養生ビギナーズ軽やかに羽ばたく

2023.07.27
養生ビギナーズ軽やかに羽ばたく

仕事を続けてきた人が、ふと立ち止まるときがあります。鳥羽由梨子さんは、身体の不調をきっかけに自身を見つめ直し、健康のこと、身体にやさしい衣服のことを独自に学び始めました。たどりついたのは、日本に古くからある「養生」の考え方。40歳の転機を迎えることもあって、養生をテーマに自らのブランドを作ることにした由梨子さん。夫の義和さんとともに「RELIEFWEAR(リリーフウェア)」を立ち上げました。日常のストレスから心身を解き放つプロダクト、そして養生の文化を広めるお二人に、お話を伺いました。

自身の経験から探求しはじめた、身体のこと

「どうしたら体調が良くなるんだろうと、調べていた時期があったんです。でも結局は、十分な睡眠やバランスのよい食事、適度な運動、ストレスのない生活。昔から言われているような日々の養生が大切なんですよね」

こう話すのは、RELIEFWEARの鳥羽由梨子さんです。RELIEFWEARは「身につける養生」をコンセプトに、「養生のための機能服」を展開。住まいのある小金井を拠点に、オンラインストアや全国各地の常設店舗、展示会で販売を行なっています。

由梨子さんが企画や販売、工場やお店とのやり取りを担当し、夫の義和さんがグラフィックやブランディングを担当。夫婦の二人三脚で歩むブランドです。

RELIEFWEARの鳥羽由梨子さん(左)と義和さん(右)
RELIEFWEARの鳥羽由梨子さん(左)と義和さん(右)

鳥羽由梨子さん(以下、由梨子) 「前職はグラフィックデザイナーが始めた雑貨ブランドで、13年間勤め、企画から生産管理、販売、イベントまで様々な仕事を経験してきました。ただ、体調不良を感じることが多くなって。お腹が痛いのを放置していたら、盲腸になり、手術をすることになってしまいました」

由梨子さんは、身体の使い方や健康的な過ごし方について、本を読んで学び始めます。手術後にお腹の締め付けなどの不快感を感じたことから、衣服についても調べました。

江戸時代の儒学者・貝原益軒の『養生訓』をはじめ、身体の使い方や身体感覚、世界の民族衣装など幅広く探求
江戸時代の儒学者・貝原益軒の『養生訓』をはじめ、身体の使い方や身体感覚、世界の民族衣装など幅広く探求

由梨子 「自分でも着心地の良い服を探してみたのですが、パジャマのように見えたり高齢の方向けだったりして、外に着ていきたいと思える服が少なくて…。自分が望む装いと販売されている服がマッチしない、ピンとこないなと思っていました。ということは、そういう物を探している人は、いるんじゃないかなとも思ったんです」

由梨子さんは、当時39歳。40歳の節目が近づき、これからは自分たちなりの“何か”を作っていきたいという思いが芽生えていたと言います。1年後の退職を決める中で「養生」をテーマにブランドを立ち上げようと考えるようになりました。

鳥羽義和さん(以下、義和) 「服は一日を通して身につけるものなので、要らないストレスはなくした方がいいですよね。ストレスはなくしながらも、おしゃれに装える服があったらいいのではないか、と。養生という切り口で、着ていただく方の日常をより良くしたいというブランドの役割に、私も強く共感しました」

由梨子さんは人や物をつなげることや直感に優れたタイプ。一方、義和さんは俯瞰して物事を整理するのが得意で、グラフィックや撮影などの制作も。お互いの得意を活かし、苦手を補えることから、夫婦でブランドを立ち上げることになったのです。

もともとは幼稚園教諭だった由梨子さん。雑貨が好きで新しい世界を知りたいという思いから、25歳の時にデザイン専門学校の夜間部へ入学した
もともとは幼稚園教諭だった由梨子さん。雑貨が好きで新しい世界を知りたいという思いから、25歳の時にデザイン専門学校の夜間部へ入学した

日常生活を送りながら養生できる服とは

2020年3月、由梨子さんは会社員を卒業し、製品づくりを始めます。初めに取り掛かったのは、靴下。そしてボトムスでした。

由梨子 「東洋には『上虚下実(じょうきょかじつ)』という考え方があります。下半身は満ちて安定し、上半身はリラックスしている状態が理想なんです。でも現代の生活は、座りっぱなしでパソコン作業をしたりと、上半身ばかり使って、下半身は動かさないですよね」

つまり、身体のことを考えたら、下半身の見直しが欠かせない。靴下とボトムスから始めたのは、そのためでした。靴下の製造は、日本有数のニット産地、新潟県五泉市にある「くつ下工房」さんにお願いしました。

