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【VOL.1】東京の森に芽吹く新しいしごと

東京で唯一の村である、檜原村。この地で、新しいプロジェクトであるMOKKIの森がスタートします。仕掛け人は、東京チェンソーズの青木亮輔さんと、OSOTOの渡部由佳さん。檜原村に住み、豊かな森林の中で新しいしごとを生み出しています。森を活用した新プロジェクトが進む中で、自然への想いや新しい林業について、そしてコロナ禍でのはたらき方の変化などをたっぷり聞きました。

森をシェアするという発想

北池:青木さんは、私と同じ76年生まれで大阪出身。しかも、東京チェンソーズが法人化されたのが2011年で、タウンキッチンの設立が2010年と近いタイミング。共通項が多く、勝手に親近感を持たせていただいてました。
 
青木:そうなんですね。ありがとうございます。
 
北池:今、MOKKIの森というプロジェクトを青木さんと渡部さんで一緒にされていますが、どんな背景があったのでしょうか?
 
青木:まずはプロジェクトの前提にある、東京チェンソーズのことから話しますね。
 
北池:よろしくお願いします。
 
青木:一般的に林業というのは、木を植えてから収穫するまでに長い年月がかかります。つまり、何十年もの時間がずっと投資の期間です。なので、その間を補助金で成り立たせることが多いのですが、僕らは補助金に頼らない林業をやりたくて起業しました。もう少し違う林業のあり方を見出したいなと。

従来のやり方にとらわれずに新しい林業にチャレンジし続ける、東京チェンソーズの青木さん。しごとについて熱く語ってくれた。

北池:農業や水産業と違って、すぐに資金化できないというのは、林業ならではの難しさですね。
 
青木:はい。それで、山を探していたところ、2013年にこの山林を取得することができました。その山で補助金に頼らない事業を模索し、一般の方を林業に巻き込もうと考えました。そして2015年に会員制の林業体験プログラム事業である東京美林倶楽部を始めたんです。このプログラムは今も続いていて、いろいろな人が気軽に山に入れるようになりました。そこに一定の手応えを感じつつも、もっと多様な形で皆さんに山に興味を持ってもらい、関わっていただきたいと思うようになったんです。
 
北池:みんなで山をシェアしよう、といったイメージですね。楽しそう。
 
渡部:私は、東京美林倶楽部の一員でありながら、この山林でひのはら地球の学校という親子向けの教室をやらせてもらっていました。次の展開を考えていた時、シェア畑が流行っていて、「それなら、”シェア森”があっても良いんじゃないか」という話を青木さんにしました。それで青木さんにも賛同してもらい、MOKKIの森プロジェクトがスタートしました。
 
北池:MOKKIの森について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。
 
渡部:今はまだ、具体的な事業計画を詰めている段階ですが、杉や檜が育つ山林の一画を、キャンプ場や学びの場として会員さんたちとシェアしていく予定です。そして、「沢からフィールドまで水を通せるか」「浄化槽をつくってみよう」「どんな木を植えて森をデザインするか」などの、森を活かした学びを展開していきたいと思っています。

OSOTOの渡部さん。ひのはら地球の学校では一つのプロジェクトを通して親子が成長できるワークショップなどを開催。その中で青木さんとの出会いがあったそう。

青木:実は今、山の麓からここまで登って来られる山道をつくっていて、今年の10月頃には開通する予定です。渡部さんのワークショップでも道づくりのプログラムがあり、多くの親子に参加していただいています。
 
北池:道づくりって大変そうだけど、興味深いです。子どもたちにとっても貴重な体験ですね。
 
渡部:人数がいれば、意外に道ってつくれちゃうんです。普段はパソコンや機械の前でしかしごとをしてない大人も、子どもたちと力を合わせて初めて道をつくっていく。そんな体験を通じて、“この森を自分たちで”と、森への当事者意識を持てるようなコンテンツを提供していきたいですね。
 
北池:林業って、そもそも山や森を守るという大切な役割もあるわけで、私たちの生活にも実は直結している。でも町に住んでいるとそのことになかなか気付けないので、“シェアする”という概念はとても大切だと感じます。
 
