ごはんとおかずで育むコミュニティ

2024.01.11
ごはんとおかずで育むコミュニティ

カフェの店長として新店舗立ち上げの経験を積んだ後、保育園の調理師として働きながらシェアキッチンで惣菜屋「ゴハンとオカズ。ときどき」を開業した小幡奈央さん。2023年8月には自宅のそばの府中市に店舗をオープンしました。長年の飲食業の経験を生かし、自分のお店を構えた小幡さんにお話を伺いました。

12年間、カフェの店長として

子どもの頃から人と関わるのが好きだったという小幡さんは、短大を卒業後、飲食業をはじめ無印良品や古着屋、本屋などさまざまなアルバイトで接客を経験してきました。そして、メキシコ料理屋で働いていた時に調理師免許を取得します。

「料理好きな母の影響で、私も食べることや料理を作ることが大好きでした。自分が作った料理を食べて喜んでもらうのが好きで、料理をツールとして人が集まってつながりが広がっていく場をつくりたいという気持ちはずっとありましたね。 それと、20代の頃から“いつか自分でお店をやるんだろうな”という思いがあって開業の本も読んでいました。50歳、60歳になって雇われて働くことはないだろうと思っていましたね」

「ゴハンとオカズ。ときどき」店主の小幡奈央さん。保育園で働いていた経験や自身も子どもを持つ母であることから、安心でおいしい惣菜を作ることを心がけているそう
「ゴハンとオカズ。ときどき」店主の小幡奈央さん。保育園で働いていた経験や自身も子どもを持つ母であることから、安心でおいしい惣菜を作ることを心がけているそう

29歳の時に、転機ともいえる仕事に就きます。常連だった高円寺のカフェを運営するカフェカンパニーは「食を通してライフスタイルを提案しコミュニティーをつくっていく」という小幡さんのやりたいことを理念を掲げる会社でした。アルバイトからはじめ、すぐに社員として新店舗の立ち上げ店長という重責を担うようになっていきます。

「仲間がいて、お客さんとも近くてとても楽しかったですね。それまでの接客経験を生かしつつ、お店の運営や立ち上げについては何も知らなかったので、勉強になることがたくさんありました」

3店舗の店長を経て、第一子を出産。育休復帰後は、渋谷ヒカリエでアパレル会社の社員食堂の立ち上げ店長になります。夜に比重を置くカフェが多い中で、終わる時間が決まっている社員食堂は乳児を抱える小幡さんにぴったりの職場でした。そして、第二子出産後、渋谷のカフェで時短で働きながら、小幡さんには一つの思いが湧き上がってきます。

「小さい子どもが二人いて店長ができる状況ではなくて。40代だったんですけど、都心のカフェの接客なんてそれこそ50歳、60歳になってできるのか?と考えて、違うことを始めなきゃと思いました」

こうして小幡さんは12年間勤めた会社を退職することを決めます。

店名の「ときどき」は日々の日常に加えて、わくわくできることをしたいという気持ちから
店名の「ときどき」は日々の日常に加えて、わくわくできることをしたいという気持ちから

フルタイムで働きながらシェアキッチンで開業

小幡さんが退職した頃、コロナ禍が始まりつつありました。2歳と4歳の子どもを育てながら仕事との両立ができるように、決まった時間で働ける保育園の調理師に転職。フルタイムで働く中で、本当に自分がやりたいことを考えるようになります。

「保育園での仕事は子どももかわいいし楽しかったんですが、もともと好きだった接客やコミュニティをつくるというところとはちょっと離れてしまって。これからやはりそういうことをしていきたいなと思っているところに、友達から小金井にあるシェアキッチンを教えてもらいました」

場所は、JR中央線 東小金井駅そばの高架下にある、小さなお店が並ぶ創業支援施設「MA-TO」の一角でした。創業への第一歩として、シェアキッチンの利用を迷わず決めた小幡さんは、2020年に惣菜やおにぎりを販売する「ゴハンとオカズ。ときどき」をオープンします。羽釜で炊くご飯と優しい味のおかずが自慢で、毎週土曜日に出店。平日は調理師として働き、日曜日にはオリジン弁当の早朝パートもするという怒涛の毎日でした。

MA-TOのシェアキッチンでの出店の様子。卒業後は、府中のシェアキッチンを利用しながら、イベント出店や注文販売などを1年半ほど続けていた
MA-TOのシェアキッチンでの出店の様子。卒業後は、府中のシェアキッチンを利用しながら、イベント出店や注文販売などを1年半ほど続けていた

