そばではたらく
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やってみたいを応援する文化拠点

JR中央線荻窪駅と、西武新宿線井荻駅を南北にむすぶ環状八号線の真ん中あたり。4階建ての古いビルがリノベーションして生まれ変わり、2019年9月に、ooen つながる文化ターミナルとしてオープンしました。代表の小松伸一さん・千裕さんご夫妻、そして、運営にたずさわるみなさんにこの場所への想いを聞きました。

“やってみたい”を応援する場

ooen(オーエン)は古いビルを一棟まるごと借りて運営しています。道路に面した1階は、食と小商いのスペースとして、本や雑貨、駄菓子などのセレクトショップとレンタル棚があり、シェアキッチンとしても利用可能。2階と3階はギャラリーや教室として使えるワークスペースになっています。各フロアは約6坪と決して広くないですが、いろいろな関わり方が出来る仕様になっています。

ooenのネーミングには、多様な人たちの“やってみたい”を応援したい、という気持ちが込められています。代表は小松伸一さん・千裕さんご夫婦ですが、ほかにもいろいろな人が企画段階から関わって始まりました。どのような経緯でこの場所が出来たのでしょうか。話は12年ほど前に伸一さんが地域に関わって活動をはじめた頃に遡ります。

代表の小松伸一さんと千裕さん。環状八号線沿いに位置する4階立ての古いビルがリノベーションして生まれ変わりました。

地域にはいろんな人がいる

2007年頃、団体職員としてはたらく伸一さんが職場の同僚から「面白そうな場所があるよ」と紹介され、デザインディレクターの萩原修さんが主催するつくし文具店のメンバーになったことが、活動を始めたきっかけでした。もともと大学では総合政策学部でまちづくりを学び、演劇サークルに入り、建築や音楽など文化的なことが好きだったという伸一さん。クリエイターが多く集うコミュニティの面白さにのめり込んでいったそうです。

伸一さん「しごとをしているだけでは知り合う機会がない、いろんな人が地域にはいるんだと気付いて。出会いがたくさんあって刺激を受けました」

その後も萩原さんが地域で展開する活動に幅広く関わるようになった伸一さんは、企画を立てて運営する事務局的な役割をボランティアで担うようになり、現在まで様々な活動にたずさわっています。

ふたりが出会い、それぞれに模索

そんな中で、仕事関係のとある会合で千裕さんと出会います。伸一さんの地域での活動の話にとても興味を引かれ、その場でいろいろ質問したという千裕さん。そのうち伸一さんの関わる活動の場にも参加するようになり、出会った人たちに刺激を受けて自分でも何かやってみたくなったそう。そして、当時経理としてはたらいていた会社にかけあい、昼休み時間に無料のピラティス教室を始めます。

千裕さん「口コミで人が集まってくるのが楽しくて、人と関わったり、話したりすることが好きな自分を発見したんです」

ふたりはその後も会社ではたらきながら活動を続け、2014年に結婚。“もっと深く事業として何かをしたい”という気持ちがふくらんでいきました。さらに、身近な人が次々と独立したり新しいことを続々と始めていく動きに背中を押され、模索を始めていきました。

1階は通行人からよく見える大きな窓に開放的な引き戸で、初めてでも入りやすいつくりになっています。

物件に出会い、イメージが湧いた

伸一さん「これだけまわりにクリエイターがいるんだから、一緒に何か出来ないかなとずっと考えていて。この狭いエリアだけでもいろんな人がいる。自分の財産としてこれまで関わってきた人たちのセンスを生かした事業を成り立たせたいと思うようになりました」

好きなこと、得意なことが集まって仕組みを作れば、ビジネスは成り立つと考えた伸一さんと千裕さん。とりあえずまわりの人にその考えを話すことから始め、少しずつ仲間を巻き込んでいきました。

同時に物件探しもスタート。伸一さんが長年住んでいる杉並エリアで探した結果、内見5〜6件目で出会ったのが現在のビル一棟貸しでした。何年も空家状態で相当手を入れなければどうにもならないような状態で、駅からも遠い立地も事業用として魅力的とは言い難い物件。それでも、ふたりで話していると続々とイメージが湧いてきたと言います。

伸一さん「1階はオープンスペースにして3階をシェアキッチンにしようとか、具体的なアイディアがわーっと出て来て。狭いけど階でフロアごとに分けられるから、色んな使い方が出来るというメリットも見えてきて、イメージが湧いたんですね。それでここにしようと」

場所が決まると、計画はどんどん具体的に進んで行きました。その一方で、はたらき方の壁も乗り越えなければいけません。それは、ふたりとも職場で副業が認められていないこと。千裕さんは会社に相談を持ちかけましたが、制度の見直しには時間がかかることから、副業が可能な会社に転職することを決意。新しい事業は、会社員としてはたらきながら個人事業主としてピラティス講師などのしごとをする千裕さんの名義で、金融機関からの融資を受けてスタートすることにしました。