由梨子 「くつ下工房さんとは、前職の頃から15年くらいのお付き合いです。職人の上林希久子さんは、お母さんのような存在で。私もくつ下工房さんの靴下を愛用してきました。病気で足がむくむご両親のために上林さんが開発した靴下で、締め付けがなくて本当に心地いいんです。養生というテーマでブランドをやりたいと考えたとき、くつ下工房さんにオリジナル靴下の製造をぜひお願いしたいと思っていました」

履き心地が良い秘訣は、昔ながらの低速の編み方。たっぷりの糸でできあがりの寸法より大きめに編んでから、ゆるめのプレスで収縮。高速回転で大量に生産する一般的な靴下とは、正反対の手法です。そうしてつくられたKAIHŌ SOCKSは、驚くほど伸びて、足がやさしく包まれる感覚があります。

KAIHŌ SOCKSは、KIHON 、TSŪKI、SHINSHUKUの3種類。どれも伸びがよく、締め付けのない履き心地
KAIHŌ SOCKSは、KIHON 、TSŪKI、SHINSHUKUの3種類。どれも伸びがよく、締め付けのない履き心地
足首の内側にある三陰交というツボ。ここを温めるのが肝心なので、KAIHŌ SOCKSのKIHONとTSŪKIは足首が二重仕立て
足首の内側にある三陰交というツボ。ここを温めるのが肝心なので、KAIHŌ SOCKSのKIHONとTSŪKIは足首が二重仕立て

並行して、ボトムスの企画も。以前から縁のあるパタンナーさんに、制作をお願いしました。

由梨子 「今の服はウエストで穿きますが、ウエストは骨がなく、身体の中でも弱い部分。昔は、骨格が大きく強い骨盤で締めて穿いていたそうです。昔の人は稲作などで身体を使うことが多かったから、身体の使い方もわかっていたのかもしれません」

ポイントとなるのは、おへその下10センチくらいのところにある丹田(たんでん)。丹田を意識すると、身体の軸が整うような感覚になります。

TANDEN PANTS。骨盤と丹田のあたりにベルトを通して、きゅっと締めて穿く
TANDEN PANTS。骨盤と丹田のあたりにベルトを通して、きゅっと締めて穿く
ちょうど丹田のあるところに設けたベルトループを「丹田ループ」と呼んでいるそう。きれいに見えるハリのある生地もこだわりのポイント
ちょうど丹田のあるところに設けたベルトループを「丹田ループ」と呼んでいるそう。きれいに見えるハリのある生地もこだわりのポイント

TANDEN PANTSは、お祭りなどで着用される日本の伝統的な衣服「股引(またひき)」をベースに、現代風にデザイン。骨盤で穿けるようにベルトループの位置を調整したり、裾に前後差をつけて冷気を防いだりと、養生のための工夫を詰め込みました。一方で、股引のお腹にあるポケットは、カイロでお腹を温められるようにと残したそうです。

義和 「デザインや色にもこだわっていますが、何より譲れないのは、着る人のストレスにならないこと。私たちはアウトドアウェアのような機能性は作れないですが、日常生活を送りながら養生できるような機能性を盛り込んでいます」

ポップに伝えたい養生の文化

こうしてお二人は製品づくりを進めていきました。ただ、時はコロナ禍。初めのうちは、イベントや展示会が中止になるなど思うような活動ができなかったと言います。一方で、養生というテーマへの手応えを感じていました。

由梨子 「世の中全体が心や身体に目を向けるタイミングだったのかもしれません。『養生』をスッと受け入れてくださった印象があります。自分にとっての健やかさってなんだろうと、考えた人が多かったのかな」

義和 「コロナ前から、人生100年時代と言われて、予防医療や健康寿命への関心が高まっていましたよね。働き方を見直す動きもありましたし、じわじわとあった意識の変化が、コロナを機に顕在化したんだと思います」

平日は会社員として、ブランディングの仕事をしている義和さん
平日は会社員として、ブランディングの仕事をしている義和さん

RELIEFWEARのWebサイトには、「養生通信」と題したコーナーがあります。いろんな方の養生法を尋ねる「ヨージョービギナーズガイド」や、からだの歴史を研究する文化史家・矢田部英正先生に聞く「おしえて!!からだせんせい」など、気になるコンテンツが。思わずじっくり読んでしまいます。販売だけにとどまらず、メディアも立ち上げたのはなぜでしょうか?