「今考えると笑っちゃいますよね。週7の女と呼ばれていました(笑) テイクアウト業が初めてだったのでノウハウを学びたいなと思ってオリジン弁当で働いたんです。測り方や賞味期限のつけ方、お弁当の組み立て方とか学べて面白かったんですけど、やっぱり大変でしたね」

シェアキッチンで出店する小幡さんを3人のスタッフが支えていました。カフェカンパニー時代からの仲間で今のお店でも相棒として腕を振るう磯いづみさんをはじめ、これまでの仕事仲間やママ友に、販売や盛り付けなどを手伝ってもらっていたそうです。初めての出店で3人のスタッフをマネジメントしていけるのはさすが、これまでの店長経験が生きています。

こだわりの羽釜。羽釜は軽く持ち運びしやすいので、シェアキッチンやイベントにもぴったりだという
こだわりの羽釜。羽釜は軽く持ち運びしやすいので、シェアキッチンやイベントにもぴったりだという

シェアキッチン時代を振り返って、小幡さんはこう話します。

「お客さんがいつも楽しみにしてくれていて、大変と思うより、楽しいという気持ちが大きかったですね。お客さんと話すのも好きでしたし。そして、自分はやっぱり食を通してコミュニティを作っていくのがやりたいんだなと実感できました」

また、同じ志を持つシェアキッチン仲間との出会いは刺激となって、今も交流が続いているといいます。

9ヶ月ほど出店を続けた頃、小幡さんはシェアキッチンの卒業を考え始めます。自宅近くの府中で店を構えたいと、MA-TOを運営し不動産も扱うタウンキッチンに相談し物件を探すことに。

「シェアキッチンでやりたいことは形にできたかなという充実感があったんですよね。自分のやりたいことは食を通した居場所づくりだったので、住む街でお店を始めた方が説得力があるし、意味がありますよね」

MA-TOのお客さんも来れるようにと、東小金井からのアクセスもいい西武多摩川線で探しますが、飲食可の物件があまりなくて見つけるのに一年以上かかったといいます。 小幡さんは保育園での仕事を続けながら、自分のお店のオープンに向けて歩み始めます。

「主人の協力がないと週7で働けないですよね。うちの子はパパをママだと思っています(笑)戦友ですね」
「主人の協力がないと週7で働けないですよね。うちの子はパパをママだと思っています(笑)戦友ですね」

40代だからこそ始められた自分のお店

小幡さんはシェアキッチン卒業のタイミングで、タウンキッチンが運営するまちのインキュベーションゼミ#5「今こそ コミュニティの底力」に参加します。チームを作って、約半年を通してリーダーのやりたいことを他のメンバーがサポートしながら形にしていく実践型のゼミでした。小幡さんは地域の空き家で子ども食堂を作りたいというリーダーをサポートし、料理を担当します。

「やりたいことを形にしている姿は刺激になりましたし、そこでまた新しいつながりが生まれて、今も機会があったら料理を作るという話もしています」

まちのインキュベーションゼミの同じチームのメンバーと
まちのインキュベーションゼミの同じチームのメンバーと

開店に向けて準備を進める中、小幡さんはクラウドファンディングを立ち上げます。「応援してくださる方の期待にちゃんと応えないといけない」というプレッシャーを感じながらでしたが、同業者や近所の方からの支援を受け、目標額が集まります。

そして、2023年8月、小幡さんは府中市に店舗「ゴハンとオカズ。ときどき」をオープンします。

「20代で自分のお店なんて絶対無理だったので、もっと早い方がよかったとは思わないですね。自分にとってちょうどいいタイミングだったなと思っています。お金の面もそうですし、事業計画を書くとか予算を立てるとか、コンセプトの作り方とかお客様への向き合い方とか、これまでの経験が全て生かされました。融資や助成金申請の書類を書くのとかは大変でしたけどね(笑)」

店は西武多摩川線 多磨駅近くの商店街という立地。「新聞の折り込みチラシの効果はすごかったです(笑)この通りを知らない方がチラシを見て来てくれました」
店は西武多摩川線 多磨駅近くの商店街という立地。「新聞の折り込みチラシの効果はすごかったです(笑)この通りを知らない方がチラシを見て来てくれました」