会社を辞めるという選択肢も含め、いろいろ悩んだという伸一さんでしたが、在職しながら運営に携わるやり方で進めていくことを決意。

いろんな人に協力してもらって

内装は、家具制作などを手がける懇意な間柄のフルスイング佐藤界さんに、設計は、まちに開く場づくりが得意な建築ユニットであるミリメーターに依頼。これまでの活動を通して知り合った仲間たちとともに、クラウドファンディングでPRを行い、目標も達成。内装の一部をDIYでまかなうなど、設計段階から広く協力を呼びかけ、積極的に仲間を増やしていきました。

ふたりとも会社勤めをしながらの準備でしたが、千裕さんはooenに専念するために会社を退職。キッチンの場所について消防や保健所から指摘を受けたりと様々な苦労を乗り越えて、2019年9月1日、ついにオープンを迎えました。

千裕さん「オープンしたら色んな人が立ち寄ってくれて。アニメーターとかギターを修理する人とか外国の方とか。こんな人たちが地域に住んでいるんだと知って驚きました。1階で本を売ってるんですけど、『私あなたを応援するわ!』って、自分の家にある本を大量に寄贈してくれる方がいたり、オープンしてまだ1ヶ月なのに色んな出会いがあって、本当に面白いです」

1階に設置したレンタル棚には、内容を決めすぐにとりあえず申し込んだという人も。杉並近辺にはシェアスペースが少なく、潜在的な需要がある地域だったのかもしれません。興味を持った人が次々と訪れ、メンバーになったりイベントに参加したりと、地域とのつながりも広がっています。

健康に興味があった千裕さんは趣味のピラティスで資格を取り、現在は講師としても活躍中。

みんなが夢中になる暮らし

ooenの運営は、本や雑貨、ドリンクなどの物販、レンタル棚、シェアキッチンやワークスペースのレンタル、月払いでフリーで利用できるメンバー制度などでまかなわれています。ここがこれからどう発展していくのかは、どんな人が関わるかで大きく変わっていく可能性がありそうです。

今後は、培ってきた人脈や経験を生かして人と人をつなげるマッチング事業や、様々な悩み事の相談を受ける取り組みなど、地域の人たちとの交流も大切にしながらネットワークを広げていきたいと伸一さんと千裕さんは話します。

「クラウドファンディングで知って、近所に住む者として何か関わらなきゃと思って参加しました。色んな人がまざりあって、面白い化学反応が生まれる場所だと思います」(写真右:ooenアドバンスメンバーで、子育てコーチ&リフレクソロジストの中嶋奈美さん) 「近所にこういう場所が出来ると知って、とりあえずメンバーになりました。何をやるのかはっきり決めていなかったのですが、そんなスタンスでもゆるされる空気感が心地よくて」(写真左:同じくアドバンスメンバーで近所に住む翻訳業・山根康子さん)

「コミュニティやつながりの土台になる文化をつくって発信する、という理念に強く共感して、自分から関わりたいと押し掛けてきました。ooenは、これをやろう!という強い発信はしていなくて、関わる人たちそれぞれのスタンスにゆだねられいるところもいいですね」と話す林雅一さん。1階で駄菓子コーナーを担当するなど運営にたずさわっています。

伸一さん「僕が好きなフィッシュマンズというバンドの歌詞の一節に、“みんなが夢中になって暮らしていれば 別に何でもいいのさ”というのがあって、本当にそうだなと。暮らしを充実させていけば、世の中もっと良くなるという思いがあって。暮らしの中にあるいろいろなことがまざりあって文化をつくっていく、その一端が担えればと思っています」

共鳴する多くの人たちによって成り立っているooenという場。今の世の中には、このような暮らしの中のゆるい隙間のような場所が求められているのかもしれません。この場に魅かれる人々が集まり、ここからあたらしい文化が生まれていくことでしょう。(安田)

ほんわかした笑顔がそっくりなおふたりの雰囲気もooenの魅力のひとつ。ぜひ寄ってみてください。

プロフィール

小松伸一・千裕夫妻

つくし文具店や中央線デザインネットワークなどの活動をきっかけに、2019年9月にooen -つながる文化ターミナル- を杉並区今川にオープン。「多様な文化がまざりあう文化ターミナル」として、本や雑貨、ドリンクなどの物販や、シェアキッチンやワークスペースのレンタルなど、自分らしい生き方、暮らし方、働き方を実験できる場を運営している。

ooen -つながる文化ターミナル-
https://ooen.life/