を作っています。その一環で近くの辻調理師専門学校と連携し、“くいしんぼうラボ”という名称で農園で農作業や肥料づくりなどのイベントをしたり。これからも大学はどんどん開かれていくといいなと思います。
柳川: 大学が存在する意味が今まさに問われていて。地域の景色を変える原点に大学があるぐらいの気持ちで地域の人と交わっていかないといけないと思っています。そのために、地域の人と交流する場が大学の緑地にあるといいんじゃないかと。緑道で缶蹴りしたとかコミュニティガーデンでピザを食べたとか、みんなの心に残る大事な景色を大学の緑地から作っていく。それに、大学なら学内外から色々な先生を呼べます。例えば鳥類の調査では、地元の市民団体「八王子日野カワセミの会」の方が私の先生(笑) 色々な人が教え合う場を提供して地域を変えていくというのがすごく大事だなと。
萩原: 地方を見てみると、行政や地域の産業も含めて地域との関係を大学が作って活動しているけれど、東京だと大学が多すぎて地域とのつながりがそれほど強くない。でも専門性でいうと例えば東京薬科大学の薬用植物園は薬草に名前がついて里山の風景も残っていて、本当にみんな行った方がいいぐらいすごい(笑) 各大学それぞれの専門性で地域と連携するやり方がどんどん模索されていくと地域も大学も変わっていくんじゃないかなと思いました。
竹内: 保全や保護とかだけじゃなくて、もっともっと自由に、ものを作って売ったり、お店に提供して人の輪を作ってみたり。カフェとかも面白そうですよね。そんなことを想像してみるところからアイデアは広がっていくのかなと。今後はこれまでの視野に捉われず、アイデアベースの活動も企画してみたいですね。
明石: 先ほど柳川さんが大学の存在意義が問われてると言いましたが、今は人間の存在意義も問われてる(笑) コミュニティーガーデンに来た学生が“ここに来ると生きている感じがする”と言っていて、普段は生きている意義が感じられない社会になってるのかな?と思って。コミュニティガーデンでは、ベンチを作ったらみんな喜んでくれたり、コンポーストを作ったら土になって野菜を育てられたり。自然や人とのつながりの中で、自分のしたことが世の中の役に立ち、頭で考えるのではなく心や体でリアルに感じられる場所になっている。そんな意味が緑地にあると思いました。
柳川: 今は、野菜も食べ物も洋服も自分じゃなくて誰かが作っていて、誰が作ったのかもわからない。自分ごとじゃないことがどんどん増えて、時間効率を重視する“タイパ”のような考え方が浸透する中で、時間や世界を改めて考えるヒントが緑地にあるかもしれません。
萩原: 僕はデザインが専門ですが、明星大学で柳川さんと一緒に活動しながら感じているのが、人と自然の関係がこれからのデザインの中心課題になる、あるいはすでになっているんじゃないかということ。でも、そこに取り組むデザイナーがまだまだ少ない。 自然をどうコントロールするかから、自然との関係をどう作り直していくかにデザインの価値や意味が変わってきたと実感しています。
4人のパネリストの話から、“みどりのオープンキャンパス”の現在とこれからが見えてきた今回のDeST。ここからまた新しい取り組みが続々生まれていきそうです。
デザインセッション多摩2022 特設サイト
https://meide.jp/dest2022/
明星大学デザイン学部
https://meide.jp/