青木:そうですね。私たちが森林の間伐や枝打ちをすることで、光が差し込んで木の成長が進み、多様な生物も生息できます。木の根が張って土砂崩れなども起きにくくなりますし、豊かな森林の土壌に水が蓄えられて水にも困りません。私たちが生活できているのも、森林環境に恵まれているからだと言えますね。

約60年前に植えられた杉や檜。人が定期的に手入れをすることで、 一本一本の木がしっかり育ち、美しい森になっていく。

北池:農業をシェアするというのは、例えば気軽に土日に農体験はしたいけど平日にメンテナンスなどはできない、素人だからノウハウもないし、機器もない。そんな人を対象にしたビジネスとしてよく耳にします。でも、山や森をシェアするというのは、農業ほど耳にしない。もっと広がってもいいような気がするのですが。

青木:確かに農業ほど広がりはないですが、同業者の中にも少しずつ広がりつつあります。例えば、キャンプ場として年間4〜5万円で場所貸しをしようという人は出てきていますが、事業として成立させることは難しい。林業の収益活動の手段の一つとして、事業を成り立たせることに真摯に取り組んでいくしかないなと感じています。

タウンキッチンの北池。檜原村の大自然の中でのトークで、熱がこもる。

今までにないやり方で、稼ぐ仕組みを

北池:林業は木を育てて切って木材を生産するという、なくてはならないしごとですが、東京チェンソーズさんの取り組みは林業の枠を超えてますよね。”山”屋さんとでも言えばいいのかな(笑)
 
青木:本当にそうなんですよ。東京チェンソーズでは自社と周りの所有も含めて森林を管理しているのは25ヘクタール。国際的な森林認証制度FSCを受けていると、一年に成長した体積分しか木を切り出せないというルールがあり、年間80㎥の木しか出荷できない。それを市場に持っていくと、今は単価が1万円/㎥なので年間80万円の売上にしかならないんです。だから僕らは、木の幹だけでなく、従来は捨てていた根っこや枝葉なども売っています。さらに加工して家具やおもちゃなども販売し、80㎥からどう売り上げを伸ばせるかというのを至上命題に動いていますね。

切り出された木材。ここから様々なものに使われていく。

北池:確かに、何十年もかけて育てた木が市場でその単価でしか売れないとなると、経済を回していくのは難しいですね。しかし、効率的に大量に木を切っていこうとすると、森林伐採につながる。
 
青木:僕らが目指すのは、“小さくて強い林業”です。経済性を追求すると、高性能な機械を使って生産性を上げる大規模林業も一つの答えですが、僕らはそれを目指したくない。小さくても多様な林業をすることでちゃんと収益を生み出したいと考えています。

北池:そのやり方、とても素敵だと思います。これはあえての質問なのですが、なぜ小さい林業を目指すのかお聞きしたいです。というのも、青木さんの中では、林業はあくまでも手段で、「山をみんなでどう守っていくか」ということが使命かと思います。その使命が成り立つなら、大規模な林業という選択肢もあるかと思いまして。
 
青木:確かにそうなんです。でも、それで犠牲になるのは現場ではたらく人です。林業は危険が多いしごとで、年間何十名もの方が命を落としています。それだけ危険であるにも関わらず、多くの人が安定した雇用を保障されない日給ではたらいています。僕らは、経験や能力に応じて給料も上がり、長くはたらけるしごとにしたい。だから効率的に量をさばくのではなく、一つ一つの商品に付加価値を上げて、物の単価を上げていく方に進みたいと考えています。
 
北池:なるほど。ご自身のご経験から、これまでの林業のあり方では現場に無理が起きていると感じられた。個々の働く人の目線に立った時に、そのやり方が誰にとって幸せなのか、というところなんですね。
 
青木:そうですね。実は小規模なビジネスでも、売り方を変えると、売り上げが10倍や20倍にもなります。例えば4mの巨大な丸太を市場に出しても2,000円ぐらいですが、それを小さくカットし、木の皮を剥いてスライスしてサンダーかけてアウトドアヴィレッジで販売すると1枚2,200円で飛ぶように売れる。人の流れがあるところで販売する仕組みさえつくればいいんです。
 