お店はテイクアウトの総菜販売をメインに、買った総菜や定食、コーヒーやビールが飲めるイートインスペースを設けました。このスタイルにしたのには小幡さんのこんな思いがありました。

「カフェで働いていた時に、席があると、席数×回転数でしか売り上げが見込めないのがわかっていたので、テイクアウトだと制限がないのがいいなと。テイクアウトで病気や産後など外に出られない人に持って行ってあげたくなるような、見た目もかわいくて体にいいものを作りたいなと思っていました。府中市はロケも多いのでロケ弁としてのニーズにも応えたいというのもあって。でも、やっぱりコミュニティの場も大切にしたかったので、イートインスペースも設けました」

小幡さんがこれまで精力的に身に付けてきたたくさんの知識や経験が、今につながっています。

宅配も頭にあり、広めにした厨房。「一番いいものを」という思いもあって機器選びには悩んだという 。「言わなくてもわかる」という存在の磯さんと共に店を切り盛りする
宅配も頭にあり、広めにした厨房。「一番いいものを」という思いもあって機器選びには悩んだという 。「言わなくてもわかる」という存在の磯さんと共に店を切り盛りする

自分のお店を持つことで生まれたこと

複数の仕事を平行して働き続けてきた小幡さんですが、今は自分のお店のことに集中できるようになったといいます。 そして飲食業界が抱える課題についても、自分なりに向き合っていきたいと話します。

「長時間労働は飲食業界の課題なので、自分でやるからには生活と仕事のバランスをとるのが一番重要だと考えていました。今はならせば1日8時間くらいの労働時間なので、前と比べるとだいぶ短いですね。夕方には帰って子どもとの時間を過ごしたり、定休日の月曜もお休みします。今まではいろいろなことを平行していましたが、今は自分のお店の事だけ考えていられるので健全ですよね。売り上げが安定したら、人を雇ってもうちょっと時間をとれるようにしていきたいです」

「お弁当に盛り付けるのって気持ちがあがります」と小幡さん。「この前は10時半に100食以上という注文が入って、それを乗り越えたのでいい経験になりましたね」
「お弁当に盛り付けるのって気持ちがあがります」と小幡さん。「この前は10時半に100食以上という注文が入って、それを乗り越えたのでいい経験になりましたね」

「それと、フードロスですね。まずは自分のお店で食材廃棄を減らせるように工夫したり、地元の食材を使っていきたいです。ゆくゆくは子ども食堂などのお話があった時に対応できるような基盤は作っておこうかなと思います」

自分のお店を構えたことで、食を通して地域のコミュニティの場を作るという夢にも近づいています。

「常連の方も増えてきて、街の人たちとの関わりも増えて、ちょっとずつ自分のやりたいことができているかなという手応えはありますね。その人がいるからそのお店に行くというか、私達に会いに来てもらえるようなそんな場所を作りたかったので。情報交換ができる皆の居場所のような。人と人をつなげていくことも好きなので、困っている人がいたらあの人に頼むといいよというような地域のコーディネーターになっていけたらと思ってます」

これまで積極的にいろいろなことに挑戦し続けてきた小幡さんに、これからやってみたいことについて聞いてみました。

「やってみたいことはたくさんありますね。店では、スパイスカレーとか食に関するワークショップを開催したり、プロジェクターを設置して映画や映像を流せるようにして、イベントや研修などにも使ってもらえたらと思っています。イベントにもどんどん出店していきたくて、フェスが好きなのでフェス飯を出せるのが夢なんですよね。学びたいというところでいうと、タイ料理が好きなので料理教室に通ったり、おせちを作るための修業をして2年後くらいにおせち販売ができるといいですね」

近くにある東京外国語大学の学生の利用も口コミで増え始め、卒業生の貸し切り利用もあったそう
近くにある東京外国語大学の学生の利用も口コミで増え始め、卒業生の貸し切り利用もあったそう

自分に必要だと思ったことはすぐに行動を起こして精力的に学びを続け、確実に生かしていく小幡さんは底知れぬパワーに満ちていました(堀内)

プロフィール

小幡奈央

青森出身。短大で東京に出てきて、飲食業をはじめさまざまな接客業を経験。カフェ運営会社「カフェカンパニー」で12年勤務。保育園の調理師に転職し、フルタイムで働きながら、小金井や府中のシェアキッチンで開業。2023年8月、「ゴハンとオカズ。ときどき」をオープンする。
https://www.instagram.com/gohantookazu_tokidoki/ 

INFO

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