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吉祥寺への偏愛をかるたに込めて

今年のお正月は、家でのんびり過ごした方も多いのではないでしょうか。家でできるお正月遊びの定番といえば“かるた”ですが、自分たちで街のかるたを作ってしまった人がいます。吉祥寺かるたを制作した徳永健さんは、その魅力にハマり、今やご当地かるたプロデューサーと名乗るほど。吉祥寺愛とかるた愛たっぷりのお話です。

パーソナルな偏愛が生き残る仕組みに

『サンロード、猛ダッシュしたら60秒』『中央特快とまってよ〜』『いせやのお兄さん息できてるの?』

思わずクスリと笑ってしまう読み札と絶妙にゆるい絵札の吉祥寺かるた。2019年12月に誕生し、吉祥寺かるたのオンラインショップのほか、地域の書店、雑貨店でも販売されています。読み札はSNSを通じて募り、吉祥寺を愛する人たちから300件以上の投稿があったとか。

「想像以上の反響でした。SNSでハッシュタグをつけて投稿するだけ、という応募条件にしたら、みんなが“自分にとっての吉祥寺の風景”をどんどん投稿し始めてくれたんです。吉祥寺好きの人がかるたに引き寄せられてくるようで興奮しました(笑)」

こう話すのは、徳永健さん。吉祥寺かるたの仕掛け人です。

徳永さんも吉祥寺を愛する一人。青春時代はこの街で長い時間を過ごし、デザイン会社を設立してからは「おしゃれさと人間くささのバランスが自分たちのデザインと共通している」と、事務所を構えました。会社が10周年を迎え、育ててくれた吉祥寺に“愛”を伝える何かをしたいと考えていたとき、出会ったのがかるたでした。

絵札は徳永さんの仕事仲間のイラストレーターが担当。吉祥寺らしいトーンにするため何度も書き直した。

一つひとつの絵札にある誕生エピソードを思い起こす徳永さん。

制作のきっかけになったのは、徳永さんもメンバーとして在籍する吉祥寺のシェア型本屋ブックマンションで開催された“ご当地かるたを愛でる会”でした。埼玉や沖縄などのご当地かるたで遊ぶうちに「吉祥寺だったらどんな読み札が?」という話題で盛り上がり、実際に作ることに。かるた作りで徳永さんが心がけていたのは、“みんなで作る”、“おもしろがる”、“愛を込める”の3つだったそうです。

「ま」の札は『まゆげスワンが一羽だけ』。井の頭池のスワンボートの中に、きりりとしたまゆげスワンが一羽。本当にいるか確かめに来たそう。

「パーソナルな偏愛が生き残る仕組みにしたかったんです。読み札を募集すると、その人から見た吉祥寺の風景が集まってきます。そこには、読み手だけが持つ吉祥寺への愛がある。実は当初は、懸賞付きのキャンペーンとしての募集を考えていましたが、それではこんなに偏愛が詰まった案は集まらなかったと思います。みんな正解を書こうとしてしまいますから」

たくさん集まった読み札候補は、吉祥寺らしさを大切にして絞っていきました。徳永さんたちが考えた吉祥寺らしさとは、オシャレさと生活感の共存、そして新しいことを始められる余白の存在でした。

『けっきょくハモニカなの? ハーモニカなの?』のハモニカ横丁にて。横丁の看板には両方の表記が混在している。

いつからか“住みたい街No.1”と言われるようになった吉祥寺。その反面「吉祥寺の活きた魅力が届いていない寂しさ」を徳永さんは感じていました。おしゃれ、カフェ、井の頭公園……のようなイメージだけでなく、吉祥寺には独特のゆるさや生活感、新しいものがぽこぽこと生まれるエネルギーがある。見えないところにあるおもしろさを、どう織り込もうか。徳永さんが気を配ったポイントです。

「何度も話し合いは重ねながら、最後は多数決ではなく、思い切って『決めきる』ことにしていました。“平均点”のかるたではなく、ユニークなものにしたかったから」

「なかなか決まらない札もありましたよ。『ぬ』とかね……」と徳永さん。

かるたで育てる愛あるコミュニティ

徳永さんはかるたの魅力にハマり、今や名刺の肩書に“ご当地かるたプロデューサー”と入れています。

「かるたを広めていきたいんです。愛のあるコミュニティを育てるプラットフォームとして」

作るところから遊ぶところまで、かるたには街を愛する人がいろんな形で楽しく参加できます。徳永さんいわく「コミュニティを育てていくためのツールと捉えると、ものすごく可能性が広がる」。ただ、吉祥寺かるたは、吉祥寺のような魅力たっぷりの街だからできたのではという気も……。