渡部:ほんと、そうですよね。
 
青木:でも、新しいことは未知数すぎてチャレンジするのが怖い。販売先も一から開拓しないといけない。うちも最初は社内で「こんな枝を山から出して磨いてどうすんの?」と反対もありました。
 
北池:やはり、新しいことにチャレンジするときは、そういう意見があるんですね。
 
青木:でも続けると、共感してくれる人が出てきます。市場にまだないところでチャレンジしていかないと、新しい価値はつくれないんですよね。社内で考えるだけでなく、施工会社さんとコラボして家の建材を手がけたり、渡部さんとコラボしてMOKKIの森を始めたり。新しい事業を提案できれば「そんな林業ってありなんだ」と思ってもらえる。それで日本の林業の幅が広がり、山や森と関わる人も増えていく。その結果として、日本の自然が守られていくと良いなと思っています。

植えられている木の種類・年数から森林のメンテナンスの仕方まで、丁寧に教えてくれたお二人。

コロナで変化した、はたらき方と暮らし方

北池:今、コロナ禍の中で世の中やはたらき方などが変わってきていますが、お二人は何か変化を感じることはありますか?
 
青木:山のしごと自体は、コロナにあまり影響を受けません。究極のオープンエアーですからね(笑)ただ、はたらき方でだいぶ変わったのが、営業の打ち合わせがオンラインになったこと。都心の会社とのコラボも多く、今までは一件の打ち合わせで往復4時間かかることもあったのですが、移動時間がなくなり、効率的になりましたね。
 
北池:なるほど。
 
渡部:私はここに来る前は福生市のマンションに住んでいましたが、コロナを契機に檜原村に移住してきました。緊急事態宣言が出されて子どもは幼稚園に通えなくなるし、公園も立入禁止になってずっと子どもとマンションの中にこもって過ごす中で、豊かな自然の中で家族で暮らしたいと思うようになりました。さらに夫もリモートワークになり、電車に乗って会社まで通う必要がなくなったのも大きいですね。

北池:コロナをきっかけに移住されたんですね。なぜ檜原村を選んだのでしょうか?
 
渡部:檜原村に遊びに来たときに、「ここだ!」とインスピレーションを感じたんです。川の風情や山の形が他と全然違うんですよ。後から調べたら、私が大好きな高知の四万十と同じ地質でした(笑)
 
北池:地質(笑)そういうところがビビッと来たんですね。
 
渡部:私はもともと檜原村に移住したいと思っていましたが、夫は会社まで通うのが不便になるので反対されていたんです。それがコロナで在宅ワークが増え、はたらき方が変わったことで、「一度きりの人生、住みたいところに住もう」と夫も賛成してくれて。その言葉が出た数秒後には不動産屋に電話しました(笑)
 
青木:タイミングを逃さない(笑)
 
北池:はたらき方が変わると同時に、日常の暮らしそのものが変わったんでしょうね。それまで反対だったご主人の価値観を揺さぶるほど。
 
渡部:今は空き家の一軒家を借りて住んでいます。家の前には清流があり、広い庭や、離れもあって。家族全員、とても満足しています。

観光地化されていない、素朴な原風景が広がる檜原村。

見直された、自然との関わり

青木:あともう一つ、コロナで変化を感じたのは、週末に多くの人が檜原村に来るようになったことかな。今までは山や森に縁がなかった都会の人たちがたくさん来るようになりました。人って追い詰められた時には自然に向かうのかなって感じましたね。
 
渡部:普通なら20分で行ける道が、緊急事態宣言が明けた土日は、渋滞で2時間もかかって。普通の買い物ができないこともありました。
 
青木:これから東京の森は、戦後に植えられた樹齢60~70年の木がもっと太くなり良い森になっていきます。こうして自然がどんどん豊かになっていくので、都会の人や日本人全体と自然との関わり方はきっと変わってくるんだろうなと思いますね。コロナの中でその片鱗が見えたというか。

