サウナで近づく人々との距離

2024.07.04
サウナで近づく人々との距離

日本でまちづくりや地域活性の仕事に携わったのち、2024年4月よりフィンランドに滞在中のライター・杉田が現地で見た景色や感じたことをコラム形式でお届けします。今回は、フィンランドならではの文化、サウナにまつわる話です。

フィンランド人がシャイで控えめな国民性だという一般論は、渡航前からよく耳にしていました。実際に現地に来てから、その傾向を肌で感じていて、フィンランド人と友達になるのは難しいと言われてしまうほど。

あるフィンランド人から「コロナが収束して、ソーシャルディスタンス2m以上の規制が解除された時、僕たちは普段からそれくらいのパーソナルスペースを持っているから、規制が解除されて(人との距離が近づきすぎないか)不安になった」なんてジョークを聞いた時には、彼らの国民性をよく言い得ているなあと、笑ったのを覚えています。

そんなフィンランドで見知らぬ人から話しかけられる経験をしたのは、初めて訪れたパブリックサウナでのこと。サウナシティとしても知られる、ヘルシンキに次ぐフィンランド第2の都市、タンペレのRAUHANIEMI FOLK SPA(RAUHANIEMEN KANSANKYLPYLÄ)でのできごとです。

日本でさえサウナに行ったことがなかったわたしは、受付で入り方を聞いてから、水着に着替え、しばらく周りの人たちを観察。 (ちなみに、このサウナは水着着用が必須でしたが、裸で入るパブリックサウナもあるのだそう。日本でいう銭湯に近い感覚なのでしょうか。) 大体のマナーを把握したところで、一人、緊張しながらサウナ室へ。3段の雛壇式のベンチのうち、一番温度が低そうな最下段に腰掛け、じっと暑さに耐えます。その時、サウナ室にはわたしとサウナハットを被った恰幅の良い男性だけ。すると、彼が何かフィンランド語で話しかけてきました。わたしがフィンランド語を理解していないことを察すると、次は英語で。しばらく雑談を楽しんでから、彼は慣れた手つきで、ロウリュ(ストーブの上のサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させること)をして去っていきました。当時、わたしは渡航後1か月半。現地の人と会話ができる機会は、そう多くなかったので、驚きつつも嬉しい気持ちに。

その後も、サウナ室と外気浴を何回か行ったり来たり。男性ばかりの時は静かなサウナ室も、若い女性グループが何組か集まれば狭い空間いっぱいに話声が充満している感覚になるほど、にぎやかに。恐らく初対面だと思われる人同士が楽しげに話している光景も見かけました。

それから、勇気を出して凍えるほど冷たい湖にもチャレンジ。すると最初は暑さに耐えるだけの修行だったサウナ室が、少しずつ心地よくなってきます。オープンで、リラックスしたその空気に、最初の緊張はどこへやら。いつの間にか、すっかり心ほぐれる時間を過ごすことができました。

日本人も同じく世界から見るとシャイな国民性と言われている中で、日本には銭湯文化があり、フィンランドにはサウナ文化があって、互いに“裸の付き合い”のカルチャーを持っているのはおもしろい共通点。古くから続く“コミュニティの場”としても通じるところがありそうです。

プロフィール

杉田 映理子

1994年東京都生まれ、ライター。地方のデザイン会社でライター・編集者として、7年間にわたり、さまざまな自治体のプロモーションやまちづくり、イベント企画に携わったのち、現在はフィンランドに滞在しながらこれからの人生を模索中。異国の地に来ても“デザイン”や“まちづくり”の視点でものを見るクセが抜けない。
https://www.instagram.com/e_sary125/

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