義和 「私たちとしては、養生を堅苦しくなくポップに伝えたくて。大上段に構えるのではなく、お客さんと同じ目線で学んでいけたらいいなと思っています。そもそも養生の専門家じゃないから、その立ち位置でしかいられないんですが」

製品の企画や生産管理、販売をしつつ、コンテンツまで作るのは大変なように思えるのですが、義和さんはこう話します。

義和 「私たちが伝えたいのは、世の中の要らないストレスを減らしませんか、ということ。衣服は手段なんです。だから、養生という文化を伝えることは欠かせませんでした」

由梨子さんは、前職で、工場を取材し冊子にまとめることも多かったのだとか。経験が存分に活かされています。

由梨子 「季節同様、身体にもリズムがあることを矢田部先生に教えてもらったり。いろんな人に聞けば聞くほど、それぞれの方に養生法があるんです。取材をするうちに、私自身、不調があっても悩まなくなりました。これまでは調子が悪いと『なんで私は体調が悪いんだろう』と結構くよくよしていたんですけど(笑) 知識を得たことで、『今はこういう季節だからだな』とわかるし、どうやってセルフケアすればいいかもわかるようになったので」

「養生をポップカルチャーにしたい」と話す由梨子さんと義和さん。お二人も“養生ビギナー”
「養生をポップカルチャーにしたい」と話す由梨子さんと義和さん。お二人も“養生ビギナー”

ありたい姿と仕事を重ねて

ブランドの立ち上げから3年。RELIEFWEARのファンは着実に増えてきました。「RELIEFWEAR」というブランド名より、タグラインの「身につける養生」を覚えてくれる人が多いという話も…。

由梨子 「展示会に立たせていただくと、通りかかった方が『身につける養生…?』と呟いて見てくださることが多くて。タグラインを考えたのは、『養生』だけだと硬いし、自分たちらしくないなと思ったから。ブランド名のRELIEFWEARに『解放(RELIEF)』と付けているように、タグラインも軽やかでいられる言葉を探しました」

「身につける養生」とは、着る意味の「身につける」と、養生のワザを「身につける」の意味を重ねた言葉。養生につながる衣服と養生のワザ。どちらも身につけたら、たしかに解放的になれそうです。

リピーターの多いKAIHŌ SOCKS。ラベルには「身につける養生」と印字。「初めは入れる予定ではなかったんですが」と義和さん
リピーターの多いKAIHŌ SOCKS。ラベルには「身につける養生」と印字。「初めは入れる予定ではなかったんですが」と義和さん

軽やかにブランドを育てていくお二人には、地元・小金井でのつながりも増えています。RELIEFWEARのご近所にある福祉施設「ムジナの庭」では、企画展や「養生の会」を行いました。

由梨子 「ムジナの庭のオープンアトリエに伺ったのがご縁の始まりでした。主宰の鞍田さんとは同い年で、大事にしていることも近いので、なにか一緒にできたらいいねということに。養生通信では『ご自愛おやつ』のコーナーを書いていただいています」

また、コロナ禍や物価高のあおりを受けたくつ下工房の存続のため、2021年に行ったクラウドファンディングでは、SAFUJIやあたらしい日常料理ふじわら、WISE MAN COFFEEなど小金井の店舗が、リターンと広報に協力してくれたそうです。

ご自身もRELIEFWEARのプロダクトを日々身につけ、「もう手放せない」という由梨子さん。これからについて聞いてみました。

由梨子 「これまで、上虚下実の考え方を踏まえて、下半身から見直してきました。同じ下半身ということで、履き物もやってみたいですね。今のところ工場のツテもないし、生産へのハードルが高いのですが…。まずは、パンツや靴下のラインアップを増やしたり、目の前にあることから取り組んでいきたいと思います」

義和 「養生を続けてきて、実際に自分たちのストレスはなくなったんですよね。なので、共感してくれる方やまだ知らない方に伝えていけたらいいなと思います。養生フェスもいつかやってみたいです。」

お二人のありたい姿とこれまでの経験が重なり合って生まれた、RELIEFWEAR。きっと今のお二人は、“解放された”自然体の姿なのだろうなと思います。養生の文化がポップに広まって、自然体でいられる人がまちのなかに増えたら、もっとリラックスして暮らせそう。そんな予感がしました。(近藤)

プロフィール

鳥羽由梨子 鳥羽義和

身体の不調から「養生」の大切さを知り、2020年に夫婦でRELIEFWEARとしての活動をスタート。由梨子さんは、幼稚園教諭を経てデザイン専門学校で学び、衣食住のものづくりをする雑貨ブランドに勤めた。義和さんは、ブランディングやマーケティングの仕事に従事。二人の経験を活かし、「身につける養生」をテーマに養生の文化を広める。

https://reliefwear.jp/

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