北池:せっかく密を避けてリラックスしたいために山間部に来ても、結局そこが密になってストレスになってしまうこともありますね。
 
渡部:日常を檜原村で過ごしている私たちにとっては、土日の混雑っていうのは、理解はできるけど、なんだかなあという部分もありますよね。
 
北池:確かにこれまで長い間、平日は都心で働き、土日は郊外で過ごしたり山に観光に行ったり、というのがスタンダードなライフスタイルだった。でも、コロナで「いつでも、どこでも、俺たちはたらけるよね」と気付いてしまった。ワーケーションという言葉も流行っていますが、はたらく場所が変わるだけでなく、曜日という時間軸の価値観の変化も、これから起きてくるのかもしれませんね。
 
渡部:そうですね。ワーケーションというと非日常的みたいなイメージがありますが、森林にいることが日常になるというアプローチをかけていきたいですね。
 
北池:そういう視点では、檜原村というのが、“東京”であることは大きなメリットですね。檜原村だけでなく、奥多摩などを含め、東京の山間部の価値はこれからもっと大きくなっていきそうですね。
 
渡部:檜原村のように完成されてない場所だからこそ、自分たちでつくるプロセスを楽しめます。消費的な観光ではなくて、自然を大切にしながら創造的な体験ができるようにしていきたいですね。それで、ここに来た人が感じた想いを自ら発信していくような。
 
青木:まだまだ未知数ですけど、僕らのように森林に一般の人が入れる仕組みづくりや、インフラを整備していこうという流れは林業界にもあります。林野庁だけじゃなく、環境庁や農水省全体で見方が変わってきている。そういった意味でも、これからもっと一般の人が気楽に山や森に入れるようになるのではないかと思いますね。
 
北池:今日は長時間ありがとうございました。新しいしごとを生み出すお二人とたくさんお話させていただき、とても楽しかったです!

まちのインキュベーションゼミ#4「郊外につくる、新しいシゴト」

期間5月22日(土)〜9月25日(土)場所KO-TO(東小金井事業創造センター)定員20名 ※応募多数の場合、選考あり参加費無料申込締切5月10日(月)9:00対象・新しい働き方やワークプレイスづくりに興味がある人
・公園、農地、空き家などを活かしたシゴトづくりを考えている人
・子育てや介護をしながら働くことに取り組みたい人
・テクノロジーやクリエイティブをまちづくりに活かしたい人
・事業のアイデアを形にするサポートがしたい人
プログラムオリエンテーション 5月22日(土)13:00〜18:00
事業アイデアを持ち寄り、チームを編成します。さらに、今後の実践までを視野に入れたスケジュール設計を行います。

プランニング 7月17日(土)13:00〜18:00
約2ヶ月間の個別ゼミを通じて設計したプランを完成させます。実践に向けた細部の検討を進めます。

トライアル 8月下旬~9月中旬
チームごとに「郊外につくる、新しいシゴト」を育む事業プランのトライアル実践を行います。

クロージング 9月25日(土)13:00〜18:00
約4ヶ月間の振り返りを行います。実践で得た学びをシェアし、それぞれのネクストステップを描きます。
詳細・申し込みhttps://here-kougai.com/program/program-387/

プロフィール

青木亮輔

東京チェンソーズの代表取締役。大阪府此花区出身。東京農業大学林学科卒。1年間の会社勤めの後、「地下足袋を履いた仕事がしたい」「後継者不足の林業なら自分にも活躍の場があるのでは」と、林業の世界へ。檜原村木材産業協同組合代表理事。檜原村林業研究グループ「やまびこ会」役員。(一社)TOKYOWOOD普及協会専務理事。ツリークライミング®ジャパン公認ファシリテーター。日本グッドトイ委員会公認おもちゃコンサルタント。
https://tokyo-chainsaws.jp

渡部由佳

株式会社OSOTOの代表取締役社長兼カメラマン。行政書士として監査法人にて法務コンサルタントを行なっていたが、妊娠・出産を機に退職。その後、カメラマンだった祖父の元で写真を学んだ経験を活かし、baby、kids、family専門フォトスタジオをオープン。幼少期はキャンプや海遊びで自然の中で過ごし、20代から趣味の波乗りを通じて多くのことを学んだ経験から、「自然の中でこそ本当の自分、本当の笑顔に出会える」ということを子ども達へ伝えたいと、2018年7月に株式会社OSOTOを設立。「我が子にさせたい自然体験とは?」をテーマに、プログラムを手がける。
https://osoto.co.jp