「そんなことはないですよ、たぶんどこの街でも作れます。『和菓子だったらここでしょ』とか『あの道が好き』とか、必ず出てくる。だって、久しぶりに地元の友達と会って地域あるあるの話になったら、絶対盛り上がるじゃないですか? 誰でもその人なりの街の風景って持ってると思うんです」

徳永さんのもとには、すでにいくつかの地域コミュニティや自治体から声がかかっていると言います。そして、徳永さんの考える愛のあるコミュニティは地域とは限りません。

「たとえば会社の“あるある”を集めて、“会社かるた”も作れると思うんですよね。新人研修や採用ツールなんかにもすごく向くと思う。他にも、定年退職される方に社員みんなでかるたを作ってプレゼントするとかめちゃくちゃいい記念になりますよね。お孫さんといっしょに遊んだら『おじいちゃん、会社ではこんなだったんだ』とか家族をつなぐツールにもなる」

地域愛、会社愛、家族愛。いろんな形のコミュニティと愛があります。かるたを通じて愛あるコミュニティを広げていく。徳永さんはそのお手伝いをしていきたいと願っています。

「かるたは参入障壁の低さがすごい」と話す徳永さん。「読み札を募集しているので考えてくださいよ」と言うだけで、誰もがその場で考え出す。

かるたで遊べば大人も子どもも盛り上がる

2020年5月、新型コロナの影響でかるた大会が見送られるなか、徳永さんはある企画をしました。前代未聞のオンラインかるた大会です。

オンラインかるた大会の様子。各自が手元に絵札を並べ、取ったらカメラに近づける! 誰が早かったか、審判が決定。そもそも、地域の商業施設でかるた大会の定期開催が決まっていたが、新型コロナの影響で中断。そこでオンラインを試行することに。

大人も子どもも、意外なほどの盛り上がりを見せたオンラインかるた大会。このイベントをきっかけに作られた“吉祥寺かるたTシャツ”は、新聞記事にもなりました。

「ある日、事務所に電話がありました。吉祥寺かるたの新聞記事を見たという年配の女性からです。聞くと、40年来のご友人が施設に入所するため、吉祥寺から遠くへ引っ越してしまったのだとか。かるたを贈りたいがどうしたらいいかという問い合わせでした。すぐに送ったところ、すごく懐かしかったと喜んでもらえたそうです」

かるたを作らなかったら生まれなかった縁が、徳永さんの周りに生まれています。

徳永さんが着ているのが吉祥寺かるたTシャツ。一番人気は『ええじゃないか 関町南も吉祥寺』で、「関町南に住む人が『わかる〜!!』とのけぞる札」なのだとか。

かるたで街を時間軸から俯瞰する

吉祥寺かるた誕生から1年が経った昨年12月、徳永さんは第2版を発売しました。『ゆ』の札に載っていたお店が閉店したことを受け、札を新しくしたのです。すでに第1版を持っている人には『ゆ』の札だけ購入できる“進化パック”を用意。絵札のキャラクターから生まれたモンスター“キチモン”シールのおまけ付きです。新しい札も、SNSで募って決めました。

「シールをどこかに貼ってくれたり、トレーディングが起きたりしたら、おもしろいなって。コンセプトは『いつも吉祥寺を携えて生きる』(笑)」

進化パックのおまけにつくキチモンシールは現在3種類。

「期待しているのは、第2版、第3版と続いていくことで、吉祥寺を時間軸からも俯瞰して見られるようになること。街の“変化”につれて“進化”していくかるたになれたらおもしろいと思っています」

昔の遊びのように思えていたかるたには、実はたくさんの可能性が秘められていました。「吉祥寺とかるたと吉祥寺かるたのことなら3時間語れる」というほどの徳永さん。“愛あるコミュニティを育てるプラットフォーム”として、これからもかるたを広めていきます。(近藤)

「サンロード、猛ダッシュしたら60秒」のサンロードにて。本当に60秒で走れるのか、制作仲間と一緒に、人通りの少ない早朝に検証したそう。ポイントは「途中の信号が青になるタイミングを読んでスタートすること」。

プロフィール

徳永 健

東京都杉並区出身。株式会社クラウドボックス代表取締役、クリエイティブディレクター、ご当地かるたプロデューサー。
20年間のフリー・マルチクリエイター(イラストレーター、ライター、小説家、脚本家、演出家、俳優、グラフィックデザイナー、ウェブデザイナー)時代を経て、2007年に”吉祥寺のデザイン会社”クラウドボックスを設立。吉祥寺に事務所を構えて10年を迎えたのを機に、吉祥寺の魅力、名所・名店、吉祥寺あるあるを描いたご当地かるた『吉祥寺かるた』を制作。大切にしているものは「愛と自由と好奇心」。座右の銘は「流水不腐」。

ぺろ吉商店(吉祥寺かるたと関連商品のオンラインショップ)
https://perokichi.stores.jp/

株式会社クラウドボックス
https://www.cloud-